木走日記

場末の時事評論

朝日とニューヨークタイムスのすばらしいシンクロ(同調)〜両紙の麻生氏批判社説を徹底比較検証する

 日本とアメリカの代表的なオピニオンリーダー紙である、朝日新聞とニューヨークタイムスの麻生外相発言に関する最近の社説を徹底比較検証してみましょう。

 今日は国際的メディアリテラシー実践編なのであります。



●2月11日付け朝日新聞社説〜麻生発言 外交がとても心配だ

 まずは2月11日付けの朝日新聞社説から・・・

麻生発言 外交がとても心配だ

 かつて日本は朝鮮半島や台湾を植民地にした。しかし、それは必ずしも悪いことではなかった。麻生外相はそう言いたくて仕方がないかのようだ。

 先週末、福岡市での講演で、日本が戦後のアジア各国の発展を支えたと説くなかでこう述べた。

 「日清戦争のころ、台湾という国を日本に帰属することになった時に、日本が最初にやったのは義務教育です。貧しい台湾の人々が子どもを学校にやったらカネをやるという大英断を下した」

 「結果として、ものすごく教育水準があがって識字率が向上した。おかげで、台湾という国は極めて教育水準が高い国であるがゆえに、今の時代に追いつけている」

 思い出されるのは、麻生氏が自民党政調会長だった03年、韓国を植民地支配した時代の創氏改名について、朝鮮の人々が望んでいたかのような発言をして猛反発を招いたことである。

 望んでいたのだから創氏改名には問題がなかった、朝鮮人のためを思ってやったことだ。そう言わんばかりだった。

 日本の植民地統治の負の部分は素通りして、プラスの側面ばかりを強調する。これでは、植民地支配を正当化しようとする勢力の主張と重なり合って見られても仕方がない。

 日本政府は植民地支配を反省し、謝罪を表明している。小泉首相も昨年8月の首相談話で明快に語った。この政府の見解を繰り返し説明し、理解を得る努力をするのが外相の本来の仕事のはずだ。

 なのに、国内向けにはトーンの違う発言をし、外国から疑念を招いている。米国の有力紙ボストン・グローブは社説で麻生発言を紹介し、近隣諸国を挑発する愚かしさを批判した。

 歯に衣(きぬ)着せぬ「本音トーク」は、麻生氏の政治家としての「売り」のひとつかもしれない。だが、首相の靖国神社参拝にからんで「天皇陛下の参拝が一番」と発言したのに続き、軽率に過ぎないか。日本外交を麻生氏に委ねるのは、極めて心配だ。

 麻生氏の講演にはもうひとつ、別の問題があった。「ひとつの中国」という政府の方針に反して、台湾を「国」と繰り返し表現したことである。

 米中、日中間で台湾問題はとても微妙な事柄だ。中国が不可分の領土と主張する台湾に「国」の呼称を使うことの意味を、外相が知らぬはずはあるまい。「地域」とすべきところを言い誤ったのだと思いたい。

 だが、2日後の記者会見では「国」と述べた発言の報道を否定して、こう述べた。「台湾を国と言ったら問題になるということぐらい、25年間朝日新聞にやられてますから。そんなにバカでもない」

 あまりに強く否定するので、こちらも録音を聞き直したら、確かに言っているではないか。口が滑ったというのなら、素直に自らの言葉の不適切さを認めるべきだ。

【社説】2006年02月11日(土曜日)付 朝日新聞
http://www.asahi.com/paper/editorial20060211.html

 うーむ、相変わらず麻生外相の歯に衣着せぬ率直発言なのでありますが、朝日新聞社説はたいそう細かいことまでお怒りのようです。(苦笑

 少しこの社説、論説を簡単に整理しておきましょう。

 社説で問題にしている麻生発言は以下です。

 「日清戦争のころ、台湾という国を日本に帰属することになった時に、日本が最初にやったのは義務教育です。貧しい台湾の人々が子どもを学校にやったらカネをやるという大英断を下した」
 「結果として、ものすごく教育水準があがって識字率が向上した。おかげで、台湾という国は極めて教育水準が高い国であるがゆえに、今の時代に追いつけている」

 これら日本の植民地政策のお陰で今日の台湾の発展があるとの麻生発言に対して、朝日社説はこう批判します。

 日本の植民地統治の負の部分は素通りして、プラスの側面ばかりを強調する。これでは、植民地支配を正当化しようとする勢力の主張と重なり合って見られても仕方がない。

 さらに、最近の麻生氏の天皇陛下靖国参拝関連発言を取り出して批判を続けています。

 歯に衣(きぬ)着せぬ「本音トーク」は、麻生氏の政治家としての「売り」のひとつかもしれない。だが、首相の靖国神社参拝にからんで「天皇陛下の参拝が一番」と発言したのに続き、軽率に過ぎないか。日本外交を麻生氏に委ねるのは、極めて心配だ。

 で、最後にかなり細かいクレームを麻生氏にぶつけています。

 麻生氏の講演にはもうひとつ、別の問題があった。「ひとつの中国」という政府の方針に反して、台湾を「国」と繰り返し表現したことである。

 台湾を繰り返し「国」といったのはけしからんわけです。で、後日の麻生氏の弁明で、「「台湾を国と言ったら問題になるということぐらい、25年間朝日新聞にやられてますから。そんなにバカでもない」 といった麻生氏の発言を取り上げています。

 結語はこうです。

 あまりに強く否定するので、こちらも録音を聞き直したら、確かに言っているではないか。口が滑ったというのなら、素直に自らの言葉の不適切さを認めるべきだ。

 うーん、なんというささいな結論なのだろう(苦笑)

 ・・・

 とにかく簡単に整理するとこの社説の骨組みはこうなります。

1.麻生氏の台湾植民地政策肯定発言と天皇靖国神社参拝に関連した発言の批判

2.麻生氏の発言後の弁明がぜんぜん弁明になっていないぞという細かい批判

 特に2番目は、「25年間朝日新聞にやられてますから。そんなにバカでもない」という麻生発言がよっぽど腹が立ったのでしょうか、不肖・木走がざっとチェックしたかぎりここまでしつこく(失礼)追求しているのは朝日だけでした。(苦笑)

 ・・・



●2月13日付けニューヨークタイムズ社説〜日本の不快な外務大臣

 で、朝日社説が掲載された2日後に、海の向こうのニューヨークタイムス紙に、偶然にも同じ麻生外相批判の社説が掲載されたのであります。

 一昨日(13日)のニューヨークタイムス社説から・・・
(例によって邦訳は木走がしましたのでそこんとこヨロシクです(苦笑))

Editorial
Japan's Offensive Foreign Minister
Published: February 13, 2006

社説
日本の不快な外務大臣
発行日: 2006年2月13日

People everywhere wish they could be proud of every bit of their countries' histories. But honest people understand that's impossible, and wise people appreciate the positive value of acknowledging and learning from painful truths about past misdeeds. Then there is Japan's new foreign minister, Taro Aso, who has been neither honest nor wise in the inflammatory statements he has been making about Japan's disastrous era of militarism, colonialism and war crimes that culminated in the Second World War.

 どこであっても人々は、自分たちの国のあらゆる歴史上の事象に対し誇りに思えることを望んでいるものである。しかしながら、正直な人々は、それが不可能であることを理解しており、賢明な人々は、過去の悪行に関する苦痛な真実を認めそして学ぶことのその肯定的価値を認めている。そしてさて、日本の第二次大戦中に絶頂に達した軍国主義植民地主義および戦争犯罪の悲惨な時代に関する扇動的な声明を出し続けている、正直でなく賢くもない日本の新外務大臣麻生太郎がいるのである。

Besides offending neighboring countries that Japan needs as allies and trading partners, he is disserving the people he has been pandering to. World War II ended before most of today's Japanese were born. Yet public discourse in Japan and modern history lessons in its schools have never properly come to terms with the country's responsibility for such terrible events as the mass kidnapping and sexual enslavement of Korean young women, the biological warfare experiments carried out on Chinese cities and helpless prisoners of war, and the sadistic slaughter of hundreds of thousands of Chinese civilians in the city of Nanjing.

 同盟国と貿易相手国として日本に必要である激怒する隣国以外においても、彼は関わりを持ってきた人々にとり役立っていないのである。第二次世界大戦は今日の日本人の大多数が生まれる前に終わっている。いまだしかし、日本の公式表明および近代史教育は、韓国人の若い女性の大規模誘拐と性的な奴隷状態、中国の都市と無力な捕虜の上で実行された生物兵器戦争実験、および南京市での何十万人もの中国人の民間人のサディスト的な虐殺、このようなひどい出来事への国の責任に対し、決して適切には折り合いをつけれてはいないのである。

That is why so many Asians have been angered by a string of appalling remarks Mr. Aso has made since being named foreign minister last fall. Two of the most recent were his suggestion that Japan's emperor ought to visit the militaristic Yasukuni Shrine, where 14 Japanese war criminals are among those honored, and his claim that Taiwan owes its high educational standards to enlightened Japanese policies during the 50-year occupation that began when Tokyo grabbed the island as war booty from China in 1895. Mr. Aso's later lame efforts to clarify his words left their effect unchanged.

 麻生氏が去年の秋に外務大臣に任命されて以来表明され続けている一連の恐ろしい所見、それこそが多くのアジア人たちが腹を立てている理由なのである。最新の2つ(の所見)としては、日本の天皇は14人の日本の戦勝犯罪人も祀られている軍国主義的な靖国神社を参拝するべきであるという彼の提案と、台湾のその高い教育水準は日本政府が1895年に戦利品として中国から領有したときから始まった50年間の占領時代の日本の政策によりもたらされたのだという彼の主張である。麻生氏の彼の言葉を明確にするためのその後の不十分な努力は、これら所感の影響に変化をもたらさなかった。

Mr. Aso has also been going out of his way to inflame Japan's already difficult relations with Beijing by characterizing China's long-term military buildup as a "considerable threat" to Japan. China has no recent record of threatening Japan. As the rest of the world knows, it was the other way around. Mr. Aso's sense of diplomacy is as odd as his sense of history.

 麻生氏は、また、中国の長期にわたる軍備増強を日本に対する「かなりの脅威」として特徴付けることにより、中国政府と日本の既に難しい関係をわざわざ燃え上がらせてもいる。中国に日本を脅かす最近の記録は何もない。他の世界中の国々が知っているとおり、それは逆なのである。麻生氏の外交感覚は彼の歴史感覚と同じぐらい変である。

(訳:木走まさみず)

ニューヨーク・タイムズ 2月13日社説
http://www.nytimes.com/2006/02/13/opinion/13mon3.html?_r=1&oref=slogin

 うーん、強烈な社説ですなあ。

 特にここ

the mass kidnapping and sexual enslavement of Korean young women, the biological warfare experiments carried out on Chinese cities and helpless prisoners of war, and the sadistic slaughter of hundreds of thousands of Chinese civilians in the city of Nanjing.

韓国人の若い女性の大規模誘拐と性的な奴隷状態、中国の都市と無力な捕虜の上で実行された生物兵器戦争実験、および南京市での何十万人もの中国人の民間人のサディスト的な虐殺

 日本の左翼紙でも余り見ない強烈な激情的描写なのであります。(苦笑

 ・・・

 で、当日記として注目したいのは、このニューヨークタイムスの麻生批判社説ですが、その後半の極めて興味深い論説の骨格なのであります。

 以下の箇所、注目してください。

 注:太字は木走付記

That is why so many Asians have been angered by a string of appalling remarks Mr. Aso has made since being named foreign minister last fall. Two of the most recent were his suggestion that Japan's emperor ought to visit the militaristic Yasukuni Shrine, where 14 Japanese war criminals are among those honored, and his claim that Taiwan owes its high educational standards to enlightened Japanese policies during the 50-year occupation that began when Tokyo grabbed the island as war booty from China in 1895. Mr. Aso's later lame efforts to clarify his words left their effect unchanged.

 麻生氏が去年の秋に外務大臣に任命されて以来表明され続けている一連の恐ろしい所見、それこそが多くのアジア人たちが腹を立てている理由なのである。最新の2つ(の所見)としては、日本の天皇は14人の日本の戦勝犯罪人も祀られている軍国主義的な靖国神社を参拝するべきであるという彼の提案と、台湾のその高い教育水準は日本政府が1895年に戦利品として中国から領有したときから始まった50年間の占領時代の日本の政策によりもたらされたのだという彼の主張である。麻生氏の彼の言葉を明確にするためのその後の不十分な努力は、これら所感の影響に変化をもたらさなかった。

 これは興味深い。

 ここの箇所太字中心に整理するとこうです。

1.麻生氏の天皇靖国神社参拝に関連した発言と台湾植民地政策肯定発言の批判

2.麻生氏の発言後の弁明がぜんぜん弁明になっていないぞという細かい批判

 ・・・

 うーん、どっかで見覚えありませんか。

 このNYT(ニューヨークタイムス)社説が掲載された13日のわずか2日前(正確には時差考えると3日かも)の11日に日本の朝日新聞に掲載された社説の論説の骨格にそっくりではありませんか。

 ・・・

 わすか2日の間隔で海を隔てて、日米2大国のそれぞれの国を代表するオピニオンリーダー紙の社説に、神憑り(かみがかり)的なシンクロ(同調)現象が起きたのであります。

 ・・・

 ふう。お見事です。



●社説までシンクロ(同調)する朝日社説とNYT社説

 なんだかなあ、細かくリテラシーしすぎかも知れませんが、タイミングと言い、内容と言い、ちょっとシンクロ(同調)しすぎではないでしょうか。

 昨年の4月に、当ブログでは、朝日新聞とニューヨークタイムスの奇妙な関係についてエントリーして、ちょっとした話題になりました。

中国反日デモ〜ニューヨークタイムスのマッチポンプ報道を検証する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050418

 で、そのエントリーから以下抜粋・・・

 (前略)

朝日新聞からニューヨークタイムスに流れるマッチポンプ的情報発信

 さらに記者署名にある「オオニシ ノリミツ」という名前は明らかに日系であり、二重に驚かされるのであります。

 このオオニシノリミツ氏とはいかなる人物なのか、『愛・蔵太の気ままな日記』で愛・蔵太さんがするどく指摘されています。

『愛・蔵太の気ままな日記』
ニューヨークタイムズ紙にマツケンのことを書いた「NORIMITSU ONISHI」という人は、もっとすごい人らしい
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20050311

 詳しくは『愛・蔵太の気ままな日記』をお読みいただくとして、ここでは結論だけ述べますが、オオニシノリミツ氏とは、ニューヨーク・タイムズ紙東京支局長である大西哲光氏のことです。

 さらに、ニューヨークタイムス東京支局の所在地は、東京都中央区築地5丁目3-2であり、朝日新聞社東京本社の所在地である東京都中央区築地5丁目3-2と一致しています。

 朝日新聞→ニューヨークタイムス東京支社大西→ニューヨークタイムス→共同通信 というマッチポンプの流れがデフォルトであるというのです。

 (後略)

 前回のエントリーは、大西哲光氏に絞り朝日新聞からニューヨークタイムスに流れるマッチポンプ的情報発信について検証したのでした。

 しかし、今回の朝日社説とNYT社説の比較検証で浮上するのは、社説までシンクロ(同調)し始めたということなのです。

 ・・・

 すばらしい。



(木走まさみず)