木走日記

場末の時事評論

あんたにだけはいわれたくなかった朝日社説

kibashiri2006-03-11


 中国の李肇星外相も日本の麻生外相も産経新聞朝日新聞も、みなさんアツクなっているようで、メディアウオッチャーの不肖・木走としては興味がつきません。

 しかし、みなさん、よくやるよなあ。



●第一ラウンド:中国外相発言〜このような愚かなこと、非道徳的なことを、日本の指導者はなぜできるのか

 ことの発端は中国外相の厳しい日本指導者非難でありました。

 8日の人民網日本語版の記事から・・・

李肇星部長、日本指導者の靖国参拝を厳しく非難

外交部の李肇星部長は7日午後3時、人民大会堂で記者会見を開き、国際情勢と中国の外交政策を紹介し、記者からの質問に答えた。

李部長は、靖国神社参拝問題について、次のように述べた。

中国と日本は隣国同士だ。中国の国民は、日本の国民と代々の友好を続けていきたい。中日両国の政治関係が現在困難に直面していることの問題点は、日本の一部の指導者が、侵略戦争を発動し、指揮したA級戦犯を今もなお参拝し続けていることだ。日本の指導者は、中国の国民や、侵略戦争の他の被害国国民の感情を傷つけることを二度と行うべきではない。

これは、非常に厳粛な問題だ。日本の現在の指導者が現在もA級戦犯を崇拝していることは、中国の国民だけでなく、他の多くの国の人々にとっても受け入れられないことだ。あるドイツ政府関係者は私に、「このようなこと、このような愚かなこと、非道徳的なことを、日本の指導者はなぜできるのかドイツ人も理解できない」と言った。これはドイツ人が言ったことだ。

彼らの話によると、ドイツの第2次大戦後の指導者の中に、ヒトラーナチスを崇拝する人は1人もいないという。彼らは、「どのようしたところで、ナチスに殺された人を生き返らせることはできない。しかし少なくとも、死者の子孫の感情を傷つけることはすべきではない」と話す。(編集SN)

人民網日本語版」2006年3月7日
http://www.people.ne.jp/2006/03/07/jp20060307_58026.html

 いやあ「日本の一部の指導者が、侵略戦争を発動し、指揮したA級戦犯を今もなお参拝し続けている」のは「このようなこと、このような愚かなこと、非道徳的なことを、日本の指導者はなぜできるのかドイツ人も理解できない」とドイツ人が言ったと李肇星部長(外相)は宣(のたま)ったのであります。

 こいつは物議をかもすと思っていたら、素早く日本政府はこの発言に抗議表明いたします。

 8日の朝日新聞から・・・

「外交儀礼上、不適切」安倍氏が中国外相発言に反発

 安倍官房長官は8日の記者会見で、中国の李肇星(リー・チャオシン)外相がドイツ政府当局者の発言として、小泉首相靖国神社参拝を「愚かで不道徳なこと」と述べたことについて、「現職の外交当局トップの地位にある人物が、他国の指導者に対し『おろか』とか『不道徳』といった品格に欠ける表現を用いるのは外交儀礼上、不適切だ」と批判した。谷内正太郎外務事務次官も同日、中国の王毅(ワン・イー)駐日大使に電話で抗議した。

2006年03月08日21時57分 朝日新聞
http://www.asahi.com/politics/update/0308/009.html

 うーん「現職の外交当局トップの地位にある人物が、他国の指導者に対し『おろか』とか『不道徳』といった品格に欠ける表現を用いるのは外交儀礼上、不適切だ」と、安倍官房長官もお怒りです。



●中国はいつ日本を「属国」にしたのだ〜怒る産経社説

 さあ、早速怒りの産経社説が9日掲載されます。(苦笑)

■【主張】中国外相発言 ポスト小泉に干渉は無用

 中国の李肇星外相は北京・人民大会堂での内外記者会見で、日本の指導者の靖国神社参拝を激しく非難するとともに「(関係改善の)カギは各指導者が誤った行動を正すことだ」と述べた。日中関係を改善したければ、「ポスト小泉」候補者は靖国参拝をするなと言わんばかりである。

 中国はいつ日本を「属国」にしたのだろうか。自らの指導者選びにここまで露骨な干渉を許したのでは、そうみられても仕方あるまい。中国につけこまれる隙(すき)を作ってしまったのは、その意向に迎合する政治家などが存在するためでもある。

 靖国問題を考える原点を今一度整理したい。それは国の命によって戦い、殉職した人たちを国の責任として慰霊することにつきる。国家が戦没者を慰霊するのはどこの国も同じだ。ただ、どのような祀(まつ)り方をするかはその国の伝統や文化によって異なる。

 どんな形で死んだにせよ、死者を必要以上にムチ打たないのが日本の伝統文化だ。そもそも「A級戦犯」は、東京裁判戦勝国側が一方的に認定したものに過ぎない。当時の日本人は「戦犯」の早期釈放を求める国民運動を展開、その結果、「戦犯」の遺族にも年金が支給される改正援護法が全会一致で成立した。靖国神社の合祀(ごうし)も援護行政の一環として行われてきた。

 李外相は靖国参拝に関し、ドイツ当局者の話として「ドイツではヒトラーナチスを崇拝する指導者はいない」「日本の指導者の愚かで道徳に反する行為は理解できない」と語った。

 「A級戦犯」の一人、東条英機元首相をヒトラーと同列に置きたいのだろうが、ヒトラーナチスが行ったユダヤ人虐殺は人類史上、未曾有の国家犯罪であり、戦争遂行の任務を負った東条元首相とは次元がまったく違う。

 日本の指導者に礼を欠くだけでなく、歴史の事実を混同する発言が国連安保理常任理事国の外相から出てくること自体、異様だが、国際社会がこれに引きずられることもありうる。

 インドネシアのユドヨノ大統領は今年一月、「(日本の)過去を問う考えはない」と語っている。日本人の心のありようや伝統的な死者の祀り方などを世界にもっと強くかつ有効に訴え、国際世論の支持を高めたい。

3月9日 産経新聞 社説
http://www.sankei.co.jp/news/060309/morning/editoria.htm

 「中国はいつ日本を「属国」にしたのだろうか。」

 「日本の指導者に礼を欠くだけでなく、歴史の事実を混同する発言が国連安保理常任理事国の外相から出てくること自体、異様」

 うーん、いつも檄文調の産経社説でありますが、今回はことのほかお怒りなのであります。(苦笑)

 ところが、中国外交部は安倍晋三官房長官の批判を再度批判します。

 10日の人民網日本語版記事から・・・

侵略への反省、日本は実際の行動を 外交部

外交部の秦剛報道官は9日の記者会見で、小泉首相靖国神社参拝に関する李肇星外交部長の7日の会見発言に、日本の安倍晋三官房長官が不満を表明した問題について質問を受け、次のように述べた。

日本の一部の指導者がA級戦犯の亡霊を参拝している問題について、中国側はすでに何度もその立場を明らかにしてきた。李部長はおととい(7日)の会見で同問題について立場を説明したが、これは同問題における中国政府の厳正な姿勢を代表し、中国人民の正義の叫び声を代表し、この問題に対する国際社会の見方を反映したものだ。

日本側が全面的かつ客観的に李部長の関連発言を受け止め、事実を直視し、侵略の歴史を反省するというその約束を、どのようにして実際の行動で形にするか、真剣に検討するよう望む。(編集NA)

人民網日本語版」2006年3月10日
http://j.people.com.cn/2006/03/10/jp20060310_58103.html

 うーむ、中国外交部としては「日本側が全面的かつ客観的に李部長の関連発言を受け止め、事実を直視し、侵略の歴史を反省するというその約束を、どのようにして実際の行動で形にするか、真剣に検討するよう望む。」のだそうであります。

 なんだかここまででも少し食傷気味な論戦なのでありますが、この後真打ち登場でこの日中論争、アツクアツク盛り上がっていくのであります。(苦笑)



●第二ラウンド:麻生外相発言〜台湾は今も極めて教育水準が高い国だ!

 9日の読売新聞記事から・・・

台湾は「法治国家」→「地域」と修正…麻生外相

 麻生外相が9日の参院予算委員会で、政府が中国の一地域と位置づけている台湾を「国」や「国家」と呼び、直後に「地域」と言い換える場面があった。

 外相は2月の福岡市での講演でも、台湾を「今も極めて教育水準が高い国」と表現し、中国が反発していた。

 外相は予算委で自民党岡田直樹氏の質問に答え、台湾について、「民主主義がかなり成熟し、自由主義経済を信奉し、法治国家でもある。いろんな意味で、日本とも価値観を共有している国だ」と述べた。その後、「日本政府は、(日中共同声明で)中華人民共和国が中国唯一の合法政府と承認している。何となく我々は台湾を『国』と言ってしまうが、『地域』が正確だ」と修正した。

 これについて、安倍官房長官は9日の記者会見で、「法律の支配という価値を表現する際に、『法治国家』という表現を使ったということではないか。台湾についての我が国の立場は日中共同声明にある通りで、何ら変わりない」と述べ、外相発言を問題視しない姿勢を示した。

(2006年3月9日19時25分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060309i311.htm

 なんだかなあ、麻生外相がまたもや国会で台湾のことを「民主主義がかなり成熟し、自由主義経済を信奉し、法治国家でもある。いろんな意味で、日本とも価値観を共有している国だ」「国」発言しちゃったようなのであります。

 あーあ、もうたいへんでございます。

 10日の人民網日本語版記事から・・・

中国、日本外相の「台湾は1つの国」発言に強く抗議

外交部の記者会見が9日午後に行われ、秦剛報道官が質問に答えた。

――日本の麻生太郎外相が9日、台湾問題について発言した際、台湾が「1つの国」であるとした上で、日本と台湾は「両国間の関係」を保たなければならない、と述べた。これについてお聞きしたい。

台湾問題は歴史問題と同様、中日関係の重要な基礎だ。日本は中日間の3つの政治文書(共同声明、平和友好条約、共同宣言)のすべてで、台湾問題について約束している。日本政府は「中日共同声明」の中で、台湾が中華人民共和国の不可分の一部であるという中国政府の立場を理解し、尊重すると表明しており、また中華人民共和国政府が中国唯一の合法政府であると認めている。これは日本政府が台湾問題について行った、厳粛な約束だ。われわれは日本が台湾問題について約束したことを順守するよう望む。日本の外交当局の最高責任者が、「中日共同声明」に反する言論を公然と発表としたことに、われわれは驚愕しており、中国の内政に対するこのような粗暴な干渉行為に、強く抗議する。(編集UM)

人民網日本語版」2006年3月10日
http://j.people.com.cn/2006/03/10/jp20060310_58105.html

 もう中国外交部報道官も連日大忙しでご苦労様です(笑)。

 麻生外相発言に対して「われわれは驚愕しており、中国の内政に対するこのような粗暴な干渉行為に、強く抗議」する声明の発表であります。

 うーん、この件ではこんな形で激論もあったりしたみたいです。

駐日中国大使、呼び出し拒否翌日に次官と非公式会談

 中国の李肇星外相が小泉首相靖国神社参拝を「愚かで不道徳なことだ」と表現した問題で、谷内正太郎外務次官が同国の王毅・駐日大使に電話で抗議した翌9日、都内で非公式に王大使と会い、会談していたことが10日分かった。

 王大使は8日、「日程の都合」で会談に応じなかったため、谷内次官が「適切な表現を用いるべきだ」と電話で抗議していた。

 9日の非公式会談では、王大使が麻生外相が同日の衆院予算委員会で台湾を「法治国家」などと表現したことについて、「外相の発言は重い」などと抗議した。谷内次官も「それはお互い様だ」などと、李外相の発言を改めて批判。厳しいやりとりが交わされたという。

 一方、在日中国大使館は10日、王大使が8日の会談に応じなかったことについて、「当日、大使主催の重要な行事などを予定していたため、相談した結果、翌日会うことにした」とする談話を発表した。

(2006年3月10日23時8分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060310ia21.htm

 王大使が麻生外相が同日の衆院予算委員会で台湾を「法治国家」などと表現したことについて、「外相の発言は重い」などと抗議した。谷内次官も「それはお互い様だ」などと、李外相の発言を改めて批判。厳しいやりとりが交わされたという。」そうですが、なんだかなあ、もう苦笑するしかないですねえ。

 なんか台湾の政治家には感謝されたりしてるみたいですが・・・

麻生外相:台湾「国家」発言 台湾各紙が報道

 麻生太郎外相が参院予算委員会で台湾を「国家」や「国」と明言したことについて、10日付の台湾各紙は麻生外相の発言を報道した。台湾の中央通信は、最大野党・国民党の知日派の立法委員(国会議員に相当)による「麻生氏の立場は右派的な傾向にあり、反中国として台湾カードを使ってもおかしくはない。麻生氏個人の見方というべきだ」との分析を伝えた。与党・民進党の立法委員は同通信に「日本が台湾の努力を肯定してくれたのは非常にうれしい」と語った。【台北・庄司哲也】

毎日新聞 2006年3月11日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20060311ddm002010010000c.html

 「日本が台湾の努力を肯定してくれたのは非常にうれしい」って、なんだかなあ、こちょばゆいですなあ(苦笑

 ・・・

 なんだかなあ。



●朝日社説〜日中関係 これでは子供のけんかだ

 さあそして真打ち登場(爆

 本日(11日)の朝日社説であります。

日中関係 これでは子供のけんかだ

 「名前が何なの。バラはどんな名でも同じように甘くかおるのに」と言ったのは、シェークスピア劇のジュリエットだった。宿敵モンタギュー家のロミオと恋に落ちた彼女にとって、家の名前などどうでもよかったのだ。

 台湾を「国」と繰り返し呼ぶ麻生外相も、まさか同じ思いではあるまい。だが、国と呼ぼうが地域と呼ぼうが、台湾は台湾だと言わんばかりである。

 外相は国会答弁で、台湾について「民主主義が成熟し、経済面でも自由主義を信奉する法治国家」であり、「日本と価値観を共有する国」と述べた。

 実態はそれに近いだろう。台湾では96年の総統選以来、直接選挙で政権トップが選ばれ、自由経済も栄えている。だが、ことが外交となると、何という名で呼ぶかは決定的な意味を持つ。

 72年の日中国交正常化で日本は台湾(中華民国)と断交し、外交の相手として中華人民共和国を選んだ。当時の国際情勢のなかで、日本が生き残っていくための国益を踏まえた重大な選択だった。

 そのときの日中共同声明で、日本は次のような約束をしている。

 中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。台湾が中華人民共和国の不可分の領土であるとする同国政府の立場を理解し、尊重する。

 この「ひとつの中国」路線に基づいて、以来、日本政府は台湾を「国」とは呼んではいない。それは、世界の多くの国も同様だ。

 「国」発言は先月、福岡市での講演でも飛び出した。中国は今回、「共同声明に違反する発言だ」と批判した。

 日本外交の基本政策をもてあそぶかのような外相の姿勢は著しく思慮に欠けたものだ。

 台湾の位置づけは、日本にとって重要であるだけではない。台湾の一部にある独立志向や、場合によっては武力行使も辞さずという中国の強硬姿勢は、この地域の潜在的な紛争要因になっている。米中間でも外交、軍事の中心テーマであり、日本も含めて真剣な外交戦が繰り広げられている。

 そんな大事な問題で、言い間違いを装うかのように「国」と繰り返し呼んで中国を刺激するのは、危険であるばかりか、外交として下策である。言葉を軽く扱う外交は信頼されない。

 折しも、中国の李肇星外相が他国の政府当局者の言葉を引く形で、小泉首相の行動を「愚かで不道徳」と言い、安倍官房長官が不快感を表明した。日本側が在京の中国大使を呼ぼうとしたところ「多忙」を理由に断られ、電話で抗議を伝えざるを得なかったという。

 中国外務省は北京で、日本側の不快感表明にさらに反論した。

 なんと不毛な応酬だろうか。こんな子供のけんかのようなことが続くのでは、外交と呼ぶにはほど遠い。両政府とも早く頭を冷やして、大人の対応を取り戻してもらいたい。

【社説】2006年03月11日(土曜日)付 朝日新聞
http://www.asahi.com/paper/editorial.html

 ・・・

 日中関係 これでは子供のけんかだ」ですか。

 大人の社説ですねえ(←棒読み

 この朝日社説の結語はどうです。

 なんと不毛な応酬だろうか。こんな子供のけんかのようなことが続くのでは、外交と呼ぶにはほど遠い。両政府とも早く頭を冷やして、大人の対応を取り戻してもらいたい。

 素晴らしい・・・(←棒読み

 ・・・

 ふう。

 あのですね。

 「これでは子供のけんかだ」って、朝日新聞、あんたにだけはいわれたくなかった(苦笑)との思いを抱くのは私だけではありますまい。

 だいたい、中国の政治家の聞き捨てならない発言があれば真っ先に怒りまくるのが産経社説であり、日本の政治家の聞き捨てならない発言があれば真っ先に怒りまくるのが朝日社説なのは、有名な話なのであります。

 今回だって第一ラウンドの中国外相発言「このような愚かなこと、非道徳的なことを、日本の指導者はなぜできるのか」では早速産経社説が取り上げて怒りまくり、第二ラウンドの麻生外相発言「台湾は今も極めて教育水準が高い国だ」では、朝日社説がまってましたとばかりに取り上げてるじゃないですか。

 朝日と産経が社説を使って靖国問題などを実は仲良く煽ってきたことは棚に上げちゃうのでしょうか。

 今回だってこれまで麻生発言をさんざん煽ってきていて、「早く頭を冷やして、大人の対応を取り戻してもらいたい」もなにもないでしょう。

 朝日社説こそ「早く頭を冷やして、大人の対応を取り戻してもらいたい」です。



(木走まさみず)