木走日記

場末の時事評論

偽装物件ザル検査の47%は実は行政・自治体側だ!〜何故マスメディアは国交省・自治体側の責任を追求しないのか?

ヒューザー・小嶋社長ら詐欺容疑で逮捕 耐震偽装事件

 昨日(17日)の朝日新聞記事から・・・

ヒューザー・小嶋社長ら詐欺容疑で逮捕 耐震偽装事件

 耐震強度偽装事件で、警視庁と千葉、神奈川県警の捜査本部は17日、強度不足と知りながらマンションを販売したとする詐欺容疑で、マンション販売会社「ヒューザー」(東京都大田区、破産手続き中)社長の小嶋進容疑者(52)を逮捕した。同様の事情を認識しながら建設したホテルの工事代金を受け取ったとして、同容疑で「木村建設」(熊本県八代市、同)社長の木村盛好(74)、元専務の森下三男(51)の両容疑者を再逮捕した。捜査は欠陥建築物に対する刑事責任追及の核心に入った。3人は容疑を否認しているという。

耐震強度偽装事件の相関図

 調べでは、小嶋社長は05年10月28日、神奈川県藤沢市のマンション「グランドステージ(GS)藤沢」の強度不足を知りながらそれを告げず、購入者1人から販売代金として5000万円余をだまし取った疑い。

 また、木村社長と森下元専務は同年11月7日、「サンホテル奈良」(奈良市)の強度不足を知りながらそれを告げず、ホテル側から工事代金の一部2億2500万円をだまし取った疑い。

 GS藤沢の耐震強度は必要とされる基準の15%、サンホテル奈良は44%しかなく、捜査本部はいずれのケースも、本来告げるべき重大な事実を伏せ、財物をだまし取った「不作為の詐欺」にあたると判断した。

 関係者の話や捜査本部の調べでは、ヒューザー幹部は05年10月25日、民間検査機関「イーホームズ」から、姉歯秀次建築士(48)による構造計算書の偽造を告げられた。報告を受けた小嶋社長は2日後、GS藤沢などの計算書偽造を前提にイーホームズと善後策を話し合う場を持った。その後、木村建設幹部にも強度不足は知らされたという。

 小嶋社長がGS藤沢の購入者から代金を受け取ったのは同月28日。木村社長らも翌月7日、ホテルの工事代金を受け取っており、捜査本部はいずれも強度不足を事前に知っていたとみている。

   ◇  ◇

 東京地検は17日、姉歯建築士ら2人を建築士法違反幇助(ほうじょ)などの罪で、木村建設の木村社長と篠塚明元東京支店長(45)を建設業法違反の罪で、イーホームズ藤田東吾社長(44)を電磁的公正証書原本不実記録などの罪でそれぞれ起訴した。

2006年05月17日20時20分
http://www.asahi.com/special/051118/TKY200605170275.html

 遂に「ヒューザー」(東京都大田区、破産手続き中)社長の小嶋進容疑者が逮捕されました。

 この逮捕により、姉歯建築士木村建設の木村社長と篠塚明元東京支店長(45)、イーホームズ藤田東吾社長(44)が全て起訴されたことになります。

 また姉歯建築士木村建設イーホームズ、そしてヒューザー、主だった登場人物が全て廃業に追い込まれたことになります。

 法的責任の解明は全てこれからですが、彼等の社会的立場は文字通り「粉砕」されたわけで現時点でも十分な社会的制裁を受けたと言っていいでしょう。

 ・・・


耐震偽装 捜査は本丸に迫った〜朝日社説から

 今日(18)日の朝日社説から・・・

耐震偽装 捜査は本丸に迫った

 「その件に関しましては証言を控えさせていただきます」

 耐震強度偽装事件をめぐって今年1月に開かれた衆議院での証人喚問で、訴追の恐れなどを理由に証言拒否を連発したマンション販売会社「ヒューザー」の小嶋進社長が詐欺の疑いで逮捕された。

 同社が神奈川県藤沢市で販売したマンションについて、耐震強度が不足しているのを知りながら、その事実を契約者に告げずに代金を受け取った容疑だ。

 関係者の話や捜査本部の調べでは、小嶋社長は、昨年10月末、建築確認検査会社「イーホームズ」の関係者らとマンションの耐震性に問題があることを話し合っていた。

 ヒューザーは、その翌日に契約者から購入代金を受け取ったとされるが、小嶋社長は取材に対して「違法性の認識はなかった。引き渡しに問題はないと考えていた」と説明している。

 耐震強度が足りないマンションを買った住民にとっては、気の休まらない日々が続く。退去を余儀なくされただけでない。建て替えたとしても、今度は二重ローンに苦しむことにもなる。事実関係を一日も早く解明し、売り主の責任をはっきりさせるべきだ。

 もう一つ、政治家による介入はあったのか。こちらも明らかにしてほしい。小嶋社長と連れだって元国土庁長官の伊藤公介・衆院議員(自民)が国土交通省を訪れているからだ。

 耐震偽装問題を公表する2日前とされる。伊藤氏は働きかけを否定するが、住宅局長は国会で「伊藤議員から『建築確認検査機関を指定した国にも責任がある』といわれた」と語っている。

 一方、木村建設木村盛好社長は、決算を粉飾したとして建設業法違反の罪で起訴されたうえ、詐欺容疑で再逮捕された。奈良市内に建てたホテルの強度が足りないことを知りながら、工事代金を受け取った疑いが持たれている。耐震偽装に絡んで、施工した側がどのような行動をとったのか。その解明も焦点だ。

 耐震強度の偽装が公表され、国民が大きな衝撃を受けてから半年。捜査は疑惑の本丸に迫ってきたが、事実関係では不透明な部分が目に付く。

 知人に名義を貸したとして建築士法違反幇助(ほうじょ)の罪で起訴された姉歯秀次建築士。国会では、木村建設から鉄筋量を減らすように圧力を受けたと証言しているが、裏付ける事実は明らかになっていない。98棟に及ぶ偽装は、元建築士がひとりで考えて、実行したことなのか。

 イーホームズ藤田東吾社長も、増資の際に偽の登記をしたとして起訴された。問題の物件に建築確認を出していた同社の検査の実態がどのようなものだったのか。知りたいのは入居者だけではないだろう。

 建築行政のどこに問題があったのかを明らかにしたうえで、抜本的に改める。そうでない限り、国民は安心して住まいを選ぶことができない。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html

 朝日社説の「本丸」とは文脈からすると元国土庁長官の伊藤公介・衆院議員(自民)のことのようですが、本当に彼がこの事件の「本丸」なのでしょうか。

 社説の結語

 建築行政のどこに問題があったのかを明らかにしたうえで、抜本的に改める。そうでない限り、国民は安心して住まいを選ぶことができない。

 「建築行政のどこに問題があったのかを明らかにしたうえで、抜本的に改める」この点でこの一連の逮捕劇は本当に「本丸」にせまっているのでしょうか。

 ・・・

 私にはこれらの逮捕劇が「とかげのしっぽ切り」にしか見えないのです。

 なぜならば遡上に上がって起訴された者は全て民間人であり、耐震偽装事件における国交省自治体側の無策・行政責任がまったく問われていないからです。

 行政・自治体は不問のままなのは何故なのでしょう?

 今回の一連の事件で、発端となった姉歯建築士や販売会社ヒューザー小嶋進社長の責任は厳しく追求されるべきなのは当然でしょう。

 しかし、この耐震偽装事件には、デタラメの設計をした建築士やそれを販売した販売会社と同様に厳しく問われるべき存在として、まったく検査がザルで偽装を見抜けなかった検査機関の存在を忘れてはいけません。

 今回の一連の起訴で、検査機関としてはイーホームズ藤田東吾社長だけが別件起訴されていますが、これでは「とかげのしっぽ切り」なのです。

 検査がザルで偽装を見抜けなかったのは、何もイーホームズだけではないのです。
 ・・・



国交省の公開資料を徹底解析する

 国民は国交省自治体の姑息な責任逃れを見過ごしては断じてなりません。

 派手な逮捕劇に乗じて、国交省自治体は自らの責任を不問にしようとしています。

 今回、国交省の管理・指導の管轄である各検査機関がどれほど無能であり役に立たなかったかを、他ならぬ国交省の公開資料を徹底解析して検証してみましょう。

国交省のホームページ
http://www.mlit.go.jp/

 ここで、国交省が把握している現在までの偽装物件の情報がPDFファイルで公開されています。

姉歯一級建築士による構造計算書の偽装があった物件等(平成18年5月12日現在)【PDF形式】
http://www.mlit.go.jp/kozogiso/list.pdf

 最新情報(5月12日現在)のこの資料について検査機関を中心に分析してみました。
 全部で4ページに渡るこの表ですが、合計で121件の偽装物件が発覚したことがわかります。

【これまでに発覚した偽装物件】
姉歯建築士設計物件(施工済み)    85件
姉歯建築士設計物件(工事中・未着工) 13件
フジタ関連               1件
サムシング関連             3件
田中テル也関連             1件
ふなもと設計関連            1件
本田建築デザイン事務所関連       1件
浅沼良一建築士関連          16件
合計                121件

●偽装物件を検査した47%は行政・自治体側の機関

 この121件の偽造物件を建築確認し、偽装を見逃した検査機関はどのような分布なのか検査機関の統計をとってみました。

【民間機関】
日本ERI          23件
イーホームズ         37件
UDI確認検査         2件
ビューロベリタス        1件
東日本住宅評価センター     1件
小計             64件

【財団法人】
(財)日本建築総合試験所    1件
(財)北海道建築指導センター  3件
小計              4件

地方自治体】
札幌市             6件
愛知県             4件
川崎市             4件
横浜市             4件
福岡市             4件
熊本県             2件
静岡県             2件
京都府             2件
長野県             2件
岡崎市             2件
東京都             1件
岐阜県             1件
群馬県             1件
佐賀県             1件
前橋市             1件
伊勢崎市            1件
中央区             1件
新宿区             1件
大田区             1件
渋谷区             1件
杉並区             1件
北区              1件
荒川区             1件
足立区             1件
台東区             1件
平塚市             1件
松本市             1件
大阪市             1件
姫路市             1件
和歌山市            1件
鹿児島県            1件
小計             53件

合計            121件

 121件中、57件(国交省系財団法人4件地方自治体53件)が行政・自治体の検査機関であります。

 実にザル検査を行った47%が行政・自治体側の機関なのであります。



耐震偽装事件における国交省の無策・行政責任を鋭く問う〜行政・自治体は不問のままなのは何故だ?

 民間ばかり起訴されて、一方の行政責任が一切問われないのは納得がいきません。

 国交省は事件発覚以来、全民間検査機関を徹底査察して引き締めてきました。

 半年前の日経新聞記事から・・・

(12/7)耐震偽装見逃しの民間検査機関すべて処分・国交省方針

 マンションなどの耐震強度偽装問題で、国土交通省は7日、偽装見逃しが発覚したすべての民間確認検査機関を建築基準法に基づき行政処分する方針を決めた。国交省は国指定の50検査機関に年内に立ち入り検査を行う予定で、審査実態を詳しく調べたうえで処分内容を決める。

 これまでに国交省が偽装見逃しを確認したのはイーホームズ(東京都新宿区、30件)、日本ERI(港区、7件)、ユーディーアイ確認検査(千葉県柏市、2件)、東日本住宅評価センター(横浜市、1件)、ビューローベリタスジャパン(横浜市、1件)など。

NIKKEI NET 12月7日
http://sumai.nikkei.co.jp/special/gizo/index.cfm?i=2005120710210s8

 しかしながら、半年が立ち全121件の偽装物件が明らかになった今、驚くべきことに偽装物件の47%は民間ではなく、行政・自治体側のザル検査だったわけです。

 民間機関は、全機関を徹底査察し、必要な処分をし、悪質なイーホームズにいたっては社長は逮捕・起訴、会社は廃業にまで追い込まれています。

 しかるに、行政・自治体側の責任は一切不問なのは何故なのでしょうか。

 私は半年前からこの問題を当ブログで取り上げてきました。

 また、インターネット新聞JANJANにおいても、私は記者として国交省の欺瞞めいた責任逃れを追求する記事を掲載してきました。

インターネット新聞JANJAN(2005/12/10)
耐震強度偽造問題:同じスキルを官民で差別する国交省の欺瞞
http://www.janjan.jp/living/0512/0512096145/1.php

 何故、日本のマスメディアはこの国交省自治体側の責任を追求しないのでしょうか。
 私にはまったく理解ができないのです。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
国交省は胡散臭い方針を撤回し、総研の全物件も含めて調査対象を広げよ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051215/1134619096
●ちょっと待ってよ国交省。安易な公金投入はおかしくないか?〜姉歯某は本当に一人だけなの?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051206/1133838946
●ちょっと待ってよ国交省(2)〜同じスキルを官民で差別する国交省の欺瞞
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051208/1134027988
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか〜民間委託問題にすり替える邪論を排する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051129/1133237798
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(2)〜『しんぶん赤旗』と『報道ステーション』と『JANJAN』にダメ出しする
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051201/1133417121
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(3)〜最大手検査会社日本ERIの醜態
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051201/1133434839
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(4)〜「構造計算のことはわからない」と断言した「総合経営研究所」の胡散臭さ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051203/1133576168
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(5)〜メディアは傍観者になるな!金亡者達を業界から駆逐せよ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051204/1133625004