木走日記

場末の時事評論

「筋肉質」になった企業が大量の非正社員からクビを切る地獄絵が始まる

非正社員の契約解除相次ぐ 製造業で求人数大幅低下

 朝日新聞記事から。

非正社員の契約解除相次ぐ 製造業で求人数大幅低下

2008年11月1日1時18分

 自動車や電機など輸出産業を中心に非正社員を減らす企業が相次いでいる。31日発表された9月の有効求人倍率(季節調整値)は、製造業の新規求人数が前年同月比で22.0%減と大きく落ち込んだことから、0.84倍と4年ぶりの低水準となった。金融危機による世界経済の減速が直撃したことで、輸出依存度の高い製造業が主導する地域では、雇用環境が急速に悪化している。

 青森県弘前市コピー機部品を製造する「キヤノンプレシジョン」では、約240人の派遣社員らが31日付で職場を去った。契約解除は10日、突然告げられた。同社の担当者は「輸出が急減し、絞り込みを迫られた」と話す。

 新工場稼働を控えて人手不足が懸念された07年末には、地元自治体をあげて人材確保に乗り出したが、1年もたたずに「過剰」に転じた。

 従業員約4800人のうち、期間従業員派遣社員などの非正社員が約3400人を占める。請負社員として働く30代の男性は「辞めてもほかに仕事は見つかりそうにない」と不安を漏らす。

 弘前公共職業安定所管内の08年8月新規求人倍率は0.89倍で、前年同月より0.32ポイント悪化した。地元の人材会社幹部は「1年前は人集めに奔走していた。今は景気の底が見えず、再雇用は難しい」。

 こうした動きは製造業全体に広がっている。

 トヨタ自動車九州(福岡県)は6月と8月の2回、計800人の派遣契約を解除した。日産自動車も栃木、九州工場などで、計1千人の契約を更新しない方針だ。

 上流の工作機械メーカーにも影響が及んでいる。大手の森精機製作所名古屋市)。今年4〜9月は平均月650台を生産していたが、10月以降は500台に絞る。650人の派遣社員を年度内に300人減らす方針。製造業が中心の愛知県の9月の有効求人倍率は前月より0.10ポイント下落し、全国最大の落ち込み幅となった。

 製造業派遣大手の日総工産では、10月の新規受注は約500人。前年同期の8分の1に落ち込んだ。「1日ごとに受注が減る危機的な状況」(幹部)だという。

 厚生労働省が10月、全国の中小企業4285社を対象に実施した緊急調査では、従業員の過不足感を示す雇用DIは、正社員や契約社員・パートはマイナス(不足)だが、派遣社員はプラス(過剰)だった。とりわけ自動車など輸出型製造業では過剰感が強く、7月のプラス8.9からプラス26になった。

 賃金調整や雇用調整に踏み切った企業は全体の15.2%に上り、このうち23.4%が派遣社員など非正社員の再契約停止などを実施した。正社員を含む従業員の解雇に踏み切った企業も4.4%あった。同省は「製造業を中心に雇用調整を検討する企業が増えており、雇用環境がいっそう悪化する恐れがある」と分析している。

http://www.asahi.com/business/topics/TKY200810310347.html

 恐れていたことが始まったということでしょう。

 全国各地で派遣社員の再契約打ち切りや契約停止、契約解除が相次いでいます。

 非正規社員を中心に雇用環境が急速に悪化しているのです。

 前回の不況時よりも雇用調整を検討する企業の動きが数段早いのは、解雇しやすいパートや派遣社員の比率が前回とは比べモノにならないほど増えているからに他なりません。
 日本全体では企業で働く実に3人に1人が非正規社員なのであります。

 史上かつてない非正規社員数増の中で襲ってきた今回の不況です、このままでは、恐ろしいペースで非正規社員の雇用調整が行われていくことになるでしょう。

 ・・・



●「筋肉質」になった企業体質のその正体は不況の時に顕れる

 先日も某BSニュース番組である著名経済評論家(名前はあえて伏せます)が、今回の世界同時株安で日本企業の体力は持つかと言った議論の中で、

 「大丈夫でしょう、日本企業は過去数年の努力の末、企業体質が「筋肉質」になっています。売上が鈍化する場合でも大幅減益に陥りにくいので安心です」

 のような話をしていました。

 日本企業の企業体質は「筋肉質」とは、この意見を聞いたとき、私はこれから数年大変な大量失業時代が待ち受けているかもしれない、と悪寒を感じてしまいました。

 ・・・

 日本企業の企業体質は「筋肉質」

 確かにその通りでしょう。

 過去数年、日本企業は、過剰雇用の見直しや報酬体系の見直しの結果、企業の生み出した付加価値に占める人件費の割合である労働分配率を徹底的に低下させてきました。

 この経営改革により、昨年までは売上高経常利益率は過去最高レベルにあるほか、損益分岐点比率が低下するなど、企業体質はまさに「筋肉質」になったと言えましょう。

 少々の売上が鈍化する場合でも大幅減益に陥りにくい体質にあるといえます。

 このあたりの話は当ブログでも昨年9月のエントリーで指摘しております。

2007-09-28 不思議な経済大国ニッポン
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070928

 このエントリーで私は「企業経常利益は5年連続過去最高更新中なのに民間企業平均給与は9年連続減少中」であることを各種統計数値もふまえてご紹介いたしました。

 当時のテキストから抜粋。

財務省によれば全産業の経常利益が前年度比5・2%増の54兆3786億円と5年連続で前年を上回り、空前の過去最高を更新している中で、国税庁によれば民間企業で働く会社員やパート労働者の昨年1年間の平均給与は435万円で、9年連続で減少中なのであります。

 うーん。

 考えてしまいますね。

 ・・・

 企業の経常利益が5年連続で前年を上回り過去最高を更新中なのに民間企業の平均給与が9年連続で減少中である不思議な経済大国ニッポンなのであります。

 こんなんですもの、日本企業の企業体質も「筋肉質」になるわけですよね。

 過去10年、日本企業は、過剰雇用の見直しや報酬体系の見直しの結果、企業の生み出した付加価値に占める人件費の割合である労働分配率を徹底的に低下させてきました。

 「日本企業は企業体質が「筋肉質」になっているから、売上が鈍化する場合でも大幅減益に陥りにくいので安心です」

 そうですよね。

 市場開放自由主義の荒海で揉まれてきた日本企業はすっかり「筋肉質」になっているから、少々の不況でも大丈夫なのです。

 ・・・

 ・・・

 おろかな。

 結果、日本の労働環境で何が起こったか。

 昨年までで日本の労働者の賃金は過去9年下がり続け、全労働者の3人に一人が非正規社員化してしまったのであります。

 ・・・

 そして今回の不況です。

 史上かつてない非正規社員数増の中で襲ってきた今回の不況です、このままでは、恐ろしいペースで非正規社員の雇用調整が行われていくことになるでしょう。

 「筋肉質」になった企業が大量の非正社員からクビを切り始める、こんな地獄絵が描かれようとしているのです。

 政府の緊急経済対策には残念ながら早急で有効な雇用対策が盛り込まれてはいません。

 もし民主党が有効な雇用対策案を対案として出すならば、多くの国民の評価を得ることができるはずです。



(木走まさみず)