木走日記

場末の時事評論

安倍政権は「パンドラの箱」を開けてしまうのか〜大義なき郵政造反組の復党は自民党に災いしかもたらさない

造反議員:復党条件は「私の所信に賛成する方々」安倍首相

 今日(7日)の毎日新聞記事から・・・

造反議員:復党条件は「私の所信に賛成する方々」安倍首相

 安倍晋三首相は6日、郵政民営化造反組復党問題で、昨年の衆院選で落選した前職について「私の所信に賛成をする方々」と現職と同様の条件を示した上で、「党員の声、国民の声を勘案しながら判断をしたい」と述べ、政策に全面的に従うことを条件に復党を認める考えを示した。首相はさらに「党の幹事長、執行部の皆さんに検討してもらいたい」と語った。首相官邸で記者団の質問に答えた。

 一方、塩崎恭久官房長官は同日の記者会見で「離党した時の論理と整合性が取れているのかなど、国民に理解しやすい解決でなければいけない。(国民の)納得がないと政党としての自民党の評価に響く」と造反組の復党に慎重な姿勢を示した。復党の条件については「選挙区事情などケース・バイ・ケースで、一様に一つの論理で解決できる問題ではない」と語った。

毎日新聞 2006年11月6日 18時50分 (最終更新時間 11月6日 21時48分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/20061107k0000m010027000c.html

 昨年の通常国会郵政民営化法案に反対して、自民党離党を強いられた「造反議員」を復党させようという動きが本格化しています。



大義なき復党を厳しく批判する各紙社説

 主要紙では朝日・毎日・日経の三紙が社説にてこの造反議員復党の動きを厳しく批判しています。

【朝日社説11月6日】造反組の復党 安倍さん、考えどころだ
http://www.asahi.com/paper/editorial20061106.html
【毎日社説10月25日】「造反組」の復党 郵政解散大義はどこへ
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/archive/news/2006/10/20061025ddm005070055000c.html
【日経社説10月31日】筋が通らない造反組の復党(10/31)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20061030MS3M3000330102006.html

 3紙の社説の共通のキーワードは「大儀」のようです。

【朝日社説11月6日】造反組の復党 安倍さん、考えどころだ
 「既得権を守ろうという『古い自民党』には出て行ってもらう」。昨年の総選挙で、当時の小泉首相はこう見えを切って造反組を党公認からはずし、「刺客」と呼ばれた対立候補を送り込んだ。

 「自民党は改革政党に生まれ変わった」と叫ぶ小泉氏の分かりやすさが、296議席の大勝をもたらした。

 なのに、小泉前首相が退陣したとたんに「刺客も造反組もない。同じ自民党ではないか」というわけである。これでは自民党の変身を信じて投票した有権者たちは詐欺にでも遭った気分ではないか。

 この復党が世論の反発を買うだろうことは、安倍首相をはじめ党執行部も意識しているようだ。民主党と激突する12日の福島、19日の沖縄の両知事選が終わるのを待って、党内手続きを急ぐという。

 そうすれば、参院選のころには世論の怒りも和らいでいるだろう。そんな下心も見え見えだ。

 これに対して、小泉前首相が声をあげた。「郵便局長とか既得権者の票をあてにしていたら、参院選は負ける」。総選挙の大義を根底から覆されるわけだから、黙っていられないのだろう。「古い自民党」の復活は許さないという主張は筋が通っている。

【毎日社説10月25日】「造反組」の復党 郵政解散大義はどこへ

 現在、郵政法案に反対した衆院造反議員は17人いる。そのうち首相指名で安倍首相に投票した12人が復党の対象となっている。もともと同じ考え方の議員が無所属にいるのは不自然だという声もあるが、この時期に復党問題が浮上したのは、参院選に向けた参院側の要請という面がある。01年に「小泉ブーム」の中で自民党が圧勝した選挙の改選期にあたり、前回勝った分、苦戦は免れない。自民党には参院での与野党逆転という危機感がある。

 郵政造反組は、衆院選を逆風の中で勝ち抜いただけに後援会組織も強く、特に参院選民主党との勝敗の分岐点と言われる1人区では、自民党にとってその支援が欠かせないという事情がある。

 ただ、自民党衆院選で、造反組は古い党の象徴であり、抵抗勢力を改革派の「刺客」が打ち破るという構図を描き、選挙戦全体のイメージを作り上げた。それが今度は、その人たちに参院選での救世主を期待するというのか。あの郵政解散大義は何だったのか。「小泉劇場」の木戸銭を返せと怒る有権者もいるだろう。

【日経社説10月31日】筋が通らない造反組の復党(10/31)

 自民党は昨年のマニフェスト政権公約)で「郵政民営化こそ、すべての改革の本丸」とうたい、郵政民営化をてこに「小さな政府」の実現を目指すと約束した。郵政民営化政権公約全体を貫く柱だった。

 だからこそ当時の小泉純一郎首相は造反組を公認せず、民営化に賛成する刺客候補を立てた。私たちも「造反議員を絶対に公認してはならない」と主張した。有権者の多くがこの政権公約や小泉執行部の対応を支持したため、自民党は地滑り的な勝利を収めたのである。

 わずか1年余りで安易に復党を許せば、昨年の衆院選大義そのものに疑問符がつく。小泉氏が「既得権者の票を当てにしたら参院選に負ける」として、復党への慎重論を表明したのは当然である。

 党公認候補と戦った衆院造反組については「反党行為は明白で、党の規律を乱す行為」という理由で、除名や離党勧告などの重い処分を科した。こうした処分理由との整合をどうとるつもりなのか。

 参院自民党などが復党の実現を急ぐのは、来年夏の参院選で、強い後援会組織を持つ造反組の協力を期待しているためだ。しかし参院選目当てで大義のない復党を認めれば、有権者の反発は避けられないだろう。

 郵政造反組を安易に復党させれば、「総選挙の大義を根底から覆される」(【朝日社説】)、「あの郵政解散大義は何だったのか」(【毎日社説】)、「参院選目当てで大義のない復党を認めれば、有権者の反発は避けられない」(【日経社説】)というわけであります。

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 各紙社説の主張はしごくごもっともであり、不肖・木走としては、「参院選目当てで大義のない復党を認めれば、有権者の反発は避けられない」とした日経社説の結語に異論はありません。



造反議員の大半は政治的信念の欠落した魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちだ

 そもそもしかしながら、各紙の社説があまりふれていないのであえて指摘しておきますが、復党を強く望んでいる造反議員側は、既に彼らの大半が、「郵政民営化反対」を掲げた彼らに一票を投じた有権者を裏切り、昨年の郵政選挙直後の特別国会で節操もなく「郵政民営化賛成」に転じ、情けなくも自民党に恭順の意を示していたわけです。

 野田聖子のごときにいたっては、選挙直後に、小泉首相を「選挙の天才」と褒めちぎる無節操さを呈し、国民の大顰蹙(ひんしゅく)を買っていたのです。

 当ブログにおいてもその無節操さを当時より厳しく批判してまいりました。

(前略)

 野田氏や中曽根氏が「民意を尊重する」としてその姿勢を180度転換したとして、今更誰も驚きはしないでしょう。中曽根氏などは、親子二代に渡り「風見鶏」であることを天下に知らしめたわけであり、まあ野田氏にしても、小泉首相を「選挙の天才」と褒めちぎるその姿勢は、処世術として「長いものには巻かれる」だけであり、復党への必死の嘆願なのでありましょう。

 しかし、この「民意を尊重する」という論理はまったくもって民主主義の逆否定の論理であるとだけは申しておきましょう。

 ポピュリズムの意味をはき違えてはいけないのです。

 議会制民主主義においては、多数決の論理で政策行動は支配されています。ですから、今回の選挙結果を受けて、今後小泉郵政民営化法案が国会で可決され「民意が尊重される」のはほぼ既定の路線となりましょう。

 しかし、議会制民主主義は制度として「民意を尊重する」性質を有してはいますが、少数意見を全否定するものではないし、「民意」なるものの多面性を考えれば、また豊かな多価値社会である日本の多様性を包含するためにも、全議員が選挙結果つまり「民意」に従わなければならないなどという、大政翼賛的考え方は、それこそ、民主主義の逆否定の論理といえましょう。

 あれほど、強い意志で「小泉郵政民営化法案」を党議拘束をもあえて逆らって反対した人達が、なぜ選挙結果ひとつで「民意を尊重する」などという詭弁を弄して自説を簡単に取り下げるのでしょう。

 「君子は豹変するもの」であったとしても、この愚かな見苦しい振る舞いは、噴飯モノなのであり、こんなことなら最初から賛成していればよかったのです。


 彼らの「豹変」ぶりは、それこそ貴重な一票を彼らに投じた国民への「愚弄行為」以外のなにものでもないのでしょう。

ポピュリズムの意味をはき違えるな〜豹変する「君子」達を嗤う  より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050915/1126751564

 あれほど、強い意志で「小泉郵政民営化法案」を党議拘束をもあえて逆らって反対した人達が、なぜ選挙結果ひとつで「民意を尊重する」などという詭弁を弄して自説を簡単に取り下げるのか、まさに貴重な一票を彼らに投じた国民への「愚弄行為」以外のなにものでもないのであり、造反議員の大半は政治的信念の欠落した魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちであると言えましょう。



●安倍政権は「パンドラの箱」を開けてしまうのか

 安倍首相は本当に郵政造反組を復党させるのでしょうか。

 このような政治的信念の欠落した魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちを向かい入れることをするとなれば、禍いをもたらすために触れてはいけないものを開けてしまうという意味で、これはまさにギリシア神話の「パンドラの箱」に例えれましょう。

パンドラの箱

パンドラの箱(パンドラのはこ)とは、ギリシア神話に登場する、神々によって作られ人類の災いとして地上に送り込まれた女性パンドラが開けた箱である。壺とする説もある。この神話から、「開けてはいけないもの」、「禍いをもたらすために触れてはいけないもの」を意味する慣用句が生まれた。

[編集] パンドラの箱の神話
プロメテウスが天界から火を盗んで人類に与えた事に怒ったゼウスは、人類に災いをもたらすために「女性」というものを作るよう神々に命令したという。

ヘパイストスは泥から彼女の形をつくり、パンドラは神々から様々な贈り物(=パンドラ)を与えられた。アフロディテからは美を、アポロンからは音楽の才能と治療の才能を、と言った具合にである。そして、神々は最後に彼女に決して開けてはいけないと言い含めて箱(壺とも言われる)を持たせ、さらに好奇心を与えてプロメテウスの元へ送り込んだ。パンドラを見たエピメテウスは、兄であるプロメテウスの忠告にもかかわらず、彼女と結婚してしまう。そして、ある日パンドラはついに好奇心に負けて箱を開いてしまう。すると、そこから様々な災い(疫病、悲嘆、欠乏、犯罪などなど)が飛び出し、パンドラは慌ててその箱を閉めるが、既に一つを除いて全て飛び去った後であった。最後に残ったものは未来を全て分かってしまう災いであり、人類は希望だけは失わずにすんだと言われる。こうして、以後人類は様々な災厄に見舞われながらも希望だけは失わず(あるいは絶望することなく)生きていくことになった。

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A9%E3%81%AE%E7%AE%B1

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 郵政選挙に際して、小泉純一郎前首相は造反議員を「特定の利益を代弁する古い自民党」の象徴に仕立て上げ、徹底的に排除しました。

 党の公認から外しただけでなく、いわゆる刺客を差し向けて追い落としを図る手法に、党内から「やりすぎだ」との声も上がりましたが、有権者には「小泉首相の改革にかける強い意思の表れ」と映り、自民党に空前の大勝利をもたらしたわけです。

 そうした経緯を無視し、手のひらを返すように復党を進めるのは、「古い自民党に決別宣言した小泉自民党」に1票を投じた有権者に対する裏切りと映りましょう。

 そのようなリスクを犯して向かい入れる造反議員の大半は政治的信念の欠落した魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちであり、安倍自民党にとり災いしかもたらさないでしょう。

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 今この郵政造反組復党問題で、真に問われているのは、安倍政権が小泉政権の改革路線を継承していくのか、それとも特定の利益を代弁する古い自民党に逆戻りをしてしまうのかという単純なしかし極めて重要な本質的な問題なのであります。

 安倍政権は「パンドラの箱」を開けてしまうのでしょうか。



(木走まさみず)