木走日記

場末の時事評論

マツオカ先生とツトムの話

 産経新聞のある記事を読んで、今の日本の世相が無性に情けなくなりました。

 今日は懐かしいほろ苦い想い出話から。



●マツオカ先生とツトムの話

 不肖・木走は40代二児の父親オヤジであります。

 今日の話はそんな木走の中学時代の話でありますから、30年も前のことになりますか。

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 中学1年の時のクラスメートに幼なじみのツトムがおりました。

 ツトムは同じ商店街の悪ガキ仲間でしたが、その頃彼の父親が病気になりお店は休業になりまして、彼の家庭は経済状態がひどく悪化していました。

 4人兄妹の長男である彼は家計を助けるために朝夕の新聞配達を始めていました。

 当時としても中学生が新聞配達をするのは珍しいことでありました。

 そんなわけで中学のクラスで、遠足費とか事務費などの集金があるときには、決まって彼は「親に言うのを忘れていました」とか口実にしてはみなと同じタイミングでお金を先生に渡すことはできないのでした。

 私は幼なじみですし彼の家の事情もよく理解していましたので同情を禁じ得ませんでしたが、クラスの他の人たちには彼はかっこうのいじめの対象に映ったのでしょう。

 「ツトムの制服は1回も洗っていない」

 「ツトムは一週間に一度しか風呂に入っていない」

 「ツトムのお父さんは盗みで捕まって刑務所に入っている」

 根拠の無い悪口や中傷に、ツトムは堪え忍んでいました。

 私はと言えば、卑怯にも自分が巻き込まれることが嫌で傍観者になっていました。

 通学方向が一緒なのでツトムと一緒に登下校するのが精一杯でありました。

 ・・・

 そんなある日、遠足の日のことでした。

 確か行き先は電車で小一時間ほどの埼玉県の山登りだったと記憶してますが、山頂にてお弁当の時間となりました。

 私とツトムはみんなと少し離れたところで二人でお弁当を食べていました。

 なぜみんなとはなれて孤立していたかと言えば、みんながツトムと一緒にお弁当を食べたくなかったことも理由のひとつですが、本当の理由はちがいました。

 ツトムのお弁当にはおかずが入っていなかったからです。

 私と二人きりでお弁当を食べているツトムですが、お弁当の蓋(ふた)で私からも中が覗けないように不自然なかっこうで食べようとしていました。

 私は親からツトムの家の事情を聞いていましたので、そのことには何も触れず、「食べきれないから」と理由を付けて無理矢理私のおかずの半分をツトムの弁当の蓋(ふた)に載せました。

 実際私の弁当は一人では食べきれない量のおかずが入っていたのです。朝、ツトムの家庭の事情を知っている私の母がおかずをツトムに分けてあげるようにと多めに私に持たせていたのでした。

 ツトムはと言えば「そうか食えないなら手伝ってやるか」とか言いながら、嬉しそうに私の母が作ったおかずをほおばってくれたのでした。

 私たち二人は何も会話せず黙々と食べました。

 私は心の中で小さい頃、まだ元気なツトムのお父さんが電車でツトムと私を神宮球場に連れていってくれた楽しい記憶を思い出していました。

 ツトムのお父さんさえ元気になれば、ツトムの弁当にもおかずがたくさん戻ってくるのに・・・、そんなことを考えていました。

 ・・・

 私たちがお弁当を食べ終わるかしないうちに、そこに担任のマツオカ先生がニコニコ顔でやってきました。

 「さがしたぞ、ツトム」

 先生は、勝手に私たちの横に座ると大きな2段になっている重箱の弁当箱を開け始めました。

 「おい、ツトム、これはね、先生の奥さんが作った世界で一番おいしい手作りハンバーグなんだ、一緒に食わないか」

 ぶっきらぼうに言うと先生は重箱のひとつをツトムに強引に渡しました。

 そこには先生の奥さんが作られたそれはおいしそうなおかずが幕の内弁当のように並べてありました。

 ツトムは「先生、ボク今弁当を食べ終え・・・」と言いかけました。

 「いいから食べろ、さ、食べよう」

 先生はツトムの話を遮り、優しく微笑み返したのでした。

 「はい」

 ツトムは食べ始めました。

 そうか先生もツトムのお弁当のこと心配してたんだ・・・

 普段はおっかないマツオカ先生の優しさに触れて、私は少し驚きそしてとっても嬉しくなりました。

 横のツトムはと言えば、目からポロポロ涙をこぼし鼻水を垂らしながら先生の奥さん手作りの弁当をかっこんでいました。

 ツトムは、かっこみすぎてつまらせては途中で何度も胸をたたいていました。

 先生はそのよこで優しい微笑みを保ちながら何も言わずに自分の分を食べていました。
 私もなんだかとっても嬉しくあたたかい気持ちになってしまって、泣きたくなったのでした。

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 もう30年も前の話であります。

 ツトムはと言えば、この一年後にお父さんが亡くなられ一家でお母さんの実家に引っ越してしまいました。

 いっぽうマツオカ先生ですが、今はもちろん教職から離れられていますがご健在であられます。

 この話には後日談があります。

 中学の同窓会でマツオカ先生から直接聞いた後日談です。

 実はマツオカ先生はツトムの給食費を1年間ずっと学校に内緒で自費で立て替えていたのだそうです。

 ツトムのことを考え学校にも父母にももちろん生徒にも内緒でです。

 頭の下がるお話です。

 そしてツトムですが、転校して4年後までに先生に立て替えてもらっていた給食費をすべて1円も残さず完済したのだそうです。

 マツオカ先生は当時のツトムからの何通かの便せんとお金を今でも大切にとっておいてあり、「私の一番の宝物だよ」とお話しされていました。

 ツトムとしては当たり前のことをしただけなのでしょうが、この話を聞いたとき不覚にも私は恥ずかしながら泣いてしまいました。

 あの遠足の時には涙を我慢できたのですがね、駄目ですね、オヤジは涙もろいのであります(苦笑)

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●参考記事

 今日(25日)の産経新聞から・・・

給食費未納、親のモラル低下深刻 督促に“逆ギレ”も

 平成17年度の1年だけで総額22億円の未納が明らかになった学校給食費高知県の小中学校の全児童・生徒(約5万人)の給食費1年分にあたり、事態は深刻だ。全国調査は、未納者への対応に苦慮する声が相次いだことから実施されたものだが、「まさかここまで…」と絶句する教職員も。「払いたくないから払わない」。社会人としてのモラルに欠ける親たちへの対策はあるのか。

 「ブランド品で着飾った母親が集金袋にお金を入れない。子供が教室で泣いている」「高級外車を乗り回したり、携帯電話代を何万円も払っているのに、給食費は払わない親がいる」。最近の教育現場で、実際にあった報告だ。

 「頼んでない」「(給食を)止められるものなら止めてみろ」。督促に“逆ギレ”するケースもある。悪質なケースについて同省は「法的措置を講じた事例を参考としつつ対応する」としている。今回の調査の結果、強制執行などの法的措置を実施した学校は281校もあり、厳しい対応は今後も増えそうだ。

 広島県庄原市は、3人の子供の給食費77カ月分(約70万円)を滞納した保護者を相手取り本訴を起こした。困窮していないのに給食費だけでなく保育料や税金まで滞納していた保護者は裁判で、「義務教育だから払わない」などと持論を展開。これらの反論は認められなかったが、広島地裁は昨年12月、督促の時効(2年)分を除いた約10万円の支払いを保護者に命じた。

 未納者対策では、東京都葛飾区のように生活保護世帯に加算される給食費援助を校長の口座に直接振り込む措置を取ったり、神奈川県城山町のように集金袋を復活させたうえ、保護者に徴収を任せて未納率を下げた自治体もある。

 同省の調査では、未納を減少させた対策として、保護者との個人面談や家庭訪問などを通じたねばり強い説得が半数以上を占めた。しかし、これらの対策は、現場の教師の負担が大きい。

 一方、未納があったために、4000校が食材の質や量を落としていた事態も判明。自治体や学校が補填(ほてん)したケースもある。同省学校健康教育課は「一人くらいという気持ちが他の子供たちに影響を与えることに気づいてほしい」と注意を喚起した。

(2007/01/25 08:26)
http://www.sankei.co.jp/kyouiku/gakko/070125/gkk070125000.htm

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 時代は変わりましたね。

 本当に経済的に困っている人達に対する配慮はしっかりやっていただきたいです。

 その上でですが、上記の「払いたくないから払わない」馬鹿野郎な親達には厳しい罰則が必要だと思いました。

 ふざけるなと言いたいです。

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 情けないです。



(木走まさみず)