一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(5)〜メディアは傍観者になるな!金亡者達を業界から駆逐せよ!
以下のエントリーの最終回であります。
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか〜民間委託問題にすり替える邪論を排する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051129/1133237798
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(2)〜『しんぶん赤旗』と『報道ステーション』と『JANJAN』にダメ出しする
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051201/1133417121
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(3)〜最大手検査会社日本ERIの醜態
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051201/1133434839
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(4)〜「構造計算のことはわからない」と断言した「総合経営研究所」の胡散臭さ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051203/1133576168
何度か説明いたしてきましたが 不肖・木走は、この問題では本業で関わっており、無責任な発言はできないのでありスルーしようと思っていたのですが、当初あまりにも一部のメディアがとんちんかんな論点で偏向した内容で報道していたため、いたたまれずエントリーを開始した次第であります。
ところが後から後から次々と新たな事実、新たな登場人物があらわれ続けて、引きずられるようにエントリーもいつのまにかシリーズ化してしまったのであります。
とうとう業界のカリスマである総合経営研究所所長の内河健氏まで記者会見するという展開には、さすがにもううんざりなのです。
当ブログとしては、この問題ここらで一端終了いたします。
・・・
私の目的は、私の知る限りの業界内部の姿を、読者のみなさまに正しく伝えたいと思ったのであります。
最終回として、不肖・木走のこの問題に対する主張を2点まとめておきます。
●一点目:日本のマスメディアの体たらく〜メディアは傍観者でいいのか?
1点目は、本耐震偽造事件をここ何週間か追ってみて、あらためて感じたのですが、日本のマスメディア報道のいい加減さであります。
マスメディアは、当初この事件は一級建築士姉歯某の個人的無責任による犯罪と判断していたようです。
あのマンションが危ないとかこのホテルが倒れるといった無責任で傍観者的な報道に終始していました。
しだいに明らかになった新事実の前で、マスメディアもこの偽造事件は深い根をもっていると理解し、記事の量も多くなってきましたものの、基本的には何のスクープも無く、事実の後追い報道に終始していました。(今もです)
特にTV朝日の報道ステーションなど検査の民営化に矮小化して偏向報道している番組もありました。
また、個別ばらばらに設計元請け事務所の社長の自殺など社会面をにぎわせたり、どこどこのマンションが危ないなどの情報を報道はしていますが、しかし全体の構図をしっかり示していないために、一般の人々には、一連のニュースの流れがまったく理解しづらいものになっています。
正直言って、今回の一連の報道ではネット情報のほうがたえず新聞・TVよりも先行して報じていたし、全体の流れをつかんで詳細を伝えていたと思います。
メディアは事件報道をするときに傍観者であってはなりません。
27日朝日新聞の社説から・・・
【社説】2005年11月27日(日曜日)付
耐震偽装 「薮の中」の解明を急げ
1級建築士が首都圏のマンションなどの耐震強度を偽装していた問題は、「個人犯罪」ではおさまらない広がりを見せ始めた。
動機について、建築士は「コスト削減のプレッシャー(圧力)を感じていた」と述べていた。国土交通省の聴聞会ではさらに、圧力をかけられた相手として建設会社1社と建築主2社の名を挙げた。建設会社の東京支店長からは「鉄筋の量を減らせ。できなければ他に発注する」と言われた、とも述べた。
これに対し、3社はいずれも偽装へのかかわりを全面的に否定している。「鉄筋の量を減らせ」と指示したという疑いも建設会社は強く否定した。
事態は、関係者の言い分が食い違う「薮(やぶ)の中」の物語のような様相を呈している。今後の補償問題や再発防止策を考える上でも、まず事実を解明し、責任の所在をはっきりさせることが必要だ。
すでに国交省や各自治体は、関係会社の立ち入り検査や安全の再点検を進めている。だが、事実の解明のためには、捜査権限を持つ警視庁が本格的な捜査を早く始めることが求められる。
今回の偽装問題をめぐって、不透明なことも次々に派生している。
自民党衆院議員の伊藤公介元国土庁長官が、偽装問題の公表される2日前に、建築主の社長を国交省の幹部に紹介していた。社長は面会した幹部に公的資金の援助を求めたという。
多くの人にとって重大な事態が切迫する中で、個人的な知り合いのための口利きをしていた政治家の姿には、強い違和感を覚える。公的支援が必要か否かを論じるとしても、前提となるのはやはり責任の所在を明確にすることだ。
建設会社の東京支店長には、偽装への「圧力」とは別に金銭がらみの疑惑も持ち上がっている。建設会社社長によると、この支店長は建築士に架空請求書の発行を頼み、建設会社から送った金を自らの個人口座に還流させていた。「個人的な営業経費」と説明しているという。奇妙な話であり、偽装の背景にもかかわる。警察による捜査が必要だ。
真相解明のほかにも、課題は多い。
耐震強度の再計算などから危険度が高いことがわかったマンションについては、国交省や自治体が入居者に転居を求めることになった。
問題の建築士が手がけた約200の建物の中で、当初わかっていた21棟以外にも、偽装が疑われるものが見つかっている。機敏な対応をとるためにも、自治体は再調査を急いでほしい。
偽装を見抜けなかった民間検査機関が、この建築士以外のものでも、法定の審査手続きを満たしていないことが判明した。さらには自治体の建築確認でも、偽装を見落としていた事例が次々に見つかっている。
今回の事態が起きてしまった原因の究明とともに、事後チェックとしての建築確認のあり方を改める必要がある。
「薮の中」の解明を急げ
朝日にはこの事件はまったくもって他人事のようなのであります。
上段に構えて「薮の中」の解明を急げって、朝日はいったい誰に命令しているのでしょう。
事実報道するメディアとして、なによりも朝日自身が「薮の中」に入り真実を解明すべき使命を有しているのではないのですか?
●2点目:建築業界から金亡者達を駆逐せよ!
フェーズを分けて整理・解明していきましょう。
主犯探しと責任論は分けて考えるべきだと思います。
・・・
最初、姉歯某技術士一人のとんでもない書類捏造事件にすぎないと思われたこの事件ですが、時間経過と共に、芋づる式に捏造に関係する組織が増えていって、もうしっちゃかめっちゃかなのであります。
少し登場人物・組織をまとめてみましょう。
・姉歯某を下請けとして使った元請け設計事務所として報道されているのは、自殺した森田氏の森田設計事務所や倒産した木村建設の社長令夫人が社長をしている平成設計。
・で、デベロッパーとして叩かれているのは、ヒューザーやシノケン。
・捏造をスルーしてしまった民間検査会社としては、イーホームズや日本ERI。
・施工会社としては木村建設。
・コンサル会社としては総合経営研究所。
もちろん他にも関係している個人や会社(サン中央ホームとか太平工業とかスペースワン建築研究所とか)あるのですが説明が煩雑になるので割愛しておきます。
で、これらの登場人物を使って、今まで報道されてきてわかったからくりを木走流に簡単にまとめてみましょう。
【捏造の流れ】
業界で徹底的な経費削減工法の指導で急成長してきたコンサル会社総合経営研究所の指導を受けてきた会員企業の中に九州の地場建設会社である木村建設があった。
総研のコンサルのもとで木村建設は数々のホテルやマンションなどを経費削減工法で建設してきた。
その際個々の案件で胴元設計事務所としては木村建設の子会社の平成設計が絡むようになり、その孫受けとして姉歯某が構造設計書を作成するようになった。
木村建設東京支店長の要請を聞く中で、次第に姉歯某は設計書を捏造するようになり、東京支店長にバックマージンを渡すまでの癒着関係に陥っていった。
コンサル会社経由でヒューザーなどの新興デベロッパーのマンション建設においても、姉歯某は設計書の捏造を繰り返してきた。
【発覚の流れ】
読売報道等によれば、2004年4月の段階で姉歯某による構造計算の不備に気付き、民間の指定確認検査機関最大手「日本ERI」(東京都港区)に通報していた横浜市内の設計会社社長がいた。
日本ERIはその通報を事実上無視した。
細かい点はかなりはしょりましたがまあこんな感じでしょうか。
まず建設業界がこのような複雑な分業体制になっていること自体に対する批判はポイントがずれていて同意できません。
元請け、孫受け、ひ孫受けのピラミッド構造は何も建設業界だけではありません。
業界の分業構造が問題なのではなく、問題は構造設計書の位置づけであります。極めて重要な書類であることはその通りなのですが、これを作成・理解できる建築士が胴元設計事務所にも施主側にもほとんどいなかった事実、また検査会社(自治体もです)も構造設計書をチェックする要員の質と量を確保できていなかった点です。
ときに600〜1000ページもかさばる書類を精査する事自体たいへんな作業なわけです。
この一点に関しては、日本ERIがホームページで本音を漏らした「確認検査業務は、建築士法により適法な設計を義務付けられている建築士が設計した図書を審査しているものであり、基本的には“性善説”に基づいているといえます。」は、理解は出来ます。
もちろん私は検査会社や自治体を免罪するつもりは毛頭ありません。
が、この事件の本質は、「性善説」をもとにして不文律で構造設計士に委ねられていた構造設計という最も重要な設計作業にまで、利益追求・利潤追求だけの新興企業たちがノン・モラルに不当に干渉し経費節減というビジネスの対象に貶めてしまったことにあると考えています。
ひとたび総研や木村建設やヒューザーのようなノン・モラルな利潤追求新興産業がのさばり始めると「悪貨は良貨を駆逐する」わけでして、姉歯某のようなプライドのない技術者を巻き込みながら際限なくガン細胞が広がるがごとく勢いを増していったのでしょう。
この事件で業界の体質として業界全体の批判をされてしまうことには、多くの真面目で真摯にプライドを持って仕事をこなしてきた設計事務所が気の毒なのであります。
・・・
ここまで根が深く広がりを持って捏造が行われてきたわけですから、これは徹底的に調査し暴かれた犯罪行為に対しては容赦なく指弾して行くべきです。
しかし、そのような金亡者たちの主犯探しと、責任論は分けて考えるべきだと思います。
一般国民、特に被害者である問題物件の購入者からしてみれば、業界内部の悪者探しなどあまり意味はなく瑕疵責任はすべて胴元販売会社に集約されるべきです。
例えば総研が全ての黒幕であったとしても、そんな商法を利用した木村建設やヒューザーに対し、私は何の同情もありません。
また実行犯である姉歯某は徹底的に断罪されるべきですが、そのような姉歯某を育ててとことん利用してきたのは、木村建設やヒューザーなのです。
自業自得です。同じ穴のムジナだと考えてます。
購入者にとって、一にも二にも責任を持つべきなのは直接売りつけた売り主なのであります。
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この事件の本質は、モラルの欠如であります。
繰り返しになりますが、「性善説」をもとにして不文律で構造設計士に委ねられていた構造設計という最も重要な設計作業にまで、利益追求・利潤追求だけの新興企業たちがノン・モラルに不当に干渉し経費節減というビジネスの対象に貶めてしまったことにあると考えています。
もちろん、そのような悪意ある新参者に全く無防備であった検査態勢は、厳しく見直さなければなりませんし、今回チェック漏れしてしまった検査会社や自治体の責任は厳しく問われなければなりません。
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これからは「性悪説」に基づく対策が絶対に必要になるのでしょう。
しかし構造設計書の特殊性からいってチェックを厳しくするだけの対策では限界があるのもまた事実ではないでしょうか。
なによりも、まずモラルの回復という根本的な重要な側面からの対策も合わせて講じる必要があるのだと思います。
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建築業界から金亡者達を駆逐すべきであります。
そして、そのためにもマスメディアには、もっと本質的な深い報道をしてほしいのです。
読者のみなさまは、この問題いかがお考えになりますでしょうか?
5回にわたりおつき合いいただき有り難うございました。
(木走まさみず)
<関連テキスト>
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか〜民間委託問題にすり替える邪論を排する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051129/1133237798
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(2)〜『しんぶん赤旗』と『報道ステーション』と『JANJAN』にダメ出しする
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051201/1133417121
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(3)〜最大手検査会社日本ERIの醜態
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051201/1133434839
●一にも二にも悪いのは売り主ではないのか(4)〜「構造計算のことはわからない」と断言した「総合経営研究所」の胡散臭さ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051203/1133576168