木走日記

場末の時事評論

国交省は胡散臭い方針を撤回し、総研の全物件も含めて調査対象を広げよ!

●本当に「疑惑の焦点は絞られた」のか〜どうして第二・第三の姉歯某の可能性に踏み込まないのか物足りない各紙メディア社説

 昨日(14日)、衆院国土交通委員会で、耐震強度の偽装問題について初の証人喚問が行われ、姉歯秀次氏らが証言しました。

 今日(15日)の各新聞社説ではこの問題を一斉に取り上げています。例によって各紙社説の結語をご紹介しましょう。

【朝日社説】姉歯証人喚問 疑惑の焦点は絞られた

 偽装問題が公表されてからまもなく1カ月。被害者はもとより、国民の間でマンションなどの安全性に対する不安は広がる一方だ。

 国会、国交省、司法はそれぞれの立場から、絞られてきた疑惑の焦点に切り込み、偽装事件の全容を明らかにしてほしい。それが再発防止と適正な補償の前提となる。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html

【読売社説】[姉歯証人喚問]「耐震偽装の全体像が垣間見えた」

 国交委はヒューザーの小島進社長には出頭を求めなかった。参考人質疑で証言してはいるが、それで責任の追及が終わったわけではない。

 マンション住民らは、経済的、精神的に大きな被害を被っている。ヒューザーとの補償交渉も進んでいない。年の瀬を控えて、住宅ローンを抱えたまま、転居しようにもできないでいる。

 木村建設木村盛好社長は、私財をなげうってでも被害者に補償する、と答えたが、忠実に実行されるか見守る必要がある。ヒューザーも、売り主としての補償責任を早急に果たすべきだ。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20051214ig90.htm

【毎日社説】偽造証人喚問 「ぐるみ」の疑惑は強まっった

 それにしても……と改めてあきれ果てるのは、関係者の責任感のなさだ。姉歯建築士は「違法性」こそ再三口にしたが、建設された場合の危険性については「そういう認識はなかった」と語った。建築士に求められる最低限のモラルが欠如していると言わざるを得ない。一方の木村建設は「建築確認が下りたから問題ない」と開き直る。無責任の連鎖は、今回の偽造が構造的なものであることを物語っているように思える。

 もう一点、指摘したい。久しぶりの証人喚問で、各党の「追及力」も注目されたが、自民党は余りにお粗末だった。まさか、業界批判を遠慮しているのではあるまいが、材料も乏しく、演説のような話をだらだらと続けられては時間の無駄だ。その分、質問時間を野党に配分した方がましだった。

http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20051215k0000m070149000c.html

【産経社説】証人喚問 組織的偽装をあぶり出せ

 とすれば、姉歯建築士が手がけた物件以外にも該当する建物があるのでは−との疑念も浮かぶ。倒産した木村建設は当事者能力に欠ける。国土交通省による早急な調査を望みたい。

 今回の証人喚問も、木村建設木村盛好元社長、総合経営研究所内河健所長、姉歯建築士とも責任回避の姿勢が目立った。その意味では責任を追及しきれなかった国会にも反省材料を残したといえよう。

 今後は警視庁などによる刑事責任の追及が本格化する。組織的な偽装行為の全容を解明してほしい。

http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm

【日経社説】喚問で晴れぬ耐震偽装の闇

 ただ、偽装物件の計画から設計、建築確認審査、施工、販売まで各段階にかかわった個人・法人が偽装にどこまで関与し、どの程度の共謀があったかを突き止めるのは容易ではない。告発対象の建物だけに絞り込んでも、そうした事実を解明し基準法違反以外の刑罰法規を適用するには難しい捜査が予想されるが、事態の真相解明は、国民の不安を静め、また建築物の安全性を確保するための制度をどう修正すべきかを判断するのに、欠かせないことである。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20051214MS3M1400814122005.html

 うーん、毎日社説結語が鋭く批判しているように自民党は余りにお粗末だった。まさか、業界批判を遠慮しているのではあるまいが」、まったく自民党の及び腰の質問はオソマツ極まりなくあんなの時間の無駄なのでありました。

 それはともかく昨日(14日)の証人喚問で、不肖・木走があらためて感じたのは、姉歯某のような「心の弱い」建築士は本当に彼一人だったのかという、強い不安と疑念であります。

 その点で、各紙社説でありますが、全く物足りないのであります。

 朝日社説がいうように「疑惑の焦点は絞られた」のでしょうか?

 読売社説がいうように「耐震偽装の全体像が垣間見えた」のでしょうか?

 本当に姉歯某以外に偽造設計者はいないのでしょうか?

 5紙の社説の中では、産経社説だけが「とすれば、姉歯建築士が手がけた物件以外にも該当する建物があるのでは−との疑念も浮かぶ。」と簡単に触れているだけで、総じて問題を今発覚しつつある姉歯某関連の疑惑のみに集中していて、その外側にあるかもしれない偽装物件の可能性にまったく触れようとしていません。

 ・・・

 日本のマスメディアの不甲斐なさは今回に始まったことではありませんが、そもそも国交省の胡散臭い対応に従って無批判な垂れ流し報道ばかりしているから、このようなおざなりの社説しか載せられないのでしょう。



ボトムアップ方式でターゲットを狭めて絞る国交省の愚策

 当ブログでは以前から厳しく繰り返し指摘させていただいてきましたが、今回の国交省の対応方針は、極めて胡散臭いのであります。

 まず、全体像解明のために国交省は12月4日に、木村建設平成設計ヒューザーに絞り過去5年分の全件洗い出し再点検する方針を固めました。

3社関連の全物件を点検 国交省、全体像解明で過去5年分

 耐震強度偽造問題国土交通省は5日までに、偽造が確認された多くのマンションやホテルを手掛けた木村建設熊本県八代市)など3社が、2000年度から04年度までの5年間に施工した全物件について耐震性などを点検する方針を固めた。姉歯秀次一級建築士が構造計算にかかわったかは関係なく調べる。

 姉歯建築士の個人的な問題か、他の建築士も関与しているのかを調べることで、耐震強度偽造問題の全体像を明らかにするのが狙い。

 点検対象にするのは、ホテルなどを建設した木村建設に加え、設計を担当していた木村建設の関連会社である平成設計(東京都千代田区)とヒューザー(同)の合計3社。

(後略)

(12/05 12:24) 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/051205/sha048.htm

 姉歯設計事務所を起点として、ボトムアップ式に上位に絡んでいる関連会社、木村建設平成設計ヒューザーと遡り、その3社に絞り徹底調査をするというこの方針に従い、国交省は現在も対応しているのです

国交省木村建設の施工資料3000件入手

国土交通省は14日、建設業法に基づく木村建設本社(熊本県八代市)への立ち入り検査で、同社が1987年以降請け負った計約3000件の施工物件の関係資料を入手したと発表した。

 今後は資料分析を進め、新たな強度偽装などの違法行為が確認されれば、監督権限のある地方自治体に通報する。

 国交省は今月、木村建設に対して工事関係資料を任意で提出するよう指示したが、同社では「すでに全従業員を解雇しており人手がない」などとして、過去5年分の資料しか提出しなかったため、立ち入り検査を実施した。

(2005年12月14日20時13分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe5500/news/20051214i113.htm

 また国交省ホームページを参照すれば、姉歯の設計した物件の都道府県分布表や、この姉歯に絞った構造計算書偽造物件の一覧表が、ほぼ毎日更新されています。

国土交通省トップページ
http://www.mlit.go.jp/

姉歯建築設計事務所による構造計算書の偽造とその対応について
http://www.mlit.go.jp/aneha/index.html

 ・・・

 たしかに12月4日に固めた方針どおり、国交省は、姉歯が設計に関連した物件を中心に木村建設平成設計ヒューザーに3社に絞り過去5年分の全件洗い出し再点検する作業を始めているようです。

 このようにボトムアップ方式で姉歯某の関連した3社を徹底調査する事自体は、異論はありません。

 しかし、3社に絞ってしまって、それより上位の、たとえば総研などの関連物件の調査に至らないとするならば、これは全く事件の全貌解明にはおぼつかない愚策となりましょう。

 昨日の証人喚問においても、今日の各紙社説に於いても、この国交省の方針に従うような姉歯某に関連した疑惑に集中した論議だけが先行しているのがとても気になるのです。
 


トップダウン式に上位会社から調査のメスを入れよ

 この際、姉歯某以外に不正設計士はいないのかもきびしく検証されるべきです。

 それには、トップダウン式により上位に位置しているコンサル会社や大手ゼネコンも含めた業界トップからも調査のメスをいれるべきではないでしょうか。

■まずは総研の全関連物件を徹底調査をすべき

 一昨日(13日)に発表された総研自身の内部調査資料『建築物の構造計算書偽装への関与について 中間報告書』によれば、238件のホテル開業指導の実績があります。

 株式会社総合経営研究所(以下「総研」といいます)では2005年までに238件のホテル開業指導の実績があります。

 国土交通省の調べによると、姉歯建築士が構造計算書の偽装をし始めたのは1999年の長野県のホテル(ホテルセンピア……総研は関与しておりません)と福岡市のマンションと報告されています。姉歯建築士がホテルで最初に構造計算書を偽装した1999年のホテルセンピアの開業を境にして、それ以前とそれ以降の総研のホテル開業指導実績と施工会社、構造設計者、偽装の有無について、これまでの調査結果を表にまとめました。

(中略)

※1:1999年以降で偽装があった物件は、全て平成設計が設計業務を担当しております。構造設計した者については、偽装問題発覚後、平成設計に回答を求めた結果判明したものです。構造設計者について総研には調査する資料がもともと無く、直接は把握しておりません。

※2:偽装が発覚した「サンホテル大和郡山」は内河所長の実弟が経営する会社が運営するホテルです。また、内河所長の親戚が経営するホテルも1件休業中です。  

 全238件のうち木村建設施工物件は53件、1999年以降の開業指導実績は75件、そのうち木村建設の施工物件が30件、その30件のうち姉歯建築士の関連したものが14件、うち11件で偽装が発覚しています。

また、木村建設以外の建設会社の施工物件で偽装が発覚したのは45件のうち13件、これらは全て姉歯建築士が関わったもので、木村建設の施工物件と合わせて合計24件で偽装が発覚しています。

『建築物の構造計算書偽装への関与について 中間報告書』
http://www.gmc-sg.co.jp/

 全238件のうち姉歯某が関わってかつ偽装が発覚した物件は24件にすぎません。

 姉歯某も木村建設も関わって無く、事実上検証されていない物件が、1998年以前の物件で140件、1998年以降の物件で32件、合計172件もあるのです。

 総研が関わった全238件中、172件は姉歯某も木村建設も関わっていません。

 国交省は、方針を変更して総研の関わった238件全てを、徹底再調査すべきです。

 第二・第三の姉歯某が存在するのか・しないのか、姉歯某という一人のとんでもない建築士に問題は集約されるのか、総研というコンサルの組織犯罪にまで発展するのか、まずは重要な今回の不正規模が明らかになるはずです。

■業界全体の統計的サンプリング手法を用いたピンポイント徹底調査をすべき

 次に業界全体を視野に入れて、大手ゼネコン物件を含めてのサンプリング調査を行うべきです。 納税調査等でも用いられる統計的サンプリング手法を用いたピンポイントのしかし徹底調査を抜き打ちで行う必要があります。

 姉歯某という悪性腫瘍は、患部が特定した一カ所に集中している不正事件なのであれば、患部を徹底的に洗い出し集中治療することにより改善を目指す国交省の方針は、ある意味理解はできます。

 しかし、もしこの悪性腫瘍が一カ所ではなく、すでに第二・第三の姉歯某がどこかに存在し、広範囲に転移している可能性があるとするならば、それは徹底的に検証すべきでしょう。

 国交省は3社に絞り込み徹底捜査するボトムアップ式の集中検証だけではなく、トップダウン式検証、まず総研関連238件の全件調査と、さらに業界全体を視野に入れたサンプリング調査を早急に検討すべきであります。

 国交省は胡散臭い方針を撤回し、総研の全物件も含めて調査対象を広げるべきです。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
●ちょっと待ってよ国交省。安易な公金投入はおかしくないか?〜姉歯某は本当に一人だけなの?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051206/1133838946
●ちょっと待ってよ国交省(2)〜同じスキルを官民で差別する国交省の欺瞞
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051208/1134027988
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか〜民間委託問題にすり替える邪論を排する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051129/1133237798
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(2)〜『しんぶん赤旗』と『報道ステーション』と『JANJAN』にダメ出しする
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051201/1133417121
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(3)〜最大手検査会社日本ERIの醜態
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051201/1133434839
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(4)〜「構造計算のことはわからない」と断言した「総合経営研究所」の胡散臭さ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051203/1133576168
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(5)〜メディアは傍観者になるな!金亡者達を業界から駆逐せよ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051204/1133625004