木走日記

場末の時事評論

『くまのプーさん』と『朝日社説』からの一考察〜頑固なレッテル張りは無敵なり

kibashiri2005-10-30




●風邪で寝込んで『くまのプーさん』を見る〜なんてオバカな話なんだろう

 昨日(土曜)は前日の深酒と風邪の悪化により、『鬼の撹乱(かくらん)』ということでしょうか、一日家で寝込んでしまいました。エントリーもコメントに対するレスも丸一日できず、しかしお陰でじっくり新聞社説など目を通すことができました。

 居間のソファーで毛布をかぶり横になっていたのですが、土日の我が家のチャンネル権は完全に娘のカナコにあり、うっとおしいことに、この娘がディズニーアニメの大フアンなのでありまして、『美女と野獣』だの『ライオン・キング』だの見たくもないのに強制的に半日見せられたのです(苦笑)

 で、改めて深く考えさせられたのが『くまのプーさん』の主人公プーさんのイタイ行動原理なのであります。

 見たのは『プーさんとはちみつ』という巻きでありまして、まあ、一言でいえばハチミツ大好きなプーさんが自分の家のハチミツが切れたことによるおまぬけな一騒動なのです。
 プーさんはまず蜂の巣からハチミツを盗もうとしますが、泥をかぶって真っ黒になり風船にぶら下がり『雲に変身』して木の上のハチの巣に近づきますが、そんなオバカな戦術にハチ達は騙されません、風船は割られ撃退されてしまいます。

 次にプーさんは親友のうさぎのことを思い出します。

 そこからは、以下のサイトより該当部分を抜粋・紹介させていただきましょう。

 ・・・

さてある晴れた日。プーがいつものようにはちみつの ことを考えていると、ふいに「ウサギ」という名前が頭に浮かびました。ウサギは会うと必ず「お昼はどうかね」ってきいてくれるいいやつなのです。

さっそくプーは、ウサギの住む土手の穴をたずねました。 あわてたのはウサギのほうです。なんせプーがくると、大事にとっておいた食べものが全部なくなってしまうんですからね。
「こんにちは。誰かいないのかい?」

プーは穴の中にむかっていいました。少し間があって、 「いないよ」

と短い返事がかえってきました。 「ほんとに誰もいないのかい?」
「いないとも!」

プーは考えました。(誰かがいるんだな。だから誰かが 「いないよ」っていったんだ。)
「わかった。君はウサギだろ」
ウサギはあきらめて顔を出しました。
「やあこんにちは、プーさん。どうだいお昼でも…」
「ありがとう。じゃあちょっぴりごちそうになるかな」

プーはいうが早いか穴に入りこむと、さっさとテーブルに ついてナプキンまでつけました。

「ミルクにするかな?それともはちみつ?」
「うん、両方」


仕方なくウサギはツボごと差し出しました。
そこでプーは食べました。食べて、食べて、食べて、 食べまくりました。
みつの入ったツボが次々とからに なっていきます

最後の一滴までなめ終わると、プーはねばついた声でいいました。
「さて、そろそろ帰るとするかな。さようならウサギ君」


立ち上がって穴の外へ出ようとしましたが、
「あれ?」

体がつかえて出られません。
あわてて戻ろうとしましたが、うしろにも動きません。
すっかり穴にはさまってしまいました。
「うわあ助けて、苦しいよぉ」
「なんてことだ、あんなに食べるからだよ」

ウサギがあわてて押してみましたが、ビクともしません。
「はー、こりゃダメだ」

 ・・・

水谷夫妻の「くまのプーさん」のページ
『プーさんとはちみつ』より抜粋
http://www.asahi-net.or.jp/~ka3i-mztn/pohst.HTM

 まあ、なんともたわいのないオバカなお話なのであります(苦笑

 ・・・



●『くまのプーさん』に見る、愚かな思考停止レッテル張りエゴ

 しかしこのプーさんの身勝手な行動ですが、大の大人が真面目に見ていると無性に腹が立ってくるのであります。

 「なんだ、この無責任で自分勝手な行動は!」

 「プーよ、お前は何様のつもりなんだよ!」

 てな感じなのです(苦笑)

 彼はオツムの回転があまり速くないのでゆっくりでしか物事を考えることが出来ません。
 そして一度考えついた結論には信じられないほど頑固です。

 プーの周りの友人達もそんな彼に振り回されるのですが、特に私がいかんと思うのは、その愚かな『思考停止レッテル張りエゴ』とでも言えそうな他者に対する一方的決めつけであります。

 たとえば、あわれな親友のうさぎ君に対する彼の評価は引用部冒頭部分にこうあります。

 さてある晴れた日。プーがいつものようにはちみつの ことを考えていると、ふいに「ウサギ」という名前が頭に浮かびました。ウサギは会うと必ず「お昼はどうかね」ってきいてくれるいいやつなのです。

 ハチミツが食べたい一心のプーにとっては、この瞬間うさぎは『会うと必ず「お昼はどうかね」ってきいてくれるいいやつ』でしかありません。

 そしてそれがプーの中のうさぎに対する人物評価のすべてです。(爆笑

 このプーの『思考停止レッテル張りエゴ』は物語全編を通じて随所に出現するのですが、ほとんど根拠薄弱でもプーは一度張ったレッテルを覆そうとは決してしません。

 たとえば『風の強い日、おめでとう』の巻きでは、プー達が住む通称『100エーカーの森』がある日暴風雨にさらされます。プーは風が珍しく強いこの日を「風の強い日おめでとう」と祝うことにするのですが、理由は全くよくわかりません。そして親友達を引き込みまた騒動を起こしてしまいます。

 ああ、もうプーったら頑固なんだから・・・(苦笑

 普通の人は例えば「Aという人物がBという行動をした」ことに対する評価を下す場合、もちろん、人物Aのいままでの行動なり言動なりを分析はした上で、その者がとった行動Bについて詳しく検証した上で行動を中心に評価するでしょう。

 「Aという人物は今までこうした行動をしてきた人である。そしてそのAが今回Bという行動をおこした。そこで総合的に見て人物Aの行動BについてXXと評価する」

 ところがおろかなプーは違います。自分の張ったレッテルがただひとつの評価基準です。

 「Aという人物はこういうことを行動してきた人物だ。だから自分はAが好きだ(あるいは、嫌いだ)。AがBという行動をしたらしいが、Aのしたことだからいいことだ(あるいは、悪いことだ)。そうに決まっている」

 こうなっちゃうのです。
 ・・・

 まあ、子供アニメを真剣に考えるのも何なんですが、このプーで哲学書まで書かれているそうですから、お許しいただきたいと思います。

 プーも日本人にとってはディズニーのキャラクターとしてなじみが深いのですが、原作は英国の数多い児童文学のなかでも「不思議の国のアリス」(ルイス・キャロル著・ほるぷ出版)とともに並び称されているそうです。

 作者のアラン・アレクサンダー・ミルンは1926年、今から79年前に「クマのプーさん」を書き、大ベストセラーとなっています。

プーの生みの親A・Aミルンについてhttp://www.asahi-net.or.jp/~ka3i-mztn/clpomiln.htm

 実は、「くまのプーさん」でありますが、アリス以上にその内容が難しくとらえられているのだそうです。クリストファーロビンという男の子と森の仲間達との間で繰り広げられるたわいも無い話であるのですが、くまのプーさんに関する啓発本はやたら多いわけでして、その代表ともいえるのが『プーさんの哲学』(ジョン・ウィリアムス著・河出書房新社)でありましょう。

 プーを哲学者にしたてて、西洋哲学を解説するのだから手が込んでいます。さらにプーの大の親友であるピグレットにいたっては老荘思想の担い手らしく、くまのプーの物語は東洋と西洋とが融合した一大思想書になってしまっているのであります

 まあ人によっては、プーさんに在りし日の英国の大植民地主義を感じてしまうのであります。

 ・・・

ところで、作者のミルンは、自分の息子のおもちゃ箱にはいっていたぬいぐるみを登場「動」物にしたといわれている。人間と動物との関係史に関心のある筆者としては、この動物たちが気になってしかたがない。物語に登場する動物たちのなかで、くま、うさぎ、ふくろうは森の動物だし、ぶたとろばは森にこそいないが、森のまわりにある農園にはいそうなので、これもまあ許せる。問題はカンガルーとトラである。どう考えても英国の森にいてもらうと困るのである。この2匹、いずれもイギリスの植民地だったオーストラリアとインドを代表する動物である。ミルンがこの動物を選んだ理由はわからない。でも解釈の仕方によっては「植民地主義のくまのプー」と言えないこともない。もっとも、あまり趣味がいいとはいえない切り口ではある。

 ・・・

イングランド児童文学紀行 野林厚志 より抜粋
http://www.minpaku.ac.jp/staff/nobayashi/britain05.html

 しかしアニメの中のかわいいキャラだから、その愚かな『思考停止レッテル張りエゴ』は笑って許せるのでありまして、マスメディアの報道姿勢が『プーさん』と同レベルではこれはいただけないのです。



朝日新聞社説の特殊性〜はじめに結論があるのはどういうことか?

 自民党は前通常国会郵政民営化法案に反対した造反者50人の処分を決めました。29、30日にわたり、5大紙の社説でも一斉にこの話題を取り上げています。

朝日新聞社説】「造反」処分 勝ったればこそ
http://www.asahi.com/paper/editorial20051029.html
読売新聞社説】[造反議員処分]「『自分党』からの脱皮の一歩に」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20051029ig91.htm
毎日新聞社説】郵政処分 厳しさも都合次第の秋の風
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20051029ddm005070023000c.html
産経新聞社説】自民党処分 さらなる改革に踏み出せ
http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm
日経新聞社説】政党は内部規律の強化を
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20051028MS3M2800K28102005.html

 まあ、例によって肯定的評価から否定的評価までいろいろなのですが、いつも結語部分を引用していますが今日は少し変わった評価方法で各社説をリテラシーしてみましょうか。
 固有名詞、特定人物名の出現頻度でチェックしてみましょう。

 このような政党がらみの時事社説を考察する際どのような登場人物が出現しているのか分析すると、とてもおもしろい顕著な特徴が浮き彫りになることがあります。

 各社説の個人が特定できる部分を洗い出してみましょう。

朝日新聞社説】「造反」処分 勝ったればこそ

 小泉首相自身、保革伯仲時代の80年に大平内閣の不信任案が可決されたときには、欠席したのに、直後の総選挙でおとがめなく党の公認をもらった。野党時代の93年に政治改革法の自民党案の採決を棄権した際にも、処分はされなかった。

 もうひとつ、衆院の処分が厳しかった理由には、首相の強い覚悟があった。選挙戦の演説で、首相はこう述べている。

 「戦国武将の生き方に比べれば、今の自民党の権力闘争なんて生っちょろい」

 総選挙で小泉内閣を倒そうとした逆賊に、温情をかける必要はない。世が世なら打ち首、獄門は当たり前――。それが首相の思いに違いない。

 こんなに首相の力が強くなって、党内で自由闊達(かったつ)な論議ができるのか。そんな心配もしたくなる処分だった。

読売新聞社説】[造反議員処分]「『自分党』からの脱皮の一歩に」

 新党結成組と同じ会派に入った野呂田芳成が除名されたほか、平沼赳夫ら27人が離党を勧告された。衆院解散で引退した議員を除くと、最も軽い処分でも党の役職1年停止だった。

 自民党は2003年の衆院選と04年参院選で、政権公約に「郵政事業を07年4月に民営化」と明記している。小泉首相一個人の公約ではない。

 村山政権誕生の94年6月の首相指名選挙では、造反した中曽根元首相渡辺美智雄・元副総理は「党へのこれまでの貢献」を理由におとがめなしだった。

毎日新聞社説】郵政処分 厳しさも都合次第の秋の風

 衆院選に無所属で出馬した議員のうち、今度の特別国会の首相指名選挙で小泉純一郎首相に投票しなかった野呂田芳成氏が除名、民営化法賛成に転じた野田聖子らにも離党勧告が下され、10日以内に離党しなければ除名されることになった。

 ここをなあなあで済ませたら、毅然(きぜん)とした姿勢が売り物の小泉首相にも傷がつくと判断したのだろう。

 そこで格差のつじつまを合わせるために持ち出したのが、民営化法への反対より、「衆院選に無所属で出馬し公認候補を妨害したことが大きい」(武部勤幹事長)という理屈だ。

 参院側も同じだ。通常国会で反対した中曽根弘文らは「『再考の府』である参院は自らの信念と良識に従って行動を」と大見えを切っていた。良識、信念はどこへ行ったのか。「小泉首相衆院を解散できるはずがない」という甘えがあったというほかない。

産経新聞社説】自民党処分 さらなる改革に踏み出せ

 信賞必罰を明確にしたものであり、小泉純一郎総裁(首相)衆院選を通じて加速させた政治構造改革の一環として評価したい。

 さきの国会で民営化法案採決を欠席した小渕優子ら二十人も武部勤幹事長の裁定で戒告処分とした。

 自民党の処分はこれまで、そのときどきの政治状況に左右されるケースがほとんどだった。イラクへの自衛隊派遣に反対した加藤紘一らも「党則遵守の勧告」に次いで軽い「戒告」にとどまり、「加藤の乱」といわれる森内閣不信任決議案の採決(平成十二年十一月)を欠席した加藤山崎拓両氏らも不問に付された。

 この中には、現幹事長の武部勤財務相谷垣禎一両氏も含まれている。武部氏が今回、「厳正処分」を強調し続けたにもかかわらず、反対派から「あの武部さんにそんなことはできない」と軽視されたのもこのためだ。

 しかし、今回は明確にけじめをつけた。小泉総裁の「自民党をぶっ壊す」という公約通り、党への敵対行為でさえあいまいに処理してきた「融和」路線は否定されたといえる。

 小泉政権に批判的な人々が「独裁の結果だ」と指摘する根拠はここにある。ただ、総裁の意向が強く働いたかどうかは別にして、今回の処分は有権者にわかりやすいものだ。自民党が従来の支持層でなく、有権者の側にシフトしたことを象徴している。

 小泉総裁は処分決定のあと、武部氏に「しっかり党の改革を進めてもらいたい」と指示した。内閣改造・党役員人事で武部氏の処遇がどうなるかわからないが、マニフェスト政権公約)や党議決定の順守など、自民党には政治をわかりやすくするため、一層の改革に挑むことが求められている。

日経新聞社説】政党は内部規律の強化を

 衆院選前に新党を結成した綿貫民輔ら9人を除名しているが、28日は無所属で当選して国民新党と会派を組んだ野呂田芳成を除名処分、平沼赳夫野田聖子両氏ら27人に離党を勧告した。

 しかも小泉純一郎首相郵政民営化を最大の争点に掲げた選挙に圧勝したことで、厳しい処分は不可避となった。

 ただ造反者の処分は明確な基準がなければ、理解を得られない。参院では今国会での採決で棄権した亀井郁夫だけが離党勧告となり、他の議員は2年間の猶予付きの党員資格停止や党の役職停止処分だった。

 ・・・

 どうでしょう。わかりやすくまとめてみました。

      小泉首相   他の政治家
 朝日:    6回      0回
 読売:    1回      5回
 毎日:    3回      4回
 産経:    4回     12回
 日経:    1回      5回

 ・・・

 やれやれ。

 ああ、もう朝日ったら頑固なんだから・・・(苦笑

 はっきりしていることは、朝日以外の他紙はこの度の決定に対し賛否は割れているものの、自民党議員の今までの党議拘束を守らなかった事例や、この度の反対派の動きを冷静に分析しており、自民党という公党の問題としてより冷静に捉えようとしております。

 もちろん、例えば毎日は「もっと見苦しかったのは、選挙後、一転して賛成に回った議員だ。衆院選で示された民意に従ったというより、党側に恭順の意を示し、軽い処分を期待したのだろう。しかし、郵政民営化に反対だからこそ、彼らに投票した有権者の立場はどうなるのか。」とかなり寝返った議員達に批判的ですし、産経は産経で「信賞必罰を明確にしたものであり、小泉純一郎総裁(首相)が衆院選を通じて加速させた政治構造改革の一環として評価したい。」と相変わらず一方的賛辞であり、論調は各紙いろいろであります。

 しかし、朝日新聞だけは公党としての自民党の問題としてではなく、小泉純一郎首相そのものにウエイトを置いた批判なのであります。

 その社説からは小泉首相以外の人物は奇妙に一切登場してきません。反対派の動きもほとんどふれていませんし、自民党議員の今までの党議拘束を守らなかった事例でも、登場してくるのは小泉首相だけです。

 この朝日社説はあたかもこういってるようです。

 「今回の党議決定などどうでもいい、どうせ小泉さんのしてることはろくでもないことなのだ。だからこんなやつに300議席ももたしちゃろくなことにならないんだ。」

 朝日社説の結語はこうです。

 こんなに首相の力が強くなって、党内で自由闊達(かったつ)な論議ができるのか。そんな心配もしたくなる処分だった。

 ・・・

 うーん、朝日新聞よ、あんたはプーさんか?

 ほんとにもう、朝日ったら頑固なんだから・・・(苦笑

 社説だからどのような書き方も各社の自由であり、今回の自民党の造反者に対する決定を小泉首相一人の気質に結びつけて論説するのは朝日の勝手でしょう。

 しかし、はじめに「小泉さんは嫌い」の結論ありきで、他紙のように処分の詳細や背景の分析もろくにしないで結論だけ先行させるこの書き方はどうにもいただけません。

 これじゃ、プーの『思考停止レッテル張りエゴ』と何も変わりはないではないですか。
 「小泉という人物はこういうことを行動してきた人物だ。だから自分は小泉は大嫌いだ。自民党が造反者罰則という行動をしたらしいが、小泉総裁の自民党のしたことだから悪いことだ。そうに決まっている」

 社説自体、こうなっちゃていて『思考停止レッテル張りエゴ』に過ぎないのです。

 でも、プーさんにしても朝日にしてもこういう頑固なレッテル張りは無敵なんですよね。

 論理的でないぶん、反論もしずらいのです。

 ふう。

 ・・・



 ああ、『プーさん』を見た後で『朝日社説』を読むのは、体に悪いことがよくわかりました。

 『プーさん』と『朝日社説』、この強烈な組み合わせは、お酒のチャンポンよりもクラクラしちゃいますです。



(木走まさみず)



<読者の皆様へ>
 マジに体調がすぐれずレス遅れてすみません。このエントリー書き込んだらまた熱が出てきてしまいました。(汗