木走日記

場末の時事評論

脱法政治家小沢一郎は国権の最高機関にふさわしくない人物だということ

 朝日新聞電子版速報記事から。

小沢氏に無罪判決 陸山会の土地取引事件 東京地裁
http://www.asahi.com/national/update/0426/TKY201204260156.html

 うむ、小沢一郎氏に東京地裁(大善文男裁判長)は26日午前、無罪(求刑・禁錮3年)とする判決を言い渡しました。小沢一郎氏の取った手法は刑事的には無罪その違法性は認められませんでした。

 この結果は私としては想定の範囲内であります。

 私は今回の判決を法的に評価します。

 彼は政治資金規正法において違法行為を犯してはいない、少なくともそれを証明する明確な証拠はない、疑わしきは罰せず、の原則が適用されたのでしょう。

 師匠である田中・金丸の贈収賄逮捕劇をつぶさに見てきたクレバーな錬金術師、小沢氏を単純な政治資金規正法違反で裁くこと自体に無理があったのだと思います。

 「政治とカネ」に関することは、自民党木曜クラブ田中派のちに経世会竹下派)のころから、田中、金丸、と相次ぐ逮捕劇を目の当たりにし、師匠・田中元首相のロッキード事件裁判ではすべて傍聴して学習してきた小沢氏なのであります。

 たび重なる自民党政治家による収賄事件「政治とカネ」問題を重大視し、政党助成法や政治資金規制法の改正などでもっとも主導的に関わってきたのが他ならぬ小沢氏なのであります。

 自らこの法律の立法に深く関わった彼はこれらの法を熟知していたはずです、その盲点も含めてです、しからば今回の件で仮に世に明かせない不正行為が水面下にあったとした場合でも小沢氏自身に繋がるような証拠・証言を残すようなドジはまずは踏まないのではないかと推測しておりました。

 贈収賄罪や政治資金規制法で小沢氏本人を立件することはそもそもとてもハードルが高かったと言うことだと思います。

 当ブログはマスメディアの一連のゼネコン絡みの検察リーク報道とは一線をきしてきました。

 個人ブログとしては情報収集に限界がありますし、そもそもこのタイミングでの検察の小沢氏および小沢事務所に対する異常な執着に、確かに恣意性を感じておりましたので、一連の検察の動きとマスメディアの報道には静観しておりました。

 ただ本件に関する当ブログのスタンスは5年前から一貫して明快で単純であります。

 法人格のない政治資金団体に個人名義の不動産を購入させるという小沢氏の手法は明確な脱法行為であり、その一点で断じて許されるモノではないのだ、という主張です。

 別に小沢氏つぶしが目的で述べているわけではないです。

 本件で何が起こっていたのか、詳細をトレースしておくことは、政治家小沢一郎氏を再評価するうえで無駄ではないでしょう。

 ・・・

 まず2007年1月に一部報道により、民主党小沢一郎代表(当時)の資金管理団体陸山会」が05年の政治資金収支報告書に「事務所費」として約4億1500万円の巨費を記載していたことが判明いたします。

 2007年1月13日付けの朝日新聞記事はこう報じています。

小沢氏の事務所費、3億6千万円の秘書宿舎建設費も計上
2007年01月13日12時25分

 民主党小沢一郎代表の資金管理団体陸山会」が05年の政治資金収支報告書に事務所費約4億1500万円を記載していたことをめぐり、小沢氏は13日、「大部分は秘書の宿舎を建てた費用だ」と説明。前年に比べて約10倍に急増していると一部報道で指摘されたことについて問題がないとの認識を示した。政治資金規正法施行規則では、宿舎の建設費用をどの費用に計上するかは明記されておらず、「総務省に相談した結果、事務所費に計上した」(小沢氏の秘書)という。
 家賃のかからない議員会館に事務所を置きながら数千万円の事務所費が計上されているケースが相次いで発覚した一連の問題では、伊吹文部科学相政治団体が通常、政治活動費に計上すべき選挙関係の費用や飲食代などを事務所費に計上していたことが不適切だと指摘されている。今回のケースについて、小沢氏は支出の費目を付け替えた一連の疑惑とは違うことを強調した。
 収支報告書や小沢氏の秘書の説明によると、05年に東京都世田谷区に独身寮を新築し、秘書が生活している。土地代約3億4000万円(約470平方メートル)、建物代約2300万円を事務所費として計上したという。登記簿上は小沢代表名義になっているが、費用については陸山会が支出しているという。
 03年にも事務所費約1億円を計上しているが、「盛岡と仙台に、事務所としてマンションの一室を買った」という。
 小沢氏は「秘書の給与が低いから、宿舎を提供してやろうと、(私の自宅の)近所に購入した。(事務所費に)計上するしかない」と話している。
 陸山会は東京都港区に事務所を置いており、04年には事務所費として約3800万円を計上していた。

http://www.asahi.com/politics/update/0113/002.html(すでにリンク切れしています)

 ここで重要なのは、当時の小沢事務所側のこの説明です。

 政治資金規正法施行規則では、宿舎の建設費用をどの費用に計上するかは明記されておらず、「総務省に相談した結果、事務所費に計上した」(小沢氏の秘書)

 多くの問題が含まれているコメントです。

 一点目は、不動産購入は一般会計上「資産」であるにもかかわらず「事務所費」と「経費」計上している点です。

 会計上、こんな出鱈目はありません。

 そもそも法人格の無い政治団体は当然ですが不動産など資産を有することを認められていません。

 当時の政治資金規正法でも政治団体は規正法で認められた方法以外(不動産運用は認められていません)で資金を運用することを禁じていたのです。

第八条の三  政治団体はその有する金銭等を、公職の候補者はその者が政党から受けた政治活動に関する寄附その他の政治資金に係る金銭等を、次に掲げる方法以外の方法により運用してはならない。
一  銀行その他の金融機関への預金又は貯金
二  国債証券、地方債証券、政府保証債券(その元本の償還及び利息の支払について政府が保証する債券をいう。)又は銀行、農林中央金庫、株式会社商工組合中央金庫若しくは全国を地区とする信用金庫連合会の発行する債券(次条第一項第三号ロにおいて「国債証券等」という。)の取得
三  金融機関の信託業務の兼営等に関する法律 (昭和十八年法律第四十三号)第一条第一項 の認可を受けた金融機関への金銭信託で元本補てんの契約のあるもの
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO194.html

 小沢氏側は本件に関し「そもそも政治資金規正法政治団体が不動産を購入してはならないとは明文化されていない」と詭弁(きべん)とも取れる言い訳をするわけですが、そもそも国民の浄財である寄付金や税金が投じられている政党助成金を扱う政治団体は、その崇高な目的のために、税金課税もされない特別な団体です、それが不動産投資などすることをこの法律は確かに明文化していなかったわけですが、そのような脱法的発想がこの法律の趣旨に反していることは言うまでもありません。

 論より証拠、本件の後に政治資金規正法は改正され政治団体の不動産所有の禁止を明文化します。

資金管理団体による不動産の取得等の制限)
第十九条の二の二  資金管理団体は、土地若しくは建物の所有権又は建物の所有を目的とする地上権若しくは土地の賃借権を取得し、又は保有してはならない。

 そしてもう一つの本質的問題は、そもそも法人格のない政治団体である「陸山会」が不動産購入するのに「小沢一郎」名義ですべて購入していたことです。

 結果何が起きたか。

 「登記簿上は小沢代表名義になっているが、費用については陸山会が支出」(朝日記事)という実に歪んだ小沢氏個人の資産形成が成立したのです。

 小沢氏名義の不動産登記という個人の「資産」形成に対して、政治団体陸山会」が「事務諸費」という「費用」計上して補助するわけのわからない図式ができあがっているのです。

 記事にもあるとおり陸山会は他にも「盛岡と仙台に、事務所としてマンションの一室を買った」とあり、この手法で総額10億の小沢氏個人名義の不動産が購入されていることが現在でははっきりしています。

 これは大変な脱法行為です。

 言うまでもなく政治団体に流れる政治資金は、政党助成金という税金も含まれる浄財です。

 結果として小沢事務所は、その浄財を用いて個人資産を形成していたことを意味します。

 ・・・

 2007年10月にはさらに「陸山会」の驚くべき錬金術が、毎日新聞のスクープで明らかになります。

小沢一郎代表:資金管理団体に家賃収入…規正法違反の疑い

 民主党小沢一郎代表の資金管理団体「陸山(りくざん)会」が、政治資金で購入したマンションをコンサルタント会社や財団法人に貸し、家賃収入を得ていたことが分かった。陸山会は、10件を超える不動産を政治資金で取得していることが問題化したが、「不動産による資産運用」が表面化するのは初めて。政治資金規正法は預金や国債以外の資金運用を禁止しており、総務省は一般論としながら、「家賃収入は法違反の疑いがある」と指摘している。【杉本修作】
 陸山会政治資金収支報告書などによると、陸山会は東京都港区のマンション「プライム赤坂」の一室を所有。ここにコンサルタント会社「エスエー・コンサルティング」が入居。同様に千代田区麹町のマンション「グラン・アクス麹町」に所有する一室に外務省、経済産業省などが所管する財団法人「国際草の根交流センター」が入居する。各部屋の登記簿上の所有名義は小沢氏になっている。
 エスエー社は02年1月から、交流センターは04年10月から入居し、それぞれ毎月7万円と20万円の家賃を陸山会に支払っていた。その総額は06年末までに計約1000万円に上る。エスエー社は9月末ごろ転居し、現在は入居していない。
 政治資金規正法では、政治団体による資金の運用について、預貯金、国債政府保証債券、元本保証のある金融機関への信託以外は認められていない。総務省は「政治資金は国民の浄財。資金で購入した不動産を家賃を取って貸すのは同法が禁止する資産運用にあたる疑いがある」と指摘する。
(後略)
毎日新聞 2007年10月9日 3時00分
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20071009k0000m040105000c.html(すでにリンク切れしています)

 つまりこういうことです。

 陸山会は総額約10億円で、都内や盛岡市仙台市などにマンション、土地などを購入し、登記簿上は、すべて小沢氏名義になっています。

 この小沢氏の不動産取得問題は5年前国会でも問題になり、その年の6月に政治資金規正法が改正され、資金管理団体は土地、建物を所有することが全面的に禁止されました。

 そうした中で今度はあろうことか「陸山会」は、政治資金で購入したマンションを会社や法人に貸し、家賃収入を得ていたことが発覚したのです。

 これは明らかに「政治団体による不動産による資産運用」を禁止していた当時の政治資金規正法に抵触している疑義があります。

 政治資金規正法政治団体には、預金や国債以外の資金運用を全面的に禁止しており、この記事でも総務省は「家賃収入は法違反の疑いがある」と指摘しています。

 法の網をかいくぐる極めて悪質な手法であります。

 ・・・

 唯一の立法機関である国権の最高機関である国会に属する政治家にあるまじき、これらの一連の脱法行為は、私は繰り返しそもそも許されるべきではないと批判してきました。


 たとえ刑事責任に問われないとしても脱法政治家小沢一郎氏ほど立法府にふさわしくない人物はいないということです。



(木走まさみず)