木走日記

場末の時事評論

大切にしたいアラブの親日感情

kibashiri2005-05-17


 今回は世界の中の親日国家について少し考えてみようと思います。



ニューズウィークコーラン冒涜報道撤回
 まず、今日の朝日新聞から・・・

ニューズウィークコーラン冒涜報道撤回

 米誌ニューズウィークは16日、「米兵がイスラム教の聖典コーランをトイレに流した」とした5月9日号の記事について、全面撤回すると発表した。問題の記事はイスラム諸国で怒りを呼び、アフガニスタンでは反米集会で少なくとも16人が死亡する事態を招いた。米政府は、記事には根拠がないと指摘。謝罪だけでとどめようとする編集部を非難していた。

 取り消されたのは、キューバにあるグアンタナモ米軍基地で収容者を尋問する際、心理的に揺さぶるため「尋問官がコーランをトイレに流した」などと報じた記事。

 きっかけをつかんだのはマイケル・イシコフ記者。クリントン前大統領の不倫疑惑報道などで活躍した有名記者だ。

 同誌の説明によると、イシコフ記者は長く情報源として信頼してきた政府高官に接触し、コーランをトイレに流したことが米軍の報告書に含まれていると教えられた。米軍の広報担当に確認を求めたが、「調査中の件にはコメントしない」と拒まれたという。

 また、別の安全保障担当記者が記事の下書きを別の国防総省高官に見せたところ、一部の間違いを指摘された。だが、コーランの部分には何も言われなかった。この高官は報告書について十分知らなかったという。

 コーラン冒涜(ぼうとく)疑惑は約2年前から、米英、ロシアなどのメディアが収容者側の証言をもとに報じていた。今回の記事は「当局の報告書に書かれている」としたところが新しかった。

 米政府は内部調査を進め、国防総省報道官が13日、「報道された事実はない」と記事の訂正を要求。イシコフ記者はふたたび情報源に確認した。政府高官は「自信を持てない」と話したという。

 マーク・ウィテカー同誌編集長は16日発売の号で記事の誤りを認め、謝罪した。しかし、米ホワイトハウスのマクレラン報道官は16日午前、「間違いと認めながら、記事を撤回しないのは訳がわからない」と迫った。報道官が個別の記事の撤回を求めるのは極めて異例だ。

 ラムズフェルド国防長官もたたみかけた。「真実でない情報は、真実が判明するまでに地球を3、4周してしまう。残念ながら(その間に)人命が失われた」

 ここまでブッシュ政権が反発したのは、イスラム世界での米国のイメージに直接結びつくからだ。反米感情が高まれば、イラクアフガニスタンに駐留する米兵の安全にも影響する。

 政権から集中砲火を浴びて、ウィテカー編集長は記事撤回に追い込まれた。マクレラン報道官は「最初の一歩だ」と述べ、対米イメージへの打撃の回復に向けて措置をとるよう求めている。

 米コロンビア大のジョン・ディンガス准教授(ジャーナリズム論)は「争いのあるケースで、裏付けのないまま匿名の情報源をよりどころにしてはならない。ニューズウィークは裏付けをしようと試みたが、相手がコメントをしなかったり否定しなかったりしたことを裏付けを得たと判断する過ちを犯した」と指摘している。

◇やまぬ「反米」、マンガも標的

 コーラン冒涜報道は各国のイスラム教徒の怒りに火をつけた。パキスタンでは16日も反米集会があった。記事撤回について、アフガニスタンで反米デモに出たカブール大の大学生(22)は「報道のせいで何人も死んだことへの責任は、謝ってすむことではない。ただ、私は今でもコーラン冒涜を報じた記事は事実のような気がする」。

 パキスタンでは同誌記事とは別に、米ワシントン・タイムズ紙の6日付の政治マンガが強い反発を受けていた。国際テロ組織アルカイダの幹部を拘束した同国のムシャラフ政権を犬になぞらえ、米兵がほめている内容。

 パキスタン外務省は7日、米政府にコーラン冒涜疑惑の調査を求め、ワシントン・タイムズ紙に抗議する声明も出していた。

2005年05月17日13時55分 朝日新聞
http://www.asahi.com/international/update/0517/008.html?t1

 いやしかし、メディアの影響力はすごいです。ラムズフェルド国防長官じゃないですが、「真実でない情報は、真実が判明するまでに地球を3、4周してしまう。残念ながら(その間に)人命が失われた」わけでして、この誤報(かどうか現時点では不明ですが)は、もともと悪かったイスラム圏におけるアメリカの国家イメージを奈落の底にまで突き落としそうでありますね。

 今日、国家のメディア戦略というものは極めて重要であり、中国反日デモで浮き彫りになった中国メディアの管制報道も単に批判していても仕方ないのであり、彼の国が自国に不利な情報を国民に知らせてないことも善し悪しは別として重要な国家戦略なわけです。



●とても頼りない日本外務省のイメージ戦略

 で、我が日本は大丈夫なのかとても頼りなく思えてしまうのでありますが、今日の産経新聞の記事から・・・

常任理入りの支持拡大を 町村外相、全大使に指示

 外務省は16日午前、世界各地に赴任している特命全権大使を一堂に集めた大使会議を同省内で開いた。町村信孝外相は冒頭、日本の国連安全保障理事会常任理事国入りを「小泉内閣の最重要課題」と強調、「圧倒的に多くの国がまだ態度不明だ。戦後60年、平和国家としてやってきた自信と誇りを持ってそれぞれの国を説得し、支持していただくよう尽力してほしい」と指示した。

 また、外相は「日本外交は曲がり角、八方ふさがりなどとの批判や意見があるが、ピンチはチャンス、どんな難しい問題も解決できないものはない」と指摘。ビジネス支援、積極的な情報公開、情報収集力の強化などを検討するよう求めた。

 大使会議は例年、地域ごとに開催しており、同時に全大使を招集するのは初めて。町村外相が「同じ思いを時間差なく伝えたい」と発案した。

 会議は18日まで3日間行われ、任地を離れられないイラク大使など数人を除く120人弱が出席する予定。経済団体幹部との意見交換会や、地域ごとの情勢分析、情報交換の分科会も予定している。(共同)

(05/16 10:43) 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/050516/sei050.htm

 うーん、常任理入りの支持拡大を目指して町村外相が全世界の大使を集めて、檄を飛ばしたそうですが、ちょっと心配なのでありまして、大丈夫なのでしょうか?

 大使を一堂に集めることの意義も否定するモノではないですが、旧態依然とした日本外交の延長で、ロビイスト活動やODAを絡めた援助戦略などだけを考えているとしたら心配でありますね。

 木走としては、重要なのは各国の実状に合わせた各国世論に対する日本のイメージUP戦略をしっかり立てて個別具体的に対応することだと思うのであります。

 中国反日デモを考察していて痛感したのは、各国世論の日本のイメージというものが実に些細なことで形成されていることであり、多くの誤解も含めて、長年に渡る日本政府の情報発信戦略といいますか国家としてのイメージ戦略が無かったことに起因していると思うのです。

 今日どの商社だって外国で商品を売るときには、しっかりとマーケティングをしてその国の実状に合わせて販売戦略を立てるわけでありまして、例えばマクドナルドだって、インドで販売しているのは、牛肉ではなく羊肉を使用した「マハラジャマック」でありましたよね。(苦笑

 日本政府・外務省の一連のおそまつな対応を見ていると、そのような各国個別にしっかりとした世界戦略があるとは思えないのであります。

 世界には、朝鮮半島や中国のような反日的世論が形成されてしまっている国もあれば、伝統的に親日的な国や今はまだ日本に対し中立的な国とかいろいろなのでありますから。



●世界の親日派を大切にしよう

 反日的世論の国々への対処は重要なのはわかりますが、それ以上に大切にしたいのは親日的国家への配慮でありましょう。中国や韓国の話題ばかりであまり議論されていませんが、いかに親日国家を大切に扱うか、是非外務省にもこれを機会に努力していただきたいですよね。

 で、たまたまですが、今週号の雑誌SAPIO(小学館『「世界の親日派」大集合』という特集が組まれています。

 とても興味深い特集記事でありまして散々中国とか韓国の反日派の動きを見せられてきた私達日本人としては、とてもある意味癒される内容になっています。興味のある方は是非ご購読下さいませ。

 まあ、台湾とかトルコとか有名な親日国もある中で、特集の中の『日本人が知らない「世界の親日国家・愛日民族」』という記事によると、五地域を上げております。

 1:南洋諸島
 2:ポーランド
 3:南米
 4:印領アンダマン・ニコバル
 5:アラブ

 それぞれ親日の理由がありまして、例えば「1:南洋諸島」は第一次世界大戦直後から日本委任統治領であったことであります。これら太平洋の島嶼国家で構成される「南太平洋フォーラム」では、10年近く前の96年にすでに全会一致で日本の国連非常任理事国入りを可決しているそうです。

 ありがたいことでありますね。



●大切にしたいアラブの親日感情

 木走として特に興味を持ちましたのは「5:アラブ」でありまして、その部分を抜粋して読者のみなさまにご紹介いたしましょう。

 5:アラブ

親日感情の染み通った肥沃な土地」との関係修復が急務だ
あるアラブ人ジャーナリストは「日本とアラブにはプラトニックな愛がある」と語った
「日本アラブ通信」主宰 阿部政雄

 日露戦争以降、アラブ諸国は常に日本に親しみと敬愛を抱いてきた。その経緯を、かつてエジプト大使館等に勤務し、アラブ諸国を60回以上訪れている「日本アラブ通信」主宰・阿部政雄氏が語った。

    *

 アラブ社会で日本の存在が最初に大きくクローズアップされたのは日露戦争における日本の勝利だった。極東の島国日本が帝国ロシアを破ったことは、イギリス支配に組み込まれていたエジプトを始め、欧米帝国主義の支配に苦しんでいたアラブ世界の人々の心に大きな灯をともした。エジプトの詩人ハーフェズ・イブラーヒムが創った詩「日本の乙女」はアラブ世界で大流行した。この詩は多くの知識人の間で暗唱され、今でもアラブ諸国の教科書に使われていたり、ラジオなどで朗読されるほどだ。ちなみにアラビア語に翻訳された最初の日本の小説は、日露戦争での日本兵の戦いぶりを描いた桜井忠温氏の「肉弾」で、アラブ諸国で広く読まれている。
 その後、軽工業化に成功した日本が輸出する、質の良い繊維製品にアラブ世界は驚かされ、また第二次世界大戦で米英と戦ったことで、彼らの中での日本評は益々高まった。特にアラブの人々は、神風特攻隊を自分の命を捨てて祖国に殉じる崇高な精神として高く評価し、アメリカによる原爆投下には時として我々以上に痛みを感じ、共に欧米による困難、苦痛を分かちあったという共感を持つ。
 そして、敗戦で廃墟になった日本が奇跡的な経済復興を成し遂げ経済的にアメリカに勝利したことで、日本に敬愛の念を抱く人々が更に増えた。特に73年のオイルショック以降日本企業が続々とアラブ諸国に進出、様々な技術を伝えたことは日本の評価を高めた。中東戦争時に日本企業がスエズ運河の拡張工事に身を挺して協力したことや、欧米に先んじてPLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長を迎え入れたことも、アラブの人々の親日感情を高めた。
 だが、近年の日本の対米追従アラブ諸国は落胆を隠さない。特にイラクへの自衛隊派遣は「軍靴でアラブの地を踏みつけた」という点で日本とアラブの友好関係にヒビを入れるに充分な出来事だった。親日的だったからこそ、裏切られたとの気持ちも大きい。
 しかし一方で彼らは、日本が以前の気骨ある姿に戻ってくれると期待する。かつてアラブ連盟駐日代表部副所長であったスーダンの外交官、アブデル・ラーマン・マーリ氏は「アラブは親日感情の染み通った肥沃な大地。ここに種をまき育てることが我々の義務だ」と言い、アラブを代表するエジプト人ジャーナリストのモハメッド・ヘイカル氏は「日本とアラブ世界の間にはプラトニック・ラブとも言うべき感情がある」と語った。彼らの日本への期待が残るうちに、日本政府が伝統的な親日感情に応えるアラブ外交を展開し、その発展に努めることを期待して止まない。

SAPIO5月25日号より抜粋

 うーん、「プラトニック・ラブ」ですか・・・

 で、日本アラブ通信はこちらです。

日本アラブ通信
http://www.japan-arab.org/arab_night/01.html

 そこから「日本の乙女」をご紹介いたします。

日本の乙女 ハ−フェズ・イブラヒ−ム作

(前略)『砲火飛び散る戦いの最中にて傷つきし兵士たちを看護せんとうら若き日本の乙女、立ち働けり、 牝鹿(めじか)にも似て美しき汝(な)れ、危うきかな!いくさの庭に死の影満てるを、われは、日本の乙女、銃もて戦う能わずも、身を挺(てい)して傷病兵に尽すはわがつとめ、 ミカドは祖国の勝利のため死をさえ教えたまわりき。 ミカドによりて祖国は大国となり、西の国ぐにも目をみはりたり。わが民こぞりて力を合わせ、世界の雄国たらんと力尽すなり。』 (後略) 以上大意

 どうなんでしょう、以前のエントリーでも触れましたが、小泉首相の対米追随外交でありますがあまり一辺倒だと危ういのかも知れません。

 反米外交しろなどと極論を述べるつもりは毛頭ありません。しかし、例えば今ご紹介したアラブの伝統的な親日感情などは、日本の有する尊い財産とも言えるわけですので、国連安保理入りの短期的戦術論ではなく、中長期的な日本としての充分に諸外国に配慮した外交戦略を立てていただきたいものであります。

 読者のみなさまは、いかがお考えでしょうか?



(木走まさみず)



<関連テキスト>
イラク日本人拘束事件〜問われる日本の外交戦略
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050510/1115714611
●世界で唯一牛肉を使わないマクドナルドの話
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050507/1115447610