木走日記

場末の時事評論

債権超過大国日本と債務超過大国アメリカの悲しき一蓮托生

●韓国、8年ぶり純債務国に〜朝鮮日報

 29日付け朝鮮日報電子版記事から。

韓国、8年ぶり純債務国に

 外国人による株売りが続く中、韓国の純対外債権(対外債権から対外債務を引いた数値)が8年ぶりにマイナスに転じ、純債務国となった。これは韓国が持つ海外の資産よりも外国に返済すべき借金のほうが多いということを意味する。純債務国となったのは2000年1‐3月期以来のことで、当時はマイナス58億4000万ドル(現在のレートで約5600億円、以下同じ)の債務超過だった。

 韓国銀行が28日に発表した暫定値によると、9月末現在で韓国はマイナス251億ドル(約2兆4000億円)の債務超過となった。今年6月末に比べて対外債権が268億ドル(約2兆5600億円)のマイナスを記録したためだ。

 純対外債権がマイナスに転じた最も大きな原因は、外国人による株売りだ。外国人が保有していた株式を売却しドルに換えて持ち出せば、韓国が持つ対外資産のうちドルがそれだけ減少することになる。

 韓国銀行で国際収支を担当するヤン・ジェリョン氏は、「統計上の純対外債権がマイナスに転じたからといって、直ちに深刻な問題が起こるわけではない」「対外債務の中には船舶輸出先受金が550億ドル(約5兆2700億円)、為替ヘッジ用の海外借入金が496億ドル(約4兆7500億円)あり、これら償還の負担が小さい1112億ドル(約10兆6500億円)を差し引けば、韓国の純対外債権は861億ドル(約8兆2500億円)ほどのプラスになる」と説明した。

姜京希(カン・ギョンヒ)記者

朝鮮日報朝鮮日報日本語版
http://www.chosunonline.com/article/20081129000002

 韓国銀行の暫定値によると、韓国の純対外債権が9月末現在でマイナス251億ドル(約2兆4000億円)の債務超過となった模様であります。

 この「純対外債権」ですが、日本では「対外純資産残高」と表記されるのが一般的だと思いますが、今回の韓国の対外純資産残高の急激な悪化は、記事にもあるように海外ファンドなどによる韓国株のあびせ売りが主因のようです。

 このマイナス251億ドル(約2兆4000億円)の債務超過をどう評価するか、もちろん国家として対外純資産残高がマイナスに転じること自体は決して好ましいことではありませんが、かといって251億ドル(約2兆4000億円)という額の規模に過度に悲観することもありますまい。

 世界にはもっともっと2桁上を行ってる債務大国が堂々と国家破産せずにおりますもの。

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●世界最悪の債務超過大国アメリカと世界最高の債権超過大国日本〜ロイター記事

 アメリカの06年末の純負債残高は302兆0890億円であります。

 半年前ですが、5月23日付けロイター記事から。

07年末の対外純資産残高は250兆2210億円、過去最高=財務省
2008年 05月 23日 09:00

[東京 23日 ロイター] 財務省が23日に発表した2007年末時点の日本の対外純資産残高(対外資産マイナス対外負債)は前年比16.3%増の250兆2210億円となり、1996年の現行統計移行後では過去最高を更新した。

 07年末の対外資産残高も前年比9.4%増の610兆4920億円、対外負債残高も前年比5.0%増の360兆2710億円となり、ともに過去最高となった。

 財務省によると、IMF公表ベースでは、日本の対外純資産は17年連続で世界最高となったという。もっとも、中東の一部地域で数字を出していない国もあるという。他の地域をみると、ドイツが07年末時点で107兆5715億円、中国が06年末時点で78兆7510億円、香港が06年末時点で61兆6548億円などとなった。一方、最大の純債務国は米国で、06年末の純負債残高は302兆0890億円だった。

 日本の07年末の資産についてみると、為替変動による評価替えで前年比8.3兆円減少したが、居住他による対外資産の所得超で同58.9兆円増加、保有外国株式の株価上昇などで同1.8兆円増加となった。

 負債については、非居住者が保有する日本株式の株価下落で同12.3兆円減少、為替変動による評価替えで同2.9兆円減少したが、非居住者の本邦資産の取得超で同32.4兆円増加となった。

 07年末の為替は1ドル=113.12円で前年比4.9%の円高、1ユーロ=166.47円で同6.0%円安となった。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-31923920080523

 このロイター記事によれば「07年末時点の日本の対外純資産残高(対外資産マイナス対外負債)は前年比16.3%増の250兆2210億円となり、1996年の現行統計移行後では過去最高を更新」したそうですが、2位ドイツの107兆5715億円に倍以上の差を付けて独走(?)状態のようです。

 以下、3位中国78兆7510億円、4位香港61兆6548億円と続いていますが、まあ、当たり前ですが対外純資産残高はゼロサムゲーム、つまりその世界総和はゼロになるわけで、これだけの債権超過国がいるのであれば、それに応じた額の債務超過国がいるわけで、その筆頭がアメリカなのであります。

 おそらく日本は、この不況の中でも比較的経済実態の傷が浅かったこともあり、経常収支黒字を維持していることからも、対外純資産増加の傾向は続いているものと想定できます。

 加えてここのところの急激な対ドル円高は為替によって対外純資産増加効果を生じているでしょうから、その増加率は先鋭化している可能性があります。

 一方のアメリカですがこの不況によりこちらは債権が何処まで膨らんだのか極めて心配な状況ではあります。

 円は独歩高の状態ですが、実はドルも円以外では対ユーロなどでドル高傾向にあり、それはアメリカの対外純資産増加効果を生じているはずで、円に対するドル安による効果を相殺してしまい、アメリカの場合債務超過ですからその増加率を増大する効果があらわれているかも知れません。

 いずれにしても各国の速報値が待たれますが、今回の世界同時不況とそれにともなう各国通貨の暴騰や急落などの為替要因は、韓国が8年ぶり純債務国に転落するなど、各国の対外純資産残高におおきな影響を与えているもようです。

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●債権超過大国日本と債務超過大国アメリカの悲しき一蓮托生

 純資産は国の力を表す指標の一つで、日本の対外純資産残高が250兆2210億円と過去最高となったことは、決して悪いことではありません。

 しかし問題は日本の場合その債権の多くがドル建て債券であることにあります。

 世界最大の借り主であるアメリカの経済状態が大きく揺らぎ基軸通貨としてのドルがその信用を落とし始めている現在、今後のアメリカの取る金融財政政策によっては、大きな痛手を被ることが避けれそうもないからです。

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 アメリカは、政府も企業も個人も、能力以上にカネを使い、豊かな生活をしてきました。

 アメリカ経済の本質は、商品を輸入により海外から供給させ、赤字国債を海外政府に消化させることにより、資金を海外から供給させる構造に他ならなかったわけです。

 豊かな生活だけではありません、冷戦終結後も、アメリカは湾岸戦争多国籍軍の中核となり、コソボ紛争でもNATO軍の主力として参戦、あるいはアフガニスタン、現在もイラク駐留と、膨大な軍事支出をしてきましたが、それを賄うためにも、アメリカは赤字国債に依存せざるを得なかったのであり、赤字国債のかなりの部分は、アメリカ人の貯蓄ではなく、日本を初めとする諸外国の資金によって消化してきたのが現状です。

 家庭でも国家でも、対外債務が増加していくと、その借金に対する利子の支払いが増え、受取り利子よりも支払い利子の方が大きくなることは必至です。

 アメリカの場合、投資収益収支がマイナスに転じたのは98年からです。

 アメリカといえども、際限なく借金を累積し続けることは不可能であります。

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 そこに今回の世界同時不況であります。

 お金の流れと経済の実態とを、大きく調整しなければならない局面に入ったのです。

 もしアメリカ経済が破綻したら、ドル・レートが暴落してさらなる大不況を招き、世界金融は大混乱を引き起こすことになりましょう。

 それは絶対に避けなければなりません。

 ドル・レートが暴落すれば世界最大のドル建て債券保有国日本は、世界中のどこの国よりももっとも大きな打撃を受けることになります。

 そのとき戦後日本がこつこつ積み上げてきた富みは一瞬にして無にかえってしまいかねません。

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 借金を繰り返し豊かな生活を享受し、膨大な軍事費支出を続けてきた債務大国アメリカに、日本はこつこつとドル建て債券で支えてきました。

 世界大不況を前に、気付いたらドル・レートが暴落すれば世界最大のドル建て債券保有国日本は、世界中のどこの国よりももっとも大きな打撃を受ける立場に陥っていたのです。

 悲しいことに、現時点では、債権超過大国日本は、債務超過大国アメリカと一蓮托生の運命なのであります。



(木走まさみず)