木走日記

場末の時事評論

肉好きな人たちによる動物愛護活動

kibashiri2008-02-08




●「痛ましい。これは“調査”ではない」豪政府 日本の調査捕鯨写真を公開

 7日付け産経新聞電子版記事から。

豪政府 日本の調査捕鯨写真を公開 「提訴へ証拠得た」
2008.2.7 12:26

7日、オーストラリア政府が公開した日本の調査捕鯨船に捕獲されたクジラの写真(ロイター) オーストラリア政府は7日、同国の巡視船が最近、南極海で撮影した日本の調査捕鯨船によるクジラ捕獲現場の写真を公開した。写真には、捕獲され船上に巻き上げられるミンククジラの「母子」とされる2頭が写っている。

 ディーバス内相は「捕鯨を中止させるため国際法廷に提訴する証拠を得た。監視活動は成功だ」と述べ、当初20日間としていた巡視船の監視期間を延長すると語った。

 国際捕鯨委員会(IWC)が指定した南極海のクジラの禁漁区(サンクチュアリ)での日本の調査捕鯨を違法と主張するオーストラリアは、国際海洋法裁判所への提訴など法的手段を検討中。証拠収集のため、1月上旬、税関の巡視船を出港させていた。

 写真は同日付の大衆紙デーリー・テレグラフが1面に掲載。ギャレット環境相は「痛ましい。これは“調査”ではない」と語り、日本の捕鯨への反対の声が世界で強まるだろうと述べた。

 同紙が主催している、日本に捕鯨中止を求めるオンライン嘆願書の署名は9万3000人を超えた。同紙によると、代表として15歳の少女が近く訪日し、民主党に嘆願書を手渡す予定。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/world/asia/080207/asi0802071226000-n1.htm

 あわれ捕獲され船上に巻き上げられるミンククジラの「母子」の写真なのでありますが、ギャレット環境相曰く「痛ましい。これは“調査”ではない」のだそうであります。

 記事によれば、同国では日本に捕鯨中止を求めるオンライン嘆願書の署名は9万3000人を超え、「代表として15歳の少女が近く訪日し、民主党に嘆願書を手渡す予定」だそうですが、なんで手渡す相手が政府・福田さんじゃなくて「民主党」なのかよくわかりませんが、「代表として15歳の少女」を派遣してくるとはいやはやなんともではあります。

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 自然保護、環境保護の観点から日本の調査捕鯨反対は一つの主張として理解できますが、どうにもオーストラリアなどの建国間もない白人国家から「絶滅の恐れのある貴重な鯨を取るのはけしからん」などとか「鯨のような知的生命体を食するのは残酷な食習慣」とか指摘されちゃうと、「オージーよ、あんたら過去200年間でいったい豪大陸で何十種の有袋類などの種を絶滅に追い込んだのか忘れちゃ困るんですが」と皮肉のひとつもいいたくなるわけです。

 そもそも英・米(中継基地として豪もね)をはじめ世界規模で鯨を乱獲してたのは18世紀から19世紀にかけて欧米諸国だったわけでして、オージーのご先祖様だって鯨乱獲の片棒を担いできたのであり、その過程で豪大陸では、白人達の持ち込んだ、犬、羊、牛、ラクダなどが、それまでの生態系を完全に破壊、有袋類を中心にフクロオオカミなど何十もの種が絶滅に追い込まれたのであります。

 また特に先住民アポリジニに対する徹底した人種差別的抑圧政策がつい20年ほど前まで続いていたことなども棚に上げてもらっては困るのであります。

 自分達のしてきたことを棚に上げて「ジャップの鯨殺戮(さつりく)はけしからん」と声高に叫ばれても、どうなんでしょう、大部分の日本人としては「あなた達には言われたくないワイ」と、逆に反感しか覚えないのではないでしょうか。

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●調査捕鯨の継続には賛成65%〜朝日新聞世論調査

 タイムリーな8日付け朝日新聞電子版記事から。

クジラを食用に 賛成56%、反対26% 本紙世論調査
2008年02月08日02時15分

 クジラを食用にすることに賛成の人は56%で、反対の人も26%いることが、朝日新聞社が2、3日に実施した全国世論調査(電話)でわかった。日本の調査捕鯨の継続には65%が賛成している。いずれも賛成意見は中高年層に特に多く、男女別では女性に反対意見が目立つ。食用について女性の20代、30代では反対が賛成を上回った。

クジラを食用とすることの賛否

 「クジラを食用にすることに賛成ですか。反対ですか」との質問に対し、男性は70%が賛成と答え、40〜60代の男性では8割近い。これに対し女性の賛成は44%にとどまり、反対の34%と接近している。

 また、「日本は南極海などで調査を目的として捕鯨を続けていますが、これに対して海外で批判が強まっています」としたうえで、「調査捕鯨を続けることに賛成ですか。反対ですか」と聞いたところ、賛成65%、反対21%で、賛成の割合はクジラ食用の質問より多かった。賛成は男性で75%、女性で56%だった。

http://www.asahi.com/life/update/0206/TKY200802060421.html

 朝日新聞によれば、クジラを食用にすることに賛成の人は56%、反対の人26%だったそうでありますが、興味深いのは日本の調査捕鯨の継続には賛成65%、反対21%で、賛成の割合はクジラ食用の質問より多かった点であります。

 推測するに今の日本人には鯨を食する習慣というものが特に若い世代を中心にほとんどないのでしょう、私など40代オヤジは、かろうじて学校給食で「くじら南蛮」のお世話になりました世代ですが、最近では飲み屋で「くじらベーコン」やら「くじら立田揚げ」などが珍味(値段がバカ高いのですが)として時々目にするぐらいでしょう。

 ですからクジラを食用にすることに賛成の人は56%というのは、まあ過半数ではありながらそれほど高い数字ではないのは納得なのでありますが、調査捕鯨の継続には賛成65%と高くなるところに、日本人としての意地のようなものがあらわれているように感じられて興味深いのであります。

 「そんなにくじら食べたいとは思わないが、さりとて捕鯨は日本の伝統であり、外国に言われて調査捕鯨止めるのは反対」

 現在の日本人の民意はこのあたりが多数派ということでしょうか。

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●20年ほど前のグレートバリアリーフでのランチミーティング

 私はこの一連の調査捕鯨問題の記事なんか読むにつけ、個人的にとても懐かしいでもちょっと驚いた思い出があるのでございます。

 20年ほど前のことです。

 オーストラリア北部の町、グレートバリアリーフの近く、ケアンズに2週間ほど滞在したことがあります。

 グレートバリアリーフ周辺の日豪合同海洋調査チームに友人が参加していてケアンズに滞在しているのを利用して、私自身はプライベートな旅行でありました。

 当時そのチームのオーストラリア人スタッフの奥さんであるアリスさんが私達一行のガイド役を親切にもかってでてくれまして、ケアンズ周辺の案内をしてくれたのであります。

 アリスさんは環境保護団体のメンバーでもあり、当時から自然保護活動に参加されている積極的な活動家でありましたから、案内してくれるところでも、自然保護、環境保護の観点から私達に説明してくれるのであります。

 グレートバリアリーフのフィッツロイ島という観光名所の小島でのランチでも、アリスさんは熱心にこのあたりの自然を守るためにオーストラリア政府がいかに厳しい環境政策を実行しているか、またいかに多くの地元ボランティアが自発的に環境活動に参加しているか、説明してくれたのであります。

 話が少しだけ脱線しますが、この20年前のフィッツロイ島のランチミーティングがなんで今でも私の心に鮮明に残っているかといえば、ランチのメインデッシュが分厚い血のしたたるオージービーフステーキだったからであります。

 まったくこの人たちは本当に肉食人種なんだなあと、変な感心をしたものであります。
 日本人の感覚では昼からましてや大自然のさんご礁の小島で、分厚いビフテキをぱくつくと言うのはちょっと考えづらいのであります。

 それはともかくランチでのアリスさんの話は、日本の環境保護の問題にも移りました。
 聡明なアリスさんは日本の伝統捕鯨のこともよく勉強されていて、日本の古来の「伝統沿岸捕鯨」についてはよく理解を示されながらも、しかしやはり「遠洋捕鯨」は即刻中止しなければならないというようなことを力説されていました。

 私達日本人旅行者からは遠慮もあったのでしょうが、その場所ではそれほどアリスさんの捕鯨中止論に反論は出ませんでしたのは、アリスさんの話し方が実に聡明で、オーストラリアが過去においていかに自然を破壊してきたか、先住民アボリジニを抑圧してきたか、今その取り返しはつかない負の歴史の深い反省に立って自然保護政策を取っているのだ、という話をされたからなのでありましょう。

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 私はといえばアリスさんのその話も興味深かったですがそれよりもアリスさんの食欲に圧倒されていたのであります。

 ただただ、私は、目の前で、分厚い血のしたたるオージービーフステーキをパクパク食べながら、崇高な自然保護・捕鯨反対を力説するアリスさんに驚いていたのでした。

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 なんか自然や動物大好きでその保護に熱心な人が動物の肉も大好きって、どうなんでしょうねえ、と(苦笑

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 20年も前の話でございます。

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 最近の豪の調査捕鯨反対活動ですが、私には、動物肉(牛や羊)好きな人たちによる動物(イルカやくじら)大好き愛護活動に写ってしまうのであります。

 え? 反対活動家にはベジタリアンもいるだろうって?

 失礼しました(汗

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 いや、食文化の違いを克服し相互理解するのはなかなか難しいですネ。



(木走まさみず)