木走日記

場末の時事評論

[社会]一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(3)〜最大手検査会社日本ERIの醜態

 本日は久しぶりにダブルエントリーです。

 今回も以下のエントリーの続きであります。

●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか〜民間委託問題にすり替える邪論を排する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051129/1133237798
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(2)〜『しんぶん赤旗』と『報道ステーション』と『JANJAN』にダメ出しする
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051201/1133417121

 今回は最大手検査会社日本ERIの醜態を検証しておきます。



●急に動きがおかしくなってきた業界最大手の検査会社・日本ERIとその周辺

 前回のエントリーで最後に触れた記事ですが、民間の検査機関では最大手である日本ERI(東京都港区)が、突然「建物の構造計算に使う国土交通相認定の専用のソフトに、市販のソフトでデータを改ざんできる欠点がある」とリークし始めました

国交省認定ソフトに欠点」 日本ERI指摘 耐震偽装

 マンションなどの耐震強度偽装問題で、民間の検査機関日本ERI(東京都港区)が、建物の構造計算に使う国土交通相認定の専用のソフトに、市販のソフトでデータを改ざんできる欠点があると指摘している。姉歯建築設計事務所が強度偽装に使っていた疑いがあるという。開発した会社は「ソフト自体に脆弱(ぜいじゃく)性があったとは考えていない」としている。

 国交省姉歯事務所による構造計算書偽造について、別々の数値を入力した複数の書類を組み合わせる手口だったと明らかにした。しかし日本ERIが検証したところ、別の方法で強度を偽装したとみられる例があった。市販の文書編集ソフトで計算途中のデータ書き換えが可能で、不正なデータを入力しても「適合」との結果が出ることが判明。正しいプログラムを使ったことを示す認定番号も印刷できるという。

 同社は「この場合、通常の審査で改ざんを見破ることは難しい」と説明。近く国交省に報告するという。

 日本ERIは姉歯事務所がかかわった16物件に建築確認を出し、うち少なくとも11件で書類が偽造されていた。

 姉歯事務所が使っていたソフトの開発会社は「プログラム自体を操作・改変することは極めて困難だ」としている。

2005年12月01日10時07分 朝日新聞
http://www.asahi.com/special/051118/TKY200511300365.html

 ようは、今回の姉歯建築士の強度インチキ偽装問題のとんだとばっちりを受けている業界最大手の日本ERIが、同社と姉歯事務所がかかわった16物件に建築確認を出し、うち少なくとも11件で書類が偽造されていた問題を、同社独自で再精査する羽目になったのです。

 で、再精査している中間発表として、検査会社だけが悪いんではなく、そもそも「建物の構造計算に使う国土交通相認定の専用のソフトに、市販のソフトでデータを改ざんできる欠点」があることが、あらためて確認できたので「この場合、通常の審査で改ざんを見破ることは難しい」と釈明し始めたわけです。

 うーん、ややこしいのですが、日本ERIのこの言い分は、私から言わせていただければ何を今更この期に及んで急にリークしたのかちっとも説得力はないと思うのですが、計算ソフトなど如何様にも恣意的に操作できるという点ではリーク内容そのものはまったく正しいのであります。

 しかし、何をあわてて日本ERIはこのような釈明をし始めているのか、時間をさかのぼり少し細かく検証してみると、この業界の闇の部分が見えてくるのであります。



●昨日はイーホームズ藤田社長発言を怒り、本日は 指定確認検査機関としてお詫びする、毎日忙しい日本ERIのプレスリリース

 日本ERIのホームページはこちらです。

日本ERI株式会社
http://www.j-eri.co.jp/

 で、日本ERIの昨日のプレスリリース(PDFファイル)から・・・

           平成17年11月30日
各 位

  会社名 日本ERI株式会社
  代表者名 代表取締役社長 鈴木崇英
  (JASDAQ・コード 2419)
  問合せ先
  役職・氏名  取締役  大塚和彦
  電話03−3796−0223

イーホームズ社:藤田社長の11/29国会での発言について

 昨日の衆院国交委の参考人招致において、イーホームズ藤田社長は、不確かな伝聞で事実確認をしていないとしながら「日本ERI姉歯建築士の構造計算書偽装を知りながら隠蔽した」と突然言い立てました。

 全く事実無根であり、国会の場でしかもテレビ中継を意識して、競争相手である当社に根も葉もない誹謗を浴びせて、当社の事業に意図的に打撃を与えようとしたものであり、極めて不当かつアンフェアなやり方であり、到底許されるものではありません。

 当社は、直ちにイーホームズ社:藤田社長を刑事・民事両面で告発・告訴することを検討しております。

 なお、当社は姉歯建築士による構造計算書偽装事件に関連して対象建築物の安全性の検証および手口の解明と再発防止策の徹底に全力で取り組んでおります。
                                         以 上

http://www.j-eri.co.jp/ir/ir_1130.pdf

 とても激しい論調でイーホームズ藤田社長の発言を批判しておりますね。

 「刑事・民事両面で告発・告訴することを検討」しているそうですが、ナスダックに上場している日本ERIの立場にしてみれば、このような日本ERI姉歯建築士の構造計算書偽装を知りながら隠蔽した」とする誹謗発言は、まったくもって見過ごすことの出来ない看過できない発言でありましょう。

 しかしながら、本日プレスリリースした『当社確認物件にかかる姉歯建築設牡事務所による構造計算書の偽装について』では、強気な姿勢が一転して低姿勢なお詫びモードに変わっております。

 で、日本ERIの本日のプレスリリース(PDFファイル)ですが、少し長いですが重要なので全文引用・・・

    平成17年12月1目
各 位

    会社名 日本ERI株式会社
    代表者名 代表取締役社長 鈴木崇英
    (JASDAQ・コード 2419)
    問合せ先
    役職・氏名  取締役  大塚和彦
    電話03−3796−0223

当社確認物件にかかる姉歯建築設牡事務所による構造計算書の偽装について

1.今回の姉歯建築設計事務所が関与した構造計算書偽装事件につきましては、建築基準法に違反した構造耐力の不足する建物を建築するという、絶対にあってはならない行為であり、強い憤りを覚えるものです。

2.当社確認物件のうち、同設計事務所が関与したことが確認されている事実16件について構造計算書のデータに改ざんが認められるか、また、これらの建物が現に建築基準法に定める必要保有水平耐力を充足しているかについて、改めて構造計算を実施することで確認をしておりますが、現在までに判明している事実を公表させていただきます。

3.構造計算データの改ざんが認められ、実建物が建築基準法に定める必要保有水平耐力を充足しないことが判明した物件
① 物件名     (仮称)サンホテル大和郡山
  所在地     奈良県大和郡山市筒井町ハ王寺
  規模      地上8階建て 延べ面積2、217・
  確認済証交付目 平成15年11月11目
② 物件名     三文イン桑名
  所在地     三重県桑名市寿町
  規模      地上9階建て 延べ面積2、580・
  確認済証交付目 平成15年2月14目
③ 物件名     (仮称)ビジネスホテル苅田
  所在地     福岡県京都郡苅田町幸町
  規模      地上11階建て 延べ面積2、377・
  確認済証交付目 平成17年6月8目

4.構造計算データの改ざんが認められたものの、実建物が建築基準法に定める必要保有水平耐力を充足していると確認されたもの
    口 2件(報道されているビジネスホテル黒崎を含みます)

5.構造計算データの改ざんが認められたものの、実建物が建築基準法に定める必要保有水平耐力を充足しているか精査中であるもの
    口 6件(報道されているグランドステージ下総中山を含みます)

6.明確にはデーク改ざんと認められず、実建物が建築基準法に定める必要保有水平耐力を充足していると確認されたもの
    口 4件(既報の3件に加え事務所ビル1件)

7.デーク改ざんの有無も含めて、実建物が建築基準法に定める必要保有水平耐力を充足しているか精査中であるもの
    ロ 1件

8.精査中の物件は、各行政庁とも協力し、当社において改めて構造計算を行う方法により詳細調査を実施しています。結果が判明次第、速やかに各行政庁に報告するとともに公表する予定でおります。

9.お詫び
 指定確認検査機関としてこのような構造計算書のデーク改ざんを見逃したことは大変申し訳なく思っております。
 当社は、民間確認検査機関のパイ才ニアであり、また、社員数500名余、1級建築士340名を擁する最大手企業として、この業務が広く社会的信頼を得て安全・安心の社会づくりに貢献したいという強い思いを抱いてきました。このため、業務執行体制の強化に努め、特に人命を左右する“構造”と“避難”については慎重に審査をしてきました。構造審査には40名以上の構造設計の実務経験豊富な専任職員(1級建築士)を置き、確認検査員(建築基準適合判定資格者、165名)とともに審査にあたってきており、審査の体制は行政を含めても随一であると自負しています。
 にもかかわらず、今回の構造計算データの改ざんを見抜けなかったことは、想定外のこととはいえ、深く反省しています。

10.当社における構造審査について
 今回調査対象とした建築確認について構造審査記録を点検したところ、全ての案件について業務規程および社内規定に従って審査していることを確認しました。構造計画に関する質疑、訂正要求、追加資料請求等が行われており、部分的に手計算で構造計算書をチェックしています。
 確認検査機関(特定行政庁も含めて)において「審査が杜撰」「事実上ノーチェック」という実態があれば言語道断ですが、相当の能力を特った専門家が充分な注意を払っても今回の巧妙なデータ改ざんを見抜くことは困難だったと思われます。

11.再発防止策について
 このような事件は二度と起こってはならないものです。
 確認検査業務は、建築士法により適法な設計を義務付けられている建築士が設計した図書を審査しているものであり、基本的には“性善説”に基づいているといえます。
 悪意を持って極めて巧妙なデーク改ざんを常用するという今回の事件は、極めて悪質かつ異例のものですが、再発防止のために以下の諸施策を直ちに実行いたします。

①構造審査の体制を強化し、審査マニュアルの充実・徹底に住力します。
 体制強化については、2006/4までに構造審査専任職員(1級建築士)を50名以上とし、確認検査員(建築基準適合判定資格者)の数も200名以上確保するように努めます。
②今後の構造審査にあたっては、(建築基準法の確認検査業務の方法としてもとめられているわけではありませんが)構造計算の内容まで検証できる体制を構築します。
 このため、構造計算ソフトを全社的に導入し、当社の構造審査の過程で基準ギリギリの設計をしているものや構造計画・計算に疑義が生じたもの等について、必要に応じて、設計者から計算に使用したデータの提供を求め、自ら計算ソフトを走らせてその計算結果を検証することといたします。
③業務監査を強化します。
 当社で実施している内部監査に加え、外部の専門的第三者による業務監査導入を検討します。業務上の守秘義務問題を解決する必要がありますが、他の民間確認検査機関にも呼びかけて、共通する枠組みの組成に努めます。
④住宅性能表示制度の普及に努めます。
 当社は、かねてより、マンションの構造評価については義務化すべきであるという提言を行ってきましたが、今回の犯罪は住宅性能表示を実施していれば防止できた可能性が高いと思われます。こうした観点から、住宅性能表示制度の普及に一層注力いたします。

http://www.j-eri.co.jp/ir/ir_1201.pdf

 このプレスリリースは同社と姉歯建築士がからんだ16案件の内部調査の中間発表なのであります。

 うーん、ようは16件中、データ改竄がありアウトのもの3件、データ改竄があったけどセーフのもの2件、データ改竄がありアウトかセーフか調査中のもの6件、データ改竄がなくセーフのもの4件、デーク改ざんの有無も含めて調査中なもの1件ということらしいです。

 16件中少なくとも11件にデータ改竄があったという、調査会社としては極めて深刻な内容なわけです。

 特に『11.再発防止策について』での以下の表現は、興味深いのです。

 このような事件は二度と起こってはならないものです。
 確認検査業務は、建築士法により適法な設計を義務付けられている建築士が設計した図書を審査しているものであり、基本的には“性善説”に基づいているといえます。
 悪意を持って極めて巧妙なデーク改ざんを常用するという今回の事件は、極めて悪質かつ異例のもの
ですが、再発防止のために以下の諸施策を直ちに実行いたします。

 「基本的には“性善説”に基づいている」とは検査会社としての本音でありましょう。
 しかし、日本ERIも脇が甘かったと責められても仕方がない情報がここに来て業界内部から告発されてきております。



●「不正知りながら放置」不備通報の業者、ERIを批判

 今日(12月1日)の読売新聞から・・・

「不正知りながら放置」不備通報の業者、ERIを批判

 マンションなどの耐震強度偽装問題で、2004年4月の段階で姉歯秀次・1級建築士(48)による構造計算の不備に気付き、民間の指定確認検査機関最大手「日本ERI」(東京都港区)に通報していた横浜市内の設計会社社長(47)が読売新聞の取材に応じた。

 社長は「ERIは不正を知りながら放置した」などと、ERIの当時の対応を批判した。

 この社長によると、社長は03年春、港区内のオフィスビル(10階建て)の設計を受注、構造計算書は別の設計業者(44)が作成した。しかし03年秋、施工会社が「これでは高すぎる。コストダウンが必要だ」と主張。

 その後、「木村建設」の東京支店長、コンサルタント会社「総合経営研究所」(東京都千代田区)の幹部が姉歯建築士を連れて来て、「この男なら安くなる」として、姉歯建築士による構造設計のやり直しを提案した。ERIは04年1月、姉歯建築士が作成し直した構造計算書などを審査し、建築確認を出していた。

 しかし、ビルの総工費が約7億円から約3000万円も安くなったことを不審に思った社長が、姉歯建築士の計算書を設計業者に点検させたところ、地震の力を約4分の1に減らして計算していたことが判明。社長らはERIを訪れ、「単なる計算ミスではなく、作為的なものだ。他の物件も調べた方がいい」と強く対策を求めたが、その後、ERI側からは何の連絡も来なかったという。

 姉歯建築士の計算書を点検した設計業者は「目を疑った。この規模の建物なら柱は最低一辺90センチは必要だが5〜10センチも細かった」と読売新聞に証言している。

 この設計業者は今年10月、姉歯建築士が関与した都内のマンションの設計図を見る機会があり、計算書の偽造を確信、建築確認を行った民間の指定確認検査機関「イーホームズ」(新宿区)に通報して、問題発覚につながった。

 昨年4月以降に着工された物件で、構造計算書の偽造が判明しているマンションやホテルは少なくとも15棟。社長は「もし1年半前に真相を解明していれば被害の拡大を抑えられたのではないか」と話している。

 ERIは「応対者が、上司に報告する必要がないと判断したようだ。結果として被害を拡大させ申し訳ない」としている。

(2005年12月1日3時6分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe5500/news/20051201i201.htm

 これは重大な内部告発だと思いました。

 この横浜市内の設計会社社長(47)が読売新聞の取材に対しリークしている記事内容ですが、これが真実ならば「もし1年半前に真相を解明していれば被害の拡大を抑えられたのではないか」というこの社長の訴えも当然でありましょう。

 記事によれば日本ERI側は「応対者が、上司に報告する必要がないと判断したようだ。結果として被害を拡大させ申し訳ない」と述べているようですが、どうなんでしょう、上記の燦々たる中間発表と合わせてこの内部告発を読み解けば、日本ERIにとってとても分の悪い状況であると言えそうです。

 はたして日本ERIは、国会でのイーホームズ藤田社長の発言「日本ERI姉歯建築士の構造計算書偽装を知りながら隠蔽した」に対し本当に告訴するのでしょうか。

 「隠蔽した」かどうかは現段階で断定的なことは言えませんが、日本ERI自身の中間発表とこの読売記事を読む限り、会社として何ら有効な対処をしてこなかった誹りは免れないでしょう。

 このような日本ERIにソフトの脆弱性を指摘する資格などあるのでしょうか?

 ・・・

 しかし、この内部告発記事はさらに重要な事実を明らかにしています。

 この社長によると、社長は03年春、港区内のオフィスビル(10階建て)の設計を受注、構造計算書は別の設計業者(44)が作成した。しかし03年秋、施工会社が「これでは高すぎる。コストダウンが必要だ」と主張。

 その後、「木村建設」の東京支店長、コンサルタント会社「総合経営研究所」(東京都千代田区)の幹部が姉歯建築士を連れて来て、「この男なら安くなる」として、姉歯建築士による構造設計のやり直しを提案した。ERIは04年1月、姉歯建築士が作成し直した構造計算書などを審査し、建築確認を出していた。

 とても重大なリークは「 その後、「木村建設」の東京支店長、コンサルタント会社「総合経営研究所」(東京都千代田区)の幹部が姉歯建築士を連れて来て、「この男なら安くなる」として、姉歯建築士による構造設計のやり直しを提案した。」点です。

 木村建設」、姉歯建築士と今回の主役である登場人物の名とともに総合経営研究所という組織の名前があがっているのです。

 総合経営研究所とはナニモノなんでしょうか?

 この問題まだまだ深く掘り下げてまいりますが、今日はここまで。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか〜民間委託問題にすり替える邪論を排する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051129/1133237798
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(2)〜『しんぶん赤旗』と『報道ステーション』と『JANJAN』にダメ出ししておく
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051201/1133417121
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(4)〜「構造計算のことはわからない」と断言した「総合経営研究所」の胡散臭さ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051203/1133576168
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(5)〜メディアは傍観者になるな!金亡者達を業界から駆逐せよ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051204/1133625004