木走日記

場末の時事評論

「左向け左」の韓国外交政策についての一考察

●アジア追随・アメリカ軽視の盧武鉉外交

 3日付けの韓国・中央日報の記事から・・・

米国は「右向け右」なのに韓国政府は「左向け左」

「米国はどんどん右へ進み、韓国政府と政界は左に移動中だ」。米国の著名な韓半島専門家であるジョンズホプキンス大学・国際大学院(SAIS)のオーバードーファー教授が、韓米同盟について苦言を呈した。

同氏は3日、ソウル平和賞文化財団の主催で高麗(コリョ)大・百周年記念館で開かれた韓米同盟関連の講演会で「2000年以降、韓米両国がそれぞれ別の方向に進んでいるのは否認できない現実」とし、こうした認識を示した。同氏は「韓米同盟はこの数十年間、多くの浮沈を経験した」と前置きにした後「だが、最近の両国間の政治的かつ社会的な隔たりは、非常に深刻化している」と指摘した。

「こうした隔たりが韓米同盟を根本的に脅威している」と話したりもした。同氏によると、米国は01年9月11日の米同時多発テロ事件を契機に、急速に右傾化しはじめた。半面、韓国民は2000年、金大中(キム・デジュン)前大統領が平壌ピョンヤン)を訪問して以降、北朝鮮をこれ以上脅威的な国に見なさなくなった。

オーバードーファー教授は「北朝鮮が深刻な軍事的脅威、だという認識は、韓米間軍事同盟を固める主な力だった。韓国戦争(1950〜53)の後、半世紀が過ぎた今でも、米軍が韓国に駐留する根本的な理由になっていた」とし「だが、韓国の大半の若年層が、北朝鮮を脅威的対象に感じないならば、これ以上数万人の米軍が韓国領土に残っている理由がない」と主張した。

だが、同氏は、米国が韓国の現状を最大限に理解し、包容しなければならない、という見方も示した。「韓国はこれまで、あまりにもダイナミックに変化してきたため、最近では深刻なアイデンティティーの危機に陥っている」とし「過去と現在、伝統と新しいもの、進歩と保守の間で、社会全体が分裂している様相」と診断した。

朴信洪(パク・シンホン)記者

2005.11.03 18:26:00 韓国・中央日報
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=69268&servcode=200§code=200

 このオーバードーファー教授の韓米同盟の現状に対する認識ですが、これは単純化しすぎのきらいはありますけれども、今のアメリカの知識層が抱く韓国に対する不信感が如実に言い表されていて参考になります。

 日本では日本政府の外交政策について、朝日新聞辺りから『対米追随・アジア軽視の小泉外交』と評されたりしておりますが、最近の韓国政府の外交政策はさしずめ『アジア追随・アメリカ軽視の盧武鉉外交』というところでしょうか。

 ・・・

 韓国の盧武鉉政権は、米国に韓(朝鮮)半島有事の際の戦時作戦統制権の返還を要求しております。10月1日の「国軍の日」に盧武鉉大統領は、「(韓国軍は)戦時作戦統制権の行使を通じて、韓半島の安保に自ら責任を負う名実共に自主軍として生まれ変わるだろう」と演説しています。

 この大統領の発言を受け10月21日、ソウルで開かれた米韓定例安保協議で両国は在韓米軍の持つ韓国軍の「戦時作戦統制権」の返還問題に関し、「協議を適切に加速化させる」ことで合意しました。韓国政府の提案に応えたものですが、同国の保守派からは「米国に対し『同盟は終わりだ。米軍は出て行け』と言っていると受け止められかねない」と憂慮の声が高まりました。

 そしてこれらの流れを受ける形で、韓国国会国防委員会は4日、「北朝鮮急変事態対策計画」の練り直し勧告を行いました。

国会国防委、「北朝鮮急変事態対策計画」の練り直し勧告
NOVEMBER 05, 2005 03:02 韓国・東亜日報
http://japan.donga.com/srv/service.php3?bicode=050000&biid=2005110582608

 5日付け韓国・東亜日報のこの記事によれば、

報告書は、北朝鮮における内戦や大量の脱北などに備えて、1990年代後半に政府が作成した「統一対策計画Ⅰ・Ⅱ」は、北朝鮮で急変事態が起きても、韓国は、韓米同盟を土台としてこれを統制できることを前提としているが、現実にはそうならない可能性もあると指摘した。

 とのことですが、断定的に結論を急ぐことは避けますが、どうも現在の韓国政府が国防上も米国離れを目指しているのはあきらかなようであります。



●日米同盟は強化〜韓国と日本の外交的な距離は開くばかり

 一方、10月29日日米両国政府は日米安全保障協議委員会をワシントンで開き、在日米軍の再編に関する中間報告を発表しました。自衛隊在日米軍の一体運用を強化し、同盟の実を高めるのが狙いであります。日本がこれに応じた背景には、もちろん北朝鮮の核開発や中国の軍拡があるのでしょう。

日米安全保障協議委員会(「2+2」)の開催
平成17年10月30日
外務省・防衛庁

http://www.jda.go.jp/j/come_go/2005/10/29_01.htm

 上記公式プレスリリースによれば、出席した米ラムズフェルド国防長官からはかなり積極的な軍事上の日米連携が唱えられ日本側も基本的に合意した模様です。

ラムズフェルド国防長官より、今回発表した文書は日米同盟の基礎になる文書であり、今後は具体案の策定に向けて協議を深化していくことが必要であり、不断の努力が必要である旨発言。また、日本のさまざまな国際平和協力活動における貢献について高く評価。個別分野としては、相互運用性の向上、計画検討作業、輸送協力、情報共有、自衛隊と米軍の共同訓練機会の増大(グアム、ハワイ、アラスカ、米本土等)、BMD、第三国に対するキャパシティ・ビルディングへの日米協力の推進の重要性を指摘。

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 どうやら韓国と日本の外交的な距離は当面開くばかりのようです。靖国参拝問題や、北朝鮮への対応の差からだけではないでしょう。「中国とどう向き合うか」「アメリカとどうつき合うか」で両国は決定的に異なる道を選択しつつあるように見えます。



大陸国家であることを思い出した韓国人

 7日付けの『NIKKEINETプロの目』では、鈴置高史編集委員のコラム『異なる道を歩み始めた日韓(11/7)』で、このあたりの韓国側の事情を以下のように説明しています。

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大陸国家であることを思い出した韓国人

 あれほどまでに親米、反共国家だった韓国の急変心。それは驚きだが、よく考えれば、説明材料にはこと欠かない。「60年間も保護者づらをしてきた米国」への反発。そして、北朝鮮との和合路線を進めるには米国と距離を保つ必要があるとの判断。さらには、伝統的にも地政学的にも深い中国との関係だ。

 「日本からは36年間植民地支配を受けた。米国の保護を受けたのは60年間。だが、中国を宗主国にいだいたのは数百年」。韓国の知識人はしばしば中国の影響をこう説明する。

 それは「今」も続く「歴史」だ。一昨年、韓国の対中輸出額は「対米」を超えた。中国への外国からの投資額は、香港などの中華圏や、バージンアイランドなどタックスヘブン地域を除けば、韓国からが一位だ。 韓国と中国の関係は「日本と中国」とは比べものにならないほど深まった。

 地政学的に言っても、日本人が見落としがちなのは、韓国が島国ではなく大陸国家であり、北朝鮮をはさんで中国と接しているという事実だ。中国の精神的圧迫感は、海で守られている日本人にはなかなか分かりにくい。

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『異なる道を歩み始めた日韓(11/7)』より抜粋
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/suzuoki/index.html

 大陸国家であることを思い出した韓国人」とは興味深い切り口であります。

 たしかに、大陸国家である韓国がかかえる「中国の精神的圧迫感は、海で守られている日本人にはなかなか分かりにくい」のでしょう。

 しかしこの分析は少しばかり韓国を表層的に捉えすぎているように思われます。

 このような単純化したステレオタイプの見方はジャーナリズムがよく陥る甘い罠なのでありますが、実際の韓国人の思考はもう少し複雑なのではないでしょうか。

 ほんとうに韓国は「大陸国家であることを思い出し」、「海洋国家」であるアメリカや日本と距離を置こうとしているのでしょうか。



●成熟してきた韓国の民意に期待したい

 私は韓国政府の最近の親中国・親北朝鮮の動きは、冷戦終了後分断国家としてのアイデンティティを失わないための流れだと解釈しています。

 韓国は冷戦が終わった現在、世界で数少ない分断国家であります。そして今なお祖国統一へのロードマップを一切描けないままであります。

 米国を要にして日米・韓米それぞれの同盟関係を中心に日米韓三国は、長らく反共連合として共産国家と対峙してきたわけです。その中で韓国は、経済的にも『漢江の奇跡』と称される高度成長を実現し、また民主主義の面でも軍事独裁国家から民主国家として成熟してきたわけです。

 今回の韓国政府のアメリカ離れ政策も、アメリカ追従型西側陣営の一員としての自国の役割に疑問を持つ勢力が国内で台頭することが許されるほど、韓国国内の民意が精神的に成熟してきたと考えて見るとスッキリします。

 最初に紹介した中央日報の記事で、現在の韓国を「過去と現在、伝統と新しいもの、進歩と保守の間で、社会全体が分裂している様相」と表現していましたが、この「分裂している様相」こそ多価値社会へ脱皮し始めている韓国の民意の成熟を示してはいないでしょうか。

 特に私が注目したいのは韓国内の野党勢力でありまして、彼らは現政権の親中国・親北朝鮮よりの「大陸国家」志向に真っ向から反対しています。
 彼らは「親米派」であり、「海洋国家」であるアメリカや日本との同盟関係を重視しております。

 韓国内で民意は二分されているようです。

 その意味では韓国の民意は、建国以来初めて、成熟してきた民主国家の証として異論を包含する度量を見せ始めているとも言えそうです。

 成熟したと言えば、考えてみると今回の小泉靖国参拝に対する韓国政府の反応も日本のメディアが驚くほど抑制の利いた対応であったのは記憶に新しいことです、

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 日米関係重視の日本と中国・北朝鮮重視の韓国では、外交政策レベルでは当面かなり互いに乖離した政策となる可能性があります。

 しかし、現韓国政府の親中国・親北朝鮮政策が未来永劫続くとは考えにくいですし、韓国国内の世論が極端な政策の支持一辺倒に変貌することも考えづらいのです。逆に日本やアメリカと決定的に決裂するような振る舞いは決して行わないことでしょう。

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 東アジアの外交のマクロな見方は、もちろんアメリカ対中国の図式』です。アメリカと中国の動向を無視して語ることは出来ません。

 『唯一の超大国アメリカ対急速に台頭し始めた中国』の図式で考えたとき、マクロ的外交視点で見たとき、韓国がその国内にアメリカ派と中国派を要することは外交的に選択肢を複数持つ意味から健全であるとも言えるわけです。

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 今回の極端にアメリカ離れを画策する韓国政府の動きを、韓国の左傾化というステレオタイプの決め付けだけで評価する前に、韓国の民意が成熟してきた面も冷静に分析してみる必要があるのではないでしょうか。

 みなさまはいかがお考えでしょうか?



(木走まさみず)