木走日記

場末の時事評論

「コイズミの逆襲」に動揺する民主党

 「百年に一度」と言われる世界同時不況の中で、各国政府は正に「時間との戦い」「政局より政策」、政府による迅速な財政政策が求められているわけですが、アメリカでは矢継ぎ早に財政政策を打とうとしているオバマ政権が「具体策が不十分」として市場から「冷や水」を浴びせられている中で、我が日本では、これぞ「政局」の極みと申してもいいでしょう、とうとう小泉純一郎元首相が麻生降ろしのノロシをあげたようであります。

 12日付け産経新聞記事から。

【小泉元首相による麻生首相批判のあいさつ全文】「総理が前から鉄砲を撃っているんじゃないか」
2009.2.12 20:00

自民党本部で行われた「郵政民営化を堅持し推進する集い」で激しい麻生首相批判を行った小泉純一郎元首相 =12日午後6時10分、千代田区平河町自民党本部(荻窪佳撮影) 小泉純一郎元首相が12日、自民党本部で開かれた「郵政民営化を堅持し推進する集い」の幹事会で、麻生太郎首相の郵政民営化発言を批判するなどしたあいさつの内容の全文は以下の通り。

               ◇

 私は最近の総理の発言について、怒るというよりも、笑っちゃうくらい、ただただあきれているところなんです。一昨日も総理から話がしたいということで電話で話をしたんですが、そのときに、たまたま小野次郎代議士のブログに「総理それはないでしょう」というのを読んでいたんです。もう一つ、世耕(弘成)参院議員の「それをいっちゃあおしめえよ」。だからね、総理にね、「こういう意見が耳に入っていないでしょうから、官邸にこの小野次郎さんの文章と世耕さんの文章をファクスで送るから、よく読んでおいてくれ」と言っておきました。

 大体、総理の方針とか、執行部の方針に批判的な意見を若手が出すとね。執行部からは、「後ろから鉄砲を撃つな」という押さえ込みがかかる。最近の状況はね、「総理が前から、これから戦おうとしている人たちに鉄砲を撃っているんじゃないか、発言は気をつけてくれ」とよく言っておきました。

 私についてもね、「常識の通じない男」だとか、「奇人変人」とか言っているようだけど、私は自分では常識をわきまえている普通の人だと思っているんです。これから皆さん、遅くとも9月までには選挙を迎えて戦わなければならない。自民党がどうなっちゃうかみんな心配しています。私もたまには非常識なことをするかもしれませんけれども、大体、政治においては常識的な路線というところに持っていくために、よく、話し合うことが必要だと思っています。これからも、衆院の発議権と参院の発議権が違う場合が起こるかもしれません。そういうことを考えますとね、今、政局より政策優先だという国民の声が強い。だから衆院の意見と参院の意見が違ったら、どういう政策ならば、対策ならば国民の納得ができる案を(できるのか)よく協議してもいいのではないかと私は思っています。

 定額給付金の発言についてね、総理は「さもしい」とか「自分はもらわない」とか、いろいろといっていますけどね。この問題についても、私は本当にこの法案が3分の2を使ってでも成立させなければならんような法案とは思っていないんです。もう私は次の選挙では引退表明していますから、あまり多くのことはいいませんが、「あのとき賛成したけれども、実はそうではなかったんだ」と言いたくないから、この定額給付金についてはもっと参院の意見と調整して、妥当な結論を出してほしいなと思っている。

 これから皆さんは、選挙を目前にして戦わなければならないし、国民の理解を求めなければならない大事な時期ですよ。ぜひとも9月までには国民に信を問わなければならないのですから、政治で一番大事なのは信頼感。特に総理、総理の発言は信頼がなきゃ選挙は戦えないんです。信頼が大事だということを肝に銘じて、何とか難局を切り抜けるように皆さんと一緒に良い知恵を出していきたいと思い、今日は意見を聞かせてもらおうと思った。

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090212/stt0902122003005-n1.htm

 「怒るというよりも、笑っちゃうぐらい呆れている」と小泉さんは発言を切り出していますが、会見をTV報道で見る限り、そしてその発言内容を吟味するかぎり、小泉さんは今回は明らかにそうとう怒っていますですね、麻生さんの一連の小泉改革否定発言に対してですが。

 ただ今回の小泉流「首相批判」発言ですが、ただ怒りに任せての批判と取るわけにはいきません、彼なりにタイミングを慎重に見ての、その内容も計算された発言であると考えたほうがいいでしょう。

 まず、小野次郎代議士のブログの「総理それはないでしょう」や、世耕(弘成)参院議員のブログの「それをいっちゃあおしめえよ」を官邸にFAXしたことを披露していますが、これ、実に小泉さんらしい具体的な批判の手法であります。

 その上で、定額給付金について、「私は本当にこの法案が3分の2を使ってでも成立させなければならんような法案とは思っていない」と明言、「「あのとき賛成したけれども、実はそうではなかったんだ」と言いたくない」と、麻生さんの発言へのしっぺ返しまでしています(苦笑。

 これは明らかに定額給付金衆議院再議決に対して、小泉流反旗を上げたととらえてよいでしょう。

 その上で、結びにおいて、来るべき選挙では「政治で一番大事なのは信頼感。特に総理、総理の発言は信頼がなきゃ選挙は戦えない」とし、「何とか難局を切り抜けるように皆さんと一緒に良い知恵を出していきたい」と、明言は避けていますが、発言の信頼の無い麻生さんでは選挙は戦えない、「麻生おろし」とも受け取れる文脈なわけです。

 正直、このタイミングでここまで踏み込んだ発言が小泉さんの口から飛び出すとは予想していませんでした、ちょっと驚きです。

 一連の軽率な麻生さん発言が、郵政民営化をライフワークとした小泉氏をとうとう怒らせたという図式なんでしょうが、小泉さんにしてみれば、小派閥の麻生さんを、党政調会長総務相、外相と厚遇し続けて、首相にまで持ち上げたのは、いったい誰のおかげか、自民党の“三百議席”がなければ衆院の再議決はできないが、その“三百議席”をもたらしたのは、いったい誰のおかげか、という思いもあったのでしょう、それにしても強烈な小泉流「首相批判」が飛び出したものであります。

 小泉さんがどこまで本気で発言したのかその点が気になりますが、TV報道で確認すると、中川秀直武部勤石原伸晃、そして小池百合子といった議員諸氏が小泉さんと並んでいましたが、現時点でこの小泉発言に同調する議員がいったい何人になるのか、数で言えば18人が反対に回れば3分の2にいたらず定額給付金の法案は廃案になるわけで、ここ10日ほどの国会において、定額給付金法案の衆院再議決がいっきに「政局」となってしまいました。

 ・・・

 私の好きな怪獣映画のタイトル風に表現すれば「コイズミの逆襲」といったところでしょうか、これ民主を含めた政局にどんな影響があるのでしょうか。

 さっそく、当ブログではよくその情報を紹介している、民主党関係者(衆議院議員政策秘書)に、本件について電話にて聞き取りをしてみました。

■他ならぬ小泉さんが動くとなればタガがいっきにはずれる可能性はある
木走「かなり強烈な麻生批判が小泉さんから飛び出したが」
秘書「正直このタイミングでここまで踏み込んだ麻生批判が小泉元首相から飛び出すとは予想外だ」
木走「小泉さんは本当に定額給付金法案反対に動くのだろうか」
秘書「現時点では予測しづらいが、おそらく動いても反対ではなく棄権に回るのじゃないか、そうなると18人よりもう少し人数が必要になるだろうが」
木走「中川、武部といった昨日の会合に出席している衆院議員10数名を含めて、この動きに賛同する議員は自民党内でどこまで広がりをもつと見るか」
秘書「これも現時点では難しい質問だ。小泉さんがロシアから帰ってきた後の彼の動き、発言に注目したいがなんとも予測できない、ひとつのポイントは現在沈黙を守っている小泉チルドレン達だね、彼らの多くは次回選挙で冷遇されているし現執行部に対して根強い不満を抱えている、他ならぬ小泉さんが動くとなればタガがいっきにはずれる可能性はある」
■できればこのタイミングで小泉さんにはでてきてほしくない
木走「仮に小泉さんの造反が本格化し定額給付金法案が廃案になった場合、麻生政権の命運はつきると見るか」
秘書「政策の目玉だったからね、もしそうなれば自民内は分裂、麻生おろしの流れはいっきに加速するかもしれない。しかしプライドの高い麻生さんは自分から政権を投げ出しはしないのではないか。」
木走「ところで、定額給付金法案廃案となれば、民主にとって歓迎すべきことと考えていいのか」
秘書「本来は麻生政権にとって致命的な廃案だから歓迎すべきなのだが、今回は小泉さんが動き出したので、我々としては成り行きを警戒せざるを得ない」
木走「警戒というと?」
秘書「民意の風向きが変わることを警戒している。我々民主スタッフには今も3年前の小泉郵政選挙惨敗の記憶がトラウマのように残っている。多くの現職を失い彼らの大半はスタッフも含めてその後苦しい浪人生活で耐え忍んできたのを見てきたからね。当時の小泉人気はすさまじかった、我々はなすすべも無く敗北した。できればこのタイミングで小泉さんにはでてきてほしくない、このまま麻生政権で総選挙に突入したほうが我々の勝利する確率は高い」
■小泉さんは何をするかわからん不気味な存在
木走「しかし、麻生政権の各世論調査の支持率は10%台と低迷している、その上目玉だった定額給付金法案廃案となれば、民主にとって有利に働くのではないか」
秘書「自民はしぶといよ、まして小泉さんが動くとならば、麻生さんの後任に小池百合子を立てるぐらいのウルトラCを用意するかもしれない、そうなると現在は民主有利の世論の雲行きはどうなるかわからん、おかしくなる可能性はある」
木走「小池百合子を立てるぐらいのウルトラCか、なるほど」
秘書「我々にとって、小泉さんは何をするかわからん不気味な存在なんだ」

 うーん、今回の「コイズミの逆襲」ですが、この国民的人気を有する何をするかわからん元首相の動きに、実は野党・民主党も動揺しているということであります。

 うーん、恐るべきコイズミさん。



(木走まさみず)