木走日記

場末の時事評論

木走教授のトンデモ講義〜「温度に上限はあるのか」を考察の巻

kibashiri2005-05-08


 昨日のエントリーに関しての続きの与太話です。

世界で唯一牛肉を使わないマクドナルドの話
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050507

 コメント欄でのご意見で鮎川様の素朴な質問「そもそも温度に上限はあるのか」にとても興味を持ちました。その質問に対して、腐れ院生様が回答されているのにも感心して拝読いたしました。

昨日のコメント欄よりそれぞれ引用

# 鮎川龍人 『ちょっと初歩的な質問かも知れませんが、ご存知でしたら教えて戴けますか?
温度が上がると分子の運動量が大きくなるじゃないですか?
ですが、物質の速度は光速を越えないですよね。
ということは、温度には下限もあるが、上限もあるってことなんでしょうか?
あるとしたら何度位なんでしょうか?
子供のころから不思議に思ってました。』

# 腐れ院生 『>鮎川さんの最後の疑問
相対性理論より、速度が上がるにつれて質量も増えますので、運動量に上限はありませんから、温度の上限はほぼいくらでも高くなります。と聞いたことがあります。』

 うーん、今日は日曜日だしおもいっきり脱線して、この問題を素人なりに考察しちゃいましょう。

 以下、はずかしいので架空講義形式で話を進めてみましょう。
 なお、本当の講義ではありませんので、内容の信憑性は保証の限りではありません。ていうか、不肖・木走には保証する知恵も能力もありません。(汗

 これは与太話であり、楽しんでいただければ幸いでございます。

木走教授のトンデモ講義〜「温度に上限はあるのか」を考察の巻

教授「はい、今日のメディアリテラシーの講義ですが、少し横道にそれて、物理学の熱力学における『温度に上限はあるのか? すなわち最高温度はあるのか?』という疑問について考察してきましょう」
学生「(ザワザワ)}
教授「ゴホン! 静粛にしなさあい。 物事を検証するという行為には狭い学問的垣根はないのです。メディアをしっかりリテラシーするためには、いかなる疑問にも自らの脳味噌でしっかり理論的に考える癖を身につけなければなりません。だから、本日は『温度に上限はあるのか?』を徹底的に検証するのです!」
学生「(ザワザワ)}
学生「先生、質問です。僕たち物理学専攻していないし難しい数式など理解できないし、第一、木走先生だって物理学専門じゃないでしょう?教える能力あるんですかあ?」(そうだよ、へんだよの声多数)
教授「(顔を赤くして)うるさあい! わかりました。いっさい難しい数式を排して講義していきましょう。いいですね、この科目の単位がほしいなら、以後、不平・不満は認めませんですよ。」
学生「(しぶしぶ)は〜い。」
教授「(嬉しそうに)では、そもそも物質の温度とは何なのでしょうか?」
学生「え〜と、その物質を構成している分子の運動エネルギーのことだと思います。」
教授「そうですね、ですから絶対零度(−273℃)になるとエネルギーもゼロになり、専門的には基底状態といいますが、完全に静止状態となり、それより低い温度は無いわけです。温度の下限についてはスッキリ理解できますね。では、上限はどうですか?」
学生「温度の正体が運動エネルギーということなら、物質の最高速度は光のはずだから、各分子が光速になる状態が温度の上限なのではないでしょうか?」
教授「おお、確かに光速より早い物質は理論上ないことから考えてみると興味深い答えでありますね。物質の持つ運動エネルギーは、以下の式で現されます。
E=1/2MV^2
(E:エネルギー M:質量 V^2:Vの二乗 すなわち速度の二乗)
ゴホン、このくらいの数式はがまんしてくださいね。この式によれば、確かにエネルギー(E)は速度(V)に比例(正確にはそのべき乗に比例)して大きくなりますから、速度が光速(C)になったとき最大となるわけであります。
 しかし、アインシュタイン相対性理論では物質の持つエネルギーは別の式で現されています。
E=MC^2
(E:エネルギー M:質量 C^2:Cの二乗 すなわち光速の二乗)
ここで光速Cは定数ですから、この式の本当の意味は個々の物質の質量(M)というものは、実は莫大なエネルギーそのものであることを意味しているのです。
原子爆弾や太陽の核の中で起こっている莫大なエネルギー放出は実はこの式から導き出されています。核分裂でほんの僅かに物質の質量が減少しても莫大なエネルギーが放出されるわけです。
 この相対性理論におけるエネルギーの式は、物質が通常の状態、たとえば十分に光速に対して遅かったりしていれば、顔を出すことはありません。しかし、物質の速度が光速に近づいたり、核分裂とか核融合をしてその質量が莫大なエネルギーとして放出されるときには主役となります。
 さてアインシュタイン相対性理論は、光速度がすべての観測者に対して同じ値を持つという『光速度不変の法則』と、また自然法則は互いに一様に運動する観測者に対して同じ形式を保つという『ガリレイ変換』原理を前提としています。
 式の展開は省きますが相対性理論によれば物質が光速に近づくほどその質量は増加していき、また時間は遅く流れるようになり、運動エネルギーは無制限に大きくなっていくのです。
 さて、光速で運動することが温度の上限ではないとすると、温度の上限はあるのでしょうか?」
学生「うーん、宇宙の始まりはビックバンといって一点から爆発して拡大冷却されていったと聞いています。だから、逆に宇宙の全エネルギーを1点に集めた時が最高温度ではないのでしょうか?」
教授「ほほう、興味深い着眼点ですね。しかし、この論法は少し無理があります。現実の宇宙を眺めてみると、数百億℃とういう高熱状態にある恒星内部から、−270℃というほぼ絶対温度に近い冷え切った空間まで、多様に存在しています。今回はたとえ局所的でもよいからどこまで高温状態にできるのかという設問ですから少し意味合いが違うのですよ。しかし、後で述べますがいい着眼点ではありますね。 ほかには?」
学生「そもそも気体の分子の運動も、どんどん高温にしていくと分子のなかの原子間の結合力にうち勝って、分子が壊れてばらばらの原子の状態になると聞きました。プラズマ現象というのでしたっけ。そのようなプラズマ化される温度がその物質の最高温度と定義してはどうでしょうか?」
教授「これはおもしろい。いよいよ「温度」という概念の核心部分に近づいてきましたですよ。
 そもそも、物質に熱を与えるということは2つの側面を持っているのです。その状態数を増やすこと、そして勿論温度を上げることの2つです。
 簡単な例をあげましょう。今ガラスケースのなかに同一の分子が10個入っています。その温度は20℃だったとしましょう。この場合の温度20℃というのは、10個の分子の運動エネルギーの総和というか平均値を示しているわけです。このガラスケースにはいった気体に今、一個の分子を10℃加熱する分だけの熱を加えるとすると、この気体の温度全体は、20+10=30℃となるわけではありません。平均値としての上昇分は分子数で割らなければ意味がないですから、答えは20+10/10=21℃となるはずです。
 物質がプラズマ化するということは当然個数が増えていくことになります。さらに高温になれば原子すらも維持できなくなりクオークという素粒子に分解され状態数はもっともっと多くなっていきます。さらにさらに加熱していけばクオークはサブクオークに分解されます。まあ、エントロピーが拡大していくわけですね。
 つまり、物質を加熱していくとそれは状態数を増やすことに使われ、かつ温度を上昇させるのに使われるわけです。
 少し専門的に表現すれば温度というものの本質はエネルギーをエントロピー微分したものであるわけです。」
学生「先生、難しいいいまわしは止めて下さい。微分とかわけわかりません。」
教授「おお、失礼。ゴホン、とにかく温度をどんどん高くしていくと物質はサブクオークにまで分解されながら温度を上げて行くわけです。
 そしてこれ以上分解できない状態までくればあとは無制限に温度は上がっていくことになります。」
学生「ではやはり、温度に上限はないのですね?」
教授「いやいや、実はまだ結論はでていないのですよ。ひとつは物質を構成する最小単位がいまだ確定していないことです。まだ証明されていませんがサブクオークはサブサブクオークから構成されていると唱えている学者もおります。
 日常的な常識からは想像しずらいのですが、もし際限なく物質の構成単位が細分化していくとなると、温度上昇もある温度で収束してしまう可能性はあるのです。つまり、与えられた熱量がほとんど温度上昇には使用できず状態数の増加にだけに使用されてしまう状態ですね。」
学生「それは科学的にあり得ることなのですか?」
教授「いや、さきほどもいいましたが証明されているわけではありません。しかし、現代素粒子モデルの中で有力視されているひとつに超ひも理論(ストリング理論)というのがあります。超ひも理論では素粒子一個一個はひものような1次元的広がりを持っていると考えます。そしてこの理論では、素粒子は熱をあたえるとその状態数が無限に増加していくことが数学的に導かれています。この状態数が無限に増加していく温度こそが、もうそれ以上高温にはならない温度の上限であるというわけですね。」
学生「先生、それは何度ですか?」
教授超ひも理論にも学者によりいくつかのモデルがありますから、この温度の上限の値に関してもそれぞれのモデルにより異なっているようです。ひとつのモデルの値としては次の式が示されています。

物質の温度の上限=プランク質量×光速度の自乗÷ボルツマン定数

学生「おおよそ何度なるのですか?」
教授「各計数は以下の値だから暇なときに各自で計算して下さい。
プランク質量=10^-8kg
光速度= 2.99792458*10^8(m/s)
ボルツマン定数=1.3806503*10^-23(J/K)
いずれにしてもすごい高温ですよね。」
学生「他の素粒子理論ではどうなのですか?」
教授「(ポケットから本を数冊取り出しながら、おろおろして)・・・そ、それは・・・僕の読んだ本には他の説のことは書いてなかったなあ」
学生「(爆笑)なんだ、やっぱり本とかの受け売りなんですね」
学生「ずいぶん詳しいふりしていたけど一夜漬けだったんじゃないですかあ?(爆笑)」
教授「(顔を真っ赤にして)な、なんですか、諸君。この講義はメディアリテラシー論ですぞ!今日の私の講義内容に関してその正当性を検討してしっかりリテラシーして、来週までにレポート提出すること。いいですね。今日の授業はここまで。ドタドタ、バタン(慌てて退出する教授)」
学生「なんだかなあ、めちゃくちゃなリテラシーの使い方だなあ・・・」

 ・・・

 お楽しみいただけたでしょうか?

 長文・駄文失礼いたしました。



(木走まさみず)



<参考文献>
『温度から見た宇宙・物質・生命〜ビックバンから絶対零度の世界まで』(ジノ・セグレ著 講談社ブルーバックス
『エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する』
(ブライアン グリーン著 草思社

<関連テキスト>
●世界で唯一牛肉を使わないマクドナルドの話
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050507

●木走教授のトンデモ講義〜ホリエモン報道におけるメディアリテラシー
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050312