木走日記

場末の時事評論

「死神大臣」鳩山氏が宮崎勤らの死刑執行をこの時期に急いだ理由〜週刊文春記事から

●「死に神」大臣 鳩山法相〜あいかわらず朝日新聞素粒子』の手口はお下品

 朝日新聞夕刊の名物コラム『素粒子』の風刺が、なにやらまた物議をかもしているようであります。

 今度のお題は「死に神」大臣だとか・・・

 20日付けの時事通信記事から。

2008/06/20-13:45 「死に神」批判に猛抗議=鳩山法相

 鳩山邦夫法相は20日午前の閣議後の記者会見で、就任以来13人の死刑を執行した法相を「死に神」と表現した朝日新聞の記事を取り上げ、「彼ら(死刑囚)は死に神に連れて行かれたのか。違うだろう。執行された方に対する侮辱で、軽率な記事に抗議したい」と憤りをあらわにした。
 鳩山法相は「斎戒沐浴(もくよく)して(死刑囚に関する)記録を読む心境は穏やかではないが、社会正義実現のためにやらざるを得ないという思いでやってきた」と述べ、死刑執行は法相としての責務と強調した。

http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2008062000516

 うーむ、「就任以来13人の死刑を執行した法相を「死に神」と表現した朝日新聞の記事」に鳩山邦夫法相は「執行された方に対する侮辱で、軽率な記事に抗議したい」と大そうご立腹のようであります。

 「社会正義実現のためにやらざるを得ないという思いでやってきた」のであり、死刑執行は法相としての責務と強調したそうであります。

 ・・・

 で、当の朝日新聞はというと、例によって「法相らを中傷する意図はまったくありません」との見解であります。

 22日付けスポーツニッポン記事から。

朝日素粒子記者吐露「風刺コラムは難しい」

 死刑執行の件数をめぐり鳩山邦夫法相を「死に神」と称した朝日新聞夕刊1面のコラム「素粒子」が21日の夕刊で「表現の方法や技量をもっと磨かねば」と記した。

 18日に「死に神」と掲載して以降、朝日新聞社には「死に神とはふざけすぎ」などと1000件を超える抗議があったとした上で「法相のご苦労や、被害者遺族の思いは十分認識しています。それでも、死刑執行の数の多さをチクリと刺したつもりです」と言及。さらに「風刺コラムはつくづく難しいと思う。法相らを中傷する意図はまったくありません」との見解を示した。

 一方、法相の兄で民主党鳩山由紀夫幹事長はこの日、兵庫・加古川市で講演し、「弟は死に神ではない。私は“死に神の兄”と言われたくはない」と擁護した。

[ 2008年06月22日 ]
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2008/06/22/08.html

 えーと、民主党鳩山由紀夫幹事長の「私は“死に神の兄”と言われたくはない」との発言には、なんとも間が抜けている(失礼)ようで苦笑せざるを得ませんでしたが、それにしても、「朝日新聞社には「死に神とはふざけすぎ」などと1000件を超える抗議があった」そうでありまして、「法相のご苦労や、被害者遺族の思いは十分認識しています。それでも、死刑執行の数の多さをチクリと刺したつもりです」と説明しております。

 ・・・

 で、問題の『素粒子』の記述を当日紙面からご紹介。

 18日付けの朝日新聞夕刊コラム『素粒子』。


永世名人 羽生新名人。
勝利目前、極限までの緊張と集中力からか、駒を持つ手が震え出す凄み。
またの名、将棋の神様。

永世死刑執行人 鳩山法相。
「自信と責任」に胸を張り、2カ月間隔でゴーサイン出して新記録達成。
またの名、死に神


永世官製談合人 品川局長。
官僚の、税金による、天下りのためのを繰り返して出世栄達。
またの名、国民軽侮の疫病神。

 6月18日付け 朝日新聞夕刊紙面より

 「永世死刑執行人 鳩山法相」ですか、

 「「自信と責任」に胸を張り、2カ月間隔でゴーサイン出して新記録達成。」ですか。
 「またの名、死に神。」ですか。

 うーむ、上段で「永世名人 羽生新名人」を「将棋の神様」と持ち上げつつ、下段では逮捕された「永世官製談合人 品川局長」を「国民軽侮の疫病神」と痛罵し、その間に挟む形で「死に神」ですか、あいかわらず『素粒子』の手口はお下品ですな。

 常識的に考えて「将棋の神様」は褒め言葉ですが、「死に神」や「疫病神」を特定の人に名指しするのは、これは「誹謗・中傷」に値すると思われても仕方ないのであって、ましてや法に触れて逮捕された「国民軽侮の疫病神」と並べて「死に神」呼ばわりされたんじゃ、まるで法相自身が違法行為を行ったような印象を与えてしまいかねないですわな。

 「死に神」呼ばわりされた鳩山法相ご自身がお怒りなのはとても理解できます。

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 日々のニュースを「寸鉄人を刺す」の意気込みで切ってみせる14行のコラム『素粒子』の現在の担当は加藤明記者であります。

朝日新聞 論説委員

素粒子〉 夕刊一面の、これも売り物コラムです。日々のニュースを「寸鉄人を刺す」の意気込みで切ってみせます。14行と短いだけに、加藤明は早朝から新鮮な素材を探し出そうと新聞の隅々に目を通し、執筆に頭を悩ませています。

http://www.asahi.com/shimbun/honsya/j/edit.html

 だいたい朝日のこの『素粒子』ですが、先代担当の河谷史夫記者の頃から、「誹謗・中傷」騒ぎはお家芸なのでありまして、2年前には浦安市東京ディズニーランドの成人式を「遊園地のネズミ踊りに甘ったれた顔して喜んでる」じゃないと風刺して、浦安市から猛烈な抗議を受けたことは記憶に新しいです。

 当時の当ブログから。

■[メディア]「寸鉄人を刺す」のもいいが、朝日はとっとと浦安市に謝罪すべきじゃないのか

(前略)

 「浦安の新成人。遊園地のネズミ踊りに甘ったれた顔して喜んでるようじゃ、この先思いやられる」

 いやしかし、東京ディズニーランドミッキーマウスショーを「遊園地のネズミ踊り」とは、素粒子担当の論説委員である河谷史夫氏も、はでにぶっ放してくれましたねえ(苦笑)

 参加した新成人諸君も、まさか天下の朝日コラムで「甘ったれた顔して喜んでるようじゃ、この先思いやられる」と怒られちゃうとは思っても見なかったでしょうね。

(後略)
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060113/1137143464

 たかがコラムの一行の問題で騒がれる朝日新聞も気の毒な気がしますが、当時もブログにて指摘させていただきましたが、朝日新聞の抗議に対して、謝罪も反論もしない今回のような姿勢はいただけませんネ。

たとえ「筆者が政治、社会現象を批評するコラム」だとしても、メディアとしての言論責任は朝日新聞にあるのに変わりはないわけで、ちょっと言い過ぎだと指摘を受けたなら素直に謝罪すればいいのに、「寸鉄人を刺す」ジャーナリズム精神が逆に災いしてかたくなに謝罪を拒む社風につながっているのでしょうか?

たかがコラムの一行の問題で騒がれる朝日新聞も気の毒な気がしますが、たかがコラムの一行の問題で謝罪も反論もしないで時間を伸ばしてしまう朝日の体質が騒動に火に油をそそぐことになってしまうことを、朝日は強く自覚すべきであります。

 ・・・

 しかしなあ、「ねずみ踊り」にしろ、「死に神」にしろ、これは行き過ぎた表現であり誹謗・中傷に当たると当事者から批判を受けたなら、まあ、常識的にいってそうですね、ゴメンナサイ、ってところなんでしょうが、どうなんでしょうか、今回の素粒子の指摘、「「自信と責任」に胸を張り、2カ月間隔でゴーサイン出して新記録達成」との記述は、おおむね事実に則しているのであります。

 確かに就任以来一年足らずで13人の死刑というハイペースで執行してきた法相なのであります。

 またなぜアキバ事件の発生直後のこのタイミングで、鳩山氏が宮崎勤を含む4人の死刑執行を強行したのか、その理由についても、ネット上さまざまな論が飛び交っています。
 そこにはそれなりの報道に値する『鳩山法相vs人権派』の水面下の攻防があったようであります。

 ・・・



●鳩山氏がこの時期に死刑執行を急いだ理由〜週刊文春記事から

 先週発売された週刊文春最新号にはジャーナリスト上杉隆氏による宮崎勤死刑執行「鳩山法相vs人権派」水面下の攻防全部書く』というスクープ記事が掲載されています。
 この記事によれば、上杉隆氏は8年ほど前まで鳩山氏の秘書をしていた人物で、鳩山氏の人となりを熟知しているのであります。

 記事によれば、鳩山氏が死刑執行に積極的な理由はこう述べられています。

 鳩山法相が大事件の死刑囚に目を付けた背景に、政治家としての功名心があるのは否定できないだろう。ただ、それだけではない。幼児を狙った凶悪犯罪への鳩山の嫌悪感は筋金入りだ。私は八年ほど前まで鳩山に秘書として仕えた経験があるが、そうした事件が起こるたびに「ひどいなあ、かわいそうだ」と怒っていたことを覚えている。

 で、なぜアキバ事件の発生直後のこのタイミングで、鳩山氏が宮崎勤を含む4人の死刑執行を強行したのか、その事情を、人権派弁護士との水面下の攻防も含めて詳細に説明しています。

 当該部分を記事より引用。

(前略)

 四月の時点で、死刑囚の数は百四名。執行は基本的に刑の確定順だが、そう単純にはコトは進まない。
 まず、冤罪の可能性が残る死刑囚は後回しにされる。さらに、オウム事件のような組織犯罪の死刑囚も後に回される。組織犯罪は逃亡犯や未確定囚がいるケースが多く、後の裁判で証言が必要になる可能性があるからだ。そういった死刑囚を除くと宮崎の順番は「八番目」だった。
 鳩山法相は法務省幹部と相談し、まず四人の死刑を執行し、その後、宮崎を含む四人の死刑執行をおこなうスケジュールを組んだ。
 「だが、鳩山大臣が次々に執行するので、死刑反対の人権派弁護士からの再審請求が多くなった。それでこのスケジュールが狂ってしまった」(法務省関係者)
 なぜ彼らに執行予定者がわかったのか。それは、鳩山法相が死刑囚の名前を発表するようになったことが関係している。執行を受けた死刑囚がリアルタイムで確定できるため”次”の予測がつくようになったのだ。
 こうして、予定していた八人全員の執行はできなくなった。ただ、宮崎の再審請求はまだ出されていなかった。そのため、皮肉にも再審請求が出された死刑囚は後回しにされ、宮崎らの執行が繰り上がったのだ。
 別の障害もあった。六月十二、十三日に、恵比寿でG8司法・内務相会議が開かれ、鳩山法相が議長を務める事が決まっていたのだ。
 「なぜこれが障害になるかといえば、昨年末、国連の死刑反対決議でEUが主導的な役割を果たしたように、ヨーロッパの司法当局者には死刑反対派が多い。もし会議の前に死刑を執行すれば、ボイコットも想定されたのです」(司法記者)
 とはいえ、同様に洞爺湖サミット直前というわけにもいかない。そしてサミット後となれば、いつ内閣改造があるかわからない。
 結局、鳩山法相と法務省は、G8司法・内務省会議直後のこの短い期間に、宮崎の死刑を執行するしかなかったのだ。

(後略)

 実に興味深い記事です。

 要約すれば、こういうことになります。

 8人の死刑執行を急ぐ鳩山法相でしたが、鳩山法相が死刑囚の名前を発表するようになったことがアダとなり、人権派弁護士に次の死刑執行対象者が推測されてしまうようになります。

 で先に執行予定の4人が再審請求され執行できなくなり、皮肉にも「八番目」の宮崎勤も含む後の4人の執行が先行されたというのです。

 そしてなぜこの時期に急いだのかというと、洞爺湖サミットにまだ時間的にあいだのあるかつ、六月十二、十三日のG8司法・内務相会議直後というこのタイミングしかなかったのだと、元秘書の上杉隆氏は指摘しているのです。

 ・・・

 皮肉なことに、結果として、アキバ事件の発生直後のこのタイミングで、鳩山氏が宮崎勤の死刑執行を強行するという、図式が出来上がってしまいました。

 そして結果、朝日新聞に「死に神」と揶揄されてしまうのであります。

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 今回は、週刊文春記事より、「死神大臣」鳩山氏が宮崎勤らの死刑執行をこの時期に急いだ理由をご紹介いたしました。



(木走まさみず)