木走日記

場末の時事評論

鳩山論文を産経新聞とともに少し援護する〜モラルハザードから金融危機を招いたのはアメリカの新自由主義政策

●“ドル離れ”口にする価値あり〜珍しく鳩山論文擁護する産経記事

 6日付けの産経新聞一面記事から。

【経済が告げる】編集委員・田村秀男 “ドル離れ”口にする価値あり
2009.9.6 02:44

 「アメリカを敵に回すつもりか」との知人などからの問い合わせに、筆者は「あのくらいはっきり言ってみるのは別に悪くないじゃないの」と答えている。最近米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)に引用された民主党鳩山由紀夫代表論文のことである。趣旨は、基軸通貨ドルによる米国標準のグローバリゼーションが今回の金融危機により破綻(はたん)した、日本は今後10年以上かけて「アジア共通通貨」の創設をめざす、という。
 論旨は荒っぽいが、「対米自立」思考が明らかに読み取れる。オバマ大統領はさっさと鳩山氏と電話会談するなど大人の対応をみせているが、政権内部では対日警戒心を強めるに違いない。それでも、日本があえてドル基軸体制の危うさに警鐘を鳴らす意味を米金融当局者は自覚しているだろう。
 史上未曾有(みぞう)の経済危機を世界にもたらしたドル金融バブルはもともと日本の余剰資金が米ヘッジファンドなどを通じて米住宅市場に流れ込んだことが引き金になっている。日本の預金者が貯(た)め込んだ円資金は日本国内で使われず、米消費者の信用を支え、強欲なウォール街を潤す呼び水になった。
 金融と安全保障は事実上、一体化しているのが、日米同盟関係の現実である。ドル不安が起きた1980年代後半以降、日本の余剰資金が米国債を買い支え、ドルを安定させてきた。米国はドルが暴落すれば、沖縄など全世界での駐留軍や軍事行動を展開できなくなるし、自由に石油も買えなくなる。歴代の自民党政権霞が関官僚が支えてきた日米協調戦後モデルはバブル崩壊とともに機能しなくなった。自民党有権者から見放され、退場することになった。鳩山氏は政権交代の余勢を駆って、「ドル離れ」を説くわけだ。

 今後問われるのは、米国ではなくむしろ日本自身、つまり鳩山新政権の通貨戦略である。ドルは決済通貨、準備通貨として世界に君臨し、ときには危機を引き起こしながらも世界経済の飛躍的な発展に貢献してきた。ドルに限界が生じたのであれば、強くて安定した円が国際通貨として役割分担するのは当然である。周到な戦略と用意がなければ、鳩山構想は世間を騒がせた無責任構想に終わり、オバマ政権からの信用を失う。
 「アジア共通通貨」構想も絵に描いた餅(もち)に終わりかねない。欧州共通通貨「ユーロ」の場合、ドイツの通貨マルクが碇(いかり)となって他通貨を支えたからこそ実現した。東アジアでドイツと同じ役割を演じようと準備を進めているのは中国である。中国は人民元を周辺国との貿易決済として普及させる計画を推進している。中国は米国債を買い支える代わりにドルとの交換レートを安定させることで人民元の価値を高めている。つまり米中連合でドルを安定させ、人民元をアジア共通通貨の基軸にする戦略が読み取れる。これに比べて、日本円の影はアジアでも薄くなるばかりだ。
 ことし中にも日本の国内総生産(GDP)を抜きそうな中国に比べて、日本はGDP規模が縮小するデフレが10年間にも及ぶ。このままデフレが続けば10年後には経済規模がピーク時よりも4分の1も縮小する。デフレのために所得が減り家計の貯蓄率は1%台まで下がった。中国の貯蓄率は40%以上だ。日本は国際金融面でも中国に圧倒される日が迫る。
 ドル離れには、抜本的な日本の経済変革が条件になる。その号砲にするなら、鳩山論文、大いに結構ではないか。

http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090906/fnc0909060244001-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090906/fnc0909060244001-n2.htm

 「あのくらいはっきり言ってみるのは別に悪くないじゃないの」とは、他ならぬアンチ民主の産経編集委員から鳩山論文擁護ともとれる珍しい(失礼)興味深い意見であります。

 「基軸通貨ドルによる米国標準のグローバリゼーションが今回の金融危機により破綻(はたん)した、日本は今後10年以上かけて「アジア共通通貨」の創設をめざす」という趣旨のニューヨーク・タイムズ紙(電子版)に引用された民主党鳩山由紀夫代表論文でありますが、アメリカを中心に国際的に物議をかもしているわけですが、まあこの記事のオチは産経らしく日本の国益のため、「米中連合でドルを安定させ、人民元をアジア共通通貨の基軸にする戦略」に対抗するために、「ドル離れには、抜本的な日本の経済変革が条件になる。その号砲にするなら、鳩山論文、大いに結構ではないか。」と、ちょっとすごい国粋的結び方をしております。

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 さて産経記事のここの記述に注目したいです。

 史上未曾有(みぞう)の経済危機を世界にもたらしたドル金融バブルはもともと日本の余剰資金が米ヘッジファンドなどを通じて米住宅市場に流れ込んだことが引き金になっている。日本の預金者が貯(た)め込んだ円資金は日本国内で使われず、米消費者の信用を支え、強欲なウォール街を潤す呼び水になった。

 アメリカの今回崩壊した住宅バブルの元金は実は日本から流れていたという見立てでありますが、この見立てだと今回の金融危機のきっかけになった米国におけるサブプライムローン問題について、日本も間接的に責任があるような印象を与えかねませんが、はっきりしておきたいのはアメリカのいきすぎたネオリベ政策こそが今回の金融危機を招いたのである事実であります。

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モラルハザードから金融危機を招いたのはアメリカの新自由主義政策

 民主党政権には、今回の金融危機により破綻(はたん)したのは「米国標準のグローバリゼーション」というよりも、ブッシュ政権が推し進めてきたむき出しの規制緩和と弱肉強食の自由競争、つまり新自由主義ネオリベラリズム)的過当競争システムそのものであることを強く意識して貰いたいです。

 そこをはっきりするために、原点に返って、今回の金融危機のきっかけになった米国におけるサブプライムローン問題について整理しておくことは重要です。

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 読者もご承知の通りアメリカのサブプライムローン問題とは、アメリカの低所得者層の住宅ローンを証券化したことがはじまりです。

 証券化とは、保有する資産を担保に証券を発行することです。

 証券化自体はひとつの金融技術でありそれ自体は問題ではありません。

 当然ですが、保有する資産を担保に証券化したわけですから、この証券は元資産の価値が下落すれば下がりますし、資産価値が上昇し続ける限り値上がりしていきます。

 証券化を企てた会社がそれを保持している限り儲かるかも知れませんが、自分たちもリスクも分担しているので問題はありません。

 もし暴落しても自業自得、自分たちが責任を負うことになるだけです。

 しかしながら、実際のサブプライムローンでは、サブプライムローン関連商品を証券化した金融屋達は、それを直ちに投資家達に卸売り(ディストリビュート)してしまうわけです。

 売却とともに債権のリスクも投資家に移転されてしまうことになり、証券化を企てた金融屋は利益だけを得て、リスクを負わなくても済むことになるわけです。

 このように自らリスクを負わないのであれば、金融屋は、当然に野放図な行動をとるようになり、十分な審査も行うことなくつぎつぎと債権の組成乱造をするのは必至だったと推測されます。

 すなわち、この何の規制もない証券化商品の売買は、まったくのリスクがないのですから、そもそもモラルハザード的行動を引き起こしかねないビジネスモデルだったのです。

 住宅バブルが続いている限りこのモラルハザードは表面化しませんでした。

 投資家も利益を出していましたのでますますサブプライムローン関連商品を買い増し、金融屋達は莫大な利益を得ていきました。

 そして住宅バブルは突然崩壊します。

 その後のことは衆知のとおり、サブプライムローン関連商品はパニック売りになり大暴落、今回の金融危機の引き金を引くことになります。

 しかし、この金融危機は、アメリカ当局が少しでもネオリベ政策を見直していれば避けれていたはずです。

 証券化自体に致命的な欠陥があったわけではありません。

 金融屋達が卸売りのためだけの証券化商品を乱造するそのひずみを是正する工夫は十分に考えられたのです。

 その代表的なものは、金融屋は証券化した商品のすべてを売却するのではなく、その一部は留保し、結果にも責任を負う(リスクを分担する)ことを義務づけるというものであります。

 現に、米国の金融規制改革案でこのアイディアは現在提唱されています。

 ファンド達金融屋が全くリスクを負わなくなったら、モラルハザードが起こることなど、昔から分かり切っていることだからです。

 それに対応しなかったことこそが、問題発生の原因なのであります。

 アメリカの新自由主義政策がサブプライムローン問題をここまで悪化させ、今回の世界同時不況の引き金をひいたのは明らかなことです。
 

 鳩山民主党政権は、市場経済原理そのものを否定する必要はありません。

 しかし行き過ぎた新自由主義路線とは明確に決別すべきです。



(木走まさみず)