[社会]一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(2)〜『しんぶん赤旗』と『報道ステーション』と『JANJAN』にダメ出ししておく
前回のエントリーの続きです。
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか〜民間委託問題にすり替える邪論を排する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051129/1133237798
この前回エントリーですが、多くのサイトにも取り上げていただき、またコメント欄でもいろいろな情報提供いただいたり技術的な深い議論を展開していただきました。
前回も説明しましたが 不肖・木走は、この問題では本業で関わっており、無責任な発言はできないのであります。
当事者とまではいいませんが、IT関連業者として、チェックする側の地方自治体と国家認定された民間検査会社、そしてデベロッパーと意匠設計事務所・構造設計事務所、すべて不肖・木走の会社のクライアントなのであり、ある程度業界を知る者として、読者の皆様に私の顧客に迷惑のかからない許される範囲で、知る限りの情報発信をしております。
●『しんぶん赤旗』と『報道ステーション』と『JANJAN』にダメだししておく
『一にも二にも悪いのは売り主ではないのか〜民間委託問題にすり替える邪論を排する』という前回のエントリータイトルにも明確にしてあるとおり、当ブログとしての主な主張は2点ありました。
1点は一部メディアが主張している検査の民営化の問題に矮小化するのは邪論であり業界の実態を無視した暴論であるという点であります。この点に関しましては、主だった異論・反論もなく、逆に多くの支持・賛同をいただきました。
はっきりさせるために、具体的に名指しでメディア報道にダメ出ししておきます。
■11月28日付けインターネット新聞JANJAN記事
耐震計算偽装と「小さな政府」
http://www.janjan.jp/living/0511/0511265620/1.php?PHPSESSID=e0bfa18d84d76de1d9a8e99233218217
■11月27日付け「しんぶん赤旗」日曜版の記事
■耐震偽造・「官から民」の弊害くっきり
建築確認申請をおこなう際に添付するのが、耐震性を示す構造計算書。それを設計事務所がいとも簡単に偽造。被害が広がっています。これを検査する民間検査機関は、この不正を見ぬけませんでした。以前は、自治体の建築主事がおこなってきたもの。98年の建築基準法「改正」で民間任せの建築確認にしたのです。法改定に「手抜きされる恐れがある」と国会で反対したのは共産党だけ。耐震偽造マンションの手口は福岡にも広がりを見せています。衝撃を追っています。
「しんぶん赤旗」日曜版2005年11月27日号より
http://www.jcp.or.jp/akahata/week/index.html
また、テレビでは「報道ステーション」が明らかに偏向した報道でありました。長野智子氏がご自身のブログで謝罪しておりますので参考までに紹介しておきます。
長野智子blog
偽装マンションについて
http://yaplog.jp/nagano/archive/126
しつこいですが、この問題は官から民への検査業務の「民間委託」による弊害(検査精度の劣化)では全くありません。
上記の記事及び報道は、全く業界の実態を無視した偏向した恣意的な虚報であります。
もう一度前回エントリーで述べた該当個所を引用しておきます。
おそらくはこれから先にも官民問わず検査漏れの案件が続出するでありましょうが、官から民へ検査事業が「規制緩和」されたから検査の精度が下がったわけでは全くないことは官の検査からも続々検査漏れが現出している事実ひとつとっても自明なのであります。
私が知る限りの事実は逆です。多くの自治体の検査担当官が真面目に勉強し誠実に仕事をこなしていることは認めた上でですが、実務経験のほとんどない自治体職員には構造設計という特殊な検査は荷が重すぎるのです。
これは日本の行政の構造上の問題なのですが専門家が少なすぎるのであって、今回の「規制緩和」して民間会社に検査事業を解放した事情も、おそらくはこうした役所側のせっぱつまった事情によるところが大きいのです。
当時から役所では算出された計算結果のチェックよりも、提出書類に不備はないか形式上のチェックが主流であったことは業界では有名な話であります。
たまたま今回、姉歯某という勘違いした設計者がオソマツでくだらない不正を行ったために判明してしまったわけですが、民間審査機関だから検査漏れが起きたわけでは全くなく、まだ民間会社だから、正直に不正の事実を公表した側面もあるのだと思います。
前回エントリーより抜粋
●再度主張します〜最も重い社会的責任は開発会社ヒューザーに集約されるべきである
前回のエントリーで私が主張した2点目は、責任の所在を明らかにすべきであり「一にも二にも悪いのは売り主」つまり施主(デベロッパーや不動産会社)であるという主張なのでしたが、私の舌っ足らずなテキストのせいもあり、議論を呼んでしまいました。
この点に関しては、私がつたなく再度説明するよりも、前回のコメント欄における二人の専門家の方のコメントがなによりわかりやすくこの問題を説明されていますので、ここで再度引用させていただきます。
②最も悪いのは誰かと言えば、設計を行った当事者でしょう。ただし、誰が最も重い責任を負うべきかについては、木走さんのご意見に賛成です。刑罰的負担と民事的負担は分けて考えるべきだと思います。これは、社会的責任の度合いを勘案する必要があると思います。
前回のコメント欄よりmasashi様のコメントより抜粋
実は昨夜は建設関係の方(とはいってもまともな会社ばかりですが)の会合に行ってきたのですが今回のようなことが起きることはみんな前から予想はしていたんですね。いまやまともな建設会社は得体の知れないデベロッパーのマンションなんかアホらしくて受注しませんから。僕は今回の件を業界の問題にしてまうことも、税金をそういうところに所に投入するのも反対です。諸悪の根元は、開発会社ヒューザーにあると主張される木走さんのご主張に全面的に賛同します。こうした企業のモラルに疑問を呈します。
前回のコメント欄よりkumarin様のコメントより抜粋
要約すれば、実行犯としての姉歯某建築士の重い責任は当然厳しく問われるべきですし、ろくな検査を行ってこなかった検査会社イーホームズとやらの責任も追及されて当然ではありましょう。
しかし、ユーザー(購入者・居住者)や国民の立場から考えた場合、この件での道義的社会的責任は、一にも二にも『売り主』(胴元)である開発会社ヒューザーにあるのであり、またそのように社会の常識ルールを確立すべきであると強く思うのであります。
●日本ERIにソフトの脆弱性を指摘する資格などあるのか?
今日(12月1日)の朝日新聞の速報から・・・
マンションなどの耐震強度偽装問題で、民間の検査機関日本ERI(東京都港区)が、建物の構造計算に使う国土交通相認定の専用のソフトに、市販のソフトでデータを改ざんできる欠点があると指摘している。姉歯建築設計事務所が強度偽装に使っていた疑いがあるという。開発した会社は「ソフト自体に脆弱(ぜいじゃく)性があったとは考えていない」としている。
国交省は姉歯事務所による構造計算書偽造について、別々の数値を入力した複数の書類を組み合わせる手口だったと明らかにした。しかし日本ERIが検証したところ、別の方法で強度を偽装したとみられる例があった。市販の文書編集ソフトで計算途中のデータ書き換えが可能で、不正なデータを入力しても「適合」との結果が出ることが判明。正しいプログラムを使ったことを示す認定番号も印刷できるという。
同社は「この場合、通常の審査で改ざんを見破ることは難しい」と説明。近く国交省に報告するという。
日本ERIは姉歯事務所がかかわった16物件に建築確認を出し、うち少なくとも11件で書類が偽造されていた。
姉歯事務所が使っていたソフトの開発会社は「プログラム自体を操作・改変することは極めて困難だ」としている。
2005年12月01日10時07分 朝日新聞
http://www.asahi.com/special/051118/TKY200511300365.html
うーん、ですから計算ソフトなど如何様にも恣意的に操作できるのです。
他のサイトでも結構取り上げていただいた前回エントリーのトピックから関連する2点を再度表記しておきます。
■自治体職員には構造設計という特殊な検査は荷が重すぎる〜日本の行政の構造上の問題なのですが専門家が少なすぎる
多くの自治体の検査担当官が真面目に勉強し誠実に仕事をこなしていることは認めた上でですが、実務経験のほとんどない自治体職員には構造設計という特殊な検査は荷が重すぎるのです。
これは日本の行政の構造上の問題なのですが専門家が少なすぎるのであって、今回の「規制緩和」して民間会社に検査事業を解放した事情も、おそらくはこうした役所側のせっぱつまった事情によるところが大きいのです。
当時から役所では算出された計算結果のチェックよりも、提出書類に不備はないか形式上のチェックが主流であったことは業界では有名な話であります。
たまたま今回、姉歯某という勘違いした設計者がオソマツでくだらない不正を行ったために判明してしまったわけですが、民間審査機関だから検査漏れが起きたわけでは全くなく、まだ民間会社だから、正直に不正の事実を公表した側面もあるのだと思います。
前回エントリーより抜粋
■そもそも構造設計システムは恣意的に計算結果を操作し得る〜計算手法を工夫して耐震性を確保して設計している建物がごろごろ存在している事実
私は構造設計システムを何度か手がけてきましたが、実はここで重要な疑義があります。
今回の姉歯某の手口はシステムに与えるパラメータを不正に低くしたわけで確信犯でありますが、実はプログラムロジックを工夫することにより、パラメータを低くしなくても結果として基準を満たす計算結果を得るように構造計算することはいくらでも可能であるのです。
そしてそのように計算手法を工夫して耐震性を確保して設計している建物がごろごろ存在し、それは不正でも何でもなく法律違反でもないのです。
詳しくは語れませんが、検査で発覚する・発覚しない以前に、そもそも構造設計書そのものは建築する前の仮想状況の中の工学試算であるために、恣意的に計算結果を操作し得るものであることは、建築技術士の方や関わったコンピュータエンジニアの人達には、常識なのであります。
前回エントリーより抜粋
上記2点は紛れもない事実です。
しかし、そもそも検査会社最大手である日本ERIにソフトの脆弱性を指摘する資格などあるのでしょうか?
この問題まだまだ深く掘り下げてまいります。
(木走まさみず)
<関連テキスト>
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか〜民間委託問題にすり替える邪論を排する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051129/1133237798
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(3)〜最大手検査会社日本ERIの醜態
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051201/1133434839
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(4)〜「構造計算のことはわからない」と断言した「総合経営研究所」の胡散臭さ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051203/1133576168
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(5)〜メディアは傍観者になるな!金亡者達を業界から駆逐せよ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051204/1133625004