木走日記

場末の時事評論

年末年始休暇延長、賛成か反対か、その評価がコロナ禍で二極化する日本

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会において、年末年始の休暇を前後に伸ばすなど、休暇の延長や分散を呼びかける方針を固めたことが報道されました。

2021年1月4日に仕事始めをする企業が多いと見られていることから、分科会は政府に対して1月11日の成人の日まで休暇期間を延長し、その期間内で休暇を分散して取得するなどの方法を企業に求めると提言しているとのことです。

仮に延長期間がすべて休暇となれば17連休になる可能性があることから「年末年始17連休」と「正月休み延長」がTwitterトレンド入り。

さて本件に関しては日本国内の反応は見事に二分しています。

冬休み17連休賛成派は、ずばり月給が保証されている人たち、正社員や公務員などは、どうせ収入は保証されているのだから休みは多いほど歓迎なわけです。

一方非正規労働者、日給・時給制の人たちは、強烈に反対しています。労働時間の短縮がそれこそ収入の減少に直結しているからです。

また医療関係者や教育関係者などそもそも休むことが難しい人たちもいます。

欧米ではロックダウンなど都市封鎖やマスクを付けなければ罰金を課したりするなど、政府がコロナ対策で強制的な政策をとっていますが、日本では政府はあくまでも「要請」であり「呼び掛け」であり、強制ではないのです。

だから「年末年始17連休」と冬休みを長くするよう政府が国民に要請しても、強制ではないですからそこには一切の補償はありません。

コロナ禍で、最初から収入補償されている正規とまったく補償がない非正規で、年末年始休暇延長に対して、その評価がきれいに二極化しているわけです。

実際、Yahooが実施している世論調査では27日16時時点で、賛成49%、反対42%と二分されていることがわかります。

年末年始の休暇の延長、どう思う?
f:id:kibashiri:20201027164010p:plain
https://news.yahoo.co.jp/polls/domestic/41842/result

・・・

総務省労働力調査」によると、2018年において男性22.3%、女性56.4%は非正規であり、総数としては全労働者の38.3%が非正規労働者であります。

少し数値の扱いが乱暴であることは承知の上で言わせてもらえば、年末年始の休暇の延長に反対の42%の人たちは、その多くが休暇延長が収入減に直結してしまう非正規労働者(全労働者の38.3%)であろうことは十分に推測できます。

政府は年末年始休暇を延長するよう要請することを決定いたしました。

この政策に対する国民の評価が、見事に賛成と反対で割れています。

ただ私の個人的な感想ですが、賛成意見の「どうせなら休みは多いほうがいい」という主張に対し、反対意見の「17連休では収入減で生活できない」という主張のほうが、切羽の詰り方が違うと思いました。

年末年始休暇延長、賛成か反対か、その評価がコロナ禍で二極化する日本なのであります。

休暇延長を要請する政府には、補償もなく収入が減ってしまう非正規労働者にもう少し配慮した政策をとっていただきたいと切にお願い致します。



(木走まさみず)

「福島第1原発の処理水海洋放出~科学的に『飲める』までに浄化されているという事実」(Yahoo記事)に科学的に反論する

さて福島第1原発の処理水海洋放出を政府が来月以降決定する問題を取り上げたいのです。

19日付けのYahooニュースでは、ラジオで著名ジャーナリストが「福島第1原発の処理水は科学的に『飲める』までに浄化されている」と主張する記事が掲載されています。

福島第1原発の処理水海洋放出~科学的に「飲める」までに浄化されているという事実
10/19(月) 17:40
https://news.yahoo.co.jp/articles/ceeeeb47d10fba8f37b8e73930e78b7e2727125c

ALPSから出て来た処理水が「飲めます」と担当者から説明を受けたくだりを記事より抜粋。

飯田)科学的には安全性に問題はないということであります。

須田)私も今年(2020年)の8月に、福島第1原発の敷地内に入って取材しました。ALPSのなかにも入らせていただきまして。

飯田)ALPS、多核種除去装置というやつですね。いろいろな放射性物質を除去して、トリチウムだけは取り切れないという。

須田)ALPSから出て来た処理水についても、触ることは規則でできないので、ビーカーに入ったものを手に持って実際に匂いや色を確認しました。「これを飲めますか?」と聞いたら「飲めます」と。「飲んでいいですか?」と聞いたら、それは「規則でダメです」と言われて飲むことはできなかったのですが、それぐらいまで、この処理水は浄化されているという状況なのです。

飯田)はい。

その上で、「トリチウムを含んだ処理水というのは、福島第1原発以外の国内の原発、そして世界の原子力発電所では普通に海洋放出されている」と主張しています。

須田)重要なことなのですが、トリチウムを含んだ処理水というのは、福島第1原発以外の国内の原発、そして世界の原子力発電所では普通に海洋放出されているのです。福島第1原発の処理水だけができないということは、別に事故があったから、「何か問題があったから、トリチウムを含んだ処理水が出ているわけではない」ということは、ご理解いただきたいと思います。

当ブログも、放射性物質トリチウムを含んだ処理水について、思い切って放出して希釈するしか方法がないとの判断は、まったく科学的に正しいと考えます。

放射性物質トリチウムを含んだ処理水の海洋放出は、カナダや韓国など世界の原発で今も行われており、まったくそこに環境に対する悪影響は発生していません。

ただしです。

東電のタンクに溜まった処理水は、残念ながらトリチウムを希釈すれば放出可能な綺麗なタンクだけではないことは留意が必要です。

上記記事は印象操作が強すぎて、記事結びの発言「科学的な根拠に基づいてね。」報道すべきという言葉ですが、そのままお返しするしかありません。

本日は、はたして現状の原発処理水は希釈して放出可能なのか、この本質的問題を科学的に徹底的に検証しておきます。

お付き合いください。

・・・

東京電力の公式ページに『多核種除去設備 (ALPS)』の図解入りの説明があります。

多核種除去設備 (ALPS)
f:id:kibashiri:20190913142621p:plain
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/genkyo/fp_cc/fp_alps/index.html

説明文より。

既に設置している水処理設備では、放射性物質セシウム(※1)を主に除去しているが、セシウム以外の除去が困難であった。多核種除去設備(ALPS)ではセシウムを含む62種の放射性物質トリチウム(※2)を除く)の除去が可能となっている。2013年6月現在、本格稼働を目指して試験(※3)を行っている。

 ※1.セシウム・・・アルカリ金属の一種。放射性セシウムは事故後、放射線ヨウ素とともに主に検出されている放射性物質のひとつで、ガンマ線を放出する。

 ※2.トリチウム・・・ベータ線を放出する放射性物質。主に水の形態で存在することから、ろ過などでは除去することができない。

 ※3.A系は2013年3月30日より開始(6月16日に停止)、B系は2013年6月13日より開始、C系は2013年9月27日より開始。

ここでポイントになるのは、汚染水処理の切り札ともいえるセシウムを含む62種の放射性物質トリチウム(※2)を除く)の除去が可能なこの『多核種除去設備 (ALPS)』が、事故から2年3ヶ月たった「2013年6月現在、本格稼働を目指して試験(※3)を行っている」つまり正式稼動をしていなかったことです。

当時の当ブログは、多核種除去設備(ALPS)が廃棄物保管容器の強度不足で稼動に至っていないことを指摘しています。

 一方、62の放射性物質を除去する多核種除去設備(ALPS)は、1日約500トンの処理能力があり、汚染水浄化の切り札と言われていますが、12年秋に稼働を始める予定だったが、廃棄物保管容器の強度不足が判明し、今も稼働に至っていません。

2013-03-12
もっと注目されるべき福島第一原発の高濃度汚染水〜捨て場のない放射能汚染物質に対し備えがない日本 より
https://kibashiri.hatenablog.com/entry/20130312/1363079403

まずこの事故後、多核種除去設備(ALPS)が正式稼動するまでの2年数ヶ月の間に汚染水を貯めたタンクは、現在に至っても高濃度の放射性物質が含まれていることを東京電力は認めています(東電の公式サイトの説明は後述)。

次に多核種除去設備(ALPS)が正式稼動しても高濃度の放射性物質がうまく処理されず含まれているケースがあることも判明しています。

図解を見て右側の吸着塔で吸着剤カートリッジに多核種を吸着させそれを除去しているのですが、運用に慣れていない東京電力による吸着材の交換が遅れたために、高濃度の放射性物質が残ってしまったのです。

これですがかなりの期間で交換遅れが周期的に発生していたことを東京電力は認めています。

もちろん現在、多核種除去設備(ALPS)は正常に稼動しています、したがってトリチウム以外の核種はほぼ除去されています。

だが上記事由(ALPSの稼動不具合)により、かなりの割合で処理水タンクにトリチウム以外の核種を含んだ高濃度の放射性物質の汚染水が含まれているのです。

ここに東京電力の処理水ポータルサイトがあります。

処理水ポータルサイト
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http://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/

ここで、「ただし、設備運用当初の不具合や処理時期の運用方針の違いなどにより、現在の告示濃度比総和別の貯蔵量は右図の通りになっています。」と、説明があります。

多核種除去設備等の処理水 貯蔵量および放射能濃度

多核種除去設備等の処理水の貯蔵量(2019年6月30日現在)
1,010,900m3
*満水タンクのみをカウントした貯蔵量で、全体貯蔵量とは差があります
現在、多核種除去設備等の処理水は、トリチウムを除く大部分の放射性核種を取り除いた状態でタンクに貯蔵しています。
多核種除去設備は、汚染水に関する国の「規制基準」のうち、環境へ放出する場合の基準である「告示濃度」より低いレベルまで、放射性核種を取り除くことができる(トリチウムを除く)能力を持っています。ただし、設備運用当初の不具合や処理時期の運用方針の違いなどにより、現在の告示濃度比総和別の貯蔵量は右図の通りになっています。

http://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/

告示濃度比総和別の貯蔵量
f:id:kibashiri:20190913142505p:plain
http://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/

見やすいようにグラフ部分を拡大。

f:id:kibashiri:20190913142525p:plain
http://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/

ご覧のとおり、告示濃度1倍未満の正常の処理水が23%、5倍未満が34%、10倍未満が21%、100倍未満が16%、100倍以上が6%となっております。

この割合の分布がトリチウム以外の核種の含有にすべて依拠しているわけではないのですが、東京電力は「当社は、多核種除去設備等の処理水の処分にあたり、環境へ放出する場合は、その前の段階でもう一度浄化処理(二次処理)を行うことによって、トリチウム以外の放射性物質の量を可能な限り低減し、②の基準値を満たすようにする方針」と、もう一度『多核種除去設備(ALPS)』に通す方針を示しています。

下記Q/Aの解答欄に明記されています。

多核種除去設備」では福島第一原子力発電所で発生する汚染水に含まれる、すべての放射性核種を取り除くことができるのですか?

汚染水に含まれる放射性核種のうち、トリチウム以外の大部分の核種を取り除くことができます。
「多核種除去設備」は、福島第一原子力発電所で発生する汚染水を浄化する設備のひとつです。この設備にある、吸着材が充てんされた吸着塔に汚染水を通すことによって、放射性物質を取り除く仕組みになっており、トリチウム以外の大部分の核種を取り除くことができます。
なお、汚染水に関する国の「規制基準」は
①タンクに貯蔵する場合の基準、
②環境へ放出する場合の基準の2つがあります。周辺環境への影響を第一に考え、まずは①の基準を優先し多核種除去設備等による浄化処理を進めてきました。そのため、現在、多核種除去設備等の処理水はそのすべてで①の基準を満たしていますが、②の基準を満たしていないものが8割以上あります。
当社は、多核種除去設備等の処理水の処分にあたり、環境へ放出する場合は、その前の段階でもう一度浄化処理(二次処理)を行うことによって、トリチウム以外の放射性物質の量を可能な限り低減し、②の基準値を満たすようにする方針です。
http://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/

実はこの事実、「福島原発トリチウム残留水 他の放射性物質が除去しきれないまま残留」が公式に東京電力が認めたのは2年前の8月のことです。

福島原発トリチウム残留水 他の放射性物質が除去しきれないまま残留
https://news.livedoor.com/article/detail/15180082/

本日は、はたして現状の原発処理水は希釈して放出可能なのか、この本質的問題を科学的に検証してまいりました。

東京電力も認めるとおり、放出の前に、もう一度多核種除去設備 (ALPS)を通さなければならないタンクが一定の割合で存在しているのが実態です。

従って、Yahooニュース記事の「福島第1原発の処理水海洋放出~科学的に『飲める』までに浄化されているという事実」は、科学的には事実ではありません。

『飲める』までに浄化されているタンクもあるが、放出の前に、もう一度多核種除去設備 (ALPS)を通さなければならない汚染されたタンクが一定の割合あるのが、科学的事実なのです。

今回は、科学的事実を重んじてエントリーいたしました。



(木走まさみず)

「映画『鬼滅の刃』興行収入世界一人勝ち」(NYT紙記事)

劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』は2020年10月16日(金)に公開され、週末も合わせた公開3日間で動員342万493人、興行収入は46億2311万7450円を記録。日本国内でのオープニング成績としても歴代1位となっています。

コロナ禍において、日本アニメ映画『鬼滅の刃』の空前の観客動員・興行収入の記録更新に世界も驚きます。

ニューヨークタイムス紙は、「何がパンデミック?日本映画が過去最高の観客動員数を記録」("What Pandemic? Japanese Film Draws a Record Flood of Moviegoers")というタイトルの記事を20日に掲載します。

What Pandemic? Japanese Film Draws a Record Flood of Moviegoers
f:id:kibashiri:20201023113925p:plain
https://www.nytimes.com/2020/10/20/business/demon-slayer-japan-movie.html

記事は、アメリカでは、劇場が開幕しているとすれば、空いている席の海に映画が上映されている、しかし、日本では、アニメーション映画は、国内史上最大の興行収入を記録していると驚きます。

大ヒットした日本の漫画を原作とする映画「鬼滅の刃」は、コロナウイルスの大流行の中で映画ファンを大画面の前に戻すことを切望しているファンと業界の両方から、何ヶ月もの間熱く期待されていたと指摘。

さらに、この映画はすべての期待を上回り、最大のオープニングウィークエンドで国の記録を倍増させ、340万人以上が4,400万ドル近くのチケットを売り出したと続けます。

この映画は、国内でのみデビューしたにもかかわらず、先週末、他のすべての国を合わせたよりも多く、世界で最大のオープニングを記録したと、その偉業を称えています。

劇場映画『鬼滅の刃 無限列車編』の先週末の興行収入が、日本以外の国で封切られた映画の興行収入をすべて足したものを上回り、“世界最大のオープニングになった”のです。

もちろんハリウッドはじめ中国など世界の主要映画の制作が滞りなおかつ各国の映画館が休館もしくは上映しても観客が閑散とした寂しい動員しか記録できていない中のことです。

いわばライバルがいない中での『鬼滅の刃』の世界一人勝ちです、「日本以外の国の興行収入合計を上回っていた世界最大のオープニングになった」わけです。

そうであっても、NYTのこの記事は、パンデミックによって大きな打撃を受けている自国アメリカや欧州各国と比較し、日本では、強制的な封鎖もなく、マスクなしで行くことに対する罰金もないのに、感染者数・死亡者数が抑制されている事実が、この世界的に見て特異ともいえる映画動員数につながっていると指摘しています。

この映画の成功は通常の状況下でも異例と言える水準ですが、現在のコロナ禍においては特別な意味があり、混雑した空間で見知らぬ人達と共に長時間座っていても、安全だと感じられるようになれば、観客がいかに早く映画館に戻ってくるかを示しているわけです。

NYT記事は欧米視点で、欧米では再び感染が急増している一方で、日本が今回のパンデミックを乗り切り、経済を立て直そうをしている事を示すバロメーターと解説しています。

日本人は、国民が率先して、マスクを着用し、頻繁に手を洗い、当局が「3密」と呼ぶ物に警戒の重点を置き、人々が積極的にそれらを守っている、その結果が、映画館の安全を取り戻し、多くの観客を映画館に再び呼び込むことに成功、映画『鬼滅の刃興行収入世界一人勝ちに繋がっているのだとのNYTの見立てであります。

この海外メディアの反応、読者のみなさんはいかがお感じでしょうか。

なかなか興味深いNYT記事でありました。



(木走まさみず)

あらゆる反証不可能な政治的主張は「科学」ではない

私が非常勤講師をしている学部は理工系であります。

もちろん会社経営をしながら非常勤講師を務めてきた私などは、学術の王道からは遥かにはずれており学者にとって名誉職でもある『日本学術会議』会員になどなれるはずもありませんし、推薦されることも100%ありません。

日本学術会議のホームページをみれば、「科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的」としていると高らかに謳っております。

日本学術会議とは

日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。職務は、以下の2つです。

科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。

http://www.scj.go.jp/ja/scj/index.html

うむ、では「科学」とはなんぞや、非科学とは何が根本的に異なるのでしょうか。

工学系エンジニアの端くれとして自然科学における科学的方法に基づく学術的な知識、学問について、私見を述べさせていただきます。

科学の定義は反証可能性−つまり、反証できるかどうかということです。

カール・ポパー(1902〜94年)が『科学的発見の論理』のなかで、「科学は、常に反証できるものである」という定義を初めて示しました。

一般の人が考えている科学のイメージというと、実験によって理論が「検証」されるといったイメージがあります。

ある種の実験をすると、ある理論が正しいということが決定的に決まる、証明される、というようなイメージがあるわけです。

ポパーは逆説的に科学を考えたのです。

もしその理論がうまくいかないというような事例が一回でもでてしまえば、つまり反証されれば、その理論はダメになってしまうということです。

つまり、100万回実験を行って100万回理論を支持するような実験結果がでてきたとしても、その次の100万1回目に否定的な結果、理論がうまくいかないことを示すような精密実験データがでてきたら、もうその時点でその理論は通用しなくなる。

要するに、決定的な証明などということは永遠にできない、ということです。

反証可能性を持つ仮説のみを科学的な仮説とみなす科学哲学上の立場を反証主義と呼びます。

反証主義によれば、科学理論は反証可能性を持ちつつ未だ反証されていない仮説の総体であると定義されます。

そして、厳しい反証テストに耐え抜いた仮説ほどより信頼性が高いものとみなされるわけです。

ニュートン万有引力の法則は、火星などの惑星の軌道を説明するのに矛盾なく見事にその軌跡を計算できました。

しかしもっとも太陽に近い水星の軌道のわずかなゆらぎを説明することはアインシュタイン相対性理論によらなければならなかったのです。

ニュートンの法則は反証されました。

アインシュタイン相対性理論も現在は反証されていませんが、「仮説」に過ぎない点では科学的には平等な扱いを受けています。

ようするに、科学的仮説は永遠に真理には届かないのであり、ここが数学と科学との決定的な違いなわけです。

もちろんポパーはこのような科学の持つ宿命的限界を持って、科学的思考を否定しているわけでは断じてありません。

仮説と真理は切ない関係、つまり仮説は永遠に真理にたどり着けない宿命にあるわけですが、科学が反証可能性を有しているからこそ、その他の非科学的論説といわれるものと区別できるのだと言っているのです。

たとえば疑似科学とか宗教とか共産主義などの政治思想は、反証可能ではないとポパーはいいます。

たとえば、共産主義の国がうまくいかずにつぎつぎと崩壊したのは記憶に新しいですよね。もし共産主義が科学的であるならば、うまくいかなかったんだから共産主義はという考え方はダメだったんだ、ということになるわけです。

しかし、実際はそうはなりませんよね。共産主義の国が倒れても、共産党は存在します。日本にも存在するし、ロシアにも残っています。

つまり、まったく反証されていないわけです。

あれは本当の共産主義ではなかったんだとか、やり方が悪かったとか、いろんな言い方をすることで共産主義自体は存続するわけです。

だから、ポパー曰く、共産主義は科学ではないんです(私は共産主義に反感をもっているわけではありません。あくまでも、科学か否か、という区別の話をしているだけです。科学ではないからといって悪い、というような価値判断は一切関係ありません)。

ですからあらゆる反証不可能な宗教的主張や政治的主張は「科学」ではありません。

例えば「軍事的安全保障研究」を否定する声明は、何をもって軍事的研究なのか定義があいまいで反証できません、これは科学的態度とは言えません。

軍事的安全保障研究に関する声明(2017年3月24日)
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/gunjianzen/index.html

これは全く合理性のない科学的ではない物の言い方です。

なぜなら、ある仮説の科学論説は、他者がその仮説の反証実験するための唯一の科学的拠り所であり重要なデータであり真摯に誠実に科学的事実に忠実に語られなければなりません。

「軍事的安全保障研究」を否定するこの声明は、科学的に反証することは不可能です、何をもって軍事的研究を指すのか明確化されていないからです。

こうなると「戦争」を否定する声明と同値です、誰も反証できません点で、もはやある種の「宗教」と化しています。

工学系エンジニアの端くれとして、科学が論ずるべきは、あくまでも自然科学のように純粋に研究対象であってほしいと思うのです。

その意味で、自然科学者であったノーベルが、文学賞(経済学賞は後に新設)以外に、人文科学、社会科学に賞を設けなかったのは深い理由があると思えるのでした。



(木走まさみず)

まったく韓国の非論理性にはうんざりだ~自国による明確な国際公約違反を棚に上げ「謝罪精神に逆行」と日本の要請に逆切れ

さてベルリンの「慰安婦」像をめぐり、ドイツ・ベルリンの自治体が正式に韓国系団体に像の撤去命令を発令しました

本件を時系列でまとめておきましょう。

旧日本軍の慰安婦被害者を象徴する「平和の少女像」がドイツの首都ベルリンの中心部に設置、除幕式が行なわれたのは9月28日のことでした。

同国では3体目で、ベルリンでは初めてでこれまでの2体は私有地に設置されているが、今回はドイツの公共の場に設置された初の「少女像」となります。

(関連記事)
ドイツに3体目の「平和の少女像」 28日に除幕式
記事一覧 2020.09.27 10:24
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20200927000200882

少女像は「あいちトリエンナーレ2019」に出展された少女像を製作したキム・ウンソン氏、キム・ソギョン氏の作品。

で、設置を主導したのは、ベルリンの韓国関連市民団体のコリア協議会を中心とする日本軍慰安婦問題対策協議会と、韓国の慰安婦被害者支援団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)」。

そうそうたる登場人物です。

さっそく日本政府は反発、加藤勝信官房長官は29日の記者会見で、ドイツの首都ベルリンの公有地に初設置された、元従軍慰安婦の被害を象徴する少女像の撤去を求める考えを示します。

「極めて残念だ。撤去に向けてさまざまな関係者にアプローチし、わが国の立場を説明するなど働き掛けていきたい」と述べます。

(関連記事)
ベルリン少女像「撤去を」加藤氏 元従軍慰安婦の被害を象徴
2020年9月29日 13時29分 (共同通信
https://www.tokyo-np.co.jp/article/58495

さて10月7日、ドイツのベルリン市当局が「平和の少女像」(少女像)に対し、電撃的に撤去を命令します。

ベルリンのミッテ区は7日(現地時間)、少女像の設置を主管する韓国関連市民団体のコリア協議会に、14日までに少女像を撤去するよう求める内容の公文書を送ります。

ミッテ区は自主的に撤去しない場合、強制執行を行い、コリア協議会に費用を請求すると付け加えています。

撤去命令の背景として、事前通知もなく碑文を設置し、ドイツと日本の関係に緊張が造成されたことを挙げています。

「ミッテ区が韓国と日本の間に対立を起こし、日本に反対する印象を与える」とし、「一方的な公共場所の道具化を拒否する」と説明します。

碑文には第二次世界大戦当時、日本軍がアジア太平洋全域で女性を性的奴隷として強制的に連れて行ったなどの説明が一方的に書かれていました。

(関連記事)
ベルリン市、日本との関係を理由に「平和の少女像の撤去」 命令
http://japan.hani.co.kr/arti/international/37958.html

当然のことながら、日本政府はドイツの撤去命令を評価いたします。

(関連記事)
少女像撤去指示を評価 加藤官房長官
2020年10月09日12時29分
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020100900589&g=pol

加藤勝信官房長官は9日午前の記者会見で、ベルリンに設置された慰安婦を象徴する少女像の撤去を地元自治体が指示したことについて、「前向きな動きとして受け止めている」と評価します。

さらに「韓国政府に対し、最終的かつ不可逆的な解決を確認した2015年の日韓合意があるわけだから、その着実な実施を引き続き求めていきたい」と語りました。

対して韓国外交部の金インチョル報道官は8日の定例会見で、日本政府がドイツの首都ベルリンに設置された旧日本軍の慰安婦被害者を象徴する「平和の少女像」の撤去を要請したことについて、「民間の自発的な動きに政府が外交的に関与することは望ましくない」と述べました。

また、「歴史的な事実に関連した追悼教育のため、民間が設置した造形物」だとして、「政府が関与することは問題解決に決して役に立たず、日本自らが表明した責任の痛感と謝罪、反省の精神にも逆行する」と批判しました。

(関連記事)
日本のベルリン少女像撤去要請を批判 「謝罪精神に逆行」=韓国外交部
記事一覧 2020.10.08 16:16
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20201008004200882

・・・

何が「民間の自発的な動きに政府が外交的に関与することは望ましくない」なんでしょうか、意味が不明です、約束が違うでしょう、明確な国際公約違反です。

今回、日本政府は2015年の「日韓慰安婦合意」という国際公約(現在韓国政府が一方的に公約破棄状態)の内容を堂々とドイツ政府に説明しています。

日韓合意では、韓国政府は海外での像の設置を支援しない、性奴隷という表現も使わない、韓国の支援団体を説得し、駐日本大使館前にある少女像の問題の解決に努力することなどが謳われていました。

今回の像設置は、その出鱈目の碑文内容も含めて韓国側の一方的な国際公約違反であり、公有地には全くふさわしくないのは当然のことです。

ドイツによるベルリンの慰安婦像の1週間以内の撤去命令に、「謝罪精神に逆行」とドイツにではなく、要請した日本政府に逆切れする韓国政府なのであります。

まったく韓国の非論理性にはうんざりです。



(木走まさみず)

内閣府が国庫負担で管轄する組織の任命権が内閣総理大臣にあるのは当然のこと

政府から独立した立場で政策提言をする科学者の代表機関「日本学術会議」が新会員として推薦した候補者105人のうち、6人を菅義偉首相が任命しなかったことが明らかになりました。

学問の自由への政治介入との報道もあります。

(関連記事)
菅首相日本学術会議「推薦候補」6人の任命拒否 「共謀罪」など批判、政治介入か
https://mainichi.jp/articles/20201001/k00/00m/010/145000c

日本学術会議法』によれば、日本学術会議は「科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて」「世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし」、設立されたものであります。

日本学術会議

日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000121

その第一条には、日本学術会議は、「内閣総理大臣の所轄」であり、「関する経費は、国庫の負担」と明記されています。

第一章 設立及び目的
第一条 この法律により日本学術会議を設立し、この法律を日本学術会議法と称する。
2 日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄とする。
3 日本学術会議に関する経費は、国庫の負担とする。

また第七条で、日本学術会議の会員は「第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命」と明記されています。

第三章 組織
第七条 日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。
2 会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。

その「第十七条の規定」とは、次のとおりです。

第四章 会員の推薦
第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。

整理すれば、日本学術会議という組織は、「内閣総理大臣の所轄」すなわち内閣府内の組織のひとつであり、「関する経費は、国庫の負担」すなわち国民の税金が投入されているのであります。

従ってその会員候補者は、「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦する」(第十七条)が、最終的な任命権者は「第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命」(第七条)と内閣総理大臣であることが明記されているのです。

整理すれば、内閣総理大臣の所轄組織であり関する経費がすべて国庫負担である日本学術会議は、その会員の最終的な任命権者は国民の代表たる内閣総理大臣であるわけです。

法的には、任命拒否は国民の代表たる内閣総理大臣に与えられた権限なわけです。

日本学術会議が政府からの「独立組織」を真に目指すならば、そもそもその運営費すべてを国庫に完全に依存していること自体がおかしいのでしょう。

内閣府が国庫負担で管轄する組織の任命権が内閣総理大臣にあるのは当然のことなのだと考えます。



(木走まさみず)

『菅外交』の今後の優先順位がわかりやすく出現している電話会談の順番が興味深い

菅電話会談外交が始まりました。

どの国の首脳とどの順番で会談するのか、その電話会談の順番が興味深いのです。

検証いたしましょう。

まず20日、同盟国・米と準同盟国・豪の首脳を皮切りにいたします。

(関連記事)
モリソン豪州首相及びトランプ米国大統領との電話会談についての会見
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202009/20kaiken.html

首相が初日の相手として会談を申し入れた米国は同盟国であり、外交・安全保障政策の基軸と位置付けています。

20日の会談で首相が「日米同盟は地域や国際社会の平和と安定の礎であり、日米同盟をトランプ氏とともに一層強化していきたい」と呼びかけると、トランプ氏は「全く同感だ」と応じています。

オーストラリアも米国の同盟国であるだけでなく、安倍晋三政権で安全保障協力が大きく前進した準同盟国であり、安倍前首相は価値観を同じくする国との連携を重視して「自由で開かれたインド太平洋」を推進、菅首相も安倍路線の継承を掲げています、10月にはインドを加えた日米豪印4カ国の外相会議を、東京都内で開催する方向で調整しています。

同盟国・米と準同盟国・豪を外交的に優先することで、安倍政権の『自由で開かれたインド太平洋』政策を継承している『菅外交』を内外に印象付けました。

次に自由と民主主義の価値観を共有する友好国、まず、22日にドイツのメルケル首相、続いてEUヨーロッパ連合のミシェル大統領とも電話で会談いたします。

(関連記事)
菅首相が独首相と電話会談新型コロナ対策などで連携確認
2020年9月22日 20時38分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200922/k10012630121000.html

興味深いのは報道によれば、日独両首脳は、新型コロナウイルス対策をはじめとした国際社会の課題への対応や、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、引き続き緊密に連携していくことを確認しています。

菅外交は欧州でも「自由で開かれたインド太平洋の実現」を全面に押し出していることが見受けられます。

さらに、菅首相は、23日午後にIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長とイギリスのジョンソン首相と相次いで電話で会談いたします。

さてここで、台湾をめぐって中国とひと悶着がありました。

7月に死去した李登輝元総統の告別式に参列するため訪台した森元首相は18日、蔡総統と会談し、機会があれば電話などで話したいとの菅首相の言葉を伝えました。

これに中国が敏感に反応します。中国外務省は19日夜、日本側に説明を求めたところ、そのようなことは「決して起きない」との説明があったと、わざわざ記者会見で内外に明らかにします。

台湾の蔡英文総統も20日、菅氏との電話会談は予定していないと述べます。

(関連記事)
台湾総統菅首相と電話会談予定せず 森元首相発言に中国が懸念
https://jp.reuters.com/article/taiwan-japan-china-idJPKCN26C0IT

米中対立が激化する中で、本件により中国政府は電話会談による『菅外交』、菅内閣が継承する「自由で開かれたインド太平洋」政策を、反中国包囲網外交政策としてナーバスになりはじめます。

これを受けて、菅義偉(すが・よしひで)首相が中国の習近平国家主席と首相就任後初の電話会談を25日に実施する方向で最終調整していることが22日、分かります。

(関連記事)
菅首相習近平中国主席と25日に電話会談へ 就任後初
2020.9.22 20:49国際中国・台湾
https://www.sankei.com/world/news/200922/wor2009220032-n1.html

『菅外交』のここまでの動きを整理するとなかなかしたたかです。

まず20日「自由で開かれたインド太平洋」の要である、同盟国・米、準同盟国・豪と会談を行います。

続いて22、23日、欧州などの友好国、独・EUIOC会長をはさんで英首脳と会談いたします。

同盟国・準同盟国・欧州友好国と固めた上で、台湾関係でナーバスになっている中国の国家主席と25日電話会談することを決定します。

この段階で、『菅外交』の電話会談の順番は、見事に、同盟国・準同盟国>友好国>ナーバスになっている中国と、並んでいるのです。

しかしここで中国を会談予定にいれてしまったことで、大きな問題が発生しました。

「自由で開かれたインド太平洋」政策ではほとんど期待していない、アジアにおける日本の「友好国」である韓国が会談予定からオミット(除外)されてしまう形になってしまうからです。

そこで、中国国家主席との会談を25日に決定した後、日本政府は面子を重んじる韓国政府のために、最後の最後に、韓国大統領との電話会談を24日午前に滑り込ませます。

(関連記事)
【独自】日韓首脳 24日電話会談へ 2019年12月以来
https://www.fnn.jp/articles/-/87682

いかがでしょう。

菅電話会談外交が始まりました。

どの国の首脳とどの順番で会談するのか、その電話会談の順番が興味深いのです。

検証したとおり、電話会談は、

米国・豪州>独・欧州・英国>韓国>中国の順番です。

『菅外交』の今後の優先順位がわかりやすく出現していると思いました。



(木走まさみず)