宇宙空間までゴミをまき散らす国にオリンピックを主催する資格はあるのか?
●中国の衛星破壊実験で破片が多数発生、宇宙に巨大な「破片の雲」国際ステーションに衝突も
23日付けの共同ニュースから・・・
宇宙に巨大な「破片の雲」 国際ステーションに衝突も
中国の弾道ミサイルによる人工衛星破壊実験を受けて、米政府当局者らは22日、宇宙空間に破壊された衛星の破片によるスペースデブリ(宇宙ごみ)が大規模な「雲」を形成しており、各国の衛星のほか、国際宇宙ステーションにも衝突する恐れがあると警告した。ロイター通信が伝えた。
また、専門家はデブリが高度約400キロから約3000キロの広い宇宙空間にわたり観測され、この軌道上にある120個以上の衛星が危険にさらされていると強調。軍事衛星のほか、民間衛星へ衝突すれば日常生活に影響が出かねず、国際的にも懸念が広がっている。
ロイター通信によると、米国防総省関係者は「今回の実験が国際宇宙ステーションも含めて(衛星とデブリによる)衝突の危険性を高めたことは間違いない」と批判した。同ステーションは日本などが参加し高度約400キロの軌道上に建設中。
さらに、民間の専門家はこれらのデブリが人工衛星の軌道上からなくなるまで数十年かかる可能性があると指摘。今回の実験では1〜10センチ大のデブリ約4万個が発生したとの推測もある。
中国は日本時間の12日、高度約850キロの宇宙空間で衛星を破壊。米側に「宇宙の軍拡競争を引き起こす意図はない」と説明している。(共同)
続いて20日付けの読売新聞から・・・
中国の衛星破壊実験で破片が多数発生、危険性を憂慮
【ワシントン=増満浩志】中国による衛星破壊実験を巡り、米団体「憂慮する科学者連盟」は19日、「衛星に当たると破壊力のある1ミリ以上の破片が200万個発生した」との試算を発表、実験でばらまかれたとみられる破片に対する懸念を示した。
実験で衛星が破壊された約850キロ付近の高度には、衛星の数が限られる静止軌道(高度約36000キロ)と違い、世界各国の人工衛星が多数回っている。破片は、空気が薄いため、地上へなかなか落下せず、10年以上漂い続けるだろうという。
(2007年1月20日22時29分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20070120i416.htm
1月11日に中国が行なった人工衛星をミサイルによって破壊する実験でしたが、この実験によって多数のデブリ(ごみ)が発生したことが確認されたようです。
この実験を最初に報じたのはアメリカの雑誌Aviation Week and Space Technologyでしたが、それによると、西昌宇宙センターあるいはその付近から発射したミサイルによって老朽化した自国の衛星「風雲1C」を破壊したといいます。
中国の破壊実験は、宇宙の平和利用に対する重大な挑戦であるため、米国、日本、オーストラリア、カナダをはじめとする世界各国から抗議を受けましたし、この破壊により、軌道上にデブリが撒き散らされたわけです。
差し迫った問題として、人工衛星や宇宙ステーションへデブリが衝突する可能性が高まったことでして、これは現在および未来の人類の宇宙利用に悪影響を及ぼすということを意味します。
中国政府は11日以降、実験について明言をさけてきたわけですが、23日、ついに外交部が定例会見で衛星破壊実験を認めたわけですが、この読売記事にあるとおり、米団体「憂慮する科学者連盟」によれば、「衛星に当たると破壊力のある1ミリ以上の破片が200万個発生した」との試算もあるようですから、中国は自国だけでなくとんだ「環境破壊」を宇宙でしでかしたということであります。
ということで今回は宇宙ゴミ(スペース・デブリ)について考察してみたいと思います。
●すさまじいスペースデブリの破壊力
スペース・デブリの危険性についてまとめておきましょう。
例によってフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より。
スペースデブリ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
大気圏突入した大きなスペースデブリの一部が燃え尽きずに地上へ落下したもの。デルタ2の燃料タンク。スペースデブリ、宇宙ゴミ(space debris、うちゅうごみ)とは、その厳密な定義は明確でない部分もあるが、耐用年数を過ぎ機能を停止した(された)人工衛星、事故により制御不能となった人工衛星、衛星とロケット本体や、多段ロケットの切り離しなどによって生じた破片など、宇宙空間に漂っている(より正確には地球の周りを回っている)人工物体のことである。なお、天然起源の宇宙塵(微小な隕石)はメテオロイドと呼ばれる。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%87%E3%83%96%E3%83%AA
で、問題点はここ。
問題
近年、これらスペースデブリが増加しており、使用中の人工衛星や有人衛星などに衝突する危険性が問題となっている。 これらは軌道上を回っているため、低軌道で7〜8km/s、静止軌道で3km/sと非常に高速で回っている。さらに軌道の角度によっては相対的に10km/s以上で衝突する場合もありえる。運動エネルギーは速度の2乗に比例するため、スペースデブリの破壊力はすさまじく、直径が10cmほどあれば宇宙船は完全に破壊されてしまい、数cmでも致命的な損傷は免れず、さらに数mmのものであっても場合によっては宇宙船の任務遂行能力を奪う(5〜10mmの物が当たるのは強力な火砲で銃撃されるに等しい)。
ピストルの弾丸が確か秒速数百メートルですから、「相対的に10km/s以上で衝突する場合もありえる」「スペースデブリの破壊力はすさまじく、直径が10cmほどあれば宇宙船は完全に破壊されてしまい、数cmでも致命的な損傷は免れず、さらに数mmのものであっても場合によっては宇宙船の任務遂行能力を奪う」とは恐ろしい破壊力であります。
今回の中国の人工衛星破壊実験も早速載っております。
2007年1月11日、中国が弾道ミサイルを使った老朽化した人工衛星の迎撃実験を行った。このとき破壊されたとされる人工衛星の破片がスペースデブリとなって大量に飛散し、この結果、建設中の国際宇宙ステーションや各国の人工衛星が多数存在する高度400kmから高度3,000kmまでの軌道上に、スペースデブリの「雲」のような塊が形成されていると見られている。
で、衝突事例。
衝突事例
1981年にはコスモス1275が爆発して300以上のデブリとなったが、この衛星には圧力容器のような爆発を引き起こすような内部構造が無いため、デブリとの衝突が疑われている。1996年にはフランスの人工衛星セリース (Cerise) がデブリと衝突し、衛星の一部が本体からもぎ取られて新たなデブリになっている。衝突の相手は1986年にアリアン・ロケットが爆発した際のデブリのうちの一つであり、カタログ物体同士の初の衝突であった。
2006年にはロシアの静止衛星エクスプレスAM11 (Express-AM11) がデブリとの衝突によって機能不全に陥り、静止軌道から墓場軌道へ移動させられた。
また、1984年にスペースシャトル・チャレンジャーはソーラーマックスの外壁2.5平方メートルを回収したが、その表面には約3年の暴露により千個ものクレーターが作られていた。このうちの約7割が人工的なデブリによるものとされている。 その後、ハッブル宇宙望遠鏡の太陽電池パネル(1990年〜1993年)、SFU(1995年〜1996年)などの同様の調査により、時代が下るにつれて衝突頻度が加速度的に上昇していることも判明している。 つまり、現在、微小デブリとの衝突はきわめて日常的な出来事になっている。
うーむ、「微小デブリとの衝突はきわめて日常的な出来事になっている」とは知りませんでした。
でこのやっかいなゴミの数ですがどのくらいあるのかというと、こちらのサイトで確認できます。
このような人工物は軌道がわかっている直径10cm程度以上のものについて公表(カタログ化)されているが、今年2月初め現在カタログに載った分だけで、運用されている衛星を含めて8808個、うちロシアが3957個、米国が3931個、わが国のものも120個で5位につけている。カタログ化されてはいないが何とか見つけられるデブリの大きさは数cmまでだが、mmサイズまで入れれば3500万個程度、レーダーで検知できないものを含めると軽く兆のオーダーになるという人もいる。カタログ化される人工飛翔体は、年間200個くらいずつ増え続けているという。
少しいろいろなサイトで調べましたが、まあ公認されて追跡されている大きな物で8000〜9000というところだそうですね、で、「mmサイズまで入れれば3500万個程度、レーダーで検知できないものを含めると軽く兆のオーダーになる」そうですが、とにかく「カタログ化される人工飛翔体」だけでも年間200個くらいずつ増え続けているスペースデブリなのであります。
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●日本のデブリ対策〜国際宇宙ステーションのブースは大丈夫だが無人衛星は事実上無防備
さて、今回の中国の衛星破壊実験によって、「今回の実験が国際宇宙ステーションも含めて(衛星とデブリによる)衝突の危険性を高めたことは間違いない」(ロイター通信)のだそうですが、日本の衛星や国際宇宙ステーションの日本ブースは大丈夫なのでしょうか?
どうも無人の人工衛星の方は事実上無防備に近いようですが、有人の国際宇宙ステーションのほうは、しっかりとデブリ対策はされているようであります。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)の公式サイトより。
Q05 宇宙のゴミ(スペースデブリ)がスペースシャトルやISSに衝突するおそれはないのでしょうか
A05 衛星軌道には、遠い宇宙から飛来するマイクロメテオロイド(微小隕石)とロケットや衛星の破片など軌道上を周回している人工のスペースデブリ(宇宙ゴミ)があります。
マイクロメテオロイドは鉛直方向をはじめあらゆる方向から飛来し、デブリは軌道上に滞在しているので主にISSの進行方向からぶつかってきます。マイクロメテオロイドは衝突確率が非常に低いため、あまり気にされていませんが、流星群の中でも活発であり時期が予測できるペルセウス座流星群、しし座流星群の場合、その活動期間中はスペースシャトルの飛行を行わないなどの予防策が取られています。
また「きぼう」日本実験棟は、10年の運用期間中にマイクロメテオロイドやデブリがぶつかったとしても与圧モジュールに穴があかない確率(非貫通確率)97.38%を満たすように設計しています。
ISSの場合、スペースデブリの衝突については、そのサイズを1cm以下、1cm以上10cm以下、10cm以上の3種類に分類して対応方針が決められています。
今日、人が居住する宇宙施設においてはスペースデブリ対策は必須なのだそうであります。
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●科学的統計的検証1〜現時点ではスペースデブリの爆発的増加現象「ケスラーシンドローム」はまず起こらない
冒頭の共同記事によれば今回の中国による衛星破壊実験によって、「宇宙空間に破壊された衛星の破片によるスペースデブリ(宇宙ごみ)が大規模な「雲」を形成」され、「1〜10センチ大のデブリ約4万個が発生したとの推測もある」とされ、また読売記事によれば、「衛星に当たると破壊力のある1ミリ以上の破片が200万個発生した」との試算もあるようですが正確なところは地球からの継続的な観測とその分析をしなければ、よくはわからないようです。
ただ、極端な話では、こんなに宇宙ゴミが増えちゃうとある時点で、宇宙ごみにより遮られて、最終的に人類は地球から出られず、宇宙開発ができなくなってしまうという、科学者の警告もあるようです。
ケスラーシンドローム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ケスラーシンドローム (Kessler Syndrome) は、アメリカ航空宇宙局 (NASA) のドナルド・J・ケスラーが唱えた、スペースデブリ(宇宙のごみ)の危険性を端的に説明する仮想モデルである。
概要
スペースデブリが互いに、あるいは人工衛星(主に低軌道周回衛星)に衝突すると、それにより新たな破片が生じる。すると、衝突する確率が1桁上がる。そうなると、更に宇宙ごみ同士、人工衛星への衝突が発生しやすくなり、それにより更に発生した宇宙ごみでまた衝突確率が上がる。この過程を繰り返すことで加速度的に宇宙ごみの数が増え、やがてロケットをいつ、どの方向に打ち上げても、宇宙ごみにより遮られて、最終的に人類は地球から出られず、宇宙開発ができなくなってしまう、というもの。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%A0
で、この恐ろしいドミノ現象が起きてしまう確率ですが、
現実性
原論文によれば、ケスラーシンドロームは不確実な要素の多くを無視、または単純化したモデルであり、現実性はかなり乏しいものである。実際、論文の主張するところでは1000kmから1500kmの高度ではすでにケスラーシンドロームに至る臨界密度を越えていることになるが、そのようなドミノ現象が起こっているという事例は観測、報告されていない。
まあ一言で言えばほぼ起こり得ない、このケスラーシンドロームはひとつの科学者からの警告と受け止めるべきであり、現実的ではないようです。
●科学的統計的検証2〜それでも迷惑な中国の人工衛星破壊実験(各国の無人衛星のデブリ衝突リスクが高まった)
「ケスラーシンドローム」でありますが、仮に発生しても空間に対するスペースデブリの密度の問題や速度の問題、つまり速度が速すぎるものは第二宇宙速度を超えて地球圏を離れますし、遅すぎるものは大気圏に落下していきます、速度が適切であっても月の重力も影響するので月周回軌道面にスペースデブリが集まり、低緯度地域の宇宙に窓(デブリ密度が極低状態の空域)が発生するため、眉に唾を付けておくのが今のところ正しいようです。
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しかし「ケスラーシンドローム」のようなカタストロフィー的現象は現時点では起きないでしょうが、ともかく現実問題として真剣に検討しておかなければならないのは、現在でも毎年、大きな人口飛翔体だけでもカタログ公認数で200以上のペースで増え続けている現実において、必然的にデブリの数は増え続けており、例えケスラーシンドロームが起こらないにしても、大型のデブリが稼動中の衛星に衝突する確率が年々増え続けている事実です。
先ほども示しましたが、1996年にはフランスの人工衛星セリース (Cerise) がデブリと衝突し、衛星の一部が本体からもぎ取られて新たなデブリになっている例もあり、デブリが衛星に衝突するリスク確率は、地上で交通事故に遭う確率よりもはるかに高いと試算する学者もいるようです。
国際的にもスペースデブリとの衝突が看過できない無視できない深刻な問題として議論されるようになり、なんとかスペースデブリの発生を抑制するべく対応策が各国で真剣に検討されているこのときに、「衛星に当たると破壊力のある1ミリ以上の破片が200万個発生」(読売記事)させた、なんともはた迷惑な中国の人工衛星破壊実験なのでした。
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ふう。
●宇宙空間までゴミをまき散らす国にオリンピックを主催する資格はあるのか?
もっともこの膨大な数のスペースデブリ数ですが、中国からしてみれば米ソが冷戦時代に打ち上げ合戦をし、また散々衛星破壊実験を繰り返したのがその主因であると、反論したくなるかも知れません。
確かに日本ではあまり話題になっていませんが、旧ソ連の『キラー衛星』による衛星攻撃(ASAT)実験がこしらえてくれたおびただしいごみは、ロケットの破片とともに、宇宙ごみの半数以上を占めるといわれるほどなのであります。
1968年から始まったこの実験は、他国の軍事衛星など標的の近くで爆発を起こしてこれを破壊するもので、20回以上も繰り返して大量の破片を宇宙に撒き散らした後、1983年ようやく中断されました。
また、もちろんアメリカ側もソ連に負けず劣らずの回数で複数回衛星破壊実験を繰り返してきたのは衆知の事実であります。
現在のスペース・デブリの9割以上がこの2大国が生みの親であることは忘れてはならないでしょう。(カタログ化されている総数8808個、うちロシアが3957個、米国が3931個)
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しかしです。
たしかにスペース・デブリをまき散らかしてきた米国・ロシア2大国の責任は厳しく追及されるべきですが、それでもってこの21世紀に衛星破壊実験を強行するという中国の環境破壊行為の免罪符にすることはまったくできません。
米ソ両国ともスペース・デブリ問題が一度発生してしまうと極めて解決困難なうえ数十年に渡り人類の宇宙開発に深刻な悪影響を及ぼすことを考え、ここ20年以上衛星破壊実験を封印して禁止してきた事実も、中国は知っていたはずです。
今回の中国の実験により、今後各国の人工衛星にどのような被害を及ぼす可能性があるのか、ここは冷静に科学的に検討しなければいけないのでありましょうが、ひとつ言えることは、中国は宇宙空間において「国際協調」マナー違反を犯し、米ソに反発して「宇宙の平和開発」を唱えてきた国として、なんとも無責任な著しく信頼を損なう蛮行にうって出た、ということです。
・・・
もし今後、他国の人工飛翔体がスペース・デブリによって破壊された場合、それが今回の実験によるデブリによるものか、それを科学的に証明することはまず不可能でしょう。
しかし世界各国が真っ先に憎しみの目を中国に向けることは間違いないことでしょう。
「散らかしたら、散らかした人が掃除する・片付ける」
「片付けれないならば散らかさない」
小さな子供でも知っている人としてのルールを、どうも中国は守る意志がないようです。
自国内どころか宇宙空間までゴミをまき散らす・・・
このようなマナー違反を犯す国にオリンピックを主催する資格があるのでしょうか?
え?
米ソだってオリンピックしたじゃないかって?
・・・
やれやれ。
中国様にはかないませんわい。
(木走まさみず)