木走日記

場末の時事評論

きっと麻生さんの「忘れないでください」という発言は、忘れたほうがいいのでしょう。

 麻生太郎首相が5日の国会答弁で、日本郵政グループの4分社化体制について「四つに分断した形が本当に効率がいいのか。もう一回見直すべき時に来ているのではないか」と経営形態の再編に言及したことが国会やマスメディア上で波紋を広げています。



●麻生発言を批判する各紙社説(読売除く)

 各紙社説でみてみると、まず翌6日付けで日経新聞が噛み付きます。

【日経社説(6日)】「郵政」見直しなら民意を問え
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20090205AS1K0500405022009.html

 社説結語。

 集票力のある全国郵便局長会(全特)の政治組織は野党の国民新党を支持し、選挙協力先の民主党候補も後押しする。首相の発言には次期衆院選で郵政票が野党に流れるのを阻止したい思惑もあろう。それならばあいまいな軌道修正の繰り返しでなく、極力早く解散で路線変更への民意を問うのが筋ではないか。

 「あいまいな軌道修正の繰り返しでなく、極力早く解散で路線変更への民意を問うのが筋」と主張します。

 ついで7日には、朝日、毎日、産経が社説で続きます。

【朝日社説(7日)】「郵政」発言―麻生首相の見識を疑う
http://www.asahi.com/paper/editorial20090207.html
【毎日社説(7日)】郵政見直し 首相発言のあまりの軽さよ
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20090207ddm005070068000c.html
【産経社説(7日)】郵政民営化 見直すべきは改革の逆行
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090207/plc0902070318000-n1.htm

 朝日社説は、麻生首相の「民営化に反対だった」、「郵政民営化担当ははずされた」という発言を批判しています。

「しかし、小泉内閣の一員として最終的に賛成した。(旧郵政省を管轄する)総務相だったんだけど、私は反対だと分かったので、郵政民営化担当ははずされた。ぬれぎぬをかぶされるとオレもはなはだおもしろくない」

 そのころ麻生氏が郵政民営化に慎重だったのは事実だ。だが、麻生氏が今率いる自民党は、小泉元首相が「郵政民営化に賛成か反対か、国民に聞いてみたい」とぶち上げた05年の総選挙で大勝し、その遺産でかろうじて政権の命脈を保っている。衆院の再議決で野党優位の参院の結論を覆せるのも、そのおかげなのだ。

 それなのに、こともあろうに、自らに託された権力の最大の裏づけになっている郵政民営化について、反対だったと平然と言ってのける神経を疑う。

 毎日社説は、日経と同様、国民の信を問えとした上で、麻生氏の発言を「政治家としてあまりに無責任」だと糾弾します。

 だが、看過できない問題がある。同法が閣議決定された05年春当時、麻生首相小泉内閣総務相だった。ところが衆院予算委でこの点をただされた首相は「私は郵政民営化に賛成じゃなかった」とあっけらかんと答弁。民営化担当ではなかったかとの指摘には「反対だったので(担当を)外されていた。ぬれぎぬを着せられると、おれもはなはだ面白くない」とまで語ったのだ。

 そこまで言うのなら、なぜ、当時、総務相を辞任するなどして体を張って反対しなかったのか。「私は反対だった」で済むと思っているとすれば、首相としてという以前に、政治家としてあまりに無責任だ。

 最後に産経社説ですが、見直しが「改革路線の後退につながるものであってはならない」と主張しています。

 郵政民営化の主眼は、民業圧迫などの弊害をもたらしていた郵貯簡保という巨大な公的金融を改革することにあった。分社化による民営化は、そのために欠かせない基本手法である。

 見直すべきは改革の趣旨が十分踏まえられているかどうかであり、改革路線の後退につながるものであってはならない

 産経社説もその結びで、麻生氏の発言は「改革への逆行としか受け取れまい」と批判します。

 こうしたなかで、首相は「民営化に賛成ではなかった」「郵政民営化担当相は竹中平蔵氏だった」と耳を疑うような発言もしている。これでは国民も改革への逆行としか受け取れまい。

 ・・・

 

●「郵政民営化法」は「三年ごとに郵政民営化の進捗状況について総合的な見直し」を行うことを規定している

 なぜか最近麻生発言に妙に甘い読売が社説にて本件で沈黙を守ったのはある意味でとっても正直(苦笑)なのでありますが、それはさておき、この4紙の社説ですが読み比べて見ると微妙にニュアンスが違うのが興味深いのです。

 朝日や毎日、ある意味で産経も首相の「民営化に反対だった」発言を「無責任」と批判しているのに対し、日経社説は明らかに「見直し発言」そのものに過剰反応しています。

 郵政改革の基本は「官から民へ」にある。資金の入り口である郵便貯金や簡易保険を民業に転換し、肥大化した財政投融資にメスを入れることは、政府のリストラの大前提だ。

 持ち株会社日本郵政の傘下で郵便局、郵便事業、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の4社が並行して経営向上を目指す今の方針は、ペースはなお遅いものの、民営化を着実に進める上で最低でも必要な内容ではないかとわたしたちは考える。

 4社化まで踏み込んでの「見直し」発言にどうも日経社説子はお怒りなのであります。

 どうも最近日経社説とウマが合わない木走なのですが、この社説も少し冷静さを欠けているところがあると思われます。

 まず、日経のスタンスですが日本経済至上主義者として大きくはぶれてはいません、本件でも一貫して、日本大企業の競争力強化を第一に考え、「官から民へ」のスローガンのもと、規制緩和を求めていることは、経団連の主張と大差ありません。

 日経の主張の先には、消費税増税法人税減税が見え隠れしているのも衆知であります。

 日経にしてみれば、「肥大化した財政投融資にメスを入れることは、政府のリストラの大前提」なのであり、今更麻生さんに「郵政民営化見直し」などと言われたくはないわけですね。

 ただ、郵政民営化法によれば三年に一度「総合的な見直し」を行うことが定められており、それがこの3月であることも事実なのであります。

 「郵政民営化法」の「第十九条  民営化委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。」の一項にはこうあります。

郵政民営化法

(所掌事務)
第十九条
 民営化委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。
 三年ごとに、承継会社の経営状況及び国際金融市場の動向その他内外の社会経済情勢の変化を勘案しつつ、郵政民営化の進捗状況について総合的な見直しを行い、その結果に基づき、本部長に意見を述べること。

http://law.e-gov.go.jp/announce/H17HO097.html

 つまり「三年ごとに、承継会社の経営状況及び国際金融市場の動向その他内外の社会経済情勢の変化を勘案しつつ、郵政民営化の進捗状況について総合的な見直し」を行うことは規定なのであり、麻生さんの「見直し発言」そのものは法律に則っているともいえましょう。

 もちろん、「郵政民営化法」の「第十九条」は、「民営化」そのものを「見直す」ことを許してはいません、「民営化」の「進捗状況について総合的な見直し」を行う、つまり手段・手法を「承継会社の経営状況及び国際金融市場の動向その他内外の社会経済情勢の変化」に合わせてチューニングするのが目的なのであります。

 この100年に一度の不況下、3年前とは大きく社会経済情勢は激変しているわけですから、見直し論議は大いにすべきだと思われ、日経社説はその点で少々麻生発言を「民営化」そのものを反対しているがごとく決め付けで感情的になりすぎていると思いました。

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●きっと麻生さんの「忘れないでください」という発言は、忘れたほうがいいのでしょう。

「私は郵政民営化に賛成じゃなかった」

「反対だったので(担当を)外されていた。ぬれぎぬを着せられると、おれもはなはだ面白くない」

郵政民営化担当相は竹中平蔵氏だった」

 それにしても国会での一連のこの麻生発言は看過できません。

 麻生首相は、あとで自身の郵政民営化見直し発言に関しメディアは「誤解、もしくは無理して話を作られてる」と弁明しています。

麻生首相ぶら下がり詳報】郵政民営化見直し発言「誤解、もしくは無理して話を作られてる」(6日夕) (2/3ページ)

 −−首相は昨日(5日)の予算委員会で、「郵政民営化が決まるときに賛成じゃなかった」と発言されたが、それであれば総務大臣を辞任すべきだとの考えもあるが

 「それも予算委員会の答弁でお答えしたと。聞いておられたと思いますんで、聞いてなかった顔してるから、もう一回言うのもいかがなものかと思いますけれども、言えといわれて、そういう質問をしなさいと上から言われたうえで、聞いてるんだと思いますんで、言いますけれども。あのときはいろいろな意見がありました。郵政民営化担当大臣ではありませんでした。私は外されてましたんで。総務大臣ですけど郵政民営化担当というのは私ではありませんでした。私は、そのときいろいろ意見がありましたから。私だけじゃありませんよ、意見がありましたから。そのとき意見がありましたから。最終的に結論が出ましたから、最終的に結論が出たならそれに従う。内閣の一員として当然じゃないですか。そうお答えしたと思いますが」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090206/plc0902061940013-n2.htm

 「総務大臣ですけど郵政民営化担当というのは私ではありませんでした」ということですが、これは無責任であると言われても仕方の無い論法です。

 まず当時2005年、郵政解散を決定する臨時閣議で麻生さんが総務大臣として慎重論を唱えたのは事実ですが、最終的には署名したわけです。

 麻生首相は、当時総務大臣として、小泉政権の主要閣僚として、立派に「郵政民営化」に「賛成」したのです。

 当時署名に反対して罷免されたのは島村宜伸・当時農相一人だけだったのであります。

 また、5ヶ月前、9月12日の日本記者クラブ主催の自民党総裁候補討論会において、自身で「私は郵政民営化を担当した大臣」と公の席で明言されています、これはネット上で何人か指摘されていますが、以下のPDFファイルで確認できます。

自民党総裁候補討論会 日本記者クラブ
2008年9月12日

(前略)

麻生候補

・・・まず間違えていただいては困るのは、私は郵政民営化を担当した大臣ですからね、忘れないでください。私が総務大臣として担当しておりました。私が担当としてやらせていただきましたので。郵政民営化を国営に戻すかのごとき話がばらまかれているのを知っていますけれども、私はその種の話をしたことは一回もないと存じます。

(後略)
http://www.jnpc.or.jp/cgi-bin/pb/pdf.php?id=364

 総理に立候補するときの討論会で「私は郵政民営化を担当した大臣ですからね、忘れないでください。私が総務大臣として担当しておりました。」と総務大臣として郵政民営化を担当していたと明言しているのに、今になって「総務大臣ですけど郵政民営化担当というのは私ではありませんでした」と弁明するのは、理解に苦しみます。

 ・・・

 7日付けの琉球タイムス社説は「羽毛より軽い総理発言」と題する社説を掲げています。

 その結びから。

 ”二枚舌”と評される言動は党内、国民から「分かりにくい」と指摘されている。それが指導力の弱さとして国民の目に映っていることを首相は認識しているのだろうか。

http://www.okinawatimes.co.jp/news/2009-02-07-M_1-005-1_001.html?PSID=0557600146c52866c8284cd63b0aca9b

 まさに麻生首相の発言は”二枚舌”と評されても、これでは仕方ないのではないでしょうか。

 麻生さんは郵政民営化を「担当」してたのか「担当」してなかったのか?

 きっと麻生さんの「忘れないでください」という発言は、忘れたほうがいいのでしょう。



(木走まさみず)