木走日記

場末の時事評論

世界で唯一牛肉を使わないマクドナルドの話

kibashiri2005-05-07


 今日は雑談であります。



●興味深い熱力学の本

 今日読み終えた本ですがとても面白いサイエンス本でありました。

『温度から見た宇宙・物質・生命〜ビックバンから絶対零度の世界まで』
(ジノ・セグレ著 講談社ブルーバックス

 理論物理学者である著者が、物質のもつ「温度」という属性をものさしにして、ビックバンによる宇宙の誕生から地球の温室効果に至るまでを幅広く説明しているのですが、一般向けに書かれていて私のような素人が読んでもとても理解しやすい文章でまとめられていました。

 本書を底辺で理論的に支えている定理は、いわゆる熱力学の法則であります。

熱力学の法則

熱力学第零法則
物体AとB、BとCがそれぞれ熱平衡ならば、AとCも熱平衡にある。

熱力学第一法則(エネルギー保存則)
系の内部エネルギーの変化dUは外界から系に入った熱δQと外界から系に対して行われた仕事δWの和に等しい。
dU = δQ + δW

熱力学第二法則
熱が低温の物体から高温の物体へ自然に移動することはない。(クラウジウスの表現)
温度の一様なひとつの物体からとった熱を全て仕事に変換し、それ以外に何の変化も残さないことは不可能である。(トムソンの表現)
第二種永久機関は存在しない。
断熱系で状態変化が起こるとき、エントロピーは必ず増加する。可逆的な変化ではエントロピーの増加は0となる。(エントロピー増大の原理)

熱力学第三法則(絶対エントロピーの定義)
絶対零度エントロピーはゼロになる。

この三法則をユーモアを込めて「勝てない。分けない。抜けられない。」とまとめる。 第1、第2法則は、ルドルフ・クラウジウスによって定式化された。

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より百科事典的な説明
第0法則は、温度が一意に定まることを示している。第1法則は、閉鎖された空間では外部との物質や熱、仕事のやり取りがない限り、熱(そしてエネルギー)の総量に変化はないということを示している。第2法則は、エネルギーを他の種類のエネルギーに変換する際、必ず一部分が熱エネルギーに変換されるということ、そして、熱エネルギーを完全に他の種類のエネルギーに変換することは不可能であるということを示している。つまり、どんな種類のエネルギーも最終的には熱エネルギーに変換され、どの種類のエネルギーにも変換できずに再利用が不可能になるということを示している。なお、エントロピーの意味は熱力学の枠内では理解しにくいが、微視的な乱雑さの尺度であるということが統計力学から明らかにされる。第3法則は、絶対零度よりも低い温度はありえないことを示している。

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%B1%E5%8A%9B%E5%AD%A6

 まあ、第0法則は省いて簡単にキモの部分を要約すれば、

第一法則 宇宙のエネルギー量は一定である
第二法則 宇宙のエントロピーは極大に向かう
第三法則 ある系の温度が絶対零度(−273℃)になるとエントロピーはゼロになる。

 こんなところでしょうか。
 中でも「エネルギー保存則」と呼ばれる第一法則と「エントロピー増大の原理」と呼ばれる第二法則は、熱力学などの理論物理学の範疇を超えて経済学やときに哲学にもその影響を及ぼしているようでありますね。

 簡単に説明いたしますと、ひとつの密閉されたガラスケースの中に20℃の空気と30℃の空気が同量、ガラス板で仕切られて入っているとします。外部から一切の影響(熱)を与えなければ仕切りのガラス板を外すと十分に時間を経過させれば、ガラスケースの中の空気は一様に25℃になっているということです。ここで重要なことはこの変化は不可逆的であり、一度25℃になった空気を元の20℃と30℃の空気に戻ることは永遠にありえないことです。

 熱というものが気体分子の運動エネルギーの総和であることから自明なのですが、うーん、私としては実に単純ではありますが、見事な理論であり多様な事物にあてはまり応用範囲が極めて広いのもうなづけるわけであります。



エントロピー拡大原理に逆らう人類と人類文明

 まあ、生命活動などは、この宇宙を貫く不変の法則「エントロピー拡大原理」に局部的に逆らおうとする無謀な試みであるともいえますよね。

 食べ物として消化するという本能的な面でも、人間はエネルギーをたえまなく処理することによって生きながらえているわけでありまして、病気などによってエネルギーを取り込むことができなくなった平衡状態は、すなわち死でありまして、死んだ瞬間から、「エントロピー拡大原理」へのささやかな抵抗はあえなく終わり、急速に分解されて周囲の環境へと散逸していくわけであります。

 エネルギーはすべての生き物の中をたえまなく流れていますが、進化した生物ほど平衡状態にならないためにたくさんのエネルギーを必要とします。単純な食物連鎖を例にとれば

 ひとりの人間が一年間生きるためには、300匹のマスが必要。そのマスには9万匹のカエルが必要で、そのカエルには2700万匹のバッタが必要で、そのバッタは1000トンの草を食べなくては生きていかれない(G・タイラー・ミラー 科学者)

 こうして考えてみると、進化とは、より複雑な構造の生体組織を形成することであり、種は進化するたびに前の種よりも分化し、特殊化して、より多くの利用可能なエネルギーを取り込み、凝縮するようになるともいえるわけです。
 「エントロピー拡大原理」の観点にたつと、進化とは、安定した間断ない進化というよりは、たえずエネルギー利用の増大とエネルギー消散の増大の折り合いをつけていく過程なのでありまして、進化の結果、局所的にはより大きな秩序が生まれますが、その代償として、全体としてみると宇宙はますます無秩序になっていくわけなのです。もしこれが種や生態系にあてはまるのなら、人間の社会組織、人類文明そのものについても同じことがいえるのでしょう。

 「エントロピー拡大原理」から考えると、人類文明とは、エントロピーの低い石化燃料などのエネルギーを環境から搾取して、人類にとって有益な製品やサービスに一時的に変換しているにすぎないわけです。
 その過程では、生産される製品やサービスに含められるよりも、ずっと多くのエネルギーが費やされて環境へと失われていきます。 さらに「完成した」製品やサービスも一時的なものにすぎないわけで、人が使ったり消費したりするうちに散逸あるいは分解していき、最終的には使用済みエネルギーや廃棄物の形で環境にありがたくないお返しをしているのですね。

(参考サイト)
熱力学から考える、人間と経済のエネルギー消費
http://www.goodpic.com/mt/archives/000254.html

エントロピー拡大原理とアメリカンスタンダード

 エネルギー消費の面で考えれば地球環境にとり最大の敵は、言うまでも無くアメリカ式大量エネルギー消費経済でありまして、もし中国人やインド人がアメリカ人並みの一人当たりエネルギー消費量を達成するとなれば、何十年後かわかりませんが、間違いなく地球の利用可能エネルギー資源は枯渇してしまうでしょう。

 しかしながら、今日の中国やインドの経済活動をみてみるとベクトルとしては明らかに、エネルギー大量消費経済(=アメリカンスタンダード)を目指しているようであり、上海や北京などでは若者たちはマクドナルドを食べコンビニで買い物し、消費経済を謳歌しているようにも見えるわけです。

 まあ、彼らに言わせれば、先進諸国が散々エネルギー資源を浪費しておいていまさら何を言うかとクレームされるのがオチなのでしょうが、いつの日かエネルギー資源が枯渇して、あるいは枯渇とまではいかなくても需要にまったく追いつけなくなれば、この人類文明の「エントロピー拡大原理」への抵抗も、平衡状態となり、すなわち「文明」としての死を迎えてしまうのでしょうか?

 今日の日本経済新聞から・・・

ASEM外相会合、温暖化問題など協議

 アジア、欧州の38カ国と欧州委員会が連携強化策を話し合うアジア欧州会議(ASEM)外相会合は7日午前、京都市内で2日目の全体会合を開いた。7月の先進国首脳会議(グレンイーグルズ・サミット)で地球温暖化問題が主要な議題となることを踏まえ、経済成長と環境保護の両立に向けた方策やエネルギー安全保障問題などを協議した。

 全体会合では、先進国に温暖化ガスの削減を義務づける京都議定書が失効する2013年以降、米国や中国など幅広い国が参加する新たな枠組み作りが重要だとの認識を確認した。世界貿易機関WTO)新多角的通商交渉(新ラウンド)の推進へ協力を強化することでも一致した。

 同日午後には、ASEMで今後取り組むべき分野などを協議。議長声明を採択し、閉幕する。 (11:05)
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20050507AT1F0700307052005.html

 地球温暖化問題や経済成長と環境保護の両立に向けた方策やエネルギー安全保障問題を協議することは有意義なことではありましょうが、世界的規模でのアメリカ式消費経済への動きを減速させることができるのかは、とても心もとなく思えてしまいます。



たくましきアメリカ式ビジネス〜世界で唯一、牛肉を使わないマクドナルド

世界的規模でのアメリカ式消費経済への動きのユニークな一例としてこんな情報もあります。

世界で唯一、牛肉を使わないマクドナルド。

インドで忘れてはならないのが、宗教による食習慣の違い。人口の8割強にものぼるヒンズー教徒にとって、牛は聖なるもの。当然、牛肉を食べる習慣はありません。またヒンズー教徒に続いて多いのが人口の1割強をしめるイスラム教徒ですが、こちらは豚肉を食べません。
両者を併せれば人口の95%にもなってしまうというインドのお国柄を考えれば、マクドナルドもビーフパティやポークパティを挟んだハンバーガーを提供するわけにはいきません。そこで登場したのがマトンを使ったハンバーガー。 ビッグマックに代わるマハラジャマック”は、インドの観光案内には必ずといってよいくらい登場する有名なハンバーガーになりました。現地でも地元の方、観光客を問わず、大人気です。

日本マクドナルド公式ホームページより
http://www.mcdonalds.co.jp/shop/worldmc/vol21.html

 マハラジャマック”ですか。(苦笑
 ヒンズー教徒がハンバーガーでありますか・・・ 

 ちなみに吉野家はさすがにインドには展開していないようです。(苦笑

吉野家公式ホームページ〜海外吉野家情報
http://www.yoshinoya-dc.com/brand/abroad/index.html

 しかし、アメリカ式ビジネス展開のたくましさには驚かされますですね。

 ふう。

 アメリカ流消費経済の拡大が世界に不可逆的に拡大しているなんとも象徴的な話ではありました。
 
 今日は雑談でございました。


  
(木走まさみず)