木走日記

場末の時事評論

本音とは裏腹に論調が一致した赤旗と産経〜『フランス暴動報道』

 マスメディアの『フランス暴動』の報道姿勢がなかなか興味深いのです。さっそく各社の報道姿勢についてメディアリテラシーしてみましょう。



●産経以外の各紙の論調〜「フランス移民政策の失敗」との認識でほぼ一致

 本日の社説で朝日、読売が『フランス暴動』を取り上げています。これで、産経を除く朝日、読売、毎日、日経の社説が本件を取り上げたことになりました。

【朝日社説】フランス暴動 共存への重い試練
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
【読売社説】[フランス暴動]「移民社会を抱える欧州の苦悩
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20051109ig91.htm
【毎日社説】フランス暴動 「自由・平等・博愛」が問われる
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20051108ddm005070061000c.html
【日経社説】試練のフランス移民政策
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20051107MS3M0700307112005.html

 例によって各社説の結語を抜粋してみましょう。

【朝日社説】フランス暴動 共存への重い試練
 今夏、ロンドンの地下鉄などを襲った同時多発テロの実行犯は、英国内で育った移民の若者たちだった。フランスでの今回の暴動とテロとはなんのつながりもないだろう。しかし、その根底には大量移民社会が抱え込んだ根深い問題がのぞいている。

 肌の色や宗教が違う人が、どうすれば共存していけるのか。強権を発動すれば片付く問題でないことだけは確かだ。

【読売社説】[フランス暴動]「移民社会を抱える欧州の苦悩」
 やはり移民社会を抱える他の欧州諸国には、他人事ではない。フランスでの成り行きを不安な思いで見守っている。

 日本の経済界にも、労働人口の減少という時代を迎え、外国人労働力の受け入れを求める声がある。日本が直ちにこうした問題に直面する状況にはないが、フランスが今、経験している現象には、くみ取るべき教訓があるかもしれない。

【毎日社説】フランス暴動 「自由・平等・博愛」が問われる
 統合の拡大と深化をめざすEUの理想とは裏腹に、国民が「よそもの」への警戒と反感を募らせる傾向も目立つ。その反感は移民にも向けられる。ロンドンでは英国籍を持つイスラム教徒が地下鉄テロを実行し、移民問題がクローズアップされた。表れ方はさまざまだが、移民問題は欧州各国に共通する古くて新しい悩みだ。

 移民に対してフランスは同化政策を取り、多文化社会の英国はテロを機に移民への不干渉政策の見直しを迫られた。理想の社会に向けて、どんな移民政策をとるべきか。事件を機に、仏政府は我が身を問い直す必要がある。

【日経社説】試練のフランス移民政策
 フランスの事態はほかの欧州諸国には人ごとではない。今年7月には英国でイスラム教徒過激派によるテロが起きている。

 欧州には人口全体の約5%にあたる約2300万人のイスラム教徒が住み、社会的な疎外感が広がっているという。欧州諸国にとってイスラム教徒社会とどう折り合うかは最重要課題の一つである。

 各紙ともフランス移民政策が深刻な危機に直面しているという視座から論じていますが、微妙に論調に違いが見られます。

 朝日・毎日は背景に移民社会の不満がある点により重点を置いており、仏政府に対して移民政策の見直しをせまる論調であります。

 日経は移民が置かれている窮状を指摘しながらも暴動の拡大を懸念しており、欧州諸国にとってイスラム教徒社会とどう折り合うかは最重要課題であると結んでおります。

 読売は「移民社会の若い世代の絶望感をぬぐうため、何よりも必要なのは、雇用状況の改善への十分な配慮である。」と指摘しつつ、他山の石として日本も教訓にしなければならないとしております。

 この各氏の微妙な論調の違いは、おそらく視点を抑圧された移民側に置く朝日・毎日と、政策を失敗した政府側に置く日経・読売の差なのでしょう。

 微妙な違いは見せながらも、まあ大筋では各紙とも共通しているのは、フランス移民政策が深刻な危機に直面している事実を「フランス移民政策の失敗」と認識して論じている点でありましょう。



●顕著な産経の抑制報道の姿勢

 一方、今日(10日)現在、産経はこの問題を一切社説には取り上げていません。

 いつも自己主張のはっきりしている産経にしては意外なことであり、まああとでいずれは取り上げるのかも知れませんが、現時点では沈黙を守っております。

 しかし、社説以外の産経紙面におけるフランス暴動記事の内容と扱いを見ていると、実は社説に取り上げないことも含めて産経のこの問題に対する姿勢がすかして読み取ることができます。

 今日(10日)の産経抄から・・・

 「フランス暴動」を報じる仏メディアは、燃やされた車の数を報じるのをやめた。現場にテレビクルーを送ることも控えているという。確かに、振り上げたコブシは、周りに目があると引っ込みがつかない。それがテレビカメラともなれば、背後にある何百万人の目を感じて興奮の自己暗示が暴走を始める。

 ▼イスラム系移民がもつ「異邦人」意識が、パリ郊外で爆発してしまった。暴動情報は連鎖を招きやすい。在仏イスラム団体は「無差別攻撃はイスラムの教えに反する」とのファトワ(宗教見解)を出した。だが、目覚めた獣性は収まらない。仏政府はたまらず非常事態を宣言した。

 ▼センセーショナリズムはときに社会を崩壊に導く危険がある。だからメディアは、騒擾(そうじょう)事件を伝える際のジレンマからは逃れられない。暴動だけではない。かつての米大統領選で、ドール共和党候補が壇上から転落した写真を、米紙が一面に掲載したことがあった。

 ▼米紙の派手な扱いに、「共和党嫌いの意図的な掲載だ」との抗議が起きた。ドール氏がコケたとき、反射的にシャッターを切ったカメラマンもいれば、助けようとしたカメラマンもいた。どこにいたかにもよるが、シャッターを切った当事者を批判することはできない。

 ▼フランス暴動のテレビ自粛も、ドール転落の写真掲載も、報道の自由の下での独自判断だった。重要なのはこの点だ。やや性格を異にするが、日本での論議は、事件の被害者を実名で発表するか否かの規制問題である。

 ▼公表の判断を警察に委ねる方向で、来月閣議決定される。しかし、匿名発表は時として情報操作につながりかねない。それだけに、報道機関は事実へ真摯(しんし)に対峙(たいじ)し、自らに厳しくあらねばと思う。

平成17(2005)年11月10日[木] 産経新聞 産経抄
http://www.sankei.co.jp/news/column.htm

 このコラム、「フランス暴動」を報じる仏メディアの抑制報道の問題を、結語はかなり強引に日本の警察の匿名発表の問題にすり替えていて、なにやらよくわからん結論になっておりまして苦笑せざるを得ませんが、それはともかく産経の「フランス暴動」に対する報道姿勢がかいま見えていて興味深いのです。

 ▼イスラム系移民がもつ「異邦人」意識が、パリ郊外で爆発してしまった。暴動情報は連鎖を招きやすい。在仏イスラム団体は「無差別攻撃はイスラムの教えに反する」とのファトワ(宗教見解)を出した。だが、目覚めた獣性は収まらない。仏政府はたまらず非常事態を宣言した。

 つまり、産経抄としては問題の本質はイスラム系移民がもつ「異邦人」意識」にあると考え、「目覚めた獣性は収まらない」のであって「仏政府はたまらず非常事態を宣言した」と判断しているわけです。

 ▼センセーショナリズムはときに社会を崩壊に導く危険がある。だからメディアは、騒擾(そうじょう)事件を伝える際のジレンマからは逃れられない。

 また、メディアのセンセーショナリズム・過剰報道が、騒擾(そうじょう)事件に火に油を注いでしまうと指摘しているわけです。

 別に遙か極東の地のメディアがフランスの事件でジレンマを感じてもしようがないと思いますし、靖国参拝問題など過敏に繰り返し社説で持論展開する産経に指摘されても仕方ないけどなあと思いますが、まあ産経のフランス暴動報道に対する姿勢は理解できる文章であります。

 ここ二日の産経報道をおってみても夜間外出禁止令発令と共に事態が沈静化傾向にあることをさかんに報じています。

仏、放火沈静化の兆し 25県で非常事態法適用
(11/09 22:37)
http://www.sankei.co.jp/news/051109/kok074.htm
仏5県が夜間外出禁止令 沈静化傾向で発令慎重
(11/10 09:16)
http://www.sankei.co.jp/news/051110/kok023.htm

 他紙と比べると確かに産経の抑制報道の姿勢は顕著であると言えそうです。



●フランスの社会そのものを批判するアメリカのメディア

 ご紹介した今日の産経抄の内容ですが、昨日(9日)の産経で米メディアで仏批判噴出していることを取り上げている記事が掲載されていることと関連して考察するとさらに興味深いのです。

パリ暴動拡大 マスコミ・専門家「移民政策の誤算」 米で仏批判噴出

 【ワシントン=古森義久】「何世紀ものフランスの傲慢(ごうまん)や生来の優越感、強制的な同化などへの代償を払うときがきたのだ」−フランスでの大規模なアラブ系、アフリカ系の若者の暴動に対し米国ではフランスの長年のイスラム系移民への対応の根幹にあった不安定要因が噴出したとする当局への批判的な見解が次々に表明されるようになった。米側では期せずして、フランスからの従来の米国非難に反撃する機会ともなった。

 暴動に対し米国でもマスコミは大きく報道し、論評も多いが、全体としてフランス当局がアングロ・サクソン英米)方式より優越するとしてきた移民や他民族の扱い方にやはり根幹で欠陥があったことを暴動が立証したという批判的なトーンが基調となった。また暴動を起こす側がイスラム系若者なのに、そのイスラム系という部分をあえて指摘しないフランスの当局やマスコミの姿勢の偽善がこの欠陥を物語る、という批判もある。

 米国のイスラム研究の民間機関「イスラム多元主義センター」のスティーブン・シュワルツ所長は「いかにフランスは憎悪を築いたか」と題する論文を主要新聞数紙に発表し、イスラム系住民の憎悪はフランス当局の長年の移民政策の結果だと断じた。シュワルツ氏はフランス社会での同化は米国などよりずっと難しく、真の同化には母国や親の母国へのきずなを完全に断ち切ることがまず条件になるとしている。

 シュワルツ氏はまた(1)フランス当局は一九七〇年代からイスラム系移民の真の同化を本音としてあきらめ、パリ郊外の一定地域の高層ビルに大多数を押し込め、事実上のゲットーをつくった(2)八〇年代終わりから共産党までが民族派と張り合って、移民迫害に回った(3)フランス全体としての何世紀もの傲慢、生来の優越感、強制的な同化、専制的な中央政府などへの代償を払うときがきた(その結果の暴動なのだ)−などと論評した。

 USA TODAYも七日付の社説で「フランスの砕かれたイメージ」と題し、「フランスは米国でハリケーンカトリーナ』が貧困、不平等、官僚の無能などを露呈させたと批判したが、いまや自分たちこそ同じ目覚ましを受けた」と論じた。さらに「イスラム系住民たちは二世でも三世でも学校で自由、平等、友愛というフランスが誇りにするモットーをいくら学んでも下層として残る」と述べ、フランスの社会そのものを批判した。

 ボストン・グローブ紙も五日付の社説で「フランスでは過去の植民地からの移民たちへの代償をいま払っている」と論評。フランス当局がイスラム系住民を郊外の「ゲットー」に抑えこんだことが「住民たちの怒りと疎外感を特徴とする事実上のアパルトヘイトを生む」と批判した。

 ウォールストリート・ジャーナル紙は七日付で、フランス在住の米国人の比較文化研究家セオドア・ダーリンプル氏の「虚栄のかがり火」と題する論文を寄せた。同論文もフランスは英米両国の移民対策を無能だと非難してきたが、今回の暴動でフランスの虚構への自己満足をあばくこととなったと主張した。

平成17(2005)年11月9日[水] 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/051109/morning/09int001.htm

 この記事自体は産経自身の論説ではないですが、かなり厳しい米メディアの仏政府批判が列挙されておりなにやら産経自身の抑制報道とは逆のノリの記事構成になっております。

 ここまでの分析に基づく推測ですが、産経はおそらく本音としてはフランス政府の「移民政策の誤算」を認めつつ、しかし、他紙のように単純に今回の暴動を抑圧され続けた移民側に同情するスタンスの報道には与(くみ)したくないのでしょう。

 産経抄に現れている「目覚めた獣性」という表現でもわかるとおり、暴動を起こす側の責任をより明確に指弾すべきであると考えているのかも知れません。

 このアメリカメディアの仏政府批判の紹介記事も、意図として米メディアのアメリカに逆らい続けたフランスに対する積年の恨み辛みを主眼としているようです。



●皮肉なことに赤旗と同じ論調をかもし出してしまった産経記事

 産経記事の中で取り上げているUSA TODAY紙の社説は米メディアの主張を特に象徴的に示していると言えるでしょう。

 USA TODAYも七日付の社説で「フランスの砕かれたイメージ」と題し、「フランスは米国でハリケーンカトリーナ』が貧困、不平等、官僚の無能などを露呈させたと批判したが、いまや自分たちこそ同じ目覚ましを受けた」と論じた。さらに「イスラム系住民たちは二世でも三世でも学校で自由、平等、友愛というフランスが誇りにするモットーをいくら学んでも下層として残る」と述べ、フランスの社会そのものを批判した。

 まあ、目くそ鼻くそを笑うではないですが、ハリケーンカトリーナ』被害が黒人低所得者層に集中して被害が出たことに対する辛辣なフランスの対米批判に対して、USA TODAY紙社説は、強力なカウンター論説なのであります。(苦笑)

 しかし、産経の意図とは裏腹にこの記事に載っている多くの米メディアのフランス社会そのものに対する批判は、日本でも共産党機関誌「しんぶん赤旗」が酷似した内容の記事を昨日(9日)、掲載しているわけです。

フランス暴動
背景に移民社会の不満

 パリ郊外から全国に広がった暴動は、差別や貧困などさまざまな理由から、フランスに「同化」できなかった移民社会の不満が爆発したものといえます。各国がフランスへの観光に注意を呼びかけ、同様に移民を多く抱える周辺国では騒乱の「感染」を真剣に恐れる事態も生まれています。(パリ=浅田信幸)

 フランスで移民問題でもある「郊外」問題が社会的、政治的な問題として浮上するのは、一九七〇年代後半、石油ショック後の景気低迷で失業問題が悪化し始めてからのことです。戦後の「栄光の三十年」と呼ばれるフランスの経済成長に貢献した移民の多くが、職を失い、郊外の低家賃住宅に定着するようになりました。同国の移民の半数は北アフリカの旧植民地(アルジェリア、モロッコチュニジア)出身者で、そのほとんどがイスラム教徒です。

■郊外に集中

 フランスには現在、「治安重点市街区域」(ZUS)に指定された地区が全国に七百五十一カ所あり、多くがパリやマルセイユなど大都市の郊外に集中しています。暴動発生の直前に公表されたZUSに関する報告によると、同区域の失業率は20・7%と全国平均の倍。北アフリカなど欧州連合(EU)外の諸国出身の移民の間ではさらに深刻で、男性26%、女性38%が失業者です。

■統合と同化

 フランスの移民政策は「統合による同化」を建前としてきました。「同化」は、政教分離をはじめフランス革命以来の共和制原則を受け入れフランス人になりきることを意味し、「統合」は文化的差異を認め合いながら共生社会をつくりあげることを意味するようです。「違いを認める文化」とはフランス人がよく自慢げに語る文句で、統合が同化を促すという発想に基づいているようです。ところが今回の暴動はこの政策がうまく機能していないことをあらわにしました。

 一つには人種差別の問題で、アラブ系の名前だと就職も難しいという現実があります。ジャーナリストのナセル・ネグルーシュ氏は「フランス風人種差別」と題する論文(ルモンド・ディプロマティーク紙二〇〇〇年三月号)で、二年間に九十三通の応募に対して返事ももらえなかった二十五歳のアブデラティフ氏が、名前をトーマスと変えたとたんに採用面談の通知を受け取ったというエピソードを紹介しています。

 こうした事例や親が失業のため苦しい生活を送らざるを得ない実情を知る子どもや少年たちにとって、それはまさに将来の夢を持てない現実であり、「若者であることが非行に走らせることになる地区」(ニース大学マッテイ哲学教授)にほかなりません。

 フランス共和国の原則である世俗主義(ライシテ)とイスラムとの非親和性も大きな問題です。

 フランスの世俗主義フランス革命以来のカトリックと共和派のたたかいを通じて「国家と宗教の絶対的分離」として確立し、今年で百年の歴史を持っています。一方、イスラムでは聖俗分離の観念そのものが存在していません。昨年、イスラム女性の象徴であるスカーフを学校で着用することを禁じる法律が成立し、大論議になったのもそのためです。

共同体主義

 地域的にも固まって住んでいるイスラム教徒たちは、共和制原則よりもイスラムの原則を重視する独自のコミュニティーを形成する場合があります。フランスでは、これを「共同体主義」(コミュノタリスム)と呼び、フランス社会の分裂を促す要素として危険視する傾向があります。

 昨年六月、内務省は特別監視の対象となっている六百三十の「郊外」のうちほぼ半数、人口にして百八十万人が住む区域でその共同体主義的兆候が現れていると警告する報告書を出しました。そこではイスラム説教師の役割が増大しているといいます。

 この報告を暴露したルモンド紙は社説で、長期的に十分な財政的裏づけをもって都市政策を進めない国家・政府は「地域に時限爆弾を仕掛けているのか。いくつもの事実からそうだと答えざるを得ない」と当局の姿勢を強くいさめました。

 今回の暴動は不幸にもルモンド紙の指摘が的中したともいえます。多年にわたる矛盾の蓄積を除去し、どう社会の亀裂を回復するか、フランスは重い課題を背負っています。

2005年11月9日(水)「しんぶん赤旗
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-11-09/2005110906_01_3.html

 赤旗記事の結語「多年にわたる矛盾の蓄積を除去し、どう社会の亀裂を回復するか、フランスは重い課題を背負っています」は、産経が紹介した米メディアと全く同質のフランス社会そのものに対する批判なのであります。

 産経の本音とは裏腹に、産経の米メディア紹介記事が赤旗記事と論調を一致させてしまっていてこれはこれで興味深いのでした。



(木走まさみず)

●<追記>

 コメント欄より指摘いただきました。産経新聞は11月8日付けで社説を掲載しておりました。私の見落としであり、ここに訂正および、産経新聞の当該社説を追記しておきます。

 たいへん、失礼いたしました。

■【主張】フランス暴動 学ぶべき教訓少なくない

 パリ郊外の移民街で起きた暴動がフランス全土に波及し、沈静化の兆しがみられない。発生から十日以上が経過したが、これまでに放火された車は数千台にのぼり、拘束者の数は増え続けている。学校や幼稚園も放火の標的になるなど事態は深刻だ。

 在フランス日本大使館は在留邦人に対し、暴動が発生した地域には近づかないよう注意を呼びかけた。政情不安が続く途上国ではない。「文明開化」後の日本人がある種の憧(あこが)れを抱き、近代化のモデルとした西欧文明の象徴の一つ、フランスで起きた暴動ゆえに、衝撃的である。

 きっかけは、アフリカ系の少年二人が変電所に入り込み、感電死した事件だった。仲間と警官隊との衝突に発展し、放火と破壊が連鎖している。暴動の中心はアルジェリアチュニジア、モロッコなど北アフリカの旧仏植民地からのアラブ系、アフリカ系移民の二世、三世らとみられ、人種、雇用差別への反発や貧困が背景にあるとの指摘が多い。

 フランスでは一九六〇年代から高度成長期の労働力として移民を積極的に受け入れた。仏政府は主要都市の郊外に低家賃の住宅を用意するなど福祉面で手厚い政策をとったが、一方で言語や文化・生活面での「同化」を求める政策を通した。イスラム教徒女子生徒へのスカーフ禁止が引き起こした騒動は記憶に新しい。

 同じ移民政策でも、英国社会には異文化を尊重、ないしは干渉しない姿勢がある。しかし、「移民の国」との建国精神を掲げる米国も含め、途上国からの比較的新しい移民層に共通するのは、経済的な不遇だろう。そうした鬱積(うっせき)した不満が爆発したのが、今回のフランスの暴動だった。

 シラク仏大統領は「治安と公共秩序の回復を最優先する」との声明を出し、暴力には断固とした対応をとる決意を示した。移民であれ、誰であれ、法を破った者を国内法で厳しく罰するのは当然である。そして、何より警戒すべきは、暴徒化した若者たちをテロに誘い込む過激組織の動向だ。

 島国・日本でも、人口減時代の到来と相まって、移民問題を真剣に考える時が来た。フランスの暴動から学ぶべき教訓は少なくない。
http://www.sankei.co.jp/news/051108/morning/editoria.htm

 



<テキスト修正履歴> 2005.12.18 13:15

 コメント欄より御指摘で11月8日付けで産経新聞には社説が掲載されていました。
 産経社説を追記いたしました。