木走日記

場末の時事評論

「日本には実験なしで核兵器開発できる能力がある」(中国メディア)は本当か?

 中国メディアの環球網は8日、日本は核実験なしで核兵器を作る技術力があり、短期間で中国以上の核兵器大国になる能力があるとの考えを示し、警戒を呼び掛ける論説を掲載いたしました。

日本には「実験なし」で核兵器開発できる能力がある!=中国メディア
http://news.searchina.net/id/1584694?page=1

 中国城市安全研究所副所長の楊承軍教授による署名原稿です。

 論説のポイントはこうです。

 ・日本には世界最大のヘリカル型核融合実験装置があるなど、核融合技術で世界一流。

 ・核爆発実験をしなくても高性能のスーパーコンピューターによるシミュレーションで核兵器を作る能力がある

 ・日本はミサイル搭載用の核弾頭を開発する能力もあり、極めて短期間のうちに、「世界第3位の核兵器保有国」になれる
 (※2014年時点で、世界で核兵器を最も多く保有する国はロシアで総数8000発、第2位は米国で7315発とされる。第3位以下はフランス(300発)、中国(250発)、英国(225発)の順なので、この主張は日本は300発以上の中国を越える核兵器保有が短期間で可能という意味合いを持つ)

 ・日本が核兵器保有した場合、西太平洋地区、とくにわが国の安全に対する重大な脅威となる

 従って、日本の核兵器についての動向に「強い関心を持ち続けねばならない。絶対に警戒を緩めてはならない」との主張で論説は結ばれています。

 さて、たいへん興味深い楊承軍教授による署名原稿でありますが、これ、本当なのでしょうか。

 さて究極の攻撃兵器「核弾頭」を保有するには、これはもう「自衛権」におさまるはずもなく、憲法9条がある限り不可能でありますことは自明ですから、憲法改正をしなければなりません。

 国是としてきた非核三原則も吹っ飛びますし、同盟国特にアメリカがそれを許すのか大きく疑問符が付きますし、唯一の被爆国である日本の国民感情からしても、日本が核兵器保有を可能とするのは、技術的以前に大きな大きなハードルがありますので、現状では実現性ゼロと言っていいでしょう。

 ですが、これらの諸問題をすべて解決したと仮定(可能性は限りなくゼロでしょうが)して、思考実験的に「日本には実験なしで核兵器開発できる能力がある!」のか、考えてみたいと思います。

 なお、当ブログは工学系の人間ではありますがあくまで素人の論考でありますから、以降の文章で技術的誤りとかあればご指摘いただければ幸いですが、あくまで読み物として、愛をもってお読みくださいませ。

 ・・・

 論説のポイントを押さえていきましょう。

日本には世界最大のヘリカル型核融合実験装置があるなど、核融合技術で世界一流。

 これは事実です。

 核融合の研究で日本が世界の先端を走って居る事は有名な話であります。

 実は、アメリカは長い間、この研究は水爆の研究と同じなので日本は中止すべきだと凄い圧力を掛けて来ました。

 しかし、弱腰の日本政府には珍しく毅然とした態度で突っぱねて来たんですね。

 「これは、日本の未来だけでは無く人類の未来の為に必要な無限のエネルギーを開発可能な平和利用目的の開発だから、アメリカが文句を言う筋合いでは無い!」、まあ本当はもう少し軟弱な言い方(苦笑)でしたが、そう言って毅然として継続し、莫大な予算を投入して来たんです。

 核融合は、世界最先端の爆縮技術が無いと実現不可能な超高度技術です。

 その為に、日本政府は昭和30年代から研究を継続しております。

 こうした技術の積み重ねと実験データが有りますので、日本の核融合技術は世界が認める最先端技術であります。

 で、次。

 ・核爆発実験をしなくても高性能のスーパーコンピューターによるシミュレーションで核兵器を作る能力がある

 これも半分は本当です。

 すでにアメリカはスパコンでシミュレートする技術が確立していますから、実際の核実験は行っていません。

 日本の技術力をもってすれば、高性能のスーパーコンピューターによるシミュレーションで核兵器を作る能力はあります。

 ただし正確にスパコンでシミュレートするためには、たくさんの実データ(原爆実験を何度も行い豊富な実験データを蓄積する)がどうしても必要ですが、核実験をしたことがない日本にはこの蓄積がありません。

 従って、ずばりアメリカが有する核実験データの情報提供を日本にしてくれるのか、ここがポイントになると思われます。

 なので他国依存が少し関わりますので「半分は本当」としておきます。

 さて、次。

 ・日本はミサイル搭載用の核弾頭を開発する能力もあり、極めて短期間のうちに、「世界第3位の核兵器保有国」になれる

 これは核弾頭を運ぶミサイルと核弾頭そのものと分けて考えます。

 「世界第3位の核兵器保有国」になるためには、300発の核弾頭ミサイルが製造できなければなりません。

 で、300発の弾道ミサイルの量産ですが、日本はできます。

 2年前、日本独自技術の固体燃料ロケット「イプシロン」の打ち上げに成功しています。

2013-08-28■[科学]韓国には言わせておけばいい、飛べ、日本のイプシロン!〜潜在的な意味で日本の安全保障上のカードにもなり得るすばらしい技術
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20130828

 このイプシロンではロケット自らが人工知能により不具合の有無をチェック可能です、これは簡単に言えばロケット内のチェックすべき総数数万の各パーツをLAN(ローカルエリアネットワーク)化して掌握し人工知能により正確な自己判断を行うという、ロケット技術としては世界初の最先端の試みであります。

 そして、打ち上げ費用30億(目標値)という驚異的な費用圧縮と、ロケットに人工知能搭載という最新の日本のIT技術を結集した日本独自の固体ロケット技術なのです。

 さて、イプシロンは日本の主力ロケット「H2A」などの液体燃料大型ロケットではなく、固体燃料を用いた中型ロケットであります。

 ここがキモです。

 固体燃料を用いる技術であることから、弾道ミサイルに即軍事転用可能である、すなわちイプシロン打ち上げ成功は大陸間弾道ミサイルICBM)への転用も可能な技術を日本が確保した事を意味します。

 静止衛星は地上3万6千キロの静止軌道に打ち上げますが、約1トンの衛星を地上3万6千キロに打ち上げるという技術は弾道ミサイルの技術をはるかにしのぎます。 

 そして費用圧縮にも成功したイプシロンは量産可能です。

 で、肝心の核弾頭であります。

 ようは核爆弾の小型化ですが、まったく問題なく現在の日本の技術でそれを実現可能です。

 ただここでも核実験ができないことを考えるとアメリカの情報提供がほしいところではありますね。

 最後のポイント。

 ・日本が核兵器保有した場合、西太平洋地区、とくにわが国の安全に対する重大な脅威となる

 まあそうなるでしょうね。

 核弾道ミサイルを300発保有する技術も原料も、日本には十分にありますから。

 ・・・

 まとめます。

 国民が核を持つ意思をしめし、憲法が改定され、同盟国の同意を得て、特にアメリカが技術的に協力してくれる、というおそらく有り得ないだろう仮定で考えてまいりましたが、「日本には「実験なし」で核兵器開発できる能力がある!」という中国発の論説ですが、ある程度当っていると当ブログは考えましたが、はたしてどうでしょうか?

 いずれにしても日本の有する技術力をもってすれば、核爆弾を持つという国民の総意・意思が固まれば、それは早期に実現可能であろうと思われます。

 さてエントリーして思いついたのですが、安全保障上のカードとして、また現憲法に抵触しない範囲で何か可能なことはないのかという意味でこんなのはいかがでしょうか。

 製造技術を確立してプルトニウム抜きの核爆弾を300発ほど保有する。

 そしてイプシロンを改良して弾道ミサイルも同数量産しておく。

 プルトニウムが入っていませんから、爆発もしないし兵器ではないことになります。

 で、日本を怒らしたら、いつでも瞬時にプルトニウムを挿入できるぞ、という脅しになります。

 「日本がその気になれば核ミサイルはすぐに保有できる」、この事実だけでも安全保障上の有効なカードとなると思います。

 読者の皆さんはどうお考えでしょうか。



(木走まさみず)