木走日記

場末の時事評論

NHKが謝れば済む問題ではない〜レッテル張りしかできないマスコミ

kibashiri2005-11-06




●トンチンカンな謝罪をするNHK橋本会長

 今日の毎日速報から・・・

NHK記者逮捕:橋本会長「視聴者の皆様におわび」と陳謝

番組「あなたとNHK」の冒頭で謝罪する橋本元一会長=NHKテレビから NHK大津放送局の記者が非現住建造物等放火未遂容疑で逮捕されたことを受け、橋本元一会長が6日午前11時からの番組「永井多恵子のあなたとNHK」で「報道に携わるものが重大な犯罪を引き起こし逮捕されたことは決して許されないことです。被害に遭われた方々や関係者、視聴者の皆様に心からおわびします」と陳謝した。

 また、橋本会長は記者らの処分について、捜査の進展を見ながら、厳正に対処するとの考えを明らかにした。(デジタル・メディア局)

毎日新聞 2005年11月6日 13時07分 (最終更新時間 11月6日 14時00分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/sokuhou/news/20051106k0000e040022000c.html

 NHK大津放送局の記者、笠松裕史(かさまつ・ひろふみ)容疑者(24)が連続放火犯容疑で逮捕されたのですが本人は犯行を全面的に認めていて「完落ち」の状態であります。

放火未遂でNHK記者逮捕 大津の事件認める
(11/05 23:50) 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/051105/sha068.htm

 産経報道等によれば、自分で放火しておいて、携帯電話で撮影していたり、第一発見者を装い警察に通報していたりと、文字通りとんだ「マッチポンプ」記者だったそうですが、しかしNHKの会長のTVでの謝罪コメントはどうなんでしょう。

「報道に携わるものが重大な犯罪を引き起こし逮捕されたことは決して許されないことです。被害に遭われた方々や関係者、視聴者の皆様に心からおわびします」

 ・・・

 おかしなことをいうものです。

 「重大な犯罪を引き起こし逮捕されたことは決して許されないこと」であることは、なにも「報道に携わるもの」だけでなく一般の国民も同じでしょう。

 特に放火などという重罪は、NHK職員じゃなくても公務員でも会社員でも自営業主でも「引き起こし逮捕されたことは決して許されないこと」なのであります。

 「報道に携わるもの」などと自らを高所に持ち上げないでいただきたいです。ここ一連の不祥事で国民の誰も「みなさまのNHK」が不正だらけの腐った組織であることぐらい知り尽くしているのですから。

 ・・・

 放火は言うまでもなく殺人、誘拐、強姦と並ぶ凶悪犯であり、刑法犯の中でも最も罪の重い犯罪であります。

刑法犯を「凶悪犯」、「粗暴犯」、「窃盗犯」、「知能犯」、「風俗犯」、「その他の刑法犯」の6種に分類したものをいう。

凶悪犯………………殺人、強盗、放火、強姦
粗暴犯………………暴行、傷害、脅迫、恐喝、凶器準備集合
窃盗犯………………窃盗
知能犯………………詐欺、横領(占有離脱物横領を除く、偽造、汚職、背任「公職にある者等の。) 、
あっせん行為による利得等の処罰に関する法律」に規定する罪
風俗犯………………賭博、わいせつ
その他の刑法犯……公務執行妨害、住居侵入、逮捕・監禁、器物損壊、占有離脱物横領等上記に掲げるもの以外の刑法犯



平成17年8月 警察庁
平成17年上半期の犯罪情勢 の凡例より抜粋
http://www.npa.go.jp/toukei/keiji24/hanzai.pdf

 笠松裕史(かさまつ・ひろふみ)容疑者は、個人として厳しくその罪の裁きを受けるべきであります。

 しかし、組織としてのNHKが構造的に抱え込んでいる問題と、組織構成要員である職員個人に由来する問題は厳密に区別すべきであります。

 ところが、この種の責任者の謝罪を報道等で見ていると、日本のマスメディア報道の、どうにもだらしない表層的な垂れ流し報道には、正直ウンザリするのです。

 今回の事件、他のNHKの不祥事とは一線を期し、冷静にしっかり原因を究明すべきであります。



●どのような組織も将来の犯罪者を抱え込んでいるリスクはある

 NHKをかばうつもりは毛頭ありませんが、そもそもどのような優秀な組織においても将来の犯罪者を抱え込んでいるリスクはあるわけです。

 上記でもご紹介した警察庁が発表した「平成17年上半期の犯罪情勢」の資料によれば、ここ数年の日本における刑法犯検挙数は35〜40万人であり、直近の平成16年度では389,027人でありました。

 認知件数は約250万件ですので、検挙者数40万人とは、近年の検挙率の低下を物語っている憂いべき数字でありますが、それはともかく人口1億2000万の日本で年間約40万人の検挙者を出している割合で考えれば、毎年300人に一人が「犯罪者」となっている計算になります。

 ところでNHKの職員数は何人なのかといいますと、以下のNHK公式資料によれば、平成17年度現在で11851人であります。

<職員の状況(平成17年度)>
http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/yosan/yosan17/pdf/syokuin-jyokyo.pdf

 約1万2千人の職員を有するわけですから、警察庁発表の資料に基づく人口あたりの検挙者の割合を単純にあてはめれば、毎年約40人前後の「犯罪者」が出ても、統計上は不思議ではありません。

 どのような規律厳しい組織でも、一定の割合で刑法犯を抱えてしまうことは、警察や自衛隊の不祥事を例に出すこともなく、これは避けられないことなのです。

 まず、一定の規模以上の人数を抱え込んだ組織の構成要員には、その組織の管理体制の善し悪しに関わらず、自然発生的にある割合で刑法犯が発生してしまうことを押さえておく必要があります。

 今回の放火犯逮捕報道において、日本のマスメディアは、面白おかしくNHK職員の犯行として表層的にしか扱っていませんが、この犯罪の背後に組織としてのNHKの抱え込んでいる問題があるのかがひとつのポイントであるのです。

 もしかしたら、彼はどんな組織に属していても犯行に及ぶ危険性を持っていたリスク因子だったかも知れないからです。

 個人に由来するリスク因子であった可能性・そのノイズを取り去った上で、初めて所属組織の有する問題かどうかが問われなければなりません。

 どんな組織にも大バカヤローはいるわけであり、マスコミがNHK記者の犯罪だからといって表面的に大騒ぎだけするのはなんとも馬鹿らしく情けないですし、大慌てですぐに謝罪会見をするNHK会長にも、原因究明をする確固たる強い意志が全く感じられないのです。



●NHKが謝れば済む問題ではない〜メディアはレッテル張りをやめよ

 それでも顕著に一定の傾向で不正行為や犯罪者が続発するならば、それは初めてその組織の問題として浮上してくるわけです。

 最近のNHK職員の不祥事を上記の産経記事がまとめていますので引用してみましょう。

【NHK職員による最近の事件、不祥事】

13年8月  大阪放送局編成部ディレクターが同局女性アルバイトの自宅に侵入し首を絞め金を要求、強盗未遂などの容疑で逮捕

14年10月 神戸放送局員が駅のエスカレーターで女性会社員のスカートの中を盗撮、兵庫県迷惑防止条例違反容疑で逮捕

16年7月  チーフプロデューサーによる制作費の着服が発覚。同年12月に詐欺容疑で逮捕。被害総額は1億9000万円

       編成局幹部ら2人がカラ出張、総額約300万円の受領が発覚

   8月  岡山放送局幹部が架空飲食費請求で約90万円を着服、懲戒免職。ソウル支局長の取材経費水増し請求が発覚

   10月 甲府放送局員が局内のパソコンを盗むなどして窃盗容疑で逮捕

       制作技術センター職員が制作費1240万円を着服、懲戒免職

17年2月  特派員2人によるスタッフ報酬の水増し請求が発覚、停職処分

       放送技術局員が電車で女子高生に痴漢、都迷惑防止条例違反容疑で逮捕

   4月  番組制作局ディレクターが電車内で女子高生の下半身を触り、強制わいせつ容疑で逮捕

   5月  映像デザイン部員が制作費約470万円を着服、懲戒免職

   7月  カメラマンが約350万円分のビール券を着服、懲戒免職

       編成局員がソルトレーク五輪取材時に入場券を転売し飲食代に流用、不正経理で出勤停止処分

   11月 大津放送局記者が放火未遂容疑で逮捕

 ここで一覧としてまとめてみると、こんなにもNHKでは不祥事が発生していたのかという印象を持ってしまいがちでありますが、先ほども述べたとおり職員数から考えたらこのぐらいの犯罪が発生してしまうのも統計上は驚くには値しないわけです。

 問題はこれらの不祥事の中でどれが組織としてのNHKが責を問われるべきなのかでありますが、少なくとも架空請求や経費着服は、これは国民の受信料で運営する組織としては言語道断の犯行であり、このように繰り返し発覚すること自体、個人の犯罪としてだけではなく組織が抱え込んでいる問題であると言えましょう。

 つまりNHKは金銭感覚のマヒした組織であるという批判は的を得ているのでしょう。

 一方、他のわいせつ事件などは、一般論としてNHK職員はぶったるんでいるという怒りの対象にはなるでしょうが、これはノイズに近い、ある程度の割合で抱え込んでしまうリスク因子に近いモノであるという分析も可能でしょう。

 今回の放火犯も同様ですが、過去のわいせつ犯も含め、組織としてのNHK内に社員教育も含めて問題がなかったかどうか冷静に分析するべきなのです。

 組織内に問題がありそれがきっかけとして、リスク因子を犯罪行為にからせる土壌があったのかどうかが問われるべきなのでしょう。

 日本のメディアには、今回のNHK記者の放火事件を単純にNHKの不祥事として表層的にレッテル張りをして済ませるのではなく、NHK自身も含めて冷静で本質的な分析を行うことが求められているのだと思います。



(木走まさみず)