木走日記

場末の時事評論

8月20日付け朝鮮日報社説を少しだけメディアリテラシー〜少々大人気ないですが、しようがありません、しっかりと論破しておきましょう

 20日付けの韓国の代表的メディアである朝鮮日報の社説が興味深いです。

【社説】強制徴用賠償問題、解決を怠る韓日政府
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/08/20/2013082000888.html

 この社説の言いたいことは社説後半に露出しています。

 日本政府に良識があれば、事態をそこまで悪化させない方法は幾らでもある。新日鉄住金が大法院の判決を待たず、ドイツのように日本政府と協力し、被害者に対して自発的に賠償を行えばよい。日本の最高裁は2007年、中国人徴用被害者が起こした裁判で「日中共同声明に基づき個人による請求権の行使は不可能だが、個別の請求に対する被告の自発的な対応には問題がなく、被害救済に向けた関係者の努力が期待される」との見解を示している。

 国家間の問題、それも歴史的責任と関連する問題を、当事国の司法の判決に基づいて解決せねばならないとすれば、これは決して望ましいことではない。韓日請求権協定の3条には「この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする」と定められており、それでも解決できない場合は仲裁委員会を立ち上げることが定められている。韓日両国政府は今こそ外交面で力を発揮すべきだ。

 「韓日両国政府は今こそ外交面で力を発揮すべき」と結んでおきながら、実際は日本側の一方的譲歩を「新日鉄住金が大法院の判決を待たず、ドイツのように日本政府と協力し、被害者に対して自発的に賠償を行えばよい」と促しているわけです。

 どうなのでしょう、繰り返すまでもありませんが、昭和40年の日韓国交正常化に伴う日韓請求権・経済協力協定で、日本が無償3億ドル、有償2億ドルの供与を約束し、両国とその国民(法人を含む)の請求権問題は「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と明記されていたわけですが、韓国の人々はすっかり忘れておいでなのかしら?

 今後のこともありますので、当ブログとして今回はこの朝鮮日報社説を少しだけメディアリテラシーしておきましょう。

 この社説がドイツと日本の違いとして示している金額・数値の部分をピンポイントに徹底的にデータ検証をして、インチキなその論拠を完全につぶして、朝鮮日報社説の論説を骨抜きにしておきましょう。

 少々大人気ないですが、しようがありません、しっかりと論破しておきましょう。

 いろいろと言いたい事はありますが、ここは一歩譲って朝鮮日報社説の言うとおり、ドイツと日本の対応の差を検証しておきましょう。

日本は戦時中、数十万人に上る男女の朝鮮人を強制的に、あるいは「金を稼げる」「勉強ができる」などと言ってだまし、日本国内の軍需工場や炭坑などに連行して奴隷のように働かせた。ところが日本政府と企業はこれまで「韓国政府は5億ドル(約490億円)の有償・無償借款を受ける見返りに、個人への請求権を放棄する」と定めた1965年の韓日請求権協定を理由に賠償を拒否してきた。ドイツ政府は2000年、ポーランドチェコなどに在住する強制徴用の被害者に賠償を行うため、ベンツやシーメンスなど自国企業と共に8兆ウォン(約7000億円)を拠出し「記憶・責任・未来」財団を創設したが、日本政府と企業の行動はドイツの事例とはあまりにも対照的だ。日本の政府と企業が韓国人被害者らに賠償を行うのは、誤った歴史を正すという次元からも望ましいことだ。

 なるほど、まず日本は、

「韓国政府は5億ドル(約490億円)の有償・無償借款を受ける見返りに、個人への請求権を放棄する」と定めた1965年の韓日請求権協定を理由に賠償を拒否してきた。

 と指摘しています。

 で、ドイツは、

ドイツ政府は2000年、ポーランドチェコなどに在住する強制徴用の被害者に賠償を行うため、ベンツやシーメンスなど自国企業と共に8兆ウォン(約7000億円)を拠出し「記憶・責任・未来」財団を創設した

 と、指摘、「日本政府と企業の行動はドイツの事例とはあまりにも対照的」とし、これをもって「日本の政府と企業が韓国人被害者らに賠償を行うのは、誤った歴史を正すという次元からも望ましい」しています。

 日本はたかだか約490億円、対してドイツは約7000億円だと主張しているのです。

 ・・・

 ふう。

 では、丁寧(ていねい)にデータを検証していきましょう。

 まず、1965年と2000年の貨幣価値を同列に扱う、しかも今の為替相場で換算しているという2重の低次元のインチキを補正しておきましょう。

 日本にとって1965年の5億ドルは、当時1ドル360円固定相場でしたから、約490億円ではまったくなく、正確に1800億円であります。

 同様にドイツの2000年の「記憶・責任・未来」財団の拠出金は、100億マルクであり、当時の1ユーロ=1.95583ドイツマルクと等価、1ユーロが107円との相場から、約7000億円ではなく約5470億円であります。

 1965年に1800億円拠出した日本ですが、当時の日本の名目GDPは32,866.0(単位は10億円)でしたから、

 対GDP比では、1800億円/32,8660億円=0.5477%であるのに対し、

 2000年に100億マルク拠出したドイツは、当時のドイツの名目GDPは2,159.89(単位は10億ユーロ)すなわち1ユーロ=1.95583ドイツマルクとして4224.38(単位は10億マルク)でしたから、

 対GDP比では、100億マルク/42243.8億マルク=0.2367%であります。

 すなわち当時の国力(名目GDP)比で比較すれば、日本0.5477%、ドイツ0.2367%と、日本のほうが2.3倍も大きな負担を負っていたことが理解できます。

 どこが「日本政府と企業の行動はドイツの事例とはあまりにも対照的」なのでしょうか。

 なにが「日本の政府と企業が韓国人被害者らに賠償を行うのは、誤った歴史を正すという次元からも望ましい」なのでしょうか。

 事実は今検証したように、当時の国力比で日本のほうがドイツよりも倍以上の負担を拠出して誠意を示してきたのです。

 今後のために、今回は朝鮮日報社説のでたらめなインチキ論拠をつぶしておきました。



(木走まさみず)