木走日記

場末の時事評論

帝国ドル循環が止まった今、日本は本格的政治改革を図るべき〜4年間に総理大臣が4人も代わるような国じゃ話にならない

●日米首脳会談、経済対策での連携で一致〜「麻生さん、なんかすっかりやつれてしまっていて気の毒だなあ」と、とんちんかんな所感

 25日付け読売新聞記事から。

日米首脳会談、経済対策での連携で一致

 【ワシントン=松永宏朗】麻生首相オバマ米大統領の初の会談が24日午前(日本時間25日未明)、ホワイトハウスで開かれた。

 両首脳は、日米同盟を2国間にとどまらずグローバルな課題にも対応する「重層的な同盟関係」と位置づけるとともに、世界的な金融・経済危機に日米が連携して対処することで一致する見通しだ。

 麻生首相は、オバマ大統領が就任後初めて米国に招いた外国首脳となった。さきにクリントン国務長官が初外遊先に日本を選んだこともあわせ、日本政府は米政府の対日重視の表れと歓迎している。

 会談の冒頭、大統領は「麻生首相が大統領執務室に私を訪ねる最初の外国の賓客だ。日米の強固なパートナーシップの証明だ。日米同盟は東アジアにおける安全保障の礎石で、私の政権として強化したい。日本は偉大なパートナーだ」と述べた。首相は「数多くの課題がある。我々は世界第1位、第2位の経済大国だ。手を携えて協力して取り組まねばならない」と応じた。

 会談では、日米が景気対策に全力で取り組み国内経済を立て直すことによって世界経済をけん引する重要性を確認する。日米両国が保護貿易主義の流れに反対する方針で一致するほか、国際金融システムの安定や途上国支援で協調することで合意。首相は、経済に関する日米の新たな対話の枠組み作りを提案する考えだ。

 首相はこのほか、大統領が環境分野に重点投資する「グリーン・ニューディール」政策を掲げていることを踏まえ、環境関連の技術開発での協力を提案する。カリフォルニア州などの高速鉄道計画に日本の新幹線技術の採用も働きかける。

 重層的な同盟関係は、安全保障面だけでなく、経済や環境など地球的な課題にも日米が一致して取り組む姿勢を示すものだ。

 北朝鮮問題で両首脳は、拉致、核、ミサイルなどの包括的解決を目指すとともに、6か国協議の継続を確認する。首相は日本人拉致問題の解決に向け引き続き米政府の協力を要請する。

 首相は、「テロとの戦い」に直面するアフガニスタンパキスタンへの民生支援の継続を伝える方針だ。アフガニスタンに関して首相は、8万人の警察官の半年分の給与を提供するなどの日本の貢献策を説明する。今後のアフガン支援策を日米が共同で立案することも提案する。パキスタン支援の閣僚級国際会議を日本で開く考えも伝える。

 両首脳は、2013年以降の温室効果ガス削減の国際的枠組み「ポスト京都議定書」作りに向けた協力で合意する。特に、最大級のガス排出国である中国の協力を求める考えで一致する。

 大統領は就任後、カナダのハーパー首相と会談しており、首脳会談は麻生首相が2人目となる。

(2009年2月25日01時47分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090225-OYT1T00092.htm

 「麻生首相は、オバマ大統領が就任後初めて米国に招いた外国首脳となった」のは我が国にとって結構なことでありましょうが、TV映像でこの日米首脳会談の様子を見ていて、不肖・木走としては、「麻生さん、なんかすっかりやつれてしまっていて気の毒だなあ」と、とんちんかんな所感を持ちました。

 スピード感があまりにも欠けている経済政策を中心に麻生政権批判を強めていた当ブログですが、最近はあきらめモードというか、麻生さんを批判するのを控えるようになりました、なんかもう批判するだけ無駄ってかんじですか。

 オバマ米大統領とのこの会談でも、下がったとはいえ支持率60%で制度的にも4年間立場が保障されているアメリカ大統領と、不支持率80%で遅くとも9月までには退陣するであろうと目される日本の総理大臣が、外交的笑顔で会談するさまは、ある種のモノの憐れを感じずにいられませんでした。

 嫌味ではなく、大統領の「日米同盟は東アジアにおける安全保障の礎石で、私の政権として強化したい。日本は偉大なパートナーだ」という言辞も最後に「(たとえあなたが退陣したとしてもね)」と付けちゃって聞こえたり、麻生さんの「我々は世界第1位、第2位の経済大国だ。手を携えて協力して取り組まねばならない」というのも、最後に「(たとえ僕がいなくなってもね)」と付けちゃって聞こえそうです。

 この4年間、小泉、安倍、福田、麻生と、コロコロ変わってきた日本国総理大臣でありますが、今日、その麻生さんもおそらく年内で退陣すると目されており、「100年に一度」という不況下で、ダッチロールのごとく政策指導者不在の迷走劇が繰り返されているのが日本国の政治の悲しい現実なのであります。

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 ふう。



●揺らぐ帝国ドル循環と日本の役割〜日本経済新聞2月25日付け マーケット総合2面 大機小機 より

 読者の皆様は「帝国ドル循環」という言葉をご存知でしょうか。

 25日付けの日本経済新聞紙面マーケット欄のコラム「大機小機」はとても考えさせられる内容でしたので、電子化されていないようですが、テキスト化してご紹介。

揺らぐ帝国ドル循環と日本の役割

 今回の金融危機で米国の繁栄を支えた「帝国ドル循環」が揺らいでいる。米国が経常赤字で世界に垂れ流したドルを基軸通貨国の特権で米国に還流させる国際マネーフローは帝国ドル循環と呼ばれる。
 過去二十年間に米国は六兆ドルを超える経常赤字を出しながらも、金融ビッグバンを推進し、強いドルと内外金利差を武器に黒字国の膨大な貯蓄を吸引し続けた。対米資金流入は約十五兆ドルに達し、経常赤字を埋めてなお約八兆七千億ドルの資金を海外に供給し、ウォール街は世界の金融センターとして君臨し続けた。
 だが金融危機のぼっ発でマネーフローが一変した。拡大を続けた対米資金流入は一昨年四−六月をピークに激減した。金融当局の懸命な資金提供にもかかわらず、信用収縮で米国は厳しい消費不況の時代に突入した。同時に米国の輸入が急減し、最大の輸入先の対中国輸入は三割減、中国は対日輸入を六割削減した。
 米国発の津波が加速度をつけて日本の輸出産業を襲い、花形企業が軒並み赤字に転落した。帝国ドル循環に安住してきた日本は輸出が急減し、景気の急降下に見舞われた。
 オバマ新政権が打ち出した大型景気対策と金融安定化策で危機が収まり、景気が回復しても、以前の米国経済に戻るのは期待できない。既に三.六%に上昇した家計貯蓄率は今後さらに高まり、経常赤字は一段と縮小するはずだ。
 対米輸出依存型経済の時代は終わった。中国は四兆元の景気対策を発動、交通インフラ整備と内陸部経済開発で国内市場の開拓に乗り出した。
 我が国の課題は三つある。第一は対米輸出減少分を内需に転換するために真水で十兆円の公共投資を直ちに実施することだ。第二は帝国ドル循環が揺らぎ、ドル資金が枯渇し、国際金融市場が縮小する中で、東京市場を世界の金融センターにすることだ。円の国際化推進して新しいマネーフローを構築することが急務だ。
 第三は新しい経済理念とモデルを世界に提唱することだ。前川リポート以来二十三年、我が国は構造改革の名の下で米国モデルを導入する壮大な実験を行ってきた。だが金融の暴走で米国モデルが破綻した今、その長所も欠点も学習し尽した我が国にとって、より進化したモデルを構築し、世界に提唱することこそ課題となる。金融危機の中で日本が果たすべき役割は大きい。(富民)

日本経済新聞2月25日付け マーケット総合2面 大機小機 より

 なるほど、「米国が経常赤字で世界に垂れ流したドルを基軸通貨国の特権で米国に還流させる国際マネーフロー」のことを「帝国ドル循環」と呼ぶのだそうですが、「過去二十年間に米国は六兆ドルを超える経常赤字を出しながらも、金融ビッグバンを推進し、強いドルと内外金利差を武器に黒字国の膨大な貯蓄を吸引し続けた。対米資金流入は約十五兆ドルに達し、経常赤字を埋めてなお約八兆七千億ドルの資金を海外に供給し、ウォール街は世界の金融センターとして君臨し続けた」わけですね、なんかすさまじい数字が並んでいます。

 で、この「帝国ドル循環」が今回の不況でピタっと止まっちゃったので、「米国の輸入が急減し、最大の輸入先の対中国輸入は三割減、中国は対日輸入を六割削減」と対米輸出立国日本を直撃、結果「花形企業が軒並み赤字に転落」、「日本は輸出が急減し、景気の急降下に見舞われた」というわけであります。

 「対米輸出依存型経済の時代は終わった」、確かに大きく潮目が変わったのでしょう、このコラムは我が国の課題として三つを提言しております。

 第一は対米輸出減少分を内需に転換するために真水で十兆円の公共投資を直ちに実施すること

 第二は東京市場を世界の金融センターにすること

 第三は新しい経済理念とモデルを世界に提唱すること

 第一の「真水で十兆円の公共投資を直ちに実施」は大賛成ですね、このくらいの規模感がないと内需を拡大することは不可能だと思います。

 第二の「東京市場を世界の金融センターにすること」ですが、これもまさか「帝国円循環」などという大胆な構想で無いでしょうが、基本的に賛成です。

 円の国際化推進して新しいマネーフローを構築する必要はたしかにあるでしょう、当面「ドル建て」ではない「円建て」決済を増やしていくことも為替変動リスク回避のためには有効だと思います。

 第三の「新しい経済理念とモデルを世界に提唱すること」ですが、これはもうご立派(苦笑)というしかないです、日本の英知を結集して、より進化したモデルを構築し、日本から世界に提唱するとは、もし実現できるとすれば、これはすばらしいですよね。

 この「三つの提言」ですが、いろいろ異論・反論もあることでしょうが、コラム自体の内容がなかなか秀逸でとても考えさせられたので、読者にご紹介したのでありました。

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トヨタ、1月の国内生産40.3%減 輸出が大幅減

 ショッキングな25日付け日経電子版速報記事から。

トヨタ、1月の国内生産40.3%減 輸出が大幅減

 トヨタ自動車は25日、1月の国内生産台数が前年同月比40.3%減の20万9224台だったと発表した。国内市場の低迷に加え、輸出が伸び悩んだことが響いた。世界全体での生産台数(グローバル生産)も42.6%減の41万3285台と大幅に減少した。

 国内販売は23.4%減の8万3311台、輸出は56.2%減の9万1209台だった。同社は在庫調整のため2月以降も大幅減産を続けており、国内生産は当面、低水準にとどまりそうだ。 (14:02)

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20090225AT3D2500I25022009.html

 トヨタ自動車の先月の国内生産台数が前年同月比40.3%減だったことが明らかになりました。

 前年同月比40.3%減ですか、これはもう尋常な落ち込み方ではないですね、まさに垂直落下(フリーフォール)並みです、確かに「帝国ドル循環」が止まってしまい「対米輸出依存型経済の時代は終わっ」てしまったのかも知れません。

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●「政権は4年間を任期にする」ぐらいの本格的政治改革を図るべき

 この普通じゃない時代、上述の日経コラムの「三つの提言」ではないですが、ここは各国政府や金融当局の果敢なる行動と施策が求められます。

 日本の場合、外需が期待薄なだけに、長期的に内需を高めていく構造改革型の景気対策も急がねばなりません。

 それには政府による強力な政治力・リーダーシップが必要です。

 しかし日本の政治の現状はいかがでしょう。

 4年間に総理大臣が4人も代わるような国に、中・長期的ビジョンの政策を打ち出せるとはとても思えません、ましてや、「新しい経済理念とモデルを世界に提唱すること」など現在の日本の国際的政治力・発言力では、まったく不可能といってもいいでしょう。

 日本の製造業は世界一の生産性を示していますが、農業・サービス業など内需型業種の生産性は先進国の中でも大きく遅れていると言われています。

 内需拡大を目指すためには、これらの産業の生産性向上は必須課題なのでしょうが、私が思うにもっとも欧米諸国に比して生産性が劣っている分野のひとつが、実は日本の政治のあり方なのではないでしょうか。

 自民が民主がという狭い議論ではなく、国際的にも日本の政治力を高めるためには、ここはひとつ与野党で忌憚の無い真摯な話し合いで、政治改革を目指すべきでないでしょうか。

 少なくともアメリカ大統領並みの安定を日本国総理大臣にも与えるべきです、「政権は4年間を任期にする」ぐらいの本格的政治改革を図らねば、どっしりとした政策は打てないでしょう、今のような場当たり的な施策では、この100年に一度の不況に日本は埋没しかねないと考えます。



(木走まさみず)