木走日記

場末の時事評論

地域経済格差が拡大し続ける中国〜行政地域別所得分布徹底検証

1.はじめに

 昨年12月に当ブログで中国のジニ係数が0.61という異常値であることに関するエントリーは、ネット上大きく取り上げられました。

2012-12-11 中国のジニ係数がとんでもない異常値な件
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20121211

 ジニ係数は0から1の範囲の値を取ります、0に近いほど平等で1に近いほど不平等、所得格差が顕著であることを示します、ちなみにOECD諸国では、日本が0.329、ドイツが0.295、アメリカが0.378などとなっております。 

 一般に社会騒乱多発の警戒ラインは、0.4と言われておりますが中国の0.61という値は警戒ラインをはるかに越えており、普通の国であれば社会騒乱必至の「異常値」であります。

 経済発展著しい中国の所得格差がなぜここまで深刻化してしまったのか、今回は「中国の地域経済格差」に絞り検証していきます。

※本エントリーの情報ソースは以下の参考資料・サイトより得ています。
 図表はすべて当ブログが情報ソースを元にオリジナルに作成したものであります。
http://kccn.konan-u.ac.jp/keizai/china/10/frame.html
http://ritsumeikeizai.koj.jp/koj_pdfs/59632.pdf
http://www.allchinainfo.com/profile/city/china_whitemap.html
http://www.okasan.co.jp/commodity/stocks/pdf/asianews_110701_1.pdf
http://rnk.uub.jp/prnk.cgi?T=p
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/contents/pdf/gaiyou2_1.pdf
http://rio.andrew.ac.jp/taketosi/pdf/lijinglan/chap2.pdf

2.31の中国の行政地域をまとめる

 中国の行政地域ですが「華北」「華東」「華中」「華南」「東北」「西北」「西南」の7つの広域行政地域のもと、4つの直轄市、22の省、5つの自治区、合計33の行政地域に分かれます。
香港特別行政区マカオ特別行政区は除外します)
■表1−1:中国の直轄市の人口と面積(4市)

■表1−2:中国の省の人口と面積(22省)

■表1−1:中国の自治区の人口と面積(5自治区

 7つの広域行政地域と各直轄市・省・自治区の位置は以下の通りです。
■図1−1:中国の広域行政地域(7)

■図1−2:中国の広域行政地域(7)と省・直轄市自治区

 各行政地域を広域行政地域ごとにまとめておきます。
■表2−1:中国の広域行政地域別の人口と面積(華北

■表2−2:中国の広域行政地域別の人口と面積(華東)

■表2−3:中国の広域行政地域別の人口と面積(華中)

■表2−4:中国の広域行政地域別の人口と面積(華南)

■表2−5:中国の広域行政地域別の人口と面積(東北)

■表2−6:中国の広域行政地域別の人口と面積(西北)

■表2−7:中国の広域行政地域別の人口と面積(西南)

 ここから中国の現在の人口密度分布を示します。
■図2:中国の人口密度分布

 ご覧のとおり沿海部に人口が集中していることがわかります。



3:中国に於ける行政地域別の所得分布をまとめる

 次に行政地域別に、2010年の名目GDP、2010年の1人当りGDPをまとめます。
■表3−1:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(華北

■表3−2:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(華東)

■表3−3:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(華中)

■表3−4:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(華南)

■表3−5:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(東北)

■表3−6:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(西北)

■表3−7:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(西南)

 ご覧のとおり最高所得の「上海市」と最低所得の「貴州」では、73298元と13222元、60000万元以上の格差がついています、5.54倍です。

 これらのデータから中国の所得分布を示します。
■図3:中国の所得分布

 ご覧のとおりやはり沿海部の行政地域に高所得分布が集中していることが分かります。

 一見して先ほどの人口密度分布と類似性が認められると視認できますので、縦軸を所得、横軸を人口密度で相関を取ってみました。
■図4:中国に於ける人口密度と所得の相関

 上海と内モンゴル自地区は特異点として相関関係からはみ出ていますが、後の行政地域は概ね緩やかな相関関係が認められる位置にあります。

 それにしても相関関係の傾きがかなり急な右肩上がりなのは、やはり所得格差が大きいことを示しています。



4.まとめと参考

 検証したとおり、2010年において最高所得の沿海部の「上海市」と最低所得の内陸部の「貴州」では、73298元と13222元、60000万元以上の格差がついています、5.54倍です。

 深刻なのはその所得の差が近年一貫して広がっていることです。
■図5:上海と貴州との格差の推移

 参考までに日本における都道府県単位の人口密度分布と所得分布、人口密度と所得の相関を示しましょう。
■図6:日本の人口密度分布

 実は島国日本ですが、中国と比較しても都市部への人口集中が顕著であることが見て取れます。

 次に一人当たり県民所得の分布を示します。
■図7:日本の所得分布

 これは内閣府が公開している平成21年度の県民所得をもとに作成しましたが、最高所得の東京で390万7千円、最低所得の高知県で201万7千円、差額は189万円、1.94倍であります。

 日本に於ける人口密度と所得の相関を取ってみます、縦軸が所得、横軸が人口密度です。
■図8:日本に於ける人口密度と所得の相関

 ほとんどの道府県がグラフ左中央に集中していますが、あえて相関関係(赤い楕円)を一応描いてみました。

 中国のグラフと比較して相関関係の傾きの角度が小さい、すなわちなだらかであることが見て取れます、もしこの角度がゼロになれば、日本においては人口密度と所得とは、もはや相関関係にないということになります。

 ・・・

 中国において5倍以上の地域経済格差があり、なおその格差が拡大傾向にあることの要因のひとつは、中国の悪名高い「戸籍制度」にあると考えます。

 一般にひとつの国で経済格差が発生した場合、所得の高い地域に労働力が移動します。

 所得の高い地域では労働力が飽和して賃金が下がり始め、結果高かった平均所得が減じます。

 一方所得の低い地域は労働者不足となり賃金が上がり始め、結果低かった平均所得が増加しだします。

 しかし中国では「戸籍制度」があるために、都市部に移動した労働者が高い賃金を獲得することが制度上できません。

 推計1億5000万人以上いるこれら農村出身の労働者は「農民工」と呼ばれていますが、彼らは都市部で「戸籍」を取得できませんから、単純労働以外の高収入の職業に就くことはできません、それだけでなく、都市出身の住民に与えられている健康保健や教育、年金などの社会福祉サービスが、1億5000万人以上いる農民工には与えられていないのです。

 結果、農民工は所得の多くを医療費や老後資金のために割く必要が生じ、食料品の値上がり(物価上昇率は約5%)と住宅の値上がり(2010年12月の上昇率は年率換算6.4%)も、農民工の生活困窮につながっているのです。

 農民工のわずかばかりの所得は「戸籍制度」上、都市部には組み込まれていません。

 彼らの戸籍は貧しいままの出身省にあるのです。

 この戸籍制度を改正しないかぎり、中国の地域経済格差は拡がる一方でしょう。

 しかし真の問題はその先にあると考えます。

 戸籍制度を改正すれば、水平方向のすなわち地域間の格差の是正には効果があることでしょう。

 しかし中国の真の格差問題は垂直方向、すなわち共産党幹部や政府関係者やその親族などで構成される富裕層と一般庶民との間に顕著に現れます。

 この垂直方向の格差を是正することは一党独裁体制を揺るがしかねないほどの困難を伴います、既得権益者の反発は必至であります、これは至難の業でしょう。

 ジニ係数0.61を示す格差社会中国において、今回取り上げた地域格差中国経済の数ある格差の氷山の一角に過ぎません。

 しかし地域格差すらも手を打てず格差拡大を止められないとしたら中国政府は格差抑制にやるきはないという指標にはなることでしょう。

 本丸の垂直方向の階級格差を是正するよりも、地域経済という水平方向の格差是正のほうがはるかに処置しやすいからです。



(木走まさみず)