木走日記

場末の時事評論

「経済制裁は責任ある大国としての信用をなくす」(日経社説)に反論する〜今回露呈したことはいままでの財界の意向を配慮した日本外交の限界性だ

 25日付け各紙社説は野田首相の会見を受けてこじれる日韓外交について取り上げています。

【朝日社説】日本と韓国―非難の応酬に益はない
http://www.asahi.com/paper/editorial20120825.html
【読売社説】首相「領土」会見 国際社会へ反転攻勢の一歩に(8月25日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20120825-OYT1T00135.htm
【毎日社説】日韓摩擦 頭を冷やして考えよう
http://mainichi.jp/opinion/news/20120825k0000m070144000c.html
【産経社説】李大統領発言 撤回と謝罪は譲れない 韓国に正しい歴史認識求める
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120825/plc12082503200007-n1.htm

 社説タイトルを見れば一目瞭然ですが、朝日・毎日は、これ以上の対立は双方に益がないので日韓双方の政府に自制を求めています。

 朝日社説は「かけがえのない隣国同士」なのだから「いいかげんに頭を冷やすべき」と指摘しています。

 こんな不毛な非難の応酬を続けていて、いったいだれが得をするというのだ。

 竹島の領有問題などをめぐってヒートアップした日本と韓国は、いいかげんに頭を冷やすべきだ。かけがえのない隣国同士である。いつまでも異常な関係を続けるわけにはいかない。

 毎日社説は、「日韓は米国の同盟国であり、東アジアの民主主義を支える先進国」であり、「日韓の対立が中国や北朝鮮を利」するだけだと指摘しています。

 日韓は米国の同盟国であり、東アジアの民主主義を支える先進国である。中国の台頭をにらんでアジア回帰を宣言した米国も、日韓の対立が中国や北朝鮮を利し、地域の安定を損なうことを強く懸念している。竹島をめぐる摩擦は、東アジアを混乱させ、日米韓の連携を台無しにしてまで激化させるべきものか。両国指導者は考えてほしい。

 一方、読売・産経は「竹島などの領土問題で日本が国内外の理解を求めて反転攻勢に出る一歩とすべき」(読売社説冒頭)とこれまでになく強気の野田首相会見を評価しています。

 読売社説は「首相が、国の主権を守ると正面から訴えたのは画期的」と全面的に野田首相の発言を肯定しています。

 首相が、国の主権を守ると正面から訴えたのは画期的である。

 韓国が竹島に建造物を勝手に建設するなど、不法占拠を着々と強化してきたのに対し、日本は抗議はするものの、有効な対抗策を講じてきたとは言えない。

 今回の提訴を機に、日本の領有権の正当性や根拠を国際社会に幅広くアピールすることが大切だ。国内でも、竹島問題に関する過去の経緯を詳しく説明し、より多くの国民が正しい認識を共有するよう努める必要がある。

 産経社説はさらに踏み込んで日本は「抗議の意思をはっきり示すため、対抗措置を順次、打ち出す必要」性を指摘します。

 国会決議や首相会見は評価できるが、問題はそれだけでは解決しない。すでに日本政府は国際司法裁判所(ICJ)に提訴する手続きに入っており、この機会をとらえて国際社会に韓国側の不当性を訴え続けることが重要だ。

 さらには、抗議の意思をはっきり示すため、対抗措置を順次、打ち出す必要がある。今月下旬に韓国で開催される予定だった日韓財務対話を延期したのをはじめ、緊急時にドルなど外貨を融通し合う通貨交換(スワップ)協定も白紙に戻す方針だ。

 安住淳財務相が24日、表明した韓国の国債購入を当面見送る措置も有効だろう。一方で、政府は一時帰国させていた武藤正敏駐韓国大使を22日に帰任させてしまった。中途半端な対応で、日本側の抗議の真剣さが韓国政府に伝わったとは到底、思えない。

 うむ、朝日・毎日の旧来どおりの「隣国同士なのだから冷静になろう」社説に対して、読売・産経は「国際社会へ反転攻勢の一歩」、「韓国に正しい歴史認識求め」よと、強気な論説になっています。

 さて、5大新聞の中で一人日経だけは野田首相の会見を25日に社説では取り上げていません。

 実は日経の紙面の論説は明らかにここ数日、本件の取り上げ方が少なくなっています。

 タイミングとして政府首脳からも経済分野における報復措置が言及され始めたのと機を一としています。

 財界の意向を反映しているのでしょう、日経新聞としては明らかにこの騒動が経済分野に影響を与えることを嫌がっているわけです。

 その辺りが明確に理解できるのが、22日付けで掲げられた日経社説です。

【日経社説】竹島問題提訴を韓国の猛省促す機会に
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO45250390S2A820C1EA1000/

 うむ、この大変興味深い日経社説に、いままでの財界の意向を配慮した日本外交の限界性を読み解くことができます。

 同じ轍を踏むことを避けるためにも今回はこの日経社説を取り上げたいと思います。

 社説はまず日本政府が「国際司法裁判所(ICJ)に提訴することを決め」たことを「領土問題の存在を国際社会にアピールし、日本の主張を世界に広める意味で、有効な措置といえる」と評価します。

 政府は21日の関係閣僚会議で竹島(韓国名は独島)の領土問題を国際司法裁判所(ICJ)に提訴することを決め、共同付託に応じるよう求める口上書を韓国側に届けた。韓国が応じなければ、単独での提訴に踏み切るという。

 日本が単独提訴しても強制力はなく、韓国側の同意が必要だ。韓国が拒否するのは確実で、裁判が実際に開かれる可能性はほとんどない。それでも、領土問題の存在を国際社会にアピールし、日本の主張を世界に広める意味で、有効な措置といえるだろう。

 今回「ことを荒立てたのは韓国の李明博大統領」のほうだと批判しつつ、「日本としてはICJへの提訴にとどまらず、あらゆる機会を利用して領有権の正当性を内外に唱えていくべき」と指摘します。

 日本はかつて1954年と62年にICJへの付託を提案し、韓国が拒否した経緯がある。日本もその後は深入りしてこなかった。

 ことを荒立てたのは韓国の李明博大統領だ。竹島に大統領として初めて足を踏み入れ、天皇陛下への「謝罪」要求発言までした。対日外交への配慮を欠いた無責任な言動で、日本も対処せざるを得ない政治環境を招いてしまった。

 竹島の領有権は17世紀半ばまでに確立したというのが日本の主張だ。1905年には島根県への編入閣議決定した。戦後の日本の領土を画定したサンフランシスコ講和条約でも、竹島は日本が放棄すべき地域に含まれていない。

 対する韓国は52年、当時の李承晩政権が海洋境界線を設定し、竹島を一方的に取り込んだ。その後も警備隊員を常駐させるなどして「実効支配」を強めている。

 日本としてはICJへの提訴にとどまらず、あらゆる機会を利用して領有権の正当性を内外に唱えていくべきだろう。超党派で結束し、領土問題の対応を真剣に議論していくことも大切だ。

 そして結論となるのですが、ここで一転、日経社説は「経済分野まで広げて対抗措置を講じるのはいかがなものか」と疑問を呈し、経済制裁などしたらレアアースの対日輸出を制限した中国同様「日本が似たような対応をすれば、責任ある大国としての信用をなくす」と結ばれています。

 ただ、韓国との対立をやみくもにあおるのは得策ではない。政府内では対抗措置として、日韓通貨協定の交換枠縮小や液化天然ガス(LNG)の共同調達の検討作業の凍結なども浮上している。経済分野まで広げて対抗措置を講じるのはいかがなものか。

 日韓はともに主要な貿易相手国で、経済や安全保障分野で密接な協力が欠かせない。通貨交換枠の縮小にしても韓国の金融市場が混乱するようなことがあれば、日本にも悪影響が及ぶ。感情にまかせた過剰な反応は慎むべきだ。

 中国はかつて尖閣諸島をめぐり日中対立が激化した際、レアアースの対日輸出を制限した。日本が似たような対応をすれば、責任ある大国としての信用をなくす。

 うむ、「経済分野まで広げて対抗措置を講じるのはいかがなものか」、「日韓はともに主要な貿易相手国で、経済や安全保障分野で密接な協力が欠かせない」、「通貨交換枠の縮小にしても韓国の金融市場が混乱するようなことがあれば、日本にも悪影響が及ぶ。感情にまかせた過剰な反応は慎むべきだ」、ですか。

 挙句に結びの言葉が、「日本が似たような対応をすれば、責任ある大国としての信用をなくす」との脅かしであります。

 「感情にまかせた過剰な反応は慎むべき」なのはその通りですが、「通貨交換枠の縮小」もまた社説では取り上げられていませんが、韓国国債の買取停止も、別に「感情にまかせた過剰な反応」ではありません。

 日本固有領土である竹島への不法上陸という、外交的に日本に不利益を与える振舞いを韓国の国家元首がしたことに対し、国際紛争に対して武力による問題解決を封じられている日本にとって、国際司法裁判所へ訴えるという方法だけでは限界があるのは自明です、経済大国として経済分野で報復処置を検討することは決して「感情にまかせた過剰な反応」ではないのです。

 実はこのような「外交」と「経済」は別と言う財界が求めてきた「足かせ」が、韓国を増長させ前代未聞の大統領による竹島上陸という今回の暴挙を招いた側面に、多くの日本人は気づいたと見るべきです

 日経社説は経済制裁をすれば「責任ある大国としての信用をなくす」と決め付けていますが、何も策を講じないでやられるままに放置してきた結果が「領土問題で何も報復できない大国」という負の「信用」を得てきたこと、それが今日の事態を招いたことを、どう総括するのか。

 今回露呈したことはいままでの財界の意向を配慮した日本外交の限界性です。

 日経社説は今回多くの国民が目覚めたことを理解していません。



(木走まさみず)