木走日記

場末の時事評論

マスメディアのいいかげんな科学記事にメディアリテラシーの鉄槌を!!〜カイミジンコのオスと1000年前の超新星

kibashiri2006-04-16


 今日は朝日新聞毎日新聞の科学記事にクレームを付けてみます。

 クレームの付け方が余りにも我ながら大人げない(苦笑)ので、カテゴリーを[与太話]とします。

 みなさま、笑って読み流して下さいませ。



●2億年ぶりにオス発見 屋久島のカイミジンコ

 今日(16日)の朝日新聞の科学記事から・・・

2億年ぶりにオス発見 屋久島のカイミジンコ

 約2億年前からメスしかいないと考えられていたカイミジンコ(体長約1ミリ)のオスが鹿児島県の屋久島で見つかったと、滋賀県立琵琶湖博物館が13日発表した。
殻をはずして撮影したカイミジンコのオス。左下に生殖器が見える=滋賀県立琵琶湖博物館提供

 カイミジンコはエビやミジンコの仲間の甲殻類。同館のロビン・スミス学芸員らが03年春、屋久島の海岸近くのわき水で新種を見つけ、その中から、生殖器があるオス1体を確認した。その後の採取で計3体のオスが確認されたという。

 このカイミジンコの仲間は化石研究などで約2億年前からメスしか見つかっていない。メスからメスが生まれる無性生殖を続ける世界最古の多細胞生物とされていた。

 スミス学芸員は金沢大やロンドン大の研究者と一緒に英国の学術誌(電子版)で発表した。金沢大学大学院自然科学研究科の神谷隆宏教授(古生物学)は「オスはメスの幼体と形も大きさも似ている。オスはいなかったのではなく、姿を小さくして生き続けていたのではないか」と話している。

2006年04月16日15時44分
http://www.asahi.com/national/update/0413/OSK200604130034.html

 これはすごい発見ですねえ。

 「約2億年前からメスしかいないと考えられていたカイミジンコ(体長約1ミリ)のオスが鹿児島県の屋久島で見つかった」わけでありますが「メスからメスが生まれる無性生殖を続ける世界最古の多細胞生物とされていた」カイミジンコに実はオスがいたわけですね。

 素晴らしい発見であります。

 ・・・

 しかしなあ、この記事を書いた朝日新聞記者に物申したいです。

 記事タイトル「2億年ぶりにオス発見」とはなんたる日本語なんだ!?

 間違ってはいないけど、すごい誤解を生みやすい表現じゃないですかね。

 あなたは2億年間カイミジンコのオスを探し求めてきたのか?

 そいでもって、2億年ぶりにカイミジンコのオスにようやく再会できたのかい?

 時間を表す語に付いて使う「ぶり」の意味は、「それだけの時間を経過して、再び同じ状態になることを表す」だぞ。

ぶり 【振り/▽風】

(3)時間を表す語に付いて、それだけの時間を経過して、再び同じ状態になることを表す。
「五年―の帰郷」「三日―の晴天」

三省堂提供「大辞林 第二版」より
http://dictionary.msn.co.jp/result.aspx?j=%e5%9b%bd%e8%aa%9e&keyword=%e3%81%b6%e3%82%8a&startcount=0&matchtype=startwith¤titem=17983700

 「ぶり」は普通「五年ぶりの帰郷」とか「三日ぶりの晴天」とかせいぜいその範囲のタイムスパンが有効範囲でしょ。

 「2億年」に「ぶり」をつけるな、「2億年」に!!(爆笑)

 これじゃ、「2億年前」にカイミジンコのオスを人類が発見してなきゃなんないみたいじゃないですか。

 そいでもって「2億年間」ずっと人類はカイミジンコのオスを探し求めてたみたいじゃないですか。

 「2億年前」じゃ、人類どころか哺乳類だっていやしないでしょ。

 ・・・

 ふう。

 ん?

 なんだ、毎日もおかしな科学記事書いてるなあ・・・

 やれやれ



●大客星:巨大爆発1000年、記念し国際会議 藤原定家が「明月記」に記した超新星

 今日(16日)の毎日新聞の科学記事から・・・

大客星:巨大爆発1000年、記念し国際会議 藤原定家が「明月記」に記した超新星

 ◇12月、京都で開催

 平安から鎌倉時代歌人藤原定家が国宝の日記「明月記」に記した星の巨大爆発が起こってから5月1日で1000年になることを記念し、定家ゆかりの地、京都市で今年12月に国際会議が開かれる。日本のX線天文衛星「すざく」は昨年、この爆発の衝撃波によって広がるガスを鮮明にとらえることに成功、これらの成果も紹介される。

 星の巨大爆発(超新星)は重い星が最期を迎える時の大規模な爆発現象。定家は明月記で「寛弘三年四月二日癸酉夜以降騎官中有大客星」(西暦1006年5月1日、騎官=おおかみ座=に大客星が現れた)と記録している。大客星は現在、SN1006と呼ばれている超新星で、国内外の研究から、これまで観測された超新星の中で最も明るく、最も地球に近いことが分かっている。

 すざくは昨年7月に打ち上げられ、10月にこの超新星のX線を観測した。京都大大学院の小山勝二教授(X線天文学)らがこれらのデータをもとに画像を作製、ガスが直径6光年にわたって広がっている様子が鮮明に浮かび上がった。

 定家の記述は海外の研究者にも知られている。12月の国際会議には、国内外の超新星やX線天文学などの研究者が集うが、企画した小山さんは「第一級の資料が日本の古文書に記録されていたことは、世界的にも誇っていいことだ」と話している。【下桐実雅子】

毎日新聞 2006年4月16日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/archive/news/2006/04/16/20060416ddm041040052000c.html

 ほほう「平安から鎌倉時代歌人藤原定家が国宝の日記「明月記」に記した星の巨大爆発が起こってから5月1日で1000年になることを記念し、定家ゆかりの地、京都市で今年12月に国際会議が開かれる」そうであります。

 「第一級の資料が日本の古文書に記録されていたことは、世界的にも誇っていいことだ」と企画した小山さんもおっしゃっているようですが、京都市で今年12月に国際会議が開かれることはけっこうなことですし、日本のX線天文衛星「すざく」も最新の研究に貢献しているようでなによりであります。

 ・・・

 しかし、毎日新聞記者に物申したいです。

 科学の記事を扱うならば記述は正確にしないとだめでしょ。

 この記述は何ですか。

 平安から鎌倉時代歌人藤原定家が国宝の日記「明月記」に記した星の巨大爆発が起こってから5月1日で1000年になることを記念し、・・・

 この西暦1006年に地球で観測された超新星SN1006でありますが、最近の調査結果で、このおおかみ座に現れた超新星は、確かに記録に残っているものとしてはもっとも明るい星であり最も地球から近い超新星であることが判明しています。

 1006年の超新星の出現は、日本の「明月記」をはじめ中国・エジプト・イラク・イタリア・スイスにも記録が残っている現象です。

 南米チリに設置されているセロ・トロロ・アメリ天文台の観測から、超新星SN1006の跡にかすかな水素ガスのシェル(球殻)状構造が見つかりました。

 研究者たちはこのシェルが膨張していくようすを11年間観測し、見かけ上の膨張速度を求めたうえで、一方、より近くにある同じ種類の天体を観測することで、シェルが膨張していく実際の速度を測ることに成功しています。

 観測の結果、実際の速度は秒速2900Kmと計測されました。

 見かけ上の速度と実際の速度がわかれば、簡単な計算によって超新星までの距離が計算できるわけで、超新星SN1006までの距離は正確に7100光年ということがわかったのであります。

 つまり、超新星爆発が観測されたのは1006年ですが、実際にはそれよりさらに7100年前に爆発していたということです。

 だから、「巨大爆発が起こってから5月1日で1000年になることを記念し」は科学的にはまったく間違いでありまして、あえて科学記事として正確を期して書くならば、「巨大爆発が起こってから5月1日で約8100年になることを記念し」と書くべきでしょう。
(↑キバシリよ、約8100年って、無味乾燥な数字になっちゃってないか?(爆笑))

 ・・・(汗

 これじゃなんだか味気ないならばせめて「巨大爆発が起こってから地球で観測されてから5月1日で1000年になることを記念し」でしょう。

 重箱の隅をつつくような指摘で申し訳ないですが、科学記事ならば科学的事実は正確に記さないとね、毎日記者さん。

(↑キバシリよ、しかしどうでもいいことをよく調べる気になるな、よっぽどヒマなんだな(苦笑))

 ・・・(大汗

 ゴホン、読者のみなさん、メディアをしっかりリテラシーするのにジャンルは関係ないのであります。(ジャンジャン)



(木走まさみず)