木走日記

場末の時事評論

社説で公益法人『漢検』私物化を批判する資格は毎日新聞にあるのか?

●日本ニュース時事能力検定試験ってご存知ですか

 さて最近は漢検の理事長と息子による公益法人の『私物化』が話題になっておりますが、この検定ビジネス、資格好きの日本人相手にこの国では立派なビジネスとして成立しているのでありますね。

 漢検の場合、公益法人なのが問題なのであり、『積極的に不特定多数の者の利益の実現を目的』と規定されている公益法人なのだから、『税法上の優遇措置を受けているのも、公に資するのが目的』こそなのに、法人自身が莫大な資産を蓄えたり、理事長関連の特定個人や特定会社に利益を過分配しちゃっているのが問題なのでありまして、もし漢検が株式会社だとすれば大久保理事長はその経営手腕を賞賛されたことでしょうね。

 本来公益法人は利潤追求しちゃいけないわけでありますが、まあ漢検の場合、受験料から参考書・問題集、ゲームなどの版権まで実に手広く『商売』してきたであります、実は検定ビジネスのお手本のような『成功例』でもあったわけです。

 日本の2000とも3000ともあると言われる資格の中には、このように公益法人を隠れ蓑にしてちゃっかりビジネス展開を目論んでいる胡散臭い資格などは掃いて捨てるほどあるのであります。

 例えばですが、当ブログは不肖・木走が主として時事系ネタで好き勝手をエントリーしている場末ブログでありますが、ここの読者の皆様は当然ながら時事問題に関心が高い層が中心でありまして、メディア系の読者も少なからずいらっしゃることは存じております。

 そんな時事問題に関心が高い読者にはこんな検定資格はいかが。

日本ニュース時事能力検定試験
http://www.newskentei.jp/index.cgi

 略して『N検』だそうですが、HPによれば

ニュース時事能力検定<ニュース検定>とは、新聞やテレビのニュース報道を読み解くための「時事力」を認定するもので、「時事問題」の理解に欠かせないキーワードや、社会の仕組みと流れについての知識を1級から5級の5段階に分けて測定する唯一の検定試験です。

■ニュース検定4つの特徴
[1]第一線のジャーナリストで構成されたスタッフが、今を読み解くために必要なテーマを厳選して出題します。
[2]政治、経済、国際問題、社会・環境、文化・スポーツの5テーマからバランスよく出題し、総合的な時事力を測定します。
[3]検定級は5段階に分かれており、学生から社会人まで各受検者の到達目標に合わせた受検が可能です。
[4]受検者全員に「結果通知」を送付、全ての問題の正誤表や解答で復習や弱点克服が容易にできます。

http://www.newskentei.jp/about.html

 『今の時代を生きるためにかかせない
  ニュースを読み解くチカラをつける検定です』

 と、キャッチがついていますが、理事紹介ページを見れば、『バカの壁』でおなじみの養老孟司先生(東京大学名誉教授)が名誉会長なんだそうであります。

 このN検でありますが、主催は『日本ニュース時事能力検定協会』とありまして、ごたぶんにもれず、内閣府特定非営利活動法人早い話公益法人であります。

 年2回の頻度で、1級から5級まで五段階で『ニュースを読み解くチカラ』を判定して、合格者には合格証(プラカード)をくれるそうでありますから、興味のアル読者はあまりお勧めはしませんがどうぞチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 ・・・

 では、今日は、公益法人『日本ニュース時事能力検定協会』主催のN検1級を目指して、『ニュースを読み解くチカラ』を実践しましょう、題して『社説で公益法人漢検』私物化を批判する資格は毎日新聞にあるのか?』であります。



●【毎日社説(14日付け)】漢字検定 広がる学びの意欲に水差すな

 漢検の問題ですが、主要紙では朝日と毎日2紙が社説にてとりあげています。

【朝日社説(11日付け)】漢字検定協会―まさか「私益法人」では
http://www.asahi.com/paper/editorial20090211.html
【毎日社説(14日付け)】漢字検定 広がる学びの意欲に水差すな
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20090214ddm005070127000c.html

 この2紙の社説ですが微妙にスタンスが違う点を注目したいですね。

 まず、朝日はタイトルどおりこれじゃ「私益法人」じゃないかと批判しています。

 仮に、一般企業ならば多額の利益を上げることは、ほめられこそすれ非難される筋合いのものではない。親族が役員を務める企業との取引にしても、それだけで批判されることはない。

 しかし、この協会はれっきとした公益法人である。公益法人は積極的に不特定多数の者の利益の実現を目的とする、と規定されている。税法上の優遇措置を受けているのも、公に資するのが目的だからこそである。

 それゆえに、財政面についてこんな規定がある。「事業の収入、支出は均衡することが望ましく、仮に利益が生じる場合であっても健全な運営に必要な額にとどめなければならない」

 年間7億〜8億円の利益を上げ、資産総額が数十億円にのぼる。そんな今の実態は、公益法人にはふさわしくない。検定料の値下げなど、今すぐにでも取り組める措置があるはずだ。

 そして「文科省もずいぶん軽く見られたもの」と朝日らしい役所へのチクリとした批判をしたうえでこう結びます。

 協会は脱サラした理事長が設立した。当初は受検者が数百人のつましい団体だったが、旧文部省の認定を受けた92年ごろから急成長した。

 パソコン全盛の時代に漢字の読み書き能力向上に果たした協会の役割は小さくない。たまにペンをとると驚くほど漢字を書けなくなっていることに気づく人も多かろう。

 漢字は日本文化の大切な土台だ。協会は身ぎれいになって出直す時だ。

 92年に旧文部省から公益法人の認可を受けてから急成長したという事実でふたたび管轄の文部科学省をチクリとしたうえで、「協会は身ぎれいになって出直」せとしています。

 一方、毎日社説ですが、やはり公益法人として漢検は問題だと批判します。

 06、07年度だけでも利益は15億円以上といい、「運営に必要な額以上に利益を生じさせない」公益法人規定からはみ出す。

 さらに、業務委託で理事長の一族の会社に支出したり、巨額の不動産購入、供養塔を建立するなど、不特定多数の利益を図るべき本来の姿とは遠い。何のために税法上の優遇措置を受けるのか、納税者も、検定料を払って受検する人たちも釈然としないだろう。

 ただ途中で文脈が少し変わってきます。

 文科省も調査結果の公表と実効性ある対策を示す必要がある。ただし、官による締め付け強化を求めているのではない。

 実施主体が公益法人であるとないとにかかわらず、今さまざまな検定が盛んに行われている。

 今回の件で検定に対する「官による締め付け強化」を求めてはいないのだと強調します。

 そして、この問題が各種検定の広がりに水を差さないためにも運営者の意識改革が不可欠だと結んでいます。

 今回の問題が、多彩な検定を広めて人々が活用する機運に水を差すようなことがあってはならない。そのためには、運営者が自律や説明責任を常に意識することが不可欠だ。

 文部科学省の関わりも含めて漢検公益法人としての在り方を批判している朝日社説に対して、漢検批判を展開してはいますが、この件で「官による締め付け強化」がなされてはいけないと主張する毎日社説なのであります。

 毎日社説のポイントは2つ。

 まず公益法人としての漢検への批判部分。

 不特定多数の利益を図るべき本来の姿とは遠い。何のために税法上の優遇措置を受けるのか、納税者も、検定料を払って受検する人たちも釈然としないだろう。

 そして社説結語の「多彩な検定を広めて人々が活用する機運に水を差すようなことがあってはならない」とした締めの部分。

 そのためには、運営者が自律や説明責任を常に意識することが不可欠だ。

 なるほど、漢検は、公益法人なのだから、理事長関係の特定の個人や会社に利益を与えるのは間違いで、「不特定多数の利益を図るべき本来の姿」に戻るべきなのであり、本件で「多彩な検定を広めて人々が活用する機運に水を差すようなことがあってはならない」ためにも、各種検定の「運営者が自律や説明責任を常に意識することが不可欠」なのでありますね。

 いや、ごもっともであります。

 ・・・

 では、毎日社説の御主張にのっとり、他ならぬ毎日新聞自身に、ある胡散臭い公益法人の「運営者の説明責任」を求めていきましょう。



●N検〜これではただの毎日新聞社の「税法上の優遇措置を受けている」公益法人を悪用した販促活動

 さて、『日本ニュース時事能力検定試験』通称『N検』を主催する日本ニュース時事能力検定協会ですが、もちろんお上(政府)から内閣府特定非営利活動法人として立派な公益法人として認定を受けている団体であります。

 ここ重要ですが「非営利活動法人」なのであります。

 で、もう一度協会の理事紹介ページを見てみましょう。

名誉会長 養老孟司東京大学名誉教授)
理事長 岸井成格毎日新聞特別編集委員
副理事長 奥武則(法政大学社会学部教授)
理事 池上彰(ジャーナリスト、元NHK記者、元NHK週刊こどもニュース」キャスター)
理事 重村智計早稲田大学国際教養学部教授)
理事 嶌信彦(ジャーナリスト、白鴎大学教授、慶應義塾大学講師)
理事 田中愛治(早稲田大学政治経済学術院教授)
理事 田丸美寿々(ニュースキャスター、元フジテレビアナウンサー)
理事 橋場義之(上智大学文学部新聞学科教授)
http://www.newskentei.jp/director.html

 客寄せパンダと思われる、養老孟司名誉会長は別として、実質的運用者の中枢である理事長が、現役の毎日新聞特別編集委員であるTVでお馴染みの岸井成格氏であるのを筆頭に、毎日新聞OBの嶌信彦氏や現在JNN(TBS/毎日放送)ニュース番組でキャスターをつとめる田丸美寿々氏など、毎日系の顔ぶれが異様に目立っております。

 で、

N検の教材
http://www.newskentei.jp/text.html

 「合格者の81%が公式テキスト・問題集を活用しています」のキャッチのもとで、このページでは、「ニュース検定公式テキスト&問題集5級」、「ニュース検定公式テキスト&問題集3・4級」、「ニュース検定公式テキスト&問題集5級」、「ニュース検定公式テキスト&問題集1・2級」、「月間ニュースがわかる」が、宣伝されています。

 これらすべてが「毎日新聞社」刊であります。

 ・・・

 で、最後にこの内閣府特定非営利活動法人である『日本ニュース時事能力検定協会』の住所ですが、”東京都千代田区一ツ橋1−1−1”とありますが、ぐぐって見ると奇妙なことに一民間会社の住所と符合するのであります。

株式会社 毎日開発センター

毎日新聞社グループ企業として、毎日新聞販売網を維持・強化し、毎日新聞を中心とする取扱い商品の販促・PRを推進しております。

所在地 東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル東コア1階
http://www.areamainichi.jp/shop/25.html

 株式会社毎日開発センターですが、「毎日新聞販売網を維持・強化し、毎日新聞を中心とする取扱い商品の販促・PRを推進」する毎日新聞グループ企業なのであります。

 そうか、やはり『日本ニュース時事能力検定協会』は「毎日新聞を中心とする取扱い商品」だったのか(苦笑

 ・・・

 愚かな。

 これではただの毎日新聞社の「税法上の優遇措置を受けている」公益法人を悪用した販促活動ではないですか。

 これでは非営利団体である公益法人『日本ニュース時事能力検定協会』の名を借りた、一民間会社である毎日新聞による胡散臭いビジネス展開と捉えられてもしかたのないことではあります。

 この公益法人『日本ニュース時事能力検定協会』と毎日新聞社の露骨な癒着関係は、毎日新聞社もとい日本ニュース時事能力検定協会側は、どのように説明するのでしょうか。

 ・・・

 社説で公益法人漢検』私物化を批判する資格は、毎日新聞にはたしてあるのでしょうか?



(木走まさみず)