木走日記

場末の時事評論

毒餃子問題で問われる中国産品「開発輸入」のリスク

●おごり高ぶってきたこの国が、実際には砂上の楼閣に過ぎなかった〜朝鮮日報社説より

 韓国の国宝第一号に指定されている、ソウルの象徴ともいえる「崇礼門」(南大門)が放火により一夜で焼失してしまいました。

 まことに残念なことですが、600年の歳月を耐え抜いてきたソウルの玄関である南大門焼失を受け、韓国では消防当局の防火対策や初期対応に批判が集まっているようです。

 スプリンクラーすら設置されておらず、市民に広く公開されていながら夜間には警備員を配置していなかった防犯・防火対策の無策振りや、文化財保護のため建物を損傷しないよう消火作業に注文を付けたため有効な初期消火活動が講じれなかったといった批判もあるようです。

 いずれにしてもこの国宝第一号焼失は韓国民をとても落胆させたようです。

 12日の朝鮮日報社説は「全国民が見守る中、焼け落ちた南大門」と長文の社説を掲げて嘆いています。

【社説】全国民が見守る中、焼け落ちた南大門(上)
http://www.chosunonline.com/article/20080212000050
【社説】全国民が見守る中、焼け落ちた南大門(下)
http://www.chosunonline.com/article/20080212000051

 社説の結語から。

 国民が受けた心の傷も、そう簡単には癒えそうもない。多くの国民は、「国の顔」とも言える崇礼門が無残にも焼け落ちる様子を目にしながら、経済大国に仲間入りしたかのようにおごり高ぶってきたこの国が、実際には砂上の楼閣に過ぎなかったのではないかと思い知らされた。こうしたことが起きるようでは、ソウルに住む外国人たちも韓国という国に不安を抱くことだろう。

 うーん、お気の毒で励ましの言葉も見あたりませんが、私が興味深く思ったのは次の描写部分。

 経済大国に仲間入りしたかのようにおごり高ぶってきたこの国が、実際には砂上の楼閣に過ぎなかったのではないかと思い知らされた。

 「おごり高ぶってきたこの国が、実際には砂上の楼閣に過ぎなかった」とは、失礼ながら国宝とはいえ木造建築がひとつ焼失しただけで少々言い過ぎではないのかと想いながらも、この表現に込められた朝鮮日報社説子の「無念さ」「落胆」振りがよくあらわれているようで正直考えさせられました。

 ・・・

 韓国という国家自体がこの一件を持って「砂上の楼閣」だったことになるのか議論はあるでしょうが、確かにもう少し危機管理体制を整えていたなら事態はここまで最悪の結果を招くことはなかったのかも知れません、まさに「後悔先に立たず」ではありますが。

 ソウル最古の木造建築として、豊臣秀吉朝鮮出兵や日本の統治時代、そして朝鮮戦争の動乱をくぐり抜け今日まで600有余年存在していた貴重な文化遺産「南大門」が、たった一夜で、しかも多くの市民がなすすべもなく見守る中で、もろくも燃え落ちてしまったわけです。

 まことに残念というほかありませんです。

 ・・・



●衣食住あらゆる面で中国産品を「開発輸入」してきた日本の抱えるリスク

 企業のコンプライアンスが毎日のように話題になっている最近の我が国なのですが、お隣の国の国宝焼失という悲劇を見るに付け、「砂上の楼閣」ではないですが、企業・国家の信用・信頼というものも、それを確立するには長い時間と努力が必要だけれども、それを失うのは一瞬のことである、あっというまに簡単に信用・信頼というのは失われてしまうものであります。

 不二家ミートホープなどの食品不正処理・不正表示問題もしかり、中国製造の冷凍食品問題もしかり、関係者が消費者から失った信用を取り戻すのは容易なことではないことでしょう。

 特に中国毒餃子事件ですが、いまだ詳細の解明が待たれるわけですが、この農薬混入が事故であれ、故意の事件であれ、可能性が指摘されている中国の工場で発生しているとすれば、中国の国家としての信用失墜は免れないことでしょう。

 また、関わる日本企業および日本政府の責任も厳しく問われることでしょう。

 なぜなら今回の中国工場は、日本市場の規格や嗜好性を細かく日本企業が指導し、かつ衛生管理も日式(日本の法令に耐えうるよう完全に日本方式)に運用した、多くの日本企業が中国で展開しているいわゆる「開発輸入」という形態であったからであります。

 今回の工場も典型的な「開発輸入」現地工場なのであり、その衛生管理を指導・運用に関わってきた日本企業がその責任を免れるわけにはいかないと考えます。

 その責任は、日本国内工場でもし同様ケースが発生した場合なら当然なのですが、今回の件が事故であれ故意の事件であれ問われてしかるべきと、私は考えます。

 不注意から発生した事故であれ、故意に農薬を混入した不心得者がいたのであれ、そのようなあってはならないことが発生するリスクを計算に入れ予防措置を取られていなかった点は重大であると思われるからです。

 ・・・

 ネットではよく日本の産業界が媚中派に支配されてるがごとくの論説を見かけますが、不肖・木走は一部でそのような傾向が見られることは認めます(経団連などはたしかに中国に対してあからさまな批判をしないのは有名です)が、零細企業事業者として言わせていただければ、事態はもっと切実であるとも言えましょう。

 IT関連零細業の私の会社でも韓国籍中国籍の技術者を採用していますし、数年前より中国の大連にあるソフトハウスと業務提携して開発作業の一部を発注しております。

 厳しい予算の中競争を勝ち抜くために、善し悪しではなく、生き残り戦略としてコストの安い中国との連携を模索してきたのです。

 食品業界や一零細ソフト企業の事例だけではありません、日中貿易の最も代表的な「開発輸入」業界は、言わずとしれたアパレル業界、なかでも「ユニクロ」の中国「開発輸入」は成功例として産業界では手本とされているわけです。

 日本国内に比し輸送費がかさんでも安い人件費により比較優位となるこの中国「開発輸入」、これは受け入れた中国だけでなく日本の産業界自体が率先して考案してきた貿易形態でもあるのです。

 ユニクロの場合も、細かい仕様から製造技術まで徹底的に中国工場を指導、現地にて大量生産し完成品を日本に「輸入」することで圧倒的にコストダウンを実現し、急成長してきたわけです。

 ユニクロの「開発輸入」管理は徹底していて中国工場の原材料を東南アジアから中国に輸入する交易まで管理しているのであります。

 「開発輸入」製品の最大の特徴は、今回の冷凍餃子が典型的ですが、その原料加工から製品製造、製品梱包まで、現地で一貫して行われ、パッケージにはなるほど「原産国:中国」とは表記されてはいますが、日本の一般消費者は、その商品の「製造国」まで中国とは、日本語だけのパッケージ表記を見ただけでは、一見わからないことです。

 ・・・

 気付けばあらゆる産業で中国部品や完成品が大量に流入しつつある日本産業のあり方、なかでも「開発輸入」という日本企業主導の貿易形態の持つその危険性そのものが今回問われているのではないでしょうか。

 もちろん混入発生した場所が中国としたならば、農薬入り冷凍餃子問題で中国国家の信用失墜は避けられないかも知れません。

 しかし、あわせて今回浮き彫りになったのは、あらゆる業界で進められている日本企業の中国との「開発輸入」貿易、その危機管理の意外なもろさなのであります。

 ・・・

 ・・・

 「おごり高ぶってきたこの国が、実際には砂上の楼閣に過ぎなかった」と、朝鮮日報社説は国宝の焼失を受けて嘆いています。

 いつのまにか衣食住あらゆる面で中国産品を「開発輸入」してきた日本なのでありますが、気が付けば、個人が「チャイナフリー」、中国産品を避けて衣食住、日々の生活するのはほとんど不可能な状態に陥っているのであります。

 もし「開発輸入」した中国産品の信用が失墜、禁輸すれば、ものによっては即日本人の生活に少なからずの支障を来すこの現実、「おごり高ぶってきたこの国が、実際には砂上の楼閣に過ぎなかった」という表現を我が国にも使わなければいけないことになるのでしょうか。

 食料、衣料、建築資材まで、コスト至上主義で中国産品を手当たり次第、日本嗜好・仕様に「開発輸入」してきた日本、その手法の抱える危ういリスクが今回の不幸な事件で、あらためて浮き彫りになりつつあるのだと思います。

 ・・・



(木走まさみず)