木走日記

場末の時事評論

事業仕分け評価で世論と乖離するマスメディア〜「民主党事業仕分けは茶番劇」(マスメディア)「50年かけても何もしないよりまし」(世論)

 民主党行政刷新会議事業仕分けに対するマスメディアの批判的論調と、8割を越える評価を与えている世論との乖離が顕著で興味深いです。




民主党事業仕分け批判を産経新聞コラム記事で分析する

 マスメディアの批判的論調としては、特に21日付け産経新聞の福島敏雄論説委員の著名コラム記事は産経らしい辛辣さ(失礼)がむき出しでよかったです。

【土・日曜日に書く】論説委員・福島敏雄 「国のやる仕事」とは何か
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091121/plc0911210349005-n1.htm

 「わずか1時間程度で何十億、何百億円もの事業などが、あっさりとスクラップされてしまった」ことがおもしろかったといいます。

 そのやり方も「マグロの解体ショーのようにショー化している」とし「江戸時代の「お白州」のような雰囲気」もおもしろいとします。

 特に辛辣なのは次の描写あたりでしょうか。

クラリオンガール出身の蓮舫参院議員が目の中の白い部分を濡(ぬ)れたように輝かせ、「天下りは何人いますか?」とか「稼働率は?」とか、矢継ぎ早に質問し、相手側をしどろもどろにさせるシーンもあった。あの目は「おまえはすでに死んでいる」といった感じのすごみがあった。やがて隣に座ったとりまとめ役の議員が仕分け人の意見を集約し、あっさりと「廃止!」−。
 自民党幹部は「まるで公開処刑だ」と批判したそうだ。たしかに「廃止!」というコトバは、「ハイ、死!」と聞こえなくもない。

 「あの目は「おまえはすでに死んでいる」といった感じのすごみがあった」って北斗の拳ケンシロウばりの迫力といいたいのでしょうが、「江戸時代の「お白州」のような雰囲気」といい「お前は遠山の金さんか」とでもいいたいのでしょう、気持ちは分かりますが、蓮舫参院議員にわざわざ「クラリオンガール出身の」と修飾するあたりがいかにも辛辣であります。

 福島敏雄論説委員は、やはり1時間で結論を出すのはいかにも稚拙ではないかとの思いがおありのようです。

 おそらくこれらの事業の多くは、官僚たちをはじめとする行政関係者が苦心してプランを立て、法律を作り、国会での承認を受けて、ビルドされたものであろう。もちろんムダなものもあるかもしれないが、ムダかムダではないかの判定を、1時間程度で出せるものではないだろう。

 さらに福島さんのこの論説は、「仕分け人たちが口を揃(そろ)えたように言う「国のやる仕事ではない」というセリフ」が気になるとし、「民主党政権がどのような国家論を持ち、どのような国家観を描いているのかも見えない」と展開していきますが、さて、このコラムの指摘は民主党事業仕分けに対し批判的なマスメディアの論調の一つのテンプレートと見なせるでしょう。

 この論説での事業仕分け批判の要点をまとめる主に3点にまとまりそうです。

 まず事業仕分けそのものが茶番劇のようだ、つまりまさに人民裁判のように、マグロの解体ショーのようにショー化されたそして、江戸時代の「お白州」のような雰囲気を醸し出している点がひとつ。

 次に「クラリオンガール出身の」蓮舫参院議員に代表されるような「素人」たちが、長い時間掛けて専門家が作ったもの、つまり「官僚たちをはじめとする行政関係者が苦心してプランを立て、法律を作り、国会での承認を受けて、ビルドされたもの」を、「ムダかムダではないかの判定を、1時間程度で出せるものではない」点がひとつ。

 そしてそもそも「民主党政権がどのような国家論を持ち、どのような国家観を描いているのか」が見えないという点がひとつ。

 ネットなどで展開されている事業仕分け批判を見ると、付け足せば、そもそも今回の事業仕分け対象事業の選択自体が財務省主計局主導であり「官僚主導」そのものだといった批判、財務省主計局が作成したマニュアル通り、お膳立てに乗っているだけだという批判もあります。

 ・・・


●おそらく多くの国民はマスメディアとは違う捉え方をしている

 上述のコラムだけでなく社説などでもマスメディアから多くの批判を浴びている民主党事業仕分けなわけですが、前回のエントリーでも取り上げましたが、どうも世論の評価は、これら事業仕分けに批判的なマスメディアの論調とは完全に乖離しているように思われます。

 23日付け産経新聞電子版速報記事が最新の世論調査結果を報じております。

【本社・FNN合同世論調査事業仕分け評価9割 内閣支持率もアップ
2009.11.23 14:30
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091123/plc0911231430004-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091123/plc0911231430004-n2.htm

 「事業仕分け評価9割」の記事タイトルにもあるとおり、事業仕分けに関しては「行政の無駄の洗い出しに役立つ」(88.7%)、「毎年行うべきだ」(85.2%)と、圧倒的な支持であります。

 ひとつの世論調査結果であり数字はあくまで参考でしかありませんが、おそらく過半数を超える民意が事業仕分けを評価していることは確実でありましょう。

 だとすると上述したマスメディアによる批判を民意はどう解釈しているのでしょうか。

 私は民意の代弁者の資格はありませんので、ここからは私見を交えての推測となります。

 まず事業仕分けそのものが茶番劇のようだ、つまりまさに人民裁判のように、マグロの解体ショーのようにショー化されたそして、江戸時代の「お白州」のような雰囲気を醸し出している点は、多くの国民も感じているのではないでしょうか。

 また 蓮舫参院議員に代表されるような「素人」たちが、長い時間掛けて専門家が作ったもの、つまり「官僚たちをはじめとする行政関係者が苦心してプランを立て、法律を作り、国会での承認を受けて、ビルドされたもの」を、「ムダかムダではないかの判定を、1時間程度で出せるものではない」という指摘も、これも多くの国民は共有していることでしょう。

 それでも国民が評価しているのは、この国で初めてこのような公開の場で予算が議論された事実にあるのでしょう。

 これまでは特に「スパコン」のような、科学技術予算は外からの監視が働きにくかったことは事実です。

 「専門家」以外口出しするな、という主張も理解しますが、国民が求めているのは、その事業が国の予算をいただく以上は、「専門家」ではない素人にも分かるようにその事業の意義を説明すべきなのは当然である、という考えなのでしょう。

 いままで隠蔽されてきた予算が、広く公開の場で一般の人々の常識という「ものさし」にさらされ、そして議論される機会が制度化されたその事実そのものを国民は評価しているのではないでしょうか。

 ここは私見ですが、私も工学系出身ですので、一部の専門外は口を出すなという意見には強く頷く面はありながらですが、しかしやはり予算をもらうために、素人にもわかるように説得する義務は予算を貰う専門家側にあると思います。

 素人が「ムダかムダではないかの判定を1時間程度で出せるものではない」のは、確かにそのとおりの危うい面を持っていますでしょう。

 事業仕訳のここでの判断が絶対であるなどの過信があってはいけないし、今回の経験に基づき問題点は十分反省し改善すべき点は次回以降どんどん改善すべきです。

 しかし、国民はおそらく甘いだろう民主党の仕分けの精度には目をつむっているのではないでしょうか。

 それよりもこういう機会を用意したこと自体をもって民主党政権を評価しているのだと推測します。

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 たしかに事業仕分けを1時間程度でするのは乱暴かもしれない。

 しかし50年かけても何もしないよりましだと。



(木走まさみず)