木走日記

場末の時事評論

「消費者庁」創設に断固反対する〜今この国に本当に必要なのは「生産者庁」のほうじゃないのか

 12日付け時事通信ニュースから。

消費者庁」の検討に着手=5月までに具体案−有識者会議
2月12日21時1分配信 時事通信

 政府は12日夜、「消費者行政推進会議」の初会合を首相官邸で開き、消費者行政を一元化する新組織の具体案の検討に着手した。同会議は複数の府省にまたがる権限を束ねた「消費者庁」の創設も視野に、5月までに報告書をまとめる予定。政府はこれに基づいて、新組織に関する法案を今国会にも提出したい考えだ。
 福田康夫首相は同会議で、自身がBSE牛海綿状脳症)対策や耐震強度偽装の問題に取り組んだことに触れ、「政府や行政が国民の方を向いていなかった。国民から見て便利な政府であってほしいというのがわたしの願いだ」と述べ、組織の見直しに取り組む姿勢を強調した。
 この後、首相は記者団に「法改正とかでなく、できるものはどんどんやっていく」と述べ、運用改善などで可能なことは早急に実施する考えを示した。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080212-00000168-jij-pol

 「消費者行政を一元化する新組織の具体案の検討に着手」したそうですが、「政府はこれに基づいて、新組織に関する法案を今国会にも提出」する考えなのだそうです。

 福田首相は「政府や行政が国民の方を向いていなかった。国民から見て便利な政府であってほしいというのがわたしの願いだ」と述べたそうです。

 確かに「国民から見て便利な政府」が実現できるのはけっこうなことでしょう。

 しかしです。

 不肖・木走は、この現段階での「消費者庁」創設には2つの理由で反対なのであります。



■なぜこの期に及んで無駄なお役所を増やす必要があるのか?

 なぜこの厳しい財政状況の中で役所を新設する必要があるのか、その必然性がよく見えてきません。

 選挙目当てなのか自民も民主も「消費者重視」を競うように政策として取り上げていますが、ポピュリズム大衆迎合もここまで来ると罪悪なのではないのか、と思えてしまいます。

 特に、「消費者庁」なるものが、役所を新設することにより新たに発生する行政コストに見合うべき行政サービスを本当に提供できるというのでしょうか。

 「消費者行政を一元化する」のが主目的とされていますが、本当に一元化すれば効率的なサービスが提供されることの担保になるというのでしょうか。

 古くは旧国鉄から最近では社会保険庁まで、例を出せばキリがないですが、この国では権限や窓口を一元化した行政集団が、国民や利用者サービスそっちのけで、悪しき官僚主義的保身にひた走り「非効率」で「腐敗」し組織として破綻してきたではないですか。

 よもや選挙目当ての大衆迎合策として貴重な税金を投入することなどはあってはならないと思います。

 この期に及んで無駄なお役所を増やす必要があるのか、本当に慎重な議論をしていただきたいです。

 

■今この国に本当に必要なのは「生産者庁」ではないのか?

 最近の傾向としてこの国では最高裁判例も示すとおり、「消費者保護」「消費者重視」の施策が顕著になってきています。

 そのことの是非はここでは論じませんが、そのような動きから政治的にも消費者保護に力点を置いた法改正が顕著です、また、ここ数年のマスコミの報道なども、「消費者重視」の視点から、「生産者」の「不正」を暴く「魔女狩り」のようなメディアスクラムが横行しています。

 私は問いたい。

 この国にとってこのような「消費者」と「生産者」を敵対させるような政策は、本当に正しいのか、と。

 大企業だけでなく、農家、漁業、林業、町の工場、町の商店など、この国の「生産者」は本当に「消費者」の敵なのでしょうか。

 近年の「消費者重視」政策の流れの中で、この国でまじめにモノ作りをしている「生産者」の立場がないがしろにされがちなことは、実に残念なことであり、日本の経済を再生させるためには、「保護」する対象が余りにも偏りすぎではないのか、と憂いてしまいます。

 国際投資家が日本市場の将来性を悲観視し日本市場を無視し始めているという厳しい意見がありますが、このような「生産者」をないがしろにして「消費者」ばかり過保護に厚遇する政策を繰り返すとするならば、ますます日本の市場から海外資本は流出しつづけ、最終的には国民経済を萎縮させ、不況となり他ならぬ「消費者」自身が被害者となることでしょう。

 40%を割った食糧自給率の問題、訴訟リスクに怯えて産婦人科医のなり手が少なくなり全国各地で産婦人科が廃止されている問題、地方のガレージ商店街の問題、この国では今、「消費者保護」策では解決不能の難問が析出しているのではないでしょうか。

 ・・・

 この国の為政者達の経済無策は今にはじまったわけではないですが、所轄官庁横断型の「消費者庁」などという新たな「税金食い虫」を作るぐらいなら、今この国に本当に必要なのは所轄官庁横断型の「生産者庁」のほうじゃないのかと、暴論も吐きたくなるのです。



(木走まさみず)