木走日記

場末の時事評論

小沢氏の脱法行為こそ罪刑法定主義に対する脅威

 小沢氏不起訴を受け5日付け主要紙社説は一斉にこれを取り上げています。

【朝日社説】小沢氏不起訴―このまま続投は通らない
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
【読売社説】小沢氏不起訴 重大な政治責任は免れない
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100204-OYT1T01475.htm
【毎日社説】小沢氏不起訴 政的責任は免れない
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20100205k0000m070117000c.html
【産経社説】小沢幹事長不起訴 政治責任を改めて問う 国会は証人喚問で疑惑解明を
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100205/crm1002050245002-n1.htm
【日経社説】不起訴でも小沢氏の責任は非常に重い
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20100204ASDK0400404022010.html

 各社説の論調は小沢氏の「政治的責任」「道義的責任」を厳しく指弾することで完全にベクトルが一致しています。

 より重大なのは、政治的、道義的な責任である。(朝日)

 小沢氏がこれらの責任を果たすことができないのであれば、潔く幹事長を辞任するべきである。(朝日)

 小沢氏は「嫌疑不十分」で不起訴となった。しかし、自らの政治資金をめぐる事件で、元秘書ら3人が刑事責任を問われたことを厳しく受け止めねばならない。政治責任は重大である。(読売)

 つまり、これはあくまで小沢氏本人にかかわる問題であり、その監督責任、政治的責任は極めて重い。(毎日)

 有権者の多くは「政治とカネ」も含めて自民党政治からのチェンジを政権交代に期待したはずだ。捜査への批判の前に、既に国民を失望させつつあるという政治的責任を、鳩山由紀夫首相をはじめ党全体で冷静に考える時ではないのか。(毎日)

 鳩山政権の最高実力者である小沢一郎民主党幹事長は、現元秘書3人が政治資金規正法違反の罪で起訴された事実に伴う、自らの政治的・道義的責任がいかに大きいかを見据え、出処進退を決めなくてはならない。(産経)

 不起訴になったとはいえ、元秘書らが3人も逮捕・起訴された小沢氏の政治的、道義的責任は非常に重い。(日経)

 政治資金規制法による刑事責任が小沢氏が不起訴になり問えないことを受けて、政治的・道義的責任を声高に叫ぶマスメディアなのでありますが、おそらく小沢氏にとりこれらの訴えは馬耳東風、馬の耳に念仏でありましょう。

 日刊ゲンダイ風に表現すれば「暴走検察敗北小沢勝利」(5日付け日刊ゲンダイ見出し)なのであり、「周辺3人を逮捕し本人を2度聴取し世論を反小沢に煽り立てながら小沢一郎に完敗」(同見出し)したのであります。

 日刊ゲンダイは大見出しで「小沢大逆襲」と打っており、「小ネズミ3匹起訴で終わる今回の検察捜査はやっぱり政権交代民主党政権つぶしが狙いだった」(同見出し)とし、「検察人事に大ナタか」(同見出し)と、「司法・検察は徹底的に攻撃される」(同見出し)と言い切っています。

 検察大敗北であることは明白ですが、私は今回の不起訴は想定の範囲内でした。

 「政治とカネ」に関することは、自民党木曜クラブ田中派のちに経世会竹下派)のころから、田中、金丸、と相次ぐ逮捕劇を目の当たりにし、師匠・田中元首相のロッキード事件裁判ではすべて傍聴して学習してきた小沢氏なのであります。

 たび重なる自民党政治家による収賄事件「政治とカネ」問題を重大視し、政党助成法や政治資金規制法の改正などでもっとも主導的に関わってきたのが他ならぬ小沢氏なのであります。

 自らこの法律の立法に深く関わった彼はこれらの法を熟知していたはずです、その盲点も含めてです、しからば今回の件で仮に世に明かせない不正行為が水面下にあったとした場合でも小沢氏自身に繋がるような証拠・証言を残すようなドジはまずは踏まないのではないかと推測しておりました。

 贈収賄罪や政治資金規制法で小沢氏本人を立件することはそもそもとてもハードルが高かったと言うことだと思います。

 当ブログはマスメディアの一連のゼネコン絡みの検察リーク報道とは一線をきしてきました。

 個人ブログとしては情報収集に限界がありますし、そもそもこのタイミングでの検察の小沢氏および小沢事務所に対する異常な執着に、確かに恣意性を感じておりましたので、一連の検察の動きとマスメディアの報道には静観しておりました。

 ただ本件に関する当ブログのスタンスは3年前から一貫して明快で単純であります。

 法人格のない政治資金団体に個人名義の不動産を購入させるという小沢氏の手法は明確な脱法行為であり、その一点で断じて許されるモノではないのだ、という主張です。

 別に小沢氏が与党最高権力者になったからとか誕生した民主党政権のつぶしが目的で述べているわけではないです。

 3年前の当ブログエントリーから。

2007-01-16 小沢氏、総務省よ、ふざけるな! 3億6千万円の不動産取得が何で人件費なんだ?(怒
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070116
2007-10-09 「経費」から「収益」が発生する見事な小沢一郎氏の詭弁会計術
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20071009

 小沢氏が政治団体を利用してどのように個人名義の不動産を購入したのか、このタイミングでその手法をはっきりトレースし検証しておくことは重要だと思います。

 ・・・

 まず2007年1月に一部報道により、民主党小沢一郎代表(当時)の資金管理団体陸山会」が05年の政治資金収支報告書に「事務所費」として約4億1500万円の巨費を記載していたことが判明いたします。

 2007年1月13日付けの朝日新聞記事はこう報じています。

小沢氏の事務所費、3億6千万円の秘書宿舎建設費も計上

2007年01月13日12時25分

 民主党小沢一郎代表の資金管理団体陸山会」が05年の政治資金収支報告書に事務所費約4億1500万円を記載していたことをめぐり、小沢氏は13日、「大部分は秘書の宿舎を建てた費用だ」と説明。前年に比べて約10倍に急増していると一部報道で指摘されたことについて問題がないとの認識を示した。政治資金規正法施行規則では、宿舎の建設費用をどの費用に計上するかは明記されておらず、「総務省に相談した結果、事務所費に計上した」(小沢氏の秘書)という。
 家賃のかからない議員会館に事務所を置きながら数千万円の事務所費が計上されているケースが相次いで発覚した一連の問題では、伊吹文部科学相政治団体が通常、政治活動費に計上すべき選挙関係の費用や飲食代などを事務所費に計上していたことが不適切だと指摘されている。今回のケースについて、小沢氏は支出の費目を付け替えた一連の疑惑とは違うことを強調した。
 収支報告書や小沢氏の秘書の説明によると、05年に東京都世田谷区に独身寮を新築し、秘書が生活している。土地代約3億4000万円(約470平方メートル)、建物代約2300万円を事務所費として計上したという。登記簿上は小沢代表名義になっているが、費用については陸山会が支出しているという。
 03年にも事務所費約1億円を計上しているが、「盛岡と仙台に、事務所としてマンションの一室を買った」という。
 小沢氏は「秘書の給与が低いから、宿舎を提供してやろうと、(私の自宅の)近所に購入した。(事務所費に)計上するしかない」と話している。
 陸山会は東京都港区に事務所を置いており、04年には事務所費として約3800万円を計上していた。
http://www.asahi.com/politics/update/0113/002.html(すでにリンク切れしています)

 ここで重要なのは、当時の小沢事務所側のこの説明です。

 政治資金規正法施行規則では、宿舎の建設費用をどの費用に計上するかは明記されておらず、「総務省に相談した結果、事務所費に計上した」(小沢氏の秘書)

 法人格の無い政治団体は当然ですが不動産など資産を有することを認められていません。

 つまり政治資金規正法施行規則では、「宿舎の建設費用をどの費用に計上するかは明記されておら」ないのは、法人格のない政治団体が不動産購入などできうるはずがないから明記していなかっただけで、まさか政治団体が政治家個人名義の不動産を肩代わりして購入するなどと言う「脱法行為」など想定していなかったわけです。

 結果何が起きたか。

 「登記簿上は小沢代表名義になっているが、費用については陸山会が支出」(朝日記事)という実に歪んだ小沢氏個人の資産形成が成立したのです。

 小沢氏名義の不動産登記という個人の「資産」形成に対して、政治団体陸山会」が「事務諸費」という「費用」計上して補助するわけのわからない図式ができあがっているのです。

 記事にもあるとおり陸山会は他にも「盛岡と仙台に、事務所としてマンションの一室を買った」とあり、この手法で総額10億の小沢氏個人名義の不動産が購入されていることが現在でははっきりしています。

 これは大変な脱法行為です。

 言うまでもなく政治団体に流れる政治資金は、政党助成金という税金も含まれる浄財です。

 結果として小沢事務所は、その浄財を用いて個人資産を形成していたことを意味します。

 ・・・

 2007年10月にはさらに「陸山会」の驚くべき錬金術が、毎日新聞のスクープで明らかになります。

小沢一郎代表:資金管理団体に家賃収入…規正法違反の疑い

 民主党小沢一郎代表の資金管理団体「陸山(りくざん)会」が、政治資金で購入したマンションをコンサルタント会社や財団法人に貸し、家賃収入を得ていたことが分かった。陸山会は、10件を超える不動産を政治資金で取得していることが問題化したが、「不動産による資産運用」が表面化するのは初めて。政治資金規正法は預金や国債以外の資金運用を禁止しており、総務省は一般論としながら、「家賃収入は法違反の疑いがある」と指摘している。【杉本修作】
 陸山会政治資金収支報告書などによると、陸山会は東京都港区のマンション「プライム赤坂」の一室を所有。ここにコンサルタント会社「エスエー・コンサルティング」が入居。同様に千代田区麹町のマンション「グラン・アクス麹町」に所有する一室に外務省、経済産業省などが所管する財団法人「国際草の根交流センター」が入居する。各部屋の登記簿上の所有名義は小沢氏になっている。
 エスエー社は02年1月から、交流センターは04年10月から入居し、それぞれ毎月7万円と20万円の家賃を陸山会に支払っていた。その総額は06年末までに計約1000万円に上る。エスエー社は9月末ごろ転居し、現在は入居していない。
 政治資金規正法では、政治団体による資金の運用について、預貯金、国債政府保証債券、元本保証のある金融機関への信託以外は認められていない。総務省は「政治資金は国民の浄財。資金で購入した不動産を家賃を取って貸すのは同法が禁止する資産運用にあたる疑いがある」と指摘する。

(後略)
毎日新聞 2007年10月9日 3時00分
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20071009k0000m040105000c.html(すでにリンク切れしています)

 つまりこういうことです。

 陸山会は総額約10億円で、都内や盛岡市仙台市などにマンション、土地などを購入し、登記簿上は、すべて小沢氏名義になっています。

 この小沢氏の不動産取得問題は3年前国会でも問題になり、その年の6月に政治資金規正法が改正され、資金管理団体は土地、建物を所有することが全面的に禁止されました。

 そうした中で今度はあろうことか「陸山会」は、政治資金で購入したマンションを会社や法人に貸し、家賃収入を得ていたことが発覚したのです。

 「政治団体による不動産購入」も前代未聞なら、「政治団体による不動産による資産運用」などが表面化したのはこれが初めてでした。

 政治資金規正法政治団体には、預金や国債以外の資金運用を全面的に禁止しており、この記事でも総務省は「家賃収入は法違反の疑いがある」と指摘しています。

 またしても法の網をかいくぐる極めて悪質な手法であります。

 ・・・

 唯一の立法機関である国会に属する政治家にあるまじきこれらの一連の脱法行為は、私は繰り返しそもそも許されるべきではないと批判してきました。

 28日付けエントリーでも私は「裏献金などが立証されなくとも、小沢氏のこの脱法行為は批判されて当然」と訴えました。

(前略)

 小沢氏側もこの点の悪質性を十分意識しております、「確認書」なる法的には何の意味も有しない書類を登記後2年立ってこの問題がメディアで取り上げられた時、後付けで「作成」しているぐらいです。

 この手法は法の盲点をついたもので、小沢氏個人の資産運用の側面を指摘できうるし、そもそもこの国の法律は政治資金で資産形成することなどに備えていません、そのような法を抜ける行為をしてきた政治家は与野党見渡しても、小沢氏ただ一人なのであります。

 小沢氏以外誰一人として政治資金で個人名義の不動産を購入した政治家はいません。

 小沢氏の政治資金による不動産購入は、この4億の秘書寮の物件の他にもマンション購入など数件有り、総額は10億に及ぶのです。

 政治家のこのようなモラルなき振る舞いを何もとがめずこれを放置すれば法治国家日本の国民の遵法意識に極めて深刻な悪影響を与えかねません。

 今、小沢氏に厳しく問われているのは、まさに、

 「法に明文化されていなければ、どんな悪質な手段をとっても許されるのか」

 という一点であります。

 ゼネコンがらみの裏献金などが立証されなくとも、小沢氏のこの脱法行為は批判されて当然なのだと思います。

 (後略)

2010-01-28 マスメディアも報道し始めた小沢氏脱法行為問題 より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20100128

 「法に明文化されていなければ、どんな悪質な手段をとっても許されるのか」と訴えたところブックマークにて、とても興味深いご批判をいただきました。

「法に明文化されていなければ、どんな悪質な手段をとっても許されるのか」 当然YES。罪刑法定主義なめんな。

 罪刑法定主義ですか、なるほどとこのご批判には感心いたしました。

  フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』ではこう解説されています。

罪刑法定主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

罪刑法定主義(ざいけいほうていしゅぎ)は、ある行為を犯罪として処罰するためには、立法府が制定する法令(議会制定法を中心とする法体系)において、犯罪とされる行為の内容、及びそれに対して科される刑罰を予め、明確に規定しておかなければならないとする原則のことをいう。公権力が恣意的な刑罰を科すことを防止して、国民の権利と自由を保障することを目的とする。事前に法令で罪となる行為と刑罰が規定されていなければ処罰されない、という原則であり、遡及処罰の禁止などの原則が派生的に導かれる。刑罰に限らず行政罰や、損害賠償等の民事罰にも適用されると一般的に解される。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BD%AA%E5%88%91%E6%B3%95%E5%AE%9A%E4%B8%BB%E7%BE%A9

 「事前に法令で罪となる行為と刑罰が規定されていなければ処罰されない」大原則である罪刑法定主義にたてば「法に明文化されていなければ、どんな悪質な手段をとっても許されるのか」は当然YESであり、私の訴えは罪刑法定主義をなめているというご批判であります。

 私から言わせれば罪刑法定主義をなめているのは悪質な脱法行為を繰り返す小沢氏自身です。

 確かに日本の法律は罪刑法定主義を原則としております。

 しかしこれは罪刑法定主義が万能と言うことを意味するモノではありません。

 罪刑法定主義は、それまで法律が想定していなかったような態様の犯罪が発生した場合に、これを柔軟に処罰することができないという欠点も有しています。

 法を作るという崇高な使命を持つ立法府に属する政治家は、その指導的立場だからこそ遵法意識を高めなければいけないと考えます。

 しかるに小沢氏の一連の脱法行為は彼の行為こそがまさに日本の採用する罪刑法定主義のそれの持つ硬直性をついた、法をなめきった行為といえないでしょうか。

 小沢氏の脱法行為こそ罪刑法定主義に対する脅威だと私は考えます。

 「天網恢々疎にして漏れもれ」でいいのでしょうか。



(木走まさみず)