木走日記

場末の時事評論

大相撲徹底検証〜95.78%の数値で検証される「助け合い」「互助の精神」

 5日付け夕刊フジ記事から。

「7勝」対「8勝」千秋楽の勝率は? 米学者が証明
2011.2.5 00:03

 ケータイメールが動かぬ証拠となった大相撲の八百長問題。相撲協会の放駒理事長は「過去には一切なかったこと」と言うが、実は米名門大の経済学教授が過去の膨大な取組を分析し、八百長の存在を経済学的に証明している。その気になる中身は−。(夕刊フジ

 大相撲の八百長を分析したのは、米シカゴ大のスティーヴン・D・レヴィット教授。ジャーナリストのスティーヴン・J・ダブナー氏との共著で2006年に出版、07年に増補改訂版が出た『ヤバい経済学』(東洋経済新報社刊)で、ヤクの売人や出会い系サイトなどを経済学的に解き明かし、ベストセラーとなった。その第1章で大相撲も取り上げている。

 レヴィット教授は1989年1月から2000年1月までに開かれた本場所の上位力士281人による3万2000番の取組から、14日目まで7勝7敗と勝ち越しがかかる力士と、8勝6敗と勝ち越している力士の千秋楽での対戦をピックアップした。

 過去の対戦成績では、7勝7敗の力士の8勝6敗の力士に対する勝率は48・7%と5割を少し下回る。ところが、これが千秋楽の対戦になると7勝7敗の力士の8勝6敗の力士に対する勝率は79・6%と大きくはね上がるというのだ。

 これだけなら7勝7敗の力士のモチベーションが高い結果といえなくもないが、次の場所での取組(どちらも7勝7敗でない場合)では、前の場所で勝った7勝7敗の力士の勝率は約40%と大幅に落ち込む。この2人の力士が次の次の場所で対戦すると勝率は約50%に戻ると指摘する。

 同書では「一番理屈に合う説明は、力士たちの間で取引が成立しているというものだ」とする。

 興味深いことには、日本のマスコミで八百長報道が出たすぐ後に開かれた本場所千秋楽では、7勝7敗の力士の8勝6敗の力士に対する勝率はいつもの80%ではなく、約50%に下落。「データをどういじっても出てくる答えはいつも同じだ。相撲に八百長なんかないとはとても言い張れない」と結論づけた。

 レヴィット氏は米紙ワシントン・ポストで相撲の八百長に関するコラムを読んだのをきっかけに分析を始め、英語の相撲雑誌「スモウ・ワールド」のバックナンバーを15〜20年分取り寄せたという。放駒理事長は反論できるのだろうか。

http://sankei.jp.msn.com/sports/news/110205/mrt11020500060000-n1.htm

 「一番理屈に合う説明は、力士たちの間で取引が成立しているというものだ」

 「データをどういじっても出てくる答えはいつも同じだ。相撲に八百長なんかないとはとても言い張れない」

 うむ、米シカゴ大のスティーヴン・D・レヴィット教授は「千秋楽の対戦になると7勝7敗の力士の8勝6敗の力士に対する勝率は79・6%と大きくはね上がる」のは、「力士たちの間で取引が成立している」と断定しています。

 まったく欧米人はこれだから「無粋」だと言われるのですよ。

 千秋楽に7勝7敗の力士が負けないことなんて、私たち日本人だってうすうす知ってましたよ。

 たしかに勝率79・6%は統計的に異常値ですが、これらがすべて力士たちの間の取引、すなわち八百長の結果とは証明できないでしょう、私はそうではなくこれは日本人伝統の「助け合い」「互助の精神」と位置づけたいのです。

 相撲はスポーツじゃないんだ、その様式美も含めた日本の文化・歴史・そして精神を背負った興行なのであると考えればいいのです。

 ・・・

 この種の分析を日本人がしてこなかったのは悔しいですね、よろしいでしょう、科学には科学でもって対抗しましょう、過去1年6場所の記録を徹底的に検証して正確に統計的に日本人伝統の「助け合い」「互助の精神」を裏付けたいと思います。

 まず過去1年・6場所の千秋楽を「8勝6敗」、「6勝8敗」、「7勝7敗」で迎えたすべての力士のその勝敗を押さえます。

 「8勝6敗」から。

【千秋楽8勝6敗力士の過去一年の勝敗】
■平成23年初場所
日馬富士(8-6)●
鶴 竜(8-6)●
徳瀬川(8-6)○
北太樹(8-6)○
白 馬(8-6)●
光 龍(8-6)●
猛虎浪(8-6)●
琴春日(8-6)●
若荒雄(8-6)○
豊 響(8-6)●
栃乃洋(8-6)●
■平成22年九州場所
琴欧洲(8-6)●
琴奨菊(8-6)○
徳瀬川(8-6)○
臥牙丸(8-6)○
旭天鵬(8-6)○
臥牙丸(8-6)○
時天空(8-6)●
雅 山(8-6)○
光 龍(8-6)●
■平成22年秋場所
日馬富士(8-6)●
魁 皇(8-6)●
鶴 竜(8-6)○
栃ノ心(8-6)○
安美錦(8-6)●
白 馬(8-6)●
木村山(8-6)●
霜 鳳(8-6)●
琴春日(8-6)○
■平成22年名古屋場所
把瑠都(8-6)●
栃煌山(8-6)○
時天空(8-6)●
若の里(8-6)○
徳瀬川(8-6)●
黒 海(8-6)●
■平成22年夏場所
琴光喜(8-6)○
魁 皇(8-6)○
稀勢の里(8-6)●
朝赤龍(8-6)○
旭天鵬(8-6)○
豊 響(8-6)●
豪栄道(8-6)○
猛虎浪(8-6)●
徳瀬川(8-6)○
嘉 風(8-6)○
高見盛(8-6)●
■平成22年春場所
魁 皇(8-6)●
稀勢の里(8-6)○
安美錦(8-6)●
豊真将(8-6)○
徳瀬川(8-6)●
猛虎浪(8-6)○
栃ノ心(8-6)○

53戦25勝28敗・勝率472厘

 過去一年で千秋楽を8勝6敗で迎えた力士は延べ53名、千秋楽の勝敗は25勝28敗、勝率47.2%と出ました。

 この数字自体は50%に近く統計的に妥当だと言えましょう。

 次に「6勝8敗」力士。

【千秋楽6勝8敗力士の過去一年の勝敗】

■平成23年初場所
朝赤龍(6-8)●
旭天鵬(6-8)○
土佐豊(6-8)○
高見盛(6-8)●
木村山(6-8)●
■平成22年九州場所
朝赤龍(6-8)●
霜 鳳(6-8)●
■平成22年秋場所
阿 覧(6-8)○
稀勢の里(6-8)○
豊真将(6-8)○
春日王(6-8)●
豊 桜(6-8)●
■平成22年名古屋場所
旭天鵬(6-8)○
玉 鷲(6-8)○
北太樹(6-8)●
■平成22年夏場所
鶴 竜(6-8)●
土佐豊(6-8)○
■平成22年春場所
垣 添(6-8)○
玉乃島(6-8)●
磋牙司(6-8)●

20戦9勝11敗・勝率450厘

 過去一年で千秋楽を6勝8敗で迎えた力士は延べ20名、千秋楽の勝敗は9勝11敗、勝率45.0%と出ました。

 まあすでに負け越しが決定しています、この45%という数字も統計的に何ら問題では無いでしょう。

 では最後に「7勝7敗」力士。

【千秋楽7勝7敗力士の過去一年の勝敗】

■平成23年初場所
豊ノ島(7-7)○
豊真将(7-7)○
豪 風(7-7)○
若の里(7-7)○
翔天狼(7-7)○
蒼国来(7-7)○
■平成22年九州場所
栃煌山(7-7)○
鶴 竜(7-7)●★栃煌山
安美錦(7-7)○
豊真将(7-7)●★安美錦
嘉 風(7-7)○
猛虎浪(7-7)●★高見盛
高見盛(7-7)○
隠岐の海(7-7)○
■平成22年秋場所
蒼国来(7-7)○
栃乃洋(7-7)○
■平成22年名古屋場所
稀勢の里(7-7)●
猛虎浪(7-7)○
木村山(7-7)○
武州山(7-7)○
北勝力(7-7)○
■平成22年夏場所
栃煌山(7-7)●★時天空
栃ノ心(7-7)○
北太樹(7-7)●★栃ノ心
時天空(7-7)○
垣 添(7-7)●
豪 風(7-7)○
木村山(7-7)●
北勝力(7-7)●
■平成22年春場所
白 馬(7-7)○
隠岐の海(7-7)○
高見盛(7-7)●

32戦22勝10敗・勝率688厘

 過去一年で千秋楽を7勝7敗で迎えた力士は延べ32名、千秋楽の勝敗は22勝10敗、勝率68.8%と出ました。

 明らかに異常値であります、これは日本人伝統の「助け合い」「互助の精神」を裏付けいると考えていいでしょう。

 しかも次の点を考慮するとさらに考察は深まります。

 実は上記の表で★印を付けた5敗は、「7勝7敗」同士の「助け合い」「互助の精神」を発揮できない悲惨な戦いだったのです。

 この5組の「7勝7敗」同士の相打ちを除けば、千秋楽を7勝7敗で迎えた力士は実は22戦17勝05敗、なんと勝率77.3%に跳ね上がります。

 勝率77.3%という驚異の数値は歴代生涯勝率ベスト4の元横綱羽黒山と並ぶものです。

幕内勝率
1位 大鵬 幸喜 83.8%
2位 双葉山 定次 80.2%
3位 朝青龍 明徳 79.6%
4位 羽黒山 政司 77.3%
5位 北の湖 敏満 76.5%
6位 貴乃花 光司 76.4%
7位 千代の富士 貢 76.1%
8位 照國 万藏 74.9%
9位 輪島 大士 74.4%
10位 曙 太郎 74.1%

 ・・・

 さらに検証を続けましょう。

 ここまでの検証作業を続けてきた経過で私はある不思議な傾向に気づきました。

 千秋楽を「6勝8敗」でむかえたのが20人なのに対して、「8勝6敗」でむかえたのは53人、そこには2.5倍以上の偏りが見られるのです。

 これは何かある、もしかしたら「助け合い」「互助の精神」は千秋楽だけでなくその前の日つまり14日目にも発揮されだしているのではないか、私はその「仮説」を検証するために、14日目を「7勝6敗」で迎えた全ての力士の後の2日間の勝敗を洗い出してみました。

 その結果、統計学的にはありえない驚くべき95.78%という数値にたどり着くことになります。

 過去1年、14日目を7勝6敗で迎えたのべ49人のその後の勝敗は以下のとおりです。

【14日を7勝6敗で迎えた力士の14日目、千秋楽の勝敗】
■平成23年初場所
鶴 竜(7-6)○●
豊真将(7-6)●○
若の里(7-6)●○
白 馬(7-6)○●
北太樹(7-6)○○
翔天狼(7-6)●○
光 龍(7-6)○●
琴春日(7-6)○●
若荒雄(7-6)○○
蒼国来(7-6)●○
■平成22年九州場所
徳瀬川(7-6)○●
旭天鵬(7-6)○○
臥牙丸(7-6)○○
猛虎浪(7-6)●● ★高見盛
高見盛(7-6)●○
雅 山(7-6)○○
光 龍(7-6)○●
隠岐の海(7-6)●○
■平成22年秋場所
魁 皇(7-6)○●
栃ノ心(7-6)○○
安美錦(7-6)○●
木村山(7-6)○●
霜 鳳(7-6)○●
琴春日(7-6)○○
栃乃洋(7-6)●○
■平成22年名古屋場所
栃煌山(7-6)○○
時天空(7-6)○●
徳瀬川(7-6)○●
猛虎浪(7-6)●○
土佐豊(7-6)○●
黒 海(7-6)○●
北勝力(7-6)●○
■平成22年夏場所
魁 皇(7-6)○○
琴光喜(7-6)○○
稀勢の里(7-6)○●
栃ノ心(7-6)●○
北太樹(7-6)●● ★栃ノ心
旭天鵬(7-6)○○
垣 添(7-6)●●
豊 響(7-6)○●
豪栄道(7-6)○○
猛虎浪(7-6)○●
豪 風(7-6)●○
北勝力(7-6)●●
■平成22年春場所
魁 皇(7-6)○●
安美錦(7-6)○●
稀勢の里(7-6)○○
岩木山(7-6)○●
猛虎浪(7-6)○○

 まず驚いたのは、「7勝6敗」力士の14日目の勝率が34勝15敗と69.4%もあり、これは千秋楽「7勝7敗」力士の勝率68.8%を上回っていることです。

 次に14日目に負けた15人ですが、うち千秋楽では11人が勝利して勝ち越しを決めています、このケースでは11勝4敗勝率はさらに73.3%に跳ね上がります。

 しかもこのケースでも上記表にある★印の二組は「7勝7敗」同士のどちらかが必ず負け越す悲惨な戦いだったのであり、この2組を除けば、9勝2敗勝率81.8%であります。

 結果49人中、なんと勝ち越せなかったのは4人だけ、45人が勝ち越しを得ているのです。

 うち悲惨な2ケースを除けば47人中45人が勝ち越し、勝ち越しに失敗したのは2人だけなのであります。

 つまりこういうことです。

 過去一年間の記録で検証する限り、14日目に7勝6敗の力士は、95.78%の確率で勝ち越してきたのです。

 統計学上はあり得ない数値です。

 これをすべて「八百長」で片付けるには規模がでかすぎます、協会ぐるみで行わない限り一人や二人の調整で行えるはずもありません。

 日本人伝統の「助け合い」「互助の精神」の発現であったことが、統計的に裏付けらたと私は判断したいです。



(木走まさみず)



<参考サイト>
大相撲星取表
http://gans01.fc2web.com/index.html
大相撲記録の玉手箱
http://www.fsinet.or.jp/~sumo/sumo.htm