木走日記

場末の時事評論

民主党は対立軸として独自の郵政民営化の道筋を示せ!

 昨日のエントリーですが、今回の「衆議院解散に関連して不肖・木走が感じたままに感想」を書いてみました。

小泉純一郎〜狭量だけどもストイックで一途な政治家としてのカリスマ性
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050809/1123555531

 私としては、ちゃんと「個人の雑感」とお断りして小泉評をエントリーしたつもりなのですが、当ブログコメント欄の論客達は、そんなおセンチな雑感で済ませてはくれないようでありまして、私の小泉評に対しては、熱烈支持から熱烈批判までご意見いただき、早速コメント欄も熱き論戦が勃発してしまいましたが、いつものことながら、深い議論はありがたいことであります。

 で、本日は、今回の衆議院選挙の争点を徹底的に洗い出し読者の皆様と共に熱く考察してまいりたいと思います。



●選挙の争点を各紙社説より洗い出してみる

 で、昨日の各紙社説は解散総選挙の論説で揃い踏みしております。

朝日新聞郵政否決、総選挙 この解散をどう生かす
http://www.asahi.com/paper/editorial20050809.html
読売新聞:郵政解散]「懸案処理政権を樹立できるか」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20050808ig90.htm
毎日新聞社説:解散・総選挙 政治のねじれ、解消の好機だ
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20050809ddm005070038000c.html
産経新聞【主張】郵政解散 「国のあり方」問いたい 構造改革の貫徹が不可欠
http://www.sankei.co.jp/news/050809/morning/editoria.htm
日経新聞社説 郵政解散、国民の声聞いて政治は出直せ(8/9)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20050808MS3M0800308082005.html

 で、その中から今回の選挙における争点を各紙がどう主張しているかまとめてみると、

朝日の主張

 金融機関の不良債権の処理や道路公団民営化、地方分権などの小泉改革の評価が問われるのはもちろんだ。

 同時に、財源論議で行き詰まっている社会保障制度の立て直し、中央と地方で膨らむ一方の巨額の債務をどうするか。政治資金の透明化も自民党の消極姿勢で改善の気配がない。
 外交に目を転ずれば、まさに八方ふさがりである。首相の靖国神社参拝で中国や韓国との亀裂はかつてなく深い。それでも首相は今年も靖国参拝を続ける考えを変えようとしない。

 自衛隊を派遣したイラクの混乱ぶりは目に余る。首相が表明した国連安保理常任理事国入りの希望は、近隣諸国や米国の支持さえ得られず、絶望視されている。この政権には外交戦略があるのだろうかという疑問すらつきまとう。

読売の主張

 首相は、郵政民営化を最大の争点とする構えだ。だが、日本の将来の経済・社会や国民生活にとって重要な課題を脇に置くことは出来ない。日本は、財政再建社会保障制度、安全保障、中韓両国との外交など、郵政民営化以上に重要な多くの課題に直面している。その時に、郵政民営化問題だけが、争点と言うわけにはいかない。

毎日の主張

だが、争点は郵政に限らない。国民に関心の高い年金、財政再建増税、政治とカネ、首相の靖国参拝、行き詰まった対中国・韓国外交、北朝鮮拉致問題と核開発、国連安保理常任理事国入り、イラクサマワに派遣した自衛隊をどうするか、そして憲法改正……。こうした重要課題をひとまとめにした国民投票だ。そして、それぞれの政策を各党が競い、有権者が判断する。それが2大政党化時代の政権選択選挙だ。

産経の主張

 問われるのは郵政民営化に加え、今日本がいかなる選択を行うべきかである。北朝鮮の核開発、対中外交、憲法改正少子高齢化社会での受益と負担など、内外の課題は戦後日本が初めて直面する難問ばかりだ。これを果断に解決する指導者と政党を選ぶというこれまでにない選挙としたい。

日経の主張

政治の混乱で構造改革を失速させてはならない。政府の郵政民営化法案は不十分な内容だったが、わたしたちはまず民営化の第一歩を踏み出すべきだと主張してきた。郵政事業の民営化だけではない。国と地方の行財政改革を一体的に進める三位一体改革政府系金融機関の統廃合・民営化、公務員の人件費削減なども避けて通れない課題である。

 朝日だけ妙に小泉内閣の悪口みたいな論調であります(苦笑)が、まあ、各紙共に、郵政民営化が最大の争点である点を踏まえた上でですが、より多面的な争点を上げてはいるわけです。

 で、中でも毎日社説の以下の下りは考えさせられました。

 民主党もこのままではいられない。今回の解散は、民主党が政権を追い込んだのではない。現状は、自民党分裂という「棚ぼた」式で政権交代の可能性が取りざたされているに過ぎないのだ。他の争点だけでなく、当然、郵政に関しても党内できちんとした対案を出すべきだ。

 郵政民営化は、ひいては「大きな政府か、小さな政府か」につながるテーマだ。岡田克也代表が「将来的には民営化が望ましい」と言いながら、政府案の批判だけに終始したのは、党内の労組系議員を中心に、自民党と同様、民営化反対派を抱え、対立を回避するためだと既に有権者も見抜いている。民主党も、そんな党内のねじれを解消して初めて、「小泉・自民党」か、「岡田・民主党」か、政策を通じて有権者が選ぶ政権選択選挙の土俵が整う。

 そうなんですよね、昨日の当ブログコメント欄でも多くの論客が鋭く指摘されていましたが、郵政民営化は、ひいては「大きな政府か、小さな政府か」につながるテーマなのですよね。

 だとすれば、毎日社説が主張する通り、民主党はかなり苦しい内部矛盾を抱えてしまっているわけで、郵政民営化では、対案も出せず郵政労組に気兼ねして結論先延ばしでお茶を濁しているけれど、党内保守派は本来民営化賛成論者もたくさんいるわけです。

 この問題、実は日本の民主党だけが抱えている問題では無さそうです。



●「保守」対「リベラル」〜「大きな政府」対「小さな政府」現代リベラル政党が抱えるジレンマ

 冷戦終了後、いわゆるイデオロギーによる政党間の理念対立・資本主義か反資本主義かは、先進諸国では争点としては消滅してしまいました。

 現代では、アメリカの共和党民主党やイギリスの保守党と労働党がそうであるように、どの先進民主国家でも、政権交代というのは、小さな政府を目指す勢力と、大きな政府を目指す勢力の間で繰り広げられるようになったわけです。

 つまり、自由を重視して小さな政府と民の活力を重視する保守陣営と、自由よりも平等、大きな政府と弱者保護を重視するリベラル陣営に別れているわけです。

 現在の先進資本主義国家において、これが最大の対立軸となってきたわけです。

 ところが、最近先進各国はあいつぎ行きすぎた保障制度などにより国家財政逼迫に直面して、英国保守党のサッチャー改革や米国レーガンレーガノミックスに代表される保守派政党による大胆な財政改革が為されてそれなりに成功を収めてきたわけです。
 もちろん、「成功」の影には痛みをともなうわけですが、否定的側面としては彼らの行った「小さい政府」手法は軍事費を例外にしたり、弱者切り捨てともとれる、高額納税者減税や福祉予算切り捨てが含められていましたが。

 もちろん、リベラル政党の「大きな政府と弱者保護を重視する」政策は、それはそれで立派な理念です。
 しかしこのような緊縮財政の中で各国リベラル政党は、英国労働党がより顕著なのですが、「大きな政府」を目指す政策看板は降ろさざるを得なくなり、「小さな政府」を目指す中での条件闘争的に可能な弱者保護重視政策を取るというふうに変質してきたのです。

 これはある意味で時代の趨勢でありましょう。



民主党は「保守」なのか「リベラル」なのか〜もはやごまかしは不可能だ

 今考察したグローバルな視座で、再度現在の日本の民主党の立場を考えてみたいのです。
 日本の保守党はもちろん自由民主党です。

 では民主党は保守党なのでしょうか、リベラル党なのでしょうか。

 ひとつはっきりしていることは、日本に保守政党は2つもいらないわけで、今回の選挙では民主党は、郵政民営化を唱える小泉自民党にはっきりとした対立軸をもたなければならないということです

 では、郵政民営化反対でいいのか? 断固、否です。

 その対立軸とは、旧来の「大きい政府か小さい政府か」の論争であってはならないわけです。700兆円にも及ぶ赤字財政の中で、「小さい政府」を目指すべきことは、各紙の主張に郵政民営化自体を反対する声は全くないことでも自明ですが、国民の総意であります。

 膨大な国家財政赤字の前に「大きい政府か小さい政府か」の論争は不毛です。

 民主党はいまこそ党内のねじれを克服し、高らかとマニュフェストとして、郵政民営化の道筋を政策方針として掲げるべきです。

 構造改革を保守・自民党の立場からではなく、リベラル・民主党の立場から、はっきりと国民にわかる形で示さなければいけません。

 民主党がしっかりと自民党に対して現実的な対立軸を示すことが出来るか、ここが今回の選挙のひとつの重要な核心なのだと思うのです。

 今回の選挙で存在価値が試されるのは、自民党ではなく民主党なのだと考えます。



(木走まさみず)