小泉原発ゼロ発言で対峙する朝日社説と産経社説〜「長らく政権中枢を担った大人物」か「ハーメルンの笛吹き男」か
14日付けの主要紙社説ですが朝日新聞と産経新聞が久しぶりにサシで論説が真っ向対立していて興味深いです。
【朝日社説】原発ゼロ―最後は国民の意志だ
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_gnavi
【産経社説】小泉会見 「原発即ゼロ」は無責任だ
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131114/stt13111403170002-n1.htm
朝日社説の書き出しはこうです。
「私は、即ゼロがいいと思います」
このところ脱原発発言を繰り返している小泉元首相が、先日の日本記者クラブでの会見で言い切った。長らく政権中枢を担った人物から出てきた明確なメッセージである。
小泉元首相を「長らく政権中枢を担った人物」とおだて上げていますが、小泉政権時代はあれほど批判的に対峙してきた朝日新聞がよくいうよ、と苦笑するしかありません。
それはさておき社説は小泉氏の主張はシンプルであると続けます。
そして原発推進派も小泉氏に反論することは難しいと決めつけます。
原子力発電を推進する人たちは、小泉氏に様々な角度から反論をぶつけている。
「代替エネルギーの見通しもなく脱原発を言うのは無責任だ」「火力発電に頼ったままでは燃料費がかさみ、電気料金の再値上げが避けられない」
しかし、「これからの日本において、『核のゴミ』の最終処分場のめどをつけられると思うほうが、楽観的で無責任すぎる」という小泉氏の直言に反論するのは難しい。
さらに世論調査で六割が小泉氏の主張を支持していると指摘します。
社説は国民の声にこたえよと、安倍政権への注文で結ばれています。
小泉氏から突きつけられた「原発ゼロへの決断」に、安倍首相はどうこたえるのか。
首相の背中を最後に押すのは、「原発をなくしていく」という国民の強い意志であることを、忘れてはなるまい。
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一方の産経社説ですが冒頭から「あまりにも軽率で無責任な発言」と小泉発言を厳しく批判します。
国のエネルギー政策の根幹に関わる問題であるにもかかわらず、あまりにも軽率で無責任な発言にすぎないか。
そして最終処分を担当する原子力発電環境整備機構(NUMO)は、第1次小泉内閣発足とほぼ横並びの誕生なのに、「今になって最終処分場の立地難を、その小泉氏が問題提起をするのは不可思議」と皮肉ります。
この問題を小泉氏が考えることになった契機は今夏、フィンランドの最終処分場を見学したことにあるという。岩盤を深度400メートルまで掘った地下施設だ。日本も同様の地層処分を計画しているが、火山や地震が多い日本列島での実現性に疑問を持ったらしい。
国内での最終処分は、法律に基づいて平成12年に設立された原子力発電環境整備機構(NUMO)が担当している。第1次小泉内閣発足とほぼ横並びの誕生だ。
今になって最終処分場の立地難を、その小泉氏が問題提起をするのは不可思議でならない。
さらに社説は小泉提案は「ハーメルンの笛吹き男」とまで表現し、「氏は科学的知見に基づいて物を言っているのか」と批判のトーンを強烈に上げています。
小泉氏の言説に従って原発即時ゼロの道を歩めば一挙に廃炉のコストが膨らみ、再生可能エネルギー開発に回す余力も消える。その奇抜な提案は「ハーメルンの笛吹き男」に通じる危うさがある。
氏は科学的知見に基づいて物を言っているのか。
朝日社説同様、産経社説も安倍政権への注文で結ばれています、ただし朝日とは真逆の「全原発の早期再稼働を即決」するよう促しています。
ただし、安倍晋三政権も原発を含めた日本のエネルギー比率をまだ定めていない。小泉発言に惑わされることなく、全原発の早期再稼働を即決してもらいたい。
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さて朝日社説が言うところのシンプルな小泉氏の主張ですが、「放射性廃棄物の最終処分場をつくることができない、だから原発は動かせない」ですが、現段階で即原発ゼロとしたところで1万トン以上の放射性廃棄物が残っているという重大な事実が、小泉氏の主張からも朝日社説の論説からも、その視点から欠落しているようです。
原発を維持しようがゼロにしようが、放射性廃棄物の最終処分の問題は、日本にとり重い十字架として背負ってしまっている事実があります、いつか必ず解決しなければならないことです。
その意味で、朝日の「『これからの日本において、『核のゴミ』の最終処分場のめどをつけられると思うほうが、楽観的で無責任すぎる』という小泉氏の直言に反論するのは難しい」との主張は、説得力がないと言わざるを得ません。
一方の産経社説ですが、冒頭から「あまりにも軽率で無責任な発言」とお怒りモード全開なのですが「ハーメルンの笛吹き男」との表現は小泉首相の発言で原発反対派が小躍りしている様子を茶化しているのでしょう、言い得て妙と苦笑してしまいました。
しかし直感力勝負の小泉氏のことです、「氏は科学的知見に基づいて物を言っているのか」などと無い物ねだりの批判をぶつけていますが、それは少々大人気ないと思われます、「朝日新聞の先週末の世論調査では、小泉氏の主張を支持する人は60%に上っている」のはともかく、原発を推進するか、脱原発にフェードアウトしていくのか、即ゼロにするのか、ここは大きく世論が分かれている問題であり、その世論の大半はおそらく科学的知見など有していません。
小泉氏は直感に頼りワンフレーズで世論を率いることを得意としてきた政治家です。
今回も原発ゼロという方向性を示すことだけが目的で、実現性については科学的なことは専門家に委ねるというスタンスなのでしょう。
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さてこの小泉氏の原発ゼロ発言、「長らく政権中枢を担った人物の明確なメッセージ」(朝日社説)なのでしょうか、「ハーメルンの笛吹き男の軽率で無責任な発言」(産経社説)なのでしょうか。
読者の皆様の受け止めはいかがでしょうか。
(木走まさみず)