木走日記

場末の時事評論

こりゃ歴史観の共有などは夢のまた夢?

 今日は教科書問題について考えてみたいと思います。



●戦中は「従軍慰安婦」という言葉ない〜中山文科相、発言支持のメール紹介

 産経新聞から・・・

戦中は「従軍慰安婦」という言葉ない 中山文科相、発言支持のメール紹介

 中山成彬文部科学相は10日、福岡市で開かれた地方議員や市民が参加した集会で講演し、「従軍慰安婦」という言葉が戦時中はなかったという自身の発言を支持する電子メールを読み上げ、「若い方々は本当に真剣に考えている。ありがたい」と語った。

 講演で中山文科相は「私が歴史認識を話すと良からぬ誤解を招くといけないので、手紙を紹介する形で皆さんのご理解を得たい」と前置き。カナダの大学院で学ぶ20代の日本人女性から届いたメールを紹介した。

 メールは「従軍慰安婦」という言葉について「そんな言葉は当時ありません。一部の日本人が自虐的に戦後作った言葉ですよね」とし「イメージの悪い言葉を作ってことさら悪事のように騒ぐのはなぜでしょうか」と疑問を投げかけている。

 中国や韓国の反発に対し「国益に沿って反日を利用し、国内をなだめつつ、とりあえずごねてみる作戦。(中国や韓国に)ただ頭を下げるのでは政治家として二流、三流」としている。

 中山文科相は6月、静岡市で開かれたタウンミーティングで「従軍慰安婦という言葉は当時なかった。間違った記述が教科書からなくなってよかった」と述べたが、慰安婦の存在や苦痛は否定していない。

【2005/07/11 大阪夕刊から】 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/050711/sei040.htm

 ふう。

 「従軍慰安婦という言葉は当時なかった。間違った記述が教科書からなくなってよかった」発言で物議をかもした中山文科相ですが、今度はメール紹介でありますか(苦笑

 よっぽど語りたいのでしょうねえ。

 しかしなあ、不肖・木走としては石原都知事が最たる者でしょうが、わざわざ敏感な時期に、中国や韓国を刺激するような内容のこのような発言を意図してする政治家の真意がいまひとつ理解できないのであります。センス(感覚)としてでありますが・・・

 靖国参拝問題と双璧を為す教科書問題でありますが、やっかいなことに日本側、中国・韓国側双方から、このような「火に油」を注ぐような発言が後を絶ちません。

 そもそも教科書問題の本質は、各国固有の歴史認識の問題にいたるのであり、日本だけでなく、中国にしろ、韓国にしろ、その歴史教科書はそれぞれ自国中心の愛国主義的な記述が目に付くだけに、問題は複雑なのであります。

 当ブログでも過去に中国の歴史教育について考察して参りました。

●中国反日デモ〜中国の歴史教育について考察してみる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050504/1115197956
●中国反日デモ〜中国の歴史教育について考察してみる(追記)
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050504/1115363348

 そのエントリーで私は次のようなコメントでまとめてみました。

(前略)

 私が興味深くそして考えさせられた点は、「歴史教育」というものは、客観的に科学する(一粒一粒の水滴を検証する)対象というよりも、虹のようなものであり、自国民をまとめるために、恣意的に方向付けしてかまわないのであるという、ユニークな考え方にであります。

 これは、異論・反論が当然ある内容でしょうが、木走としては、かなり各国の歴史教育の本質を突いている視点であると評価しています。

 中国・韓国・日本において、共同で歴史研究をする試みもよいでしょう。しかし、上記のような視点を抜きにして、全ての国が歴史認識を共有できるなどという幻想はくれぐれも抱いてはいけないのでしょう。

 互いの歴史観が共有できる部分と異なる部分があることを認め合い、その差分を含めて理解し合えるような、成熟した関係が望まれているのではないでしょうか?

(後略)

●中国反日デモ〜中国の歴史教育について考察してみる より抜粋

 私としては、一国の価値観を強制的に他国に強要してはならないように、他国に自国の史観を強要することはいかなる国もそのような乱暴な権利は持っていないとの認識であります。
 ただ、もちろん、60年前の戦争において日本がした行為に対して、事実を隠すような記述は厳にあってはならないことであるとも考えております。




●おもいっきり読み応えのある産経の中韓教科書特集

 そんな中で産経新聞が10回にわたり特集した記事【論考 中韓の教科書】シリーズが7月7日に終了しました。

 既知の読者も多いと思いますが、実に興味深い内容でした。

【論考 中韓の教科書】中国編(1)南京大虐殺を日本に教えてあげましょう
http://www.sankei.co.jp/news/050707/sei020.htm
【論考 中韓の教科書】中国編(2)異なる二つの日本像
http://www.sankei.co.jp/news/050707/sei021.htm
【論考 中韓の教科書】中国編(3)史実の認識、違い認めず
http://www.sankei.co.jp/news/050707/sei022.htm
【論考 中韓の教科書】中国編(4)戦勝国の地位アピール
http://www.sankei.co.jp/news/050707/sei023.htm
【論考 中韓の教科書】中国編(5)目標は民族主義の鼓舞
http://www.sankei.co.jp/news/050707/sei024.htm
【論考 中韓の教科書】韓国編(1)国交正常化 成果は無視
http://www.sankei.co.jp/news/050707/sei025.htm
【論考 中韓の教科書】韓国編(2)脱中国 好影響に触れず
http://www.sankei.co.jp/news/050707/sei026.htm
【論考 中韓の教科書】韓国編(3)民族の“頑張った”記録
http://www.sankei.co.jp/news/050707/sei027.htm
【論考 中韓の教科書】韓国編(4)道徳の中心は愛国・愛族
http://www.sankei.co.jp/news/050707/sei028.htm
【論考 中韓の教科書】韓国編(5)対北、過去は忘れて和解
http://www.sankei.co.jp/news/050707/sei029.htm

 内容は実に興味深いものであります。

 木走の感想ですか?

 正直、こりゃ歴史観の共有などは夢のまた夢であるなあと感じました。

 《血塗られた南京大虐殺から六十余年がたちました。今日、中国と日本の中学生は当時の南京城内、長江(揚子江)河岸のあの凄惨(せいさん)な虐殺をどれだけ知っているでしょうか。(中略)一衣帯水の隣邦には永遠の平和が必要です。平和のため、南京大虐殺を永遠に再現させないため、筆をとって君の同世代−日本の中学生に手紙を書きましょう。異国の同世代に君の知っている南京大虐殺を教えてあげ、君と君の祖国の平和に対する熱愛を伝えましょう》

 これが、中国教育省系の人民教育出版社(本社・北京)の中学歴史教科書「中国歴史・8年級上冊」に掲載された課題の一節ですからねえ(汗

 「異国の同世代に君の知っている南京大虐殺を教えてあげ、君と君の祖国の平和に対する熱愛を伝えましょう」って、これは教科書の課題としてはいかがなものでしょう・・・


●JANJANに紹介されて大激論を起こしている「未来を開く歴史」

 私・木走が市民記者登録させていただいているインターネット新聞JANJANにおいて、最近一冊の中学歴史教科書副読本が話題を呼び激論を巻き起こしています。

日本での反応は?日中韓共同編集『未来をひらく歴史』完成 2005/05/28

 「新しい歴史教科書をつくる会」による歴史教科書のオルタナティブ(代替案)として、日中韓の教育者たちが3年をかけて編纂してきた歴史の副教材が26日に完成した。タイトルは3国共通で『未来をひらく歴史』という。

 「日本と中国・韓国の歴史認識の溝をうめ、信頼と友好に基づいた対話の前提をつくる」(日中韓3国共通歴史教材委員会)ことを望んで作られたこの本の初版は2万部。通常、こうした性格の本の初版は2,000部から5,000部程度と言われるだけに、できるだけ広めたいとする関係者の意気込みが伝わってくる。

 日本側の委員の1人である都留文科大学笠原十九司教授は「ナショナリズムが一番やっかいでした」と、第6次原稿が作られるまでに検討を重ねた過程を振り返る。「日本にもナショナリズムというものはありますが、中国、韓国では特に民族意識が強くてですね、その認識をどう乗り越えるかに悩まされました」

 確かに韓国の歴史教科書などは、客観的な事実を記述しようとする日本の教科書に比べ、民族を強く意識した記述が多い。共同作業の過程でも、特に日中の間では細かい記述をめぐっての衝突も、少なからずあったという。「でも、ぶつかったからと言って背を向けるのではなく、そこから前を見ることが大切」(笠原十九司教授)と、ともに歩み寄る姿勢を保つことを共通点にして、作業を続けてきた。

 こうして完成した本は、まず韓国で25日、記者たちにお披露目された。日本と中国からも委員会のメンバーが出席し、「ほとんどすべての大手メディアが取材に来ていたのではないか」という程の注目を集める中、中国のメンバーが日本側に感謝の言葉を述べたという。

 「記者会見の席でですね、中国側のメンバーが、『今回の作業では、日本側が一番苦労したのではないかと思う。その努力について感謝したい』と言ってくれましてね」と、連絡調整役を担った俵義文氏(子どもと教科書全国ネット21事務局長)は目を細める。

 韓国では、盧武鉉大統領も記者会見の場にビデオメッセージを寄せるなど、『未来をひらく歴史』に寄せる期待と関心は非常に高いという。諸般の事情で中国での発刊は6月上旬になる予定だが、「従軍慰安婦」「南京大虐殺」「創氏改名」など、日本では争点となる事項についても、かなり明確な記述がなされており、日本での注目度が気になるところだ。

(山本千晶)

インターネット新聞JANJANより
http://www.janjan.jp/world/0505/0505270535/1.php

 この『未来をひらく歴史』ですが、日本側企画母体や日本側出版社がいかにもリベラルなグループであることもあり、JANJANでも例によって左右乱れての大激論となっておりました。(苦笑



●興味深い韓国側評価

 JANJANは韓国のネットサイト「OhmyNews」と提携結んでおりまして、この『未来をひらく歴史』の韓国側の受け止め方も記事として掲載されていました。

韓・中・日共同歴史副教材『未来をひらく歴史』が生まれる! 2005/05/27

 『未来をひらく歴史』は、日本の韓国併合過程での強制性の認定、皇民化政策を含む植民支配の問題点の批判、日本軍の“従軍慰安婦”の強制動員被害者、そして南京大虐殺などの中国側の被害などを特徴としているという点で、扶桑社の歴史教科書と異なる。

 しかし、執筆過程には様々な対立があった。自国中心の歴史認識に慣れている韓・中・日の執筆者達が集まって『未来をひらく歴史』を作る過程は、歴史的観点、時期区分の問題などに対する持続的な調整過程を必要とした。

 共同執筆者の1人であるキム・ソンボ延世大学教授は「3カ国は皆侵略戦争に対する反省を前提として集まったため、多くのことを共有した状態から出発したが、意見がかみ合わない部分も多かった」「見解が異なる部分に対しては異なる意見を羅列する代わりに、討論を通じて合意された部分だけを反映した」と話した。執筆過程で明らかになった主要な争点は次のようである。

 近代・現代の東アジアの主役は日本?(日本VS韓国・中国)
 「日本側は明治維新を含む日本の主要事件を基準として時期を区分し、その時期ごとに3カ国の歴史がつながる関係を中心として記述することを提案した。しかし、韓国と中国の執筆者はこのような認識は日本が東アジアの近代・現代史の流れを導いたということを前提にするものであると判断し、日本中心の時期区分に反対した。日本側は韓国と中国の意見を収斂し『未来をひらく歴史』では、3カ国の各々の近代国家建設の過程及び侵略戦争などでの相互関係を考慮して記述された」

 日本軍は人肉の餃子を食べた?(中国VS日本)
 「日本の侵略戦争を反省すべきであるということには3カ国がともに合意したが、記述方式と認識には隔たりが大きかった。“日本軍は中国の女性の足を切断し餃子を作って食べた”などの被害事実を赤裸々に描写する中国側の立場を、日本側は受け入れがたかった。日本側は誇張したような被害者数および強姦などに対する詳細な描写の代わりに客観的に検証された資料を基にした被害事実の記述を主張した」

 「韓国側も日本側の意見に同意して、中国がこの意見を受け入れた。しかし、この過程で中国側は“韓国は中国と同じく被害当事国でありながらどうして日本の認識と似ているのか”という抗議性の質問を投げた」

 「これに関連し、キム・チョンイン春川教育大学社会教育科教授は“戦争による侵略行為に関する記憶は植民支配に対する記憶より鮮明かつ恐ろしいものとして残っているため、中国の抗日の記憶は韓国の反日の記憶より強力なエネルギーをもっている”と分析した後、“虐殺行為自体を否認する日本の右翼との戦いが予想される部分であるだけに、厳密に検証する必要がある”と指摘した」

 加害者と被害者の経験をどのように調整すべきか(日本VS韓国・中国)
 「15年戦争(1931〜1945)と関連して、日本は伝統的に米軍の原爆及び爆撃のため日本の民衆が被害を受けた事実を強調する反面、韓国と中国は日本の加害者的側面を重視してきた。『未来をひらく歴史』の論議過程でもこの問題が再び議論された」

 「“日本の民衆は戦争協力者ではあるが、同時に深刻な被害当事者でもある”と米国の原爆投下意図を記述すべきであると主張した日本側の見解に対して、中国側は“米軍の爆撃は侵略に対する懲戒である。米国の意図ではなく、被害事実を詳しく記述すべき”という見解を提出し、韓国も同意した」

 「討論を通じて、日本側は韓国・中国の意見を相当部分受け入れ“正義の戦争”概念を認めた。その結果『未来をひらく歴史』は国籍に関係なく、民衆が受けた被害事実について述べられたが、日本側の最初の提案とは異なるかたちである。加害国と被害国の相反する経験を調整することはとても難しい過程であることを見せてくれる部分でもある」

 東アジアの近代・現代史の中で外国に圧力を加えたのは日本だけ?(韓国VS中国)
 「中国側は中国の公式歴史記述(中国は隣国に害を加えたことはない)に固守したが、韓国側は19世紀末清国が朝鮮近代化の障害要素だったのは歴史的な事実であると主張した。論議の結果、清国の外圧自体は客観的な事実であるだけに『未来をひらく歴史』にそのまま記述されることになった」

 「これと関連して、ソ・チュンソク教授は“中国人は袁世凱が朝鮮に渡って朝鮮に与えた苦痛についてはよく知らないようである。ただ中国国内だけでの役割を知っているのみだ。『未来をひらく歴史』が韓国史に関する中国人の理解を高める機会になると思う”と展望した」

 中国の5・4運動は3・1運動の影響を受けていない?(韓国VS中国)
 「韓国の教科書では“1919年3・1運動は、同年に発生した中国の5・4運動に影響を与えた”と述べているが、中国側は“初耳である”とこれを認めなかったため、“影響”という単語は含まれなかった。代わりに“中国の知識人と学生達は韓国で発生した3・1運動を伝えながら反日闘争を促した”と記述された」

 日中戦争の勃発の責任はどちらにあるか?(中国VS日本)
 「1937年に勃発した日中戦争は北京付近の橋で発生した衝突から始まる。この事件に関して“日本軍がはじめた”という中国側の意見と“どちらから始まったかは明らかになっていない”という日本側の意見が対立したが、日本軍が事件を起こしたという方向で整理された」

 台湾問題をどう扱うか?(中国VS韓国・日本)
 「“1つの中国”原則を固守する中国の立場では台湾問題は敏感な部分である。執筆過程でも“1992年韓・中国交樹立が台湾に与えた影響に言及すべきである”という韓国・日本側の見解に対して、中国側は“中国は1つであるため台湾を別に言及する必要はない”と主張した。結局、韓国と台湾の外交関係が断絶されたが、近来交流が増えつつあるという記述をすることで3カ国の意見が合意された」

 キム・ドクリョン   5月26日

(OhmyNews)
インターネット新聞JANJANより
http://www.janjan.jp/world/0505/0505267526/1.php

 うーん、興味深いですよねえ。

 ここのブログの読者の方ならばご理解いただけるとおもうのですが、この副読本は是非読んでみたいですよね。肯定的に読み解くにせよ、批判的に対峙するにせよ、この興味ある試みの本は読む価値があると思いました。



●どひゃあー、JANJAN編集部からご指名だあ(汗

 で、既知の読者も多いと思いますが、JANJANには「今週の本棚」という新書のプレゼントコーナーがありまして、本の書評をJANJANに記事として執筆するのが条件なのですが、先日この話題の『未来をひらく歴史』が対象となったので、さっそく木走も応募したのであります。が、さすがに人気がある本らしく残念ながら落選でした。
 ところがです、一週間ほど前、JANJAN編集部から不肖・木走に一通のメールがとどいたのでした。
 なにやら、最初当選した人がどうしても書評を書くことができないと辞退したので、よければ木走に書いてくれないかというのです。

 どひゃあー、JANJAN編集部からご指名だあ(苦笑

 私の返事? もちろん、快諾いたしましたとも。(爆

 よりによって話題の歴史副読本の記事を、JANJAN問題児記者の不肖・木走をご指名くださるとは、JANJAN編集部もなかなか人を見る目がありますな、感心、感心。
(↑暇そうですぐに引き受けそうなやつってことでしょうが(爆)

 ・・・

 そういうわけで近日話題の歴史本の書評を記事掲載いたしますので、お楽しみにしてくださいませね。

 もちろん、例によって当ブログで記事の詳細エントリーを並列で記してみなさまと熱く考察して参りたいと思っております。

 もう本は読み終わりまして、目下記事として執筆中ですが、JANJAN編集部へのマナーとして内容を現段階でここに書くことができません。

 ただ、いい機会なので思いっきり問題提起してみたいと思っております。

 ・・・

 なんか、最期のほうはお知らせみたいになってしまいました。(汗

 とにかくようし、この際東アジアの教科書問題を、産経に負けないぐらい熱く考察してまいりましょう。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
●中国反日デモ〜中国の歴史教育について考察してみる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050504/1115197956
●中国反日デモ〜中国の歴史教育について考察してみる(追記)
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050504/1115363348
●韓国が連帯する日本の「良心勢力」に本当に良心はあるのか?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050716/1121485328
●「未来を開く歴史」は未来を開けるのか?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050717/1121571654