木走日記

場末の時事評論

北朝鮮の「幻惑外交」に足蹴にされる日本

 今日は朝鮮半島の最近の動向について少し考えてみたいのです。



●韓国政府「北朝鮮が核廃棄に合意する場合、電力を直接送電する!」

 今日のインターネット新聞JANJANの気になる記事から・・・

韓国政府「北朝鮮が核廃棄に合意する場合、電力を直接送電する!」 2005/07/14

 政府は12日午後4時、盧武鉉大統領主催で国家安全保障会議(以下、NSC)を開いた後、国民に重大な提案について説明することに決めた。会議を終えて午後6時、チョン・ドンヨンNSC常任議長兼統一部長官は政府庁舎で公式発表を行った。

 チョン長官は「北朝鮮が今回第4次6カ国会談で核廃棄に合意すれば、韓国は200kwの電力を北朝鮮に直接送電方式で提供する」と述べた。また「核問題の核心はエネルギー問題である」「今回の提案は南北の共同繁栄と民族経済の均衡的発展に寄与できるということにその意味がある」と背景を説明した。

 すなわち、6カ国会談で北朝鮮が核廃棄に合意する場合、現在の軽水炉事業の終了を要求している関連国の立場に韓国政府も同意し、事業を終了する代わりに200万kwの電力を直接提供できるよう、送電線路の建設に着手するということである。

 チョン長官によると、この事業は2005年7月下旬に北京で開かれる6カ国会談で“核廃棄合意文”が発表されれば、それと同時に南北会談を開き“京畿道の楊州と平壌間の直接送電線路建設”協議に着手することになる。

 KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)に関連しても、チョン長官は「総15億4000万ドルの軽水炉建設費用の70%である11億7000万ドルを韓国政府が負担するが、その発言権は7%にも至らなかった」「米国と日本などの関連国は軽水炉事業の終了を要求しており、2年続いて凍結中であるこの事業に未練を持つべきではない」と話した。また、軽水炉事業が再開されるとしても追加工事費用としてさらに35億ドルが必要になり、軽水炉を完工させ送電線路を建設しても稼動のための費用が必要になるのでさらなる費用が必要になるという説明である。また、すべての設備を整えるためには10年という長期間が必要であるという話であった。

 チョン長官は「軽水炉問題を6カ国会談で解決することは非常に難しい」という点を強調し、それに比べ「対北直接送電計画は短い時間内で推進することができるという長所を持ち、費用問題も“朝鮮半島の平和定着と統一にかかる費用”であると考えられる」と加えた。重油供給に関連しても、チョン長官は6カ国会談が開かれればこの問題を関連国と協議できると述べ、楽観的な見解を明らかにした。

 チョン長官はこの計画の推進背景について、▲北朝鮮核問題の当事者として核問題を早期に主導的に解決するための方案、▲追加費用の負担なしに推進できる方案、などをあげた。しかし、この計画は極度の秘密として制限された範囲で検討されてきたため、今後さらに精密な検討作業が必要であると慎重な姿勢を見せた。

 政府は5月16日、開城で行われた南北次官級会談で初めて「北朝鮮が6カ国会談に復帰する場合、韓国は核問題の解決を実質的に進展させる重要な提案を用意できるという点を北朝鮮側に伝えた」と述べた。また、6月17日の金正日総書記との面談でもこの内容を伝えたことを明らかにした。

 チャン・ユンソン    7月12日

(OhmyNews)

インターネット新聞 JANJAN
http://www.janjan.jp/world/0507/0507129509/1.php

 ・・・

 ついに太陽政策もここまで来ましたか?

 それにしてもこの韓国の電力を北朝鮮に直接送電する提案ですが、これはかねてより不肖木走が脳内で検討していたものであり、低コストという点で実現性としてはとても高いと思いますが、北朝鮮が受け入れるかどうか興味深いところですね。

 エネルギー安全保障の観点からいえば、他国からの電力直接送電は一次エネルギーを他国に依存してしまう点で非常に危ういリスクを伴うわけでありまして、その依存率が高くなればなるほど、万が一送電停止などされたときの経済的影響が大きくなるわけです。

 私が脳内で検討していたのは、韓国側が実質的に北朝鮮を従わせるための策のひとつとしてであり、とても人様にお話できる内容ではなかったのですが、まあ、今回の韓国側の提案には、私などのような姑息な悪意はないのでしょう(苦笑



●したたかな北朝鮮外交

 11日の毎日新聞の記事から・・・

北朝鮮:「圧政の拠点」発言の撤回断念 米と接触し軟化
 【ワシントン笠原敏彦】北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議再開に向け、米国と北朝鮮が今月1日までニューヨークで開かれた国際会議(非公開)の終了後、水面下で再度接触し、この場で北朝鮮が協議復帰の障害としてきた「圧政の拠点」発言の撤回を事実上断念したことが10日、関係筋の証言で明らかになった。同会議の期間中に米朝が2度接触したことは米国務省も認めているが、その後再び接触が行われたことは公表されていない。3度目の接触北朝鮮が姿勢を大きく軟化させ、協議再開への道筋がついた模様だ。

 国際会議は民間シンクタンク「全米外交政策会議(NCAFP)」が主催し、北朝鮮の核問題をテーマに6月29日の夕食会に始まり、7月1日まで開かれた。関係筋によると、同会議終了後の1日午後、出席した国務省のデトラニ北朝鮮担当特使ら2人と北朝鮮外務省の李根(リグン)米州局長ら2人がニューヨークで再度接触し、6カ国協議再開に向けた話し合いを1時間以上行った。

 この中で、米国の「敵視政策」の転換に固執する北朝鮮側は、ライス国務長官が今年1月に北朝鮮を「圧政の拠点」の一つに名指しした発言の撤回の可能性を打診。米国側は「その可能性は全くない」と伝えた。これに対し、李根局長は「本国に戻り米国の立場を報告する」と答える一方、「6カ国協議に復帰する準備はできている」として今月下旬の協議復帰を示唆したという。

 北朝鮮6カ国協議復帰を宣言した9日の朝鮮中央通信は、米国が北朝鮮主権国家として認め、侵攻の意思がないと説明したことなどを「圧政国家」発言の撤回と理解する、と表明。関係筋は「北朝鮮は1日の米朝接触の結果を受け、最終的に発言の撤回、謝罪をあきらめた」と説明した。

 李根局長は5日帰国し米国の立場を首脳に報告。再開で合意した9日の北京でのヒル国務次官補(東アジア・太平洋担当)と金桂冠外務次官の会談は、7日に北朝鮮国連代表部を通した「ニューヨーク・チャンネル」で設定されたという。

毎日新聞 2005年7月11日 15時00分
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/northk/

 この記事によれば、北朝鮮側は「米国が北朝鮮主権国家として認め、侵攻の意思がないと説明したことなどを「圧政国家」発言の撤回と理解する、と表明」したそうですが、いや、この一連の北朝鮮の小憎らしい外交手腕には脱帽でありますね。

 たかが6カ国協議再開するだけで、これだけの「おみあげ」を得ることができたわけであり、いつのまにか「核保有国」として、堂々と外交しちゃっているのであります。

 冷静に考えれば、彼の国は前回の6カ国協議から今までなにひとつ妥協もせず反省もせず、ただ「核保有宣言」という国際的恫喝まがいの宣言をしただけであり、韓国やアメリカはまんまとその外交戦略にのってしまっているようなものであります。



北朝鮮から足蹴にされる日本
 10日の毎日新聞から・・・

北朝鮮:米国との2国間協議を重視 日本は寄与せずと非難
 北朝鮮外務省は10日、朝鮮中央通信を通じ、核問題をめぐる6カ国協議再開につながった5月以降の米国との接触について「当事者が直接向き合えば問題が一気に解決することを明白に示した」と述べ、米朝2国間協議を重視する姿勢を強く打ち出した。また中国や韓国、ロシアによる米朝間仲介の努力を評価したが「日本だけは協議再開に寄与したことがない」と非難。核問題に加え拉致問題も取り上げようとする日本をけん制した。

 対米接触を評価した発言は、今月下旬の再開を決めた第4回6カ国協議でも対米2国間協議を重視する方針を示したものとみられる。

 北朝鮮外務省は、6月30日と7月1日にニューヨークで開かれた6カ国協議参加国の当局者による非公式会合で「(米朝双方の代表が)協議に復帰するわれわれの環境を整える問題を真剣に話し合い、基本的な見解の一致をみた」と再開合意の背景を説明した。

 同外務省はまた「協議再開自体も重要だが、根本は朝鮮半島の非核化への道筋が協議で深く論議され、実質的な進展を得ること」とし、「このために最善の努力を尽くす」と表明した。

 6カ国協議軍縮会談への移行要求や、核兵器保有といった従来の主張には触れなかったが、「朝鮮半島全体の非核化」との表現があり、北朝鮮の一方的な核放棄ではなく、在韓米軍の存在を念頭に米国にも核軍縮を迫る主張を含めている可能性がある。(北京・共同)

毎日新聞 2005年7月10日 22時44分 (最終更新時間 7月10日 22時49分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/northk/news/20050711k0000m030056000c.html

 「日本だけは協議再開に寄与したことがない」ですか・・・

 なんだかなあ、もういいように言われてしまっていますよね。(苦笑
 嘆いてばかりいてもしかたないのですが、日本の外務省は何をしてるのでしょう。
 今の消極的な姿勢しか日本として北朝鮮に対する外交政策はないのでしょうか。

 ・・・



●今日の産経コラムのぼやき節はうまい表現を使っている

 一個人がこのようなこと嘆いててもなんですが、こういう時新聞などメディアで同じ様な嘆き節を見つけるとなんとも共感を覚えるものでありますが・・・

 ん?

 おお、嘆いてますよ、今日の産経抄が。もうほとんどぼやき節であります(苦笑)

 投手に内角高めいっぱいを投げられ、打者がのけぞるシーンが野球にはよくある。次に外角低めがくるはずと予測がついても、これが打てない。内角のイメージが体に残っているから、うまくバットが出ないのだ。

 ▼北朝鮮はこの“幻惑投法”をたくみに使う。いったん、内角高めの強硬策で驚かせ、次いで日米韓が外角低めに手を出すように誘う。核の脅しによって日米韓から食料や石油をせしめるパターンである。とくに、北に甘い韓国の盧武鉉政権は、すぐつり球に反応するから要注意だ。

 ▼北朝鮮は今回もうまい手を考えた。この二月に「核保有」を宣言したから、いまや米国と同じ核保有国なのだそうだ。同じ立場なら、六カ国協議では軍縮会議をやろうぜと持ちかける。五カ国は「また幻惑投法か」と思いつつも、一年も協議を開けなかったからそこで手を打つ。

 ▼盧政権はさっそく、「北が核放棄なら電力を供給する」と応じた。すると北は、「日本は協議の再開に寄与したことがない」などとうそぶく。拉致被害者を人質にする卑劣な国に、なんで寄与などするものか。協議再開は交渉の始まりに過ぎない。

 ▼問題は北が軟化のフリをすると、韓国で統一への期待が高まること。しかし、北朝鮮の一人当たりの所得が韓国のわずか8%しかない現状では、とても支えられない。そこで、まず日本と国交回復させ、日本の援助で経済力が上がるのを待って統一するとの説を、風の便りに聞いた。

 ▼悪いが盧さん、お国が「反日」ではその話に乗れない。まして、自慢の大型輸送艦に、日本の竹島の韓国名「独島」などと名づけるようでは御免こうむる。それより北の内角球は、命取りの「危険球」と紙一重であることを申し添えたい。

平成17(2005)年7月14日[木]  産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/column.htm

 ふう。

 「悪いが盧さん、お国が「反日」ではその話に乗れない。」とは、あいかわらず産経しちゃっていますが、北朝鮮の“幻惑投法”ですか、うまい表現だよなあ・・・

 なんかもううんざり気味の最近の北朝鮮の「幻惑外交」なのでした。

 読者のみなさまはいかがお感じになられましたでしょうか?



●(追記)2005.07.16 13:30

 コメント欄でのNN様のご意見にとても考えさせられました。とても興味深い韓国政府の「太陽政策」に対するご意見なので、読者のみなさまにご紹介するために、追記しておきます。

みなさん、こんにちは。はじめて書き込ませていただきます。

日本ではやたらと韓国の「太陽政策」の評判が悪いですね。「北朝鮮への対応も、見通しも韓国は大甘お花畑」という見方が(論壇誌などでは)多いですね。私の見方はちょっと違っていて、韓国の政策はある意味リアリズムに徹してるなと思ってます。辺真一さんが「韓国にはねえ、もう太陽政策しかないんですよ」としみじみと言ってました。一応民主国家になった韓国にはこれしかないというのはよくわかります。

韓国政権の目的は2つあると思います。絶対に戦争を起こさせない。北朝鮮を崩壊させない。この2つは韓国の国益を考えたら重要です。戦争になったら一番悲惨な目に会うのは韓国ですし、北朝鮮が崩壊したらこれまた一番大変な目に会うのは韓国です。民族統一はあくまで立て前であって、短期的には不可能だし、そんなことになったら困ると思っているでしょう。変わり者リアリスト田岡俊二さんが「韓国の本音では太陽政策は監獄政策ですよ。崩壊して囚人が出てこられちゃったら困るから、金正日を監獄の管理人として雇ってるようなもの」みたいな表現をしていました。あながち間違いでもないなと思います。
国益だけで理念がまったくないというわけではないと思います。やはり、韓国としては北朝鮮の内部から蝕んでいって、ソフトな体制転換を狙っているでしょう(将来の統一に向けて)。もちろん、北朝鮮は韓国をしゃぶれるだけしゃぶってやろうと思っているでしょうが、そんなことは韓国は百も承知でしょう。それでも、あえてやる価値があると判断したからやってるわけで。

韓国国民は、50年間にわたる昔の路線(=戦争も辞さない)ではろくなことが無かったと思っているでしょう。数百万人が死ぬ戦争やっちゃったし、独裁政権に戦争の覚悟はずっと強いられるし、戦争に備えるため国内で弾圧されるし、拉致られるし、テロられるし、結局なんの成果も無かったし。韓国国民にとって、北朝鮮問題は60年間ずっと最重要問題でした。南北で1000万人といわれる離散家族がいます。数年前まで北朝鮮の存在すら忘れていた日本人とはわけが違います。

というか、当たり前ですが、韓国は当事者意識がしっかりあるんですよ。韓国側は北朝鮮問題・戦争をリアルに捉えてます。我々日本人にとってはなんだかんだ言っても(意識の上では)他人事なんですよ。当事者意識がほんとにあるのは拉致家族だけ。他人事だから、「好き・嫌い・ムカツク」みたいな感情で物事判断してます。テレビでサスペンス・エンターテイメント見てる、またはゲームしてるような感覚なんじゃないでしょうか。安倍晋三をはじめみんな「口だけ番長」ですよ。大甘お花畑は我々です。(どうどうどうどう、ですね。みなさん、ごめんなさい。)戦争が起きても、実際に戦うのはアメリカ兵、北朝鮮兵、韓国兵ですしね。日本にもミサイル何発か飛んでくるかもしれませんが、韓国が受けるだろう被害に比べたらたいしたことないでしょうし。(だからこそ、他人事というある意味究極のリアリズムで日本人はのぞんでいるという言い方もできるような気もしますが。)

別に韓国の北朝鮮政策を全面的に評価してるわけじゃありません。そもそも、私はリアリストではありませんし。しかし、不人気な見方なので、あえて肯定的に書かせていただきました。

 NN様。有意義なコメントありがとうございます。

(木走まさみず)