木走日記

場末の時事評論

日本軍遺棄砲弾より破裂寸前の爆弾を抱える中国政府の憂鬱

 本日は中国の最近の危ない動勢についてのエントリーです。


●中国が旧日本軍遺棄化学兵器処理で1兆円超要求

 今日の産経新聞のビックリする記事から・・・

遺棄化学兵器処理 中国案では1兆円超 施設分散を要求、膨張

 中国に遺棄されている旧日本軍の化学兵器の廃棄処理をめぐり、日中両国が交渉を進めてきたが、中国側の要求を受け入れた場合、日本の拠出金は一兆円超となる見通しであることが、日本側の非公式な試算でわかった。処理施設を一カ所に集中させる日本案に対し、中国側が複数設置を求めているためだが、遺棄砲弾数をめぐる認識でも日中間には三倍近い開きがある。付帯施設の建設費などが加われば、日本の負担は地滑り的に膨張する公算が大きく、処理事業は苦境に立たされ、ぎくしゃくする日中関係をさらに悪化させる可能性がでてきた。

 遺棄化学兵器の処理は、中国が一九九七年四月に化学兵器禁止条約を批准したのにともない、日本が十年後の二〇〇七年四月までに廃棄する義務を負う。これを受け日本政府は九七年八月、現内閣府内に遺棄化学兵器処理対策室(現処理担当室)を設置し、中国側と廃棄に向けた交渉を続けてきた。

 内閣府が所管し、外務省、防衛庁で構成する現地調査団の報告によると、中国国内に遺棄されている砲弾は約七十万発と推定される。施設の設置場所について両国は、砲弾の九割以上が集中する吉林省敦化市郊外のハルバ嶺にすることで合意している。

 ところが、関係筋によると、中国側は砲弾が吉林省のほか、河北、河南、江蘇、安徽など複数省に分布しているため「移動にともなう危険回避」などを理由とし、各地にサブプラントを設置するよう求めてきた。

 サブプラントの設置場所は、日本が設置した砲弾の一次保管庫がある北京や南京など五カ所とみられているという。

 日本側は、砲弾をメーンプラントと位置付けるハルバ嶺に集め、一括最終処理する案を提示していた。

 これを前提に内閣府が見積もった当初予算は二千億円。年内に国際入札で参加企業の選定に入る方針だが、遺棄砲弾数をめぐっても中国側は「二百万発」と主張し、七十万発とする日本側の認識と大きな隔たりがある。

 今後、新たな砲弾が確認されれば処理作業の長期化も予想され、これに施設増設による建設費の膨張分などが加われば、「一兆円規模という単体では前代未聞の巨大プロジェクトとなる可能性もある」と試算にかかわった政府関係者は指摘する。

                  ◇

 ■責任・使途不透明 禍根残す恐れ

 日中間の懸案だった遺棄化学兵器の廃棄処理問題は、中国側の新たな要請を受け、一兆円規模という巨額プロジェクトとなる可能性が出てきた。だが、責任範囲すらあいまいにしたまま中国側の要求を受け入れれば、日中関係にも禍根を残す危険をはらんでいる。

 日本側の見積もる予算枠の前提である内閣府の当初計画によれば、中国吉林省のハルバ嶺に建設される施設の処理能力は毎時百二十発。日本が推定する七十万発を処理するには、三年を要するという想定にたつ。

 中国側は遺棄砲弾はその三倍近い「二百万発」と主張するが、そもそも七十万発でさえ化学兵器禁止条約に基づく二〇〇七年四月の期限までに廃棄するのは、物理的に難しい。

 しかも中国側はサブプラントの複数設置を新たに求めており、予算枠にはとても収まりそうにない。

 一方、費用の使途をめぐっても、今後の議論を呼びそうだ。例えば、調査活動に協力した中国人スタッフに日本側が支払った日当は百ドル。ところが「実際に本人たちに支払われるのは十元(約百三十円)程度」(関係者)とされ、中国側による中間搾取の構造が透けてみえる。

 日本政府は今年三月、対中政府開発援助(ODA)の大半を占める対中円借款の打ち切りを決めたが、一九七九年に始まった対中ODAは累計で三兆三千億円強。対する遺棄化学兵器処理は、わずか数年の間に一兆円規模の拠出を迫られる。

 しかも償還が前提の円借款とは異なり、今回の拠出はいわば出しっぱなしの“無償援助”に近い。無論、廃棄処理は化学兵器禁止条約に基づいて日本が負うべき責務であり、日本は相応の覚悟が必要だが、同時に中国に対しては、誠意と透明性のある環境整備を毅然(きぜん)として求めていく必要がある。(長谷川周人)

                  ◇

 《遺棄化学兵器》第二次大戦中に旧日本軍が対ソ戦に備え、中国に持ち込んだ化学兵器の未処理分。装填される化学剤は糜爛(びらん)剤(マスタード)など6種。残存数は日本側は70万発と推定し、中国側は200万発と主張している。中国は97年に化学兵器禁止条約を批准。これを受け日本は2007年までに全面廃棄の義務を負った。同条約は「他の締約国の領域に遺棄した化学兵器を廃棄する」(第1条3項)と定める。日中は99年、日本が廃棄に必要な費用や要員を全面提供する覚書に署名した。

平成17(2005)年6月22日[水] 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/050622/morning/22iti001.htm

 ふう。これはまずいですねえ。

 なんだかなあ、小泉首相と岡田民主党代表は、酔っぱらい国会問題や靖国参拝問題などで口喧嘩している場合ではないです。

 一兆円超ですか。 

 この大債務超過予算の日本国のどこにそんなお金があるのですか。

 勿論、遺棄化学兵器の処理は、中国が化学兵器禁止条約を批准したのにともない、日本が二〇〇七年四月までに廃棄する国際的義務でありますから、粛々と進めなければなりませんでしょう。
 しかし、それは全てを中国側の要求通りの方法で行うことを意味するわけでは勿論無く、資金提供する日本側が主体的に方法や要員数などを適切・合理的に管理する権利はあるのです。

 まったく悲しくなるのは、「調査活動に協力した中国人スタッフに日本側が支払った日当は百ドル。ところが「実際に本人たちに支払われるのは十元(約百三十円)程度」(関係者)」とはなんでしょう。 大半が中国高官側により中間搾取されているのではないですか。

 日本政府にはしっかりしていただきたいです。

 しかし、中国側の金権体質的要求にも呆れてしまいますよね。



●所得格差、10.7倍〜中国はもはや社会主義国の体を成していない

 19日の朝日新聞から・・・

都市人口間の所得格差、10.7倍の地域も 国家統計局

 中国では現在、都市人口間の所得格差が最高で10.7倍にも広がっている。国家統計局がこのほど発表した都市社会経済調査の結果によると、都市・農村間の所得格差が深刻化しているだけでなく、都市人口の間にも大きな所得格差が生まれている。同調査は、全国5万4千戸の都市人口を対象に行われた。

 2003年の統計によると、所得上位20%の最上位グループでは、世帯の可処分所得が年間1万7472元で、前年より2012元(13%)増加した。一方、所得下位20%の最下位グループでは、世帯の可処分所得が3295元で、前年より263元(8.7%)の伸びにとどまった。最上位グループと最下位グループの所得比は、2002年の5.1:1から5.3:1に拡大している。中でも格差が最も鮮明だったのは江蘇省で、所得比は全国平均の倍以上にあたる10.7:1に達した。

 専門家の指摘によると、都市部では失業や一時帰休レイオフ、事実上の失業)の対象となって職場を失った人が増え、相対的に貧しいグループが形成されている。都市人口間の所得格差が急速に拡大した結果、都市・農村間の差を大幅に上回る格差が生じている。
2005年06月19日 朝日新聞
http://www.asahi.com/international/jinmin/TKY200506190092.html

 皮肉を込めて申し上げたいのですが、所得格差10.7倍というのは、資本主義先進国にも滅多にお目にかかれない格差であり、これはもう社会主義国としての体を成していないと思われるわけです。

 人民の不満は爆発寸前でありましょう。

 それを裏付けるように、中国ではうつ病など精神病が急増しているそうです。


●日本軍遺棄砲弾より今破裂寸前の爆弾を抱える中国の憂鬱

 同じく19日の朝日新聞から・・・

中国のうつ病患者が2600万人超 リストラなどで増加

 19日付の中国各紙によると、同国でも心の病、うつ病が増加し、患者数は2600万人を超したことが分かった。北京で18日開かれたアジア地域の精神医学に関する国際会議で明らかにされた。経済の高度成長の陰で進む競争激化、リストラなどによるストレスの増加が原因とみられる。(時事)

2005年06月19日19時53分 朝日新聞
http://www.asahi.com/international/update/0619/005.html

 うつ病患者が2600万人ですか。桁が違いますね。

 ・・・

 中国政府も頭が痛いでしょうね。

 60年前の遺棄爆弾処理の問題より、こちらのほうがはるかに深刻な問題であり、もし人民の怒りに火がついて爆発してしまえば国家体制を揺るがす事態となるでしょう。
 日本政府は、靖国参拝問題は国内でしっかり議論すべきでしょうが、早急に対応しなければいけない外交交渉をおろそかにしてはいけないでしょう。

 今すぐ真剣に中国とのガス田開発問題や遺棄化学兵器処理などの外交交渉に取り組まないと、日本は大変なことに巻き込まれてしまうかも知れません。



●追記 2005.06.16:15

 コメント欄で興味深いブログをご紹介いただきました。軍事評論家で元防衛庁自衛官出身の佐藤守氏のブログなのですが、中国との交渉当事者としての生々しい体験話として、とても貴重なお話がエントリーされています。

例えば『200万発が正式な数だ』と言い張る中国との交渉ではこんな感じ・・・

(前略)

第3に,数の問題である.7年前,我々が北京を訪れ,いわゆる『虐殺記念館』で幹部達と会合した際,彼らから一方的にこの問題を提起された.いわく『200万発の遺棄化学兵器を,処分すると約束したのに,日本政府は約束を守らない』.

そこで我々が反論すると,彼らは居丈高になって『再反論』したが,彼らも詳しいいきさつは当然知らないから,根拠が薄いものであった.そしてやけに『200万発』と連呼するので,メンバーの一人が冷静に根拠を示して『説得』した.O氏は、私が外務省国連局に出向していた時,ジュネーブ軍縮委員会で日本側専門家として活躍していたし,事実その時も外務省参与で,この問題の専門家だったから,大した知識も『教養』も無く,ただ居丈高に威圧するだけの中国側幹部はたじろいだ.しかし最後まで『200万発だ』といって譲らなかったので,ついにO氏は鞄から文書を取り出して『誰も確認していないのだから数字自体が問題だが、一応70万発が公式な数字だ』と言い返した.すると彼らはいきり立って『200万発が正式な数だ』と大声で威圧した。

そこでO氏は落ち着いて『これは国連の正式ペーパーで,70万発と言っているのは貴国の代表だ』と文書を示した.文書に目を通した彼らは,さすがに困っていたが,やがて『数の問題はともかく…』と歯切れ悪く切り出した.

私はすかざず『では南京虐殺30万人…の数も”ともかく”か?』といったが通訳されなかった.

事ほど左様にあの国の外交は『無知に基づく威圧と傲慢』で貫かれている.この問題は,こんな約束をした当時の首相が『一括して支払うべき』で、税金を使うべきではない.

(後略)

軍事評論家=佐藤守のブログ日記 より引用
http://d.hatena.ne.jp/satoumamoru/20050622/1119406863

 興味深いですなあ。



(木走まさみず)



<参考サイト>

内閣府大臣官房遺棄化学兵器処理担当室
http://www8.cao.go.jp/ikikagaku/gaiyou.html