木走日記

場末の時事評論

全国紙毎日新聞の終わりの始まり〜そして記者クラブ新聞に変わるのか(苦笑)

 27日付け毎日新聞は、毎日新聞社共同通信社共同通信社加盟社との包括提携を報じています。

毎日新聞共同通信・加盟社と包括提携
http://mainichi.jp/photo/archive/news/2009/11/26/20091127k0000m040047000c.html

 記事によれば、包括提携の大きな柱は、

毎日新聞社が(1)各県を拠点とする共同加盟社の一部から地方版記事配信の協力を受ける(2)共同通信社に加盟する−−など。官公庁や企業の発表記事などを中心に、両者から記事配信を受けることにより、本社の記者は独自の視点で取材を進め、強みとしてきた調査報道や解説記事をより充実させる。

 うーん、要は毎日新聞社が58年振りに共同通信に加盟し、共同通信社及び加盟地方紙から記事の配信を受けるというわけです。
 で、「本社の記者は独自の視点で取材を進め、強みとしてきた調査報道や解説記事をより充実させる」と。

 具体的内容を抜粋。

■包括提携の柱

共同通信社加盟社である地方紙の一部から記事配信を受ける

▽10年4月1日、共同通信社に加盟する

▽スポーツ・文化事業など事業面の協力を進める

▽3者間でのキャンペーン展開などこれまでにない試みや協力を進める

■今後のテーマ

共同通信社との航空取材の連携

▽紙面制作システムや印刷委託、新聞販売網の効率化など

 なるほど、実は経費節減策の一環として狙いは最後の「紙面制作システムや印刷委託、新聞販売網の効率化」にあると見ました。

 この記事からは赤字で汲々としている落日の毎日新聞の「憂い」のような要素は一切醸し出されていませんが、要は「毎日新聞共同通信・加盟社と包括提携」という威勢のいいタイトルでごまかしても、58年振りに地方紙連合体・共同通信に再加盟の意味することは、「毎日新聞:全国紙から地方紙へ準備始動」ってことですよね。

 つまり全国紙としての毎日新聞の終わりの始まりなわけです、早い話。

 その点、他紙の報道振りは辛辣です、代表して朝日新聞記事。

毎日新聞、地方紙連合入り 58年ぶり共同通信に再加盟
http://www.asahi.com/national/update/1126/TKY200911260395.html

 「毎日新聞、地方紙連合入り」って、「毎日新聞、地方紙入り」に見間違うきわどいタイトル(苦笑)ですが、こちらのほうが本件の本質的意味をストレートに表現していると思います。

 これはズバリ赤字毎日新聞が地方通信部を廃止するための生き残り策であると指摘します。

 毎日は景気後退を受け、08年度決算で経常利益、営業利益とも15年ぶりの赤字となった。10月、記者1人で勤務する地方の通信部を約20カ所廃止する方針を労組に提示、組織の見直しを進めている。広告費減少など、新聞業界全体が厳しい経営環境にある中、毎日は、共同―地方紙連合と協力関係を結ぶことで、生き残りを目指す。

 興味深いのは朝比奈豊毎日新聞社社長の記者会見での発言です。

 都内で記者会見した朝比奈豊毎日新聞社社長は今後の取材態勢や地方取材網について、「地域面は今のままで、提携に伴うリストラは考えていない」と述べた。また、「記者クラブに拠点を置きながら、官公庁や企業の発表は共同通信も活用し、分析や解説に力を入れる脱発表ジャーナリズムを進めたい」と語った。

 朝比奈社長は当面「地域面は今のままで、提携に伴うリストラは考えていない」とし、いちおう全国紙としての体制を維持すると発言しておりますが、どうなんでしょう、マスメディア関係者で誰もこれを額面通り受け取る向きはいないでしょう。

 地方撤収の前準備、つまり全国紙としての「終わりの始まり」と捉えるほうが正鵠を射ていましょう。

 前にも触れましたが、昨年12月の「週刊ダイアモンド12月5日号」の特集「新聞・テレビ複合不況」記事において、特に倒産の可能性まで指摘を受けていたのがこの毎日新聞社であります。

 (前略)

 特に倒産しそうな毎日にいたっては、もうだめだからと、メインバンクの三菱東京UFJに名古屋と北海道から新聞事業の撤退、「サンデー毎日」の廃刊、本社ビルの売却まで迫られてるそうです。

 で、毎日側の北海道からの撤退ができない理由てのが「北海道の毎日の印刷工場では聖教新聞の印刷を下請け受託してるからできない」っていう悲しい理由なのであります。

 (後略)

2008-12-04 マスメディア複合不況〜すべて彼らの自業自得だ−木走日記
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20081204

 メインバンクの三菱東京UFJに名古屋と北海道から新聞事業の撤退、「サンデー毎日」の廃刊、本社ビルの売却、等を迫られてるほど、経営状態は逼迫しているわけです。

 ・・・

 しかしもうひとつ耳を疑うのが社長のこの発言です。

記者クラブに拠点を置きながら、官公庁や企業の発表は共同通信も活用し、分析や解説に力を入れる脱発表ジャーナリズムを進めたい」

 うーん、なんと「記者クラブに拠点を置きながら」、ローカルなニュースなどは「官公庁や企業の発表は共同通信も活用」しつつ、「分析や解説に力を入れる脱発表ジャーナリズムを進めたい」ですと。

 「記者クラブ」に拠点を置きつつ「脱発表ジャーナリズム」を目指すとは、これは神懸かりな技ですね、マイルドセブンライトを燻らせながら「ニコチン依存症からの脱却」を目指すようなものですが、そんなこと、本当に可能なのかな?

 そういえば21日付けニューヨークタイムズ(NYT)記事インタビューで記者クラブの廃止について問われたら、毎日新聞記者がとんでもない返答をしておりましたね。

New Leaders in Japan Seek to End Cozy Ties to Press Clubs
http://www.nytimes.com/2009/11/21/world/asia/21japan.html?_r=3&scp=1&sq=Furuta&st=cse

 当該部分をご紹介。

Shinji Furuta, a reporter for the daily newspaper Mainichi Shimbun, who recently held the rotating chief secretary position of the club, said that it was not as closed as it seemed. Even before the change in government, he said, it allowed nonmembers to attend news conferences as observers on a case-by-case basis, and even allowed them to ask questions, something other press clubs still prevent such observers from doing.

He also noted that the club had opened up slightly in the past decade by allowing the big American and British financial news agencies to join. But he said the press club wanted to ensure that people posing as journalists did not get in and disrupt proceedings.

“What if someone tried to commit suicide or burn themselves to death at a press conference? Who would take responsibility for that?” Mr. Furuta asked.

 記者クラブの廃止について問われた毎日新聞の古田信二記者は、“What if someone tried to commit suicide or burn themselves to death at a press conference? Who would take responsibility for that?”、なんと「記者会見で焼身自殺しようとするヤツがあらわれたらどうするんですか? 誰が責任取るんですか?」と意味不明の回答をしたのであります。

 ・・・

 ・・・

 どうやら、毎日新聞は全国紙としての「終わりの始まり」の動きを始めたようです。

 そして、記者クラブに拠点を置きつつ脱発表ジャーナリズムを目指すのだそうです。

 私から言わせれば彼らは地方拠点を捨て、中央における記者クラブ依存新聞を目指しているように思われます。



(木走まさみず)