木走日記

場末の時事評論

日本人死刑の背景にある中国の死刑執行状況〜短絡的な感情的反発は抑制すべき

kibashiri2010-04-08




 8日付け産経新聞電子版記事から。

邦人3死刑囚が親族と面会へ 中国、あすにも執行か
2010.4.8 08:24
 麻薬密輸罪で死刑が確定している武田輝夫(67)=名古屋市出身=、鵜飼博徳(48)=岐阜県出身=の2人の日本人死刑囚は8日、収監先の遼寧省大連市の拘置施設で家族らと面会する。同省瀋陽市内で収監中の森勝男死刑囚(67)=福島県出身=も同日、親族らと面会する見通しだ。
 6日に刑が執行された赤野光信死刑囚(65)=大阪府出身=が5日に家族と面会したことから、日本側は面会後の9日に刑が執行される可能性が高いとみている。
 日中関係筋によると、3死刑囚と家族らの面会は中国側が打診。家族側から面会の希望が出されたため、日中間で面会日程を調整した結果、8日にセットされたという。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/world/china/100408/chn1004080825002-n1.htm

 中国で、6日に刑が執行された赤野光信死刑囚(65)に続き、9日にも3人の日本人の死刑が執行される見通しを報じる産経新聞記事であります。

 赤野光信死刑囚を含めて4人の罪状は「麻薬密輸罪」であり、3日には、北京で温家宝首相と会談した菅直人副総理・財務相が「日本の基準からすると罰則が厳しい」などと、日本政府の懸念を伝えてはいました。

 しかし、中国側は麻薬犯罪に厳罰で臨んでおり、結果として刑執行を強行している状況です。

 本件で我が国は冷静に事実関係を踏まえて対処すべきであり、また国民も短絡的感情的反発は抑制すべきです。

 ・・・

 まず中国で死刑執行状況を数字でおさえておきましょう。

 死刑全廃運動を展開する国際的人権保護団体であるアムネスティ・インターナショナルによれば、中国政府は死刑執行における正確な公式の統計を発表するのを拒否しています。

 アムネスティによれば中国は世界のすべての死刑執行のおよそ80%を占める国であるとし、68の犯罪で最高刑として死刑が可能であり、税金詐欺や公金着服や麻薬取引などの非暴力の犯罪が含まれています。

 毎年1000以上の死刑執行が確認できますが、正確な死刑執行の数字はさらに8,000に近いかもしれないと中国人の法律専門家は言及しているとアムネスティは伝えています。

 3月30日にアムネスティ・インターナショナルは昨年の世界の死刑執行状況について最新のレポートを発表しました。
 
 アムネスティ・インターナショナルのサイト。

amnesty international
http://www.amnesty.org/

 最新のレポート。

THE DEATH PENALTY IN 2009
http://www.amnesty.org/en/death-penalty/death-sentences-and-executions-in-2009

 この最新レポートではアムネスティは、中国の不誠実さを明らかにするために中国に関する死刑執行回数の推計を放棄しています。

 つまり同団体が確実と判断した人数では中国の死刑の実態を「過小に示すことになる」として、今回初めて具体的な数字の公表を避けたわけです。

 上記レポートを見ていただければ国別のグラフが掲載されていますが、グラフ最右端にchinaだけ黒いバーで異様に長いバーが数字無しで表わされているのはなんとも象徴的です。

 中国では麻薬取引だけでなく税金詐欺や公金着服などの非暴力の犯罪でも死刑が多数執行されている事実はしっかり押さえておかなければなりません。

 例えは悪いですが鳩山首相の11億という脱税行為は彼の国の量刑では死刑に値する金額かもしれないのです。

 良し悪しはあるにせよ、中国政府は国際批判を浴びてもこのような厳罰主義を貫いているわけです。

 ・・・

 しかしながら、中国政府はこれまで外国人の死刑執行には慎重でした。

 方針を変えたのは一年前のようです。中国政府は、外国人による密輸事件を含め麻薬犯罪が急増している状況に、強い姿勢を示す必要があったとみられ、昨年12月に英国人死刑囚への執行を強行しました。

 これは中英間の外交問題になり、国際世論の反発も買いました。

 処刑された英国人は、ヘロイン約4キロ、赤野死刑囚は覚醒剤約2・5キロの密輸で起訴され、有罪になったのですが、昨年、自国民への刑執行を通告を受けた英政府は、10回にわたり死刑囚の精神障害などを挙げ中国側と助命交渉をしましたが、中国側は国内法を盾に拒否したわけです。

 こうした中国の強硬姿勢には、大国化により国際世論を軽視する傲慢さを指摘することはできるでしょう。

 しかし中国国内で麻薬犯罪が急増し、その対策に厳罰で臨んでいる事情があるのは確かなようです。

 そしてこの中には外国人が絡んだ密輸事件も数多く存在しているわけです。

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 上述したように中国では麻薬犯罪だけでなく脱税などの非暴力犯罪でも量刑として死刑という厳罰で対処しなければならない国内事情があります。

 中国政府の非民主的な捜査や裁判の非公開性は断固指弾すべき問題ですが、今回の4人の日本人死刑囚の扱った覚醒剤の量は、中国では「死刑」にあたる多量なものであったのであり、日本人であるから重いということではないことは押さえておきたいです。

 4人の邦人死刑囚に対する死刑執行を強行しようとしていることに、日本政府として当然の権利として「国際基準に照らしても量刑は重過ぎる」とクレームをあげることは必要です。
 
 しかし中国政府は国際世論より国内事情を優先している限り、そのようなクレームが死刑執行を阻止することはかなり困難であると思われます。

 中国には多くの問題があることは事実だとして、ここは短絡的な感情的反発は抑制すべきだと思います。



(木走まさみず)