フセイン元大統領死刑確定:胡散臭い大義「人道に対する罪」を振りかざす米国の米国による米国のための茶番裁判劇
●フセイン元大統領、死刑確定 30日以内に執行の規定
昨日の朝日新聞から・・・
フセイン元大統領、死刑確定 30日以内に執行の規定
2006年12月27日01時21分イラク高等法廷は26日、イスラム教シーア派住民を虐殺した罪で先月、死刑判決を受けたフセイン元大統領の控訴を棄却、死刑が確定したと発表した。法律の規定では、元大統領は、同時に死刑が確定した他の2被告とともに、30日以内に絞首刑に処せられる。
同日、記者会見した高等法廷控訴院のシャヒーン裁判官は、執行日については「12月27日から30日以内に、行政府が決定する」と説明。また「減刑はありえない」と述べ、死刑回避の可能性がないことを強調した。ただ、裁判はこれまでも政治的な都合で左右されており、死刑による治安悪化も懸念されるため、実際の執行まではなお曲折も予想される。
死刑が確定したのは元大統領のほか、イブラヒム元大統領顧問、バンダル元革命裁判所長官。終身刑の判決だったラマダン元副大統領については、「刑が軽すぎる」として下級審に審理のやり直しを命じた。
元大統領らへの判決は11月5日に言い渡された。82年に中部ドゥジャイル村でシーア派住民148人を殺害したことを「人道に対する罪」と認定した。
元大統領は、クルド人18万人余を殺害した「アンファル作戦」でも起訴され、審理が続いていた。しかしこの日の死刑確定で、元大統領への公訴は取り下げられた。同作戦の裁判は、元大統領以外の残る6被告について審理が継続される。
また元大統領の死刑確定によって、90年のクウェート侵攻や毒ガス攻撃で5000人が殺害された88年のハラブジャ事件なども起訴されることはなくなり、元大統領の関与の解明は闇に葬られることになった。
イラク高等法廷は国連ではなく占領国である米国の主導でつくられ、国際法廷ではない。このため、人権団体などは裁判について「厳密な証拠の審査が行われていない」などと批判していた。
http://www.asahi.com/international/update/1227/001.html
うーむ「イラク高等法廷は26日、イスラム教シーア派住民を虐殺した罪で先月、死刑判決を受けたフセイン元大統領の控訴を棄却、死刑が確定したと発表した」そうであります。
「シャヒーン裁判官は、執行日については「12月27日から30日以内に、行政府が決定する」と説明。また「減刑はありえない」と述べ、死刑回避の可能性がないことを強調した」そうでありますが、しかしどうなんでしょうか、「死刑による治安悪化も懸念されるため、実際の執行まではなお曲折も予想される」そうですが・・・
同じく昨日の朝日新聞記事から。
米は歓迎、人権団体は批判 フセイン元大統領死刑確定
2006年12月27日10時06分米ホワイトハウスのスタンゼル副報道官は26日、サダム・フセイン元イラク大統領に対する死刑判決をイラク高等法廷の控訴院が確定させたことについて「独裁者による支配を、法による支配に置き換えようというイラク国民の努力の中で、重要な里程標となった」と歓迎した。
ブッシュ大統領が休暇先のテキサス州クロフォードに向かう大統領専用機の機中で同行記者団に対して述べた。同法廷の独立性に対する批判が出ていることについては、副報道官は「サダム・フセインは、自分がイラクの人々に与えることを長年拒んできた適正な法の手続きと権利を保障されてきた」と主張した。
一方、国際人権団体ヒューマンライツ・ウオッチは26日、「イラク政府は、重大な欠陥を伴う法廷によって下された死刑判決を実行に移すべきではない」などと批判する声明を出した。
米政府はフセイン元大統領を裁く国際法廷の設置構想を受け入れず、占領体制下で現在のイラク高等法廷を設立させた。「体制犯罪連絡室」をバグダッドに設け、06年会計年度の補正予算と07年度予算で合計6100万ドル(約72億円)を計上。約140人の米政府要員が「顧問」という名目でテコ入れしてきた。
http://www.asahi.com/international/update/1227/005.html
米政府が「独裁者による支配を、法による支配に置き換えようというイラク国民の努力の中で、重要な里程標となった」と歓迎する一方、国際人権団体は「イラク政府は、重大な欠陥を伴う法廷によって下された死刑判決を実行に移すべきではない」などと批判する声明を出したそうです。
同日のしんぶん赤旗の記事によれば、今年十一月の初判決も「米中間選挙の直前だったこともあり、ブッシュ政権の選挙活動に利用された」可能性があると指摘、また「イラク高等法廷は、国連と関係なく米占領軍の肝いりで設置されたもので、米国は約七千五百万ドル(約八十九億円)の裁判関連費用を提供した」と報道しています。
2006年12月28日(木)「しんぶん赤旗」
フセイン元大統領死刑確定
【カイロ=松本眞志】イラク高等法廷は二十六日、過去のイスラム教シーア派虐殺事件への関与を理由にフセイン元大統領(69)とその側近らを死刑とした十一月の一審判決を支持し、同大統領の死刑が確定しました。事件は、一九八二年にフセインの暗殺を試みた報復として、イラク中部ドゥジェイルで発生、百四十八人が犠牲になったとされています。
シャヒーン裁判長は記者会見で、死刑は規定により三十日以内に執行されると語りました。
高等法廷のジュヒ報道官は、イラク憲法のもとでは、国際的な人道問題に関する犯罪に対する判決は、大統領の恩赦によっても覆せないと主張。イラク政府も、判決通りの日程でフセイン元大統領らへの刑を執行するとの立場を示しました。
フセイン側のドゥレイミ弁護士は、判決を「百パーセント政治的動機に基づいたものだ」と批判しました。
旧フセイン政権に抑圧されてきたシーア派住民の間では、判決を歓迎する声がある一方、スンニ派が多数を占めるバグダッド北方のティクリットでは落胆の声が聞かれます。刑が執行された場合、各種の暴動・反撃など、いっそう混乱が広がる可能性があります。
フセイン元大統領は、一九七九年から二〇〇三年三月の米軍侵攻までイラクを統治してきました。同年十二月に米軍によって逮捕され、〇五年十月に首都バグダッドの特別法廷で初公判が開かれました。
裁判の手続きが一方的だとする指摘は、各種人権団体などから出されていました。公判の過程でフセイン側の弁護士が殺害される事件も起こり、審理のこう着状態が続いていましたが、今年十一月に初判決が出ました。
米中間選挙の直前だったこともあり、ブッシュ政権の選挙活動に利用されたとの指摘もあります。イラク高等法廷は、国連と関係なく米占領軍の肝いりで設置されたもので、米国は約七千五百万ドル(約八十九億円)の裁判関連費用を提供したと言われています。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-12-28/2006122807_01_0.html
たしかに、イラク高等法廷は国連ではなく占領国である米国の主導でつくられ、国際法廷ではないのは事実で、米政府が6100万ドル(約72億円)(【朝日記事】)か約七千五百万ドル(約八十九億円)(【赤旗記事】)か諸説ありますが、予算の全てと約140人の米政府要員が「顧問」という名目でテコ入れしてきたのであり、事実上米国の意向の元に一方的な裁判が展開してきたという批判が耐えないのであります。
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●「国のため犠牲になる」死刑確定フセイン元大統領が書簡
一方今日の日経記事から・・・
「国のため犠牲になる」死刑確定フセイン元大統領が書簡
「私は(国のため)犠牲になる」。住民虐殺事件で死刑が確定したイラクのフセイン元大統領が獄中で国民にあてた書簡が27日、ウェブサイトで公開された。米国やイランがイラクの分断を狙っていると警告、国民に団結を呼びかける内容。イラク政府は近く死刑を執行する方針で、事実上の「遺書」になりそうだ。
弁護団によると、元大統領は11月、高等法廷の一審で死刑判決を言い渡された直後にこの書簡を執筆。「米国人が煩雑な手続きを課した」ために公開が遅れた。
元大統領は書簡で「侵略者やペルシャ人はイラク国民の団結を崩すため、くさびを打ち込んだ」と指摘、イスラム教の宗派間抗争の背景に米英やイランの陰謀があると主張した。半面「あなた方を攻撃した国の人々(一般国民)を憎んではならない」とも訴えた。
旧政権与党(旧バース党)残党はウェブサイト上で27日、死刑が執行された場合は「報復する」と宣言した。(バーレーン=加賀谷和樹)(09:33)
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20061228AT2M2800528122006.html
覚悟を決めたのでしょうか、「私は(国のため)犠牲になる」と獄中で国民にあてた書簡を書いたフセイン元大統領なのであります。
「「侵略者やペルシャ人はイラク国民の団結を崩すため、くさびを打ち込んだ」と指摘、イスラム教の宗派間抗争の背景に米英やイランの陰謀があると主張」しつつ、「あなた方を攻撃した国の人々(一般国民)を憎んではならない」とも訴えたのだそうです。
なんともしおらしいコメントではありましょうが、彼のしでかしてきた自国民や隣国民に対する蛮行を考えると、やれやれこの呆れた「殉教者」気取りには、まったく白けてしまうのではあります。
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ふう。
●まさに米国の米国による米国のための茶番裁判劇
別にフセイン元大統領を養護するつもりはまったくありませんが、そもそもこの裁判、その土俵からして、公正さの微塵もないのは事実でありましょう。
イラク高等法廷は国連ではなく占領国米国の独断・主導でつくられ運用されている、公正な人員を配置されているとはまったく言えない、国際法廷ではない、言葉は悪いですが人も金も米国が牛耳り傀儡として裁判長など表面的な人事だけイラク人をお飾りで置いた、まさに米国の米国による米国のための茶番裁判劇であるわけです。
大方の人が予想していた通り、最初から極刑という結論が用意されていたのでありましょう。
しかし米国という国はつくづくわがままで外交センスのかけらもないと思ってしまうのは、このような一方的な茶番裁判を主導しては、すでに激しい宗教対立で事実上内戦状態であるイラク国内の治安悪化に火に油を注ぐ結果になりかねないということが理解できていないことです。
現に「旧政権与党(旧バース党)残党はウェブサイト上で27日、死刑が執行された場合は「報復する」と宣言」(【日経記事】)などきな臭い動きが始まっているようです。
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フセイン元大統領には何の愛着も弁護する気持ちも微塵もないですが、米国のこの勧善懲悪劇、善なる米国が悪の枢軸国家をこらしめるという単純な二元論的発想には、つくづく嫌気がさします。
笑えるのは米国の偽善者振りは何も進歩が無いようで、今回も気に入らないのは、フセイン元大統領らの罪状が「82年に中部ドゥジャイル村でシーア派住民148人を殺害したことを「人道に対する罪」と認定」(【朝日記事】)と、相も変わらず「人道に対する罪」としていることです。
「人道に対する罪」ね。
相も変わらず胡散臭い大義を振り回してくれるものです。
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●どうせ茶番ならば、「人道に対する罪」などという胡散臭い大義は振り回してほしくない
今日の産経コラムから・・・
【産経抄】
石油ジャブジャブの産油国のいくつかは、独裁国家やテロ国家というから憂いは尽きない。それでも、「アラブの暴れん坊」が率いたイラクとリビアでは、大きく明暗を分けた。イラクの元大統領フセインは毒ガスで罪なき人々を虐殺し、運が尽きて死刑が確定した。少しは処刑される側の恐怖が分かるだろう。▼米大統領に刺客まで送ったリビアのカダフィ大佐は、もう少しずる賢い。「悪うございました」と米国に恭順の意を示し、いまは石油収入でウハウハだ。一昨年には米国の経済制裁が解かれ、このたび、日本企業が油田の2鉱区を落札できたのはめでたい。
▼カダフィ大佐のことを「純粋な指導者」と持ち上げた新聞もあったが、大佐の過去は血塗られている。40年近くも前に、首都トリポリでクーデターを起こし、国王の縁者を欧州まで追いかけ回して皆殺しにした。
▼現地商社マンだった浮貝泰匡さんは著書『カダフィに狙われた男』で、縁者のリビア人社長との間一髪の脱出行を描く。社長は欧州中を逃げ回った揚げ句にミラノ駅頭で凶弾に倒れた。カダフィの狂気は西ベルリンのディスコ爆破、ローマ、ウィーンの空港爆破にとどまらない。
▼レーガン大統領にまで暗殺団が差し向けられると、さすがの米国も切れた。大佐の居宅をピンポイントで空爆し、末娘が死んだ。このとき大佐が、日本のラブホテルで使われる回転ベッドを愛用しているのがばれたことはおかしい。
▼そのカダフィもイラク戦争後の標的になることを恐れ、核放棄を宣言して査察団を受け入れた。米国はこの「リビア方式」で北朝鮮を説得する。迷える北の将軍様は、どちらが得かで天秤(てんびん)にかけているだろう。「生き残り」のすべは、核より食糧だろうに。
(2006/12/28 05:09)
http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/sankeisho/061228/sks061228000.htm
興味深いですね。
「「アラブの暴れん坊」が率いたイラクとリビアでは、大きく明暗を分けた」のは、リビアのカダフィ大佐「悪うございました」と米国に恭順の意を示したので救われて、一方のフセインは最後まで米国に逆らったから「死刑」になったする産経コラムであります。
コラムは「迷える北の将軍様は、どちらが得かで天秤(てんびん)にかけているだろう」と結んでいますが、まさにこのコラムは米国による勧善懲悪劇、善なる米国が悪の枢軸国家をこらしめるという単純な二元論的発想の限界を良く示しています。
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「人道に対する罪」など、フセインだけでなく、リビアのカダフィ大佐や北の将軍様などそれこそ人民弾圧や国際テロ主導してきた指導者はごろごろいるわけです。
しかし彼らは死刑にはならない。
「悪うございました」と米国に恭順の意を示せば罪も問われないのです。
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イラク高等法廷は国連ではなく占領国米国の独断・主導でつくられ運用されている、公正な人員を配置されているとはまったく言えない、国際法廷ではない、言葉は悪いですが人も金も米国が牛耳り傀儡として裁判長など表面的な人事だけイラク人をお飾りで置いた、まさに米国の米国による米国のための茶番裁判劇であるわけです。
どうせ茶番ならば、「人道に対する罪」などという胡散臭い大義は振り回してほしくないです。
ややこしい大儀など振り回さず、はっきり米国に逆らったからお前は死刑だと言えばいいのです。
(木走まさみず)