木走日記

場末の時事評論

田母神航空幕僚長更迭〜自衛隊法61条違反の疑いがある政治献金行為はなぜ不問なのか?

 自衛官自衛隊法61条により政治的行為を厳しく制限されております。

(政治的行為の制限)
第61条 隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。
2 隊員は、公選による公職の候補者となることができない。
3 隊員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。

自衛隊法より抜粋
http://www.houko.com/00/01/S29/165.HTM#s5

 まあこの制限は自衛官も公務員なのである事実から、国家公務員法第102条に準じているようですね。

(政治的行為の制限)
第102条 職員は、政党又は政治的目的のために、寄付金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。
2 職員は、公選による公職の候補者となることができない。
3 職員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問、その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。

国家公務員法より抜粋
http://www.houko.com/00/01/S22/120.HTM#s3

 蛇足ながら地方公務員法第36条も政治的行為を制限しております。

(政治的行為の制限)第36条 職員は、政党その他の政治的団体の結成に関与し、若しくはこれらの団体の役員となつてはならず、又はこれらの団体の構成員となるように、若しくはならないように勧誘運動をしてはならない。2 職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、次に掲げる政治的行為をしてはならない。ただし、当該職員の属する地方公共団体の区域(当該職員が都道府県の支庁若しくは地方事務所又は地方自治法第252条の19第1項の指定都市の区に勤務する者であるときは、当該支庁若しくは地方事務所又は区の所管区域)外において、第1号から第3号まで及び第5号に掲げる政治的行為をすることができる。
1.公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること。
2.署名運動を企画し、又は主宰する等これに積極的に関与すること。
3.寄附金その他の金品の募集に関与すること。
4.文書又は図画を地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎(特定地方独立行政法人にあつては、事務所。以下この号において同じ。)、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。
5.前各号に定めるものを除く外、条例で定める政治的行為《改正》平15法1193 何人も前2項に規定する政治的行為を行うよう職員に求め、職員をそそのかし、若しくはあおつてはならず、又は職員が前2項に規定する政治的行為をなし、若しくはなさないことに対する代償若しくは報復として、任用、職務、給与その他職員の地位に関してなんらかの利益若しくは不利益を与え、与えようと企て、若しくは約束してはならない。4 職員は、前項に規定する違法な行為に応じなかつたことの故をもつて不利益な取扱を受けることはない。5 本条の規定は、職員の政治的中立性を保障することにより、地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものであるという趣旨において解釈され、及び運用されなければならない。

地方公務員法より抜粋
http://www.houko.com/00/01/S25/261.HTM#s3

 まあ、これらの制限は地方公務員法にくわしいですが、要は「職員の政治的中立性を保障することにより、地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものである」、つまり公務員の政治的中立性を担保し公務の公正な運営を確保するのが主目的なわけであります。

 で、なぜか全然話題になっていないネット上の約一月前のニュースから。

田母神空幕長ら自衛隊トップ7人に政治献金疑惑 自衛隊法違反か

昨年7月の参議院選挙で初当選した元陸自1佐・佐藤正久参議院議員(自民)の政治資金管理団体に、田母神俊雄航空幕僚長や折木良一・陸上幕僚長ら制服組トップを含む7人の現職幹部自衛官が、計46万円の政治献金をしていたことがわかった。政治的中立を求めた国家公務員法違反の疑いがあるだけでなく、隊員の「政治的行為」を厳しく制限した自衛隊法に違反する可能性が極めて濃厚だ。政界が混乱する中、約4兆8000億円もの税金をつぎ込む国内最大級の役所・防衛省の「政治的中立」は崩壊寸前だ。

http://news.livedoor.com/article/detail/3839510/

 えっと、元自衛官である自民党議員の政治団体に「田母神俊雄航空幕僚長や折木良一・陸上幕僚長ら制服組トップを含む7人の現職幹部自衛官が、計46万円の政治献金をしていた」そうでありますが、これって政治的寄付行為の関与を禁じた自衛隊法61条と国家公務員法第102条に完全に違反してますよね、単純に。

 7名で計46万円と少額ではありますが、問われるのは金額ではなく、防衛省の「政治的中立」性を明らかに侵犯している現役自衛官幹部達による特定政党・特定議員への献金行為そのものであります。

 なぜこのニュースがメディアで大きく取り上げられないのか、私は理解に苦しむのですが、大きく捉えれば現役自衛官による政治活動の関与を認めてしまうと、我が国の「シビリアンコントロール文民による軍隊統治体制に深刻なダメージを与えかねません。

 ・・・

 で、朝日新聞電子版から。

空自トップを更迭 懸賞論文で「日本の侵略ぬれぎぬ」
2008年11月1日0時40分

 航空自衛隊トップの田母神(たもがみ)俊雄・航空幕僚長(60)が「我が国が侵略国家だったというのはぬれぎぬ」と主張する論文を書き、民間企業が主催した懸賞論文に応募していたことがわかった。旧満州朝鮮半島の植民地化や第2次大戦での日本の役割を一貫して正当化し、集団的自衛権の行使を禁じる現行憲法に疑問を呈している。政府見解を否定する内容で、浜田防衛相は31日、田母神氏の更迭を決めた。

 政府は同日深夜の持ち回り閣議で、田母神氏を航空幕僚監部付とする人事を承認した。
 政府は95年に、植民地支配と侵略で「アジア諸国の人々に、多大の損害と苦痛を与えた」とした村山首相談話を閣議決定した。麻生首相も継承する考えを表明している。

 実力部隊を指揮する制服組の高官が、アジアでの日本の侵略行為を公然と否定したことは、麻生政権のアジア外交にとって痛手となる。武器使用制約の緩和など自衛隊の運用政策にも踏み込んでおり、文民統制シビリアンコントロール)の観点からも問題視されることは必至。野党各党は国会で政府の責任を追及する構えだ。

 浜田氏は31日夜、防衛省で記者団に「政府見解と明らかに異なる意見を公にすることは空幕長として不適切で、速やかに職を解く」と述べた。麻生首相周辺によると、首相は同日夕に論文を読んで「不適切」と判断し、更迭に向けた調整に入ったという。首相は同日夜、首相官邸で記者団に「個人的に出したとしても、それは、今、立場が立場だから、適切じゃないね」と語った。

 田母神氏は同日夜、東京都内の自宅で取材に応じ、更迭について「政府の指示に淡々と従います」と答えた。論文の内容については「来週以降に答えます」と述べた。

 論文の題は「日本は侵略国家であったのか」。ホテルチェーンなどを展開するアパグループが主催する第1回「真の近現代史観」懸賞論文の最優秀賞(賞金300万円)に選ばれた。同社は31日、ホームページで論文を公表。防衛省詰の報道各社に報道発表文を配布したことから、投稿の事実が明らかになった。

 論文は日中戦争について「中国政府から『日本の侵略』を執拗(しつよう)に追及されるが、我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者」と主張。旧満州朝鮮半島について日本の植民地支配で「現地の人々は圧政から解放され、生活水準も格段に向上した」としている。

 日本の安全保障政策についても「集団的自衛権も行使できない。武器使用も制約が多く、攻撃的兵器の保有も禁止されている。(東京裁判の)マインドコントロールから解放されない限り我が国を自らの力で守る体制が完成しない」と、抜本的な転換を求めている。
http://www.asahi.com/politics/update/1031/TKY200810310298.html

 で、「日本は侵略国家であったのか」はネット上こちらのPDFファイルで読めますので、未読の読者は興味あればぜひご一読を。

日本は侵略国家であったのか
田母神俊
http://www.apa.co.jp/book_report/images/2008jyusyou_saiyuusyu.pdf

 で、論文の最後のところを抜粋してご紹介。

(前略)

我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である。
日本というのは古い歴史と優れた伝統を持つ素晴らしい国なのだ。
私たちは日本人として我が国の歴史について誇りを持たなければならない。
人は特別な思想を注入されない限りは自分の生まれた故郷や自分の生まれた国を自然に愛するものである。
日本の場合は歴史的事実を丹念に見ていくだけでこの国が実施してきたことが素晴らしいことであることがわかる。
嘘やねつ造は全く必要がない。
個別事象に目を向ければ悪行と言われるものもあるだろう。
それは現在の先進国の中でも暴行や殺人が起こるのと同じことである。
私たちは輝かしい日本の歴史を取り戻さなければならない。
歴史を抹殺された国家は衰退の一途を辿るのみである。

 なんで現役航空幕僚長がよりによって耐震偽装不動産屋のアパグループの懸賞論文に出稿しているのか、理解に苦しみますが、論文の内容には評価の仕様がありませんな。

 私などは日本もアメリカも中国もロシアも主要国はみんな侵略国家だと思っておりますが、それはそれ「我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である」てのは、個人の考えであり誰がどの媒体でどんな歴史認識を唱えようが、この国では発言の自由は認められているのでありますよ、原則として。

 ただし自衛官の場合(公務員もですが)、先述したように政治的中立性が厳しく要求されています、政治的行動・発言は厳しく制限されていることを忘れてはいけません。

 ・・・

 朝日記事ではこの論文が、「武器使用制約の緩和など自衛隊の運用政策にも踏み込んでおり、文民統制シビリアンコントロール)の観点からも問題視されることは必至。野党各党は国会で政府の責任を追及する構えだ。」と指摘していますが、この論文で即刻更迭になった田母神俊雄航空幕僚長をはじめ折木良一・陸上幕僚長ら制服組トップを含む7人の現職幹部自衛官が、政治献金行為に関与し、自衛隊法61条違反の疑いが強くあることはなぜ不問なんでしょうね。

 そっちのほうが直接的に文民統制シビリアンコントロール)の観点からも大問題だと思うのですが・・・



(木走まさみず)