木走日記

場末の時事評論

「ネットいなご」集団の生成過程と生成条件〜情報発信側の「不用意」性が「ネットいなご」を招く

●「男子はパンツ見たい生き物」〜安直な盗撮擁護で閉鎖更新停止に追い込まれた元日テレの藪本アナブログ

 なんか藪本雅子ブログという元女子アナの人のブログが、不用意な発言で炎上し、閉鎖更新停止に追い込まれたようですね。

 24日のZAKZAKニュースから・・・

元日テレの藪本アナ、ブログ炎上…後輩の盗撮擁護

「男子はパンツ見たい生き物」
 元日本テレビのアナウンサー、藪本雅子さん(38、写真)のインターネット上で公開しているブログが“炎上”している。後輩の日テレアナの盗撮事件に関し、「男子はパンツを見たい生き物」という内容の持論を展開したところ、「後輩をかばっている」など賛否両論が押し寄せているのだ。

 今回の問題の発端となっているのは、今月19日に藪本さん自身のブログに掲載した「盗撮で思う」と題した文章。

 藪本さんは冒頭、「日テレの若い社員が盗撮した件で、やってしまった行為を擁護するわけではないのだけど、おばさんは思う」と題して自説を展開し、最近はスカートの中を見られていても恥ずかしいと思わない人たちが増えてきたと嘆き、「そういうパンツを見せる女子こそ、迷惑防止条例を理由に検挙してほしいもんだ」などと“糾弾”した。

 一方で、「男の子は(中略)女の子のパンツが見たくて見たくてしょうがない生き物」「触れるものなら、触りたい、脱がしてやりたい、と思うのが男。目の前でパンツを見せられたら、どうにかなってしまう男がいたっておかしくない」などと独自の見解を掲載。

 この“正論”に対し、「結果として見られた女性にも非があるといわんばかり」などと賛否両論を生んだ。

 さらに、今年2月、JR横浜駅構内で女子高生のスカート内を隠し撮りしたとして、県迷惑防止条例違反容疑で書類送検された、後輩の日テレの炭谷宗佑アナ(26)について、文末で「子会社の社員で盗撮未遂をやった人は情け容赦なく即刻クビにされた。日テレの彼も、社会的制裁はうけたでしょ」と言及したことにも批判が殺到した。

 「プライバシーだからと実名も処分も発表しないのにどこが社会的制裁なのか」「自社のニュースでは触れもせず、身内に大甘」「元身内とはいえ、このような支離滅裂な擁護を行うのはどうか」など、大半が批判的なコメントやトラックバックは、延べ1300−1400件を超えた。

 なかには昨年出版した自著の題になぞらえ「まさに『女子アナ失格』」との書き込みもあった。

 この“炎上”騒動に藪本さんは一旦、この文章を削除したが、そのことがさらに騒動を呼び、「不誠実で無責任な感じがして嫌」と、22日には「返信」と題して経緯を掲載。この文章に対しても現在、賛否両論が繰り広げられている。

 炎上中の藪本さん。だが、日記風サイトとされ、自分の考えが手軽に書き込めるのが魅力のブログだが…。

ZAKZAK 2006/05/24
http://www.zakzak.co.jp/gei/2006_05/g2006052415.html

 うーん、「男子はパンツ見たい生き物」とは、立場とタイミングを考えると実に安直な表現ではありますね(苦笑)

 連日1000件を越えるコメントスクラム状態に陥り、どうやらブログは閉鎖更新停止に追い込まれたようです。

 本件はかなりネットでも取り上げられているのでここの読者の皆様も既知の方が多いでしょうが、まとめの意味で少しご紹介しておきます。

 まず私も市民記者をさせていただいているインターネット新聞JanJanでも関連記事が掲載されています。

インターネット新聞JanJan
テレビ業の倫理はこれでよいのか−日本テレビ元社員のブログより
http://www.janjan.jp/media/0605/0605244933/1.php

 記事の冒頭部分から。

 これらのニュースを見るにつけ、はっきり言って、テレビ界の倫理は地に堕ちたと感じています。前々から問題は何度も露呈していたのに、その反省は全くないとしかいえないニュースです。「男はパンツの中を見たくなるのが普通」というのは、ちょっと異常ではないでしょうか。どこのだれにでも、そんな欲望は出るものではありません。

 また、書類送検された男性アナウンサーについて、記事で紹介されたブログは「社会的制裁を受けている」と開き直っています。しかし、書類送検時にテレビ報道は、プライバシーを理由に本名などを隠していました。

 だいたいJanJanは傾向として反マスメディア(編集長が元朝日新聞編集部出身という素敵なダブスタではありますが(苦笑))の論調が多いのですが、今回の件ではやはり手厳しいのであります。
 不肖・木走と親交のあるブログでも取り上げられていますですね。

愛・蔵太の少し調べて書く日記
[ネタ]同じ会社に勤務している人間が不祥事を起こした時に、ブログ持ちは自分のブログでどういうことを書くべきなのか
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20060531#p1

 エントリーの結語から。

…実名でネットやってて、匿名の卑怯者に対して一家言ある人の、ちょっとした不祥事を見つけるのなんか、みんなで力を合わせればすぐに…いやその。

何ていうのかな、ネットでモラルに厳しい人たちを、ネット右翼とかネットイナゴのかわりに、ネット紅衛兵とか言ってみましょうか。赤くないんですけどね。

 愛さんらしいウィットに富んだおもしろいエントリーですね。

 単に当該ブログを批判するだけでなく、コメントスクラムに参加する匿名の人達のことをネット右翼とかネットイナゴのかわりに、ネット紅衛兵とか言ってみましょうか」と表現しています。

玄倉川の岸辺
迂闊な人
http://blog.goo.ne.jp/kurokuragawa/e/43b0a0f05df631f65619c47f2ae25873

 エントリーの結語から。

・ ざっとコメント欄を見ると、まともに批判しているのはせいぜい半分ほどで、煽りや罵倒、荒らしのほうが多い。他人の尻馬に乗って騒ぐのは格好悪い。

・ この手の「自分の価値観を絶対的に正しいと信じ、それ以外の価値観は完全否定しかしない頭がところてんでできている人」をネットイナゴと呼ぶべきだという説あり。
一部では「ネット右翼によるコメントスクラム」とも呼ばれているけれど、右翼とか左翼という思想性よりも集団化した攻撃性の暴走(と、言ってもコメントにとどまるのだからおとなしいものだが)のほうが目立つので「ネットイナゴ」は適切な用語だと思う。

 うーむ、愛さんの「ネット紅衛兵」も捨てがたいですが、ここはやはり玄倉川さんの「ネットイナゴ」がしっくりきますよね。

 ただカタカナで「ネットイナゴ」よりも「ネットいなご」とひらがな交じりのほうが、木走的にはより親近感が出ていいのであります。

 ・・・

 「ネットいなご」ねえ。

 つくづくうまい表現だなあ。



●「ネットいなご」集団の生成過程と生成条件〜情報発信側の「不用意」性が「ネットいなご」を招く

 そもそも玄倉川さんが指摘するとおり、炎上するブログに群がる無数の誹謗コメントでありますが、私も「右翼とか左翼という思想性よりも集団化した攻撃性の暴走」が特徴だと思うのであまりイデオロギー性は関係ないと考えます。

 で「ネットいなご」さん達は普段からグループ化されているわけではもちろんないのでしょうし、炎上するブログのジャンル・炎上の理由により、ことなる集団が形成されるのでしょう。

 おそらく「ネットいなご」集団の中にキャプテンや隊長(司令塔)などの役割分担はないのでしょうが、例えば今回の件で炎上経緯を検証してみると、

 ・まず問題となるエントリーが当該ブログに掲載される

 ・コメント欄が多少荒れ始める

 ・2チャンネル等のいくつかのスレ板で取り上げられる

 ・さらにコメント欄が炎上していく

 ・ブログ主がエントリー削除やコメント削除やコメントへの反論など、不用意な対応をして、さらにひんしゅくを買う

 ・有名ブログやネット新聞で取り上げられ、火に油が注がれる

 このようなステップで燃え広がっていくと推察できるわけです。

 まあ知名度の低いブログでどのような暴論がエントリーされていても、そう滅多には炎上などしないわけですが、たぶん「ネットいなご」集団が形成されるのは、上記のような過程を経て形成されるのとは別にいくつかの条件が必要なのでしょう。

 無名のブログが炎上することもたまにはあるようですが、やはり「ネットいなご」大集団が発生するには、発信者がある程度知名度がある場合に限られるようです。

 ・発信者が有名人である(芸能人やマスコミ関係者など)
 ・発信者がネット有名人である(いくつかの人気ブログ主やイデオロギー的に偏りのあるブログ主)

 次に炎上するきっかけとなるエントリーの内容ですが、今回の件も典型的であるとおもうのですが、不用意な特定集団・個人に対する弁護、あるいは不用意な特定集団・個人に対する批判が展開されるときに起こるようです。

 ・発信者が自分の属する集団(個人)を不用意に擁護する
  (マスコミ関係者がマスコミ擁護論を展開するとか、朝日新聞記者が匿名で朝日記事の擁護をしていたとか)
 ・発信者が自分の敵対する集団(個人)を不用意に批判する

 私が思うに炎上するブログ主に共通するキーワードはこの「不用意」性にあるのだと思います。

 同じ擁護(批判)するにしても、今回のように①自分が元同業者だという立場を無視(少なくとも軽視)して②刺激的な(「男子はパンツ見たい生き物」のような)形容である集団(後輩の男子アナ)を弁護してしまう、このような「不用意」性が必ず情報発信側にあるわけです。



●ネットの匿名性と「ネットいなご」集団の関係

 多くの識者が指摘していることですが、ネットの匿名性が有する問題としてこの「炎上問題」がやり玉に上がるのは、やはりその本質として匿名の多数者がよってたかって実名(ネット上の個人が特定できるという意味でですが)の個人を集団化(少なくともそのような印象を見るものに与えるという意味でですが)して誹謗する点にあるのでしょう。

 たしかに「ネットいなご」化したコメント欄を覗けば、まともに批判しているのはせいぜい半分ほどで、煽りや罵倒、荒らしのほうが多いわけです。

 私は以前当ブログで今井紀明氏のブログ炎上についての考察を試みました。

 ■[主張][社会]今井紀明氏のブログ炎上についての一考察〜「村八分」的な言論封印は健全ではない
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060213/1139830670

 当時は、彼は非難されても仕方がないが言論を封殺するようなブログ封鎖の状況は決して好ましいことではない、と言うのが私の主張でした。

 彼は更新をもう止めるとブログで書き込んでいますが、これはすくなくとも健全な状況とは断じて言えません。

 彼の言論を封印してしまうようなコメントスクラムな感情的な対応は、極めて残念なことだと思います

 しかしここで冷静に考察したいのは、個々の煽りや罵倒、荒らしコメントなどの低俗な誹謗・中傷コメントにたいする批判とは別に、この「ネットいなご」集団がなぜ生成されるのか、そしてこの現象は本当にただネットの匿名性の負の側面であるのか、それとも何か必然を伴う建設的な役割を有するのか、現象論として「ネットいなご」たちを捉えなおしてみる必要がありそうです。

 ・・・

 「ネットいなご」たち一人一人に、どこまで意識を持って参加しているのかわかりませんが「ネットいなご」集団が生成されるメカニズム(?)には、何か興味深い特性があるのかも知れません。
 ・・・

 読者のみなさまは「ネットいなご」について、どのようにお考えなのでしょうか。

 ご意見をお聞かせ下さい。



(木走まさみず)