木走日記

場末の時事評論

もっと注目されるべき福島第一原発の高濃度汚染水〜捨て場のない放射能汚染物質に対し備えがない日本


 福島第一原発事故の復旧作業においては、まず事故を起こした原子炉を十分に安全になるまで大量の水で冷やし続けることが肝心です。

 東電は溶融した260トンの核燃料を取り除くことが可能になるまで放射能レベルが低下するには8年かかるとみていますが、米スリーマイル島原発事故では核燃料を取り出すまでに10年以上かかっています、同事故では原子炉1基で部分的なメルトダウン炉心溶融)が起きたが、核燃料の量は福島第一原発の5分の1程度でした。

 冷却作業が完了する時期がいつになるか、東電は現時点で正確な工程表は示せていませんがこれからも長い月日を要することは間違いありません。

 原子炉を冷却した大量の水は当然ながら放射能汚染されますから、除染処理をしない限り海など外部に投棄することはできません。

 そこで東電は一度原子炉冷却に使用した放射能汚染水を、除染処理を施しながらサイクリックに何度も再利用することにより、放射能汚染水が増えることを防ぐことを計画していました。

 しかし東電の計画は現在破綻しています。

 冷却している原子炉に地下水が毎日400トンも流れ込み、汚染水が増え続けているのです。

 一つあたり1000トンのタンクが2日半でいっぱいになるという状況であり、高さ十数メートルある容量1000トンのタンクを施設内に次々に増築するも、汚染水の量はすでに27万トンに上り、敷地内にタンクを設置できる限界が2年後に来る、仮にタンクを増やし続けても、あと2年で汚染水があふれる状況にあります。

 一方、62の放射性物質を除去する多核種除去設備(ALPS)は、1日約500トンの処理能力があり、汚染水浄化の切り札と言われていますが、12年秋に稼働を始める予定だったが、廃棄物保管容器の強度不足が判明し、今も稼働に至っていません。

 もっともALPSが稼働したとしても、約六十種類の放射性物質は除去されますが放射性トリチウムは残ります、東電は一昨年四月、意図的に汚染水を海へ放出し、国際的な批判を浴びた経緯があり、海へ放出は国際的な批判は必至な状況にあり、汚染水処理の見通しはまったく立っていないのです。


 このような危機的な状況の中で、さらに事態は悪化しています。

 10日付け東京新聞記事から。

耐久性より増設優先 福島第一 急造タンク群 3年後破綻

2013年3月10日 朝刊

 東京電力福島第一原発で、高濃度汚染水を処理した後の水をためるタンクが、増設のスピードを優先して溶接しなかったため耐久性が劣り、三年後には続々と大改修を迫られることが分かった。敷地内にタンクを増設する用地がなくなる時期とも重なる。処理水には除去が極めて難しい放射性物質も含まれ、このままでは、またも汚染水の海洋放出という事態を招きかねない。 (小野沢健太)
 処理水タンクは、帯状の鋼材をボルトでつなぎ合わせて円筒形にし、内側に止水材を施し、鋼材のつなぎ目はゴム製のパッキンを挟んで締め付ける構造。一千トン級の大容量タンクだが、一週間ほどで組み立てられる。溶接をして頑丈に造るより短期間で済むため、急増する汚染水処理をしのぐためには好都合だった。
 しかし、東電が「仮設タンク」と呼んでいたことが示す通り、長期の使用を想定していなかった。当初は二〇一一年度中におおむね汚染水処理は終わる予定だったが、現実にはタービン建屋地下に、今も一日四百トンの地下水が入り込み、原子炉から漏れ出す高濃度汚染水と混ざり、水量がどんどん増えている。
 処理した汚染水の一部は原子炉を冷やす水として再利用するが、使い切れない水は、次々とタンクを造ってためるしかない。処理水はセシウムこそ大幅に除去されているが、他の放射性物質が残る汚染水。漏れがないか、作業員が定期的にタンク群を見回ってボルトを締め直すが、無用の被ばくを招いているとも言える。
 タンクのパッキンなどの耐用年数は五年ほどで、一六年春ごろから改修が必要。そのころには、現時点で計画中のタンク用地も使い果たしている見通しで、新たな用地確保とタンク増設、改修を同時並行で進めなければいけなくなる。
 東電によると、すでにタンクは千基近くあり、このうち約二百七十基の改修が必要となる。
 準備中の新たな除染装置が稼働すれば、約六十種類の放射性物質は除去されるが、放射性トリチウムは残り、海への放出はできない。東電は一昨年四月、意図的に汚染水を海へ放出し、国際的な批判を浴びた。
 東電の担当者は「当初は急いでタンクを用意する必要があり、ボルトで組み上げるタンクを選んだ」と説明。最近になって東電は溶接したタンクを導入し始めたが、増える処理水に対応するので手いっぱいの状況だ。
 <放射性トリチウム> 原子炉内で発生する放射性物質の一つで、三重水素とも呼ばれる。水と非常に似た性質のため、現在、大量に処理する技術はない。福島第一にたまる処理水には、排出が認められる法定限度(1立方センチ当たり60ベクレル)の約38倍の約2300ベクレルのトリチウムが含まれている。新しい除染装置で処理してもトリチウムはそのまま残る。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013031002000116.html

 うむ、東電によれば、「すでにタンクは千基近くあり、このうち約二百七十基の改修が必要」とあります。

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 この危機的な状況の中でポイントはやはり、事故から2年を経緯しても、いまだ原子炉に地下水が毎日400トンも流れ込み、汚染水が増え続けている事実です。

 例えば自宅の風呂釜に亀裂が入りお風呂に外から汚水が入るならば、調べて亀裂を塞げばよいだけですが、原子炉内部の致死量に至る放射能が邪魔をして地下水が流れ込んでいる実態を東電は把握出来ていません。

 毎日400トンといえば、毎秒4〜5リットルというかなりの流入量になります、おそらく複数箇所から地下水が流入しているものと想定されますが、対策はまったく取れていません。

 実はこの大量の地下水流入の事実は原子炉が大穴を開けていることを意味し、当然ながら逆流しての原子炉からの汚染水の外部流出も危惧されますが、実態はつかめていません、現在分かっていることは、(外部からの地下水の流入量)ー(外部への汚染水の流出量)という引き算の結果が毎日400トンの流入であるということだけです。

 そしてこの大量の高濃度汚染水の処理問題は、そもそも解決策を見い出せていない使用済み核燃料の問題、最終処分場の決定をみずに一時的な中間処分場に蓄積されている除染作業に伴う大量の汚染物質の処理問題と、完全に通底しています。

 私たちの社会は、性急に原子力エネルギーを扱うことを急ぎましたが、その結果生成される放射能汚染物質に対する備えが、科学的に、あるいは社会的に、まったくできていなかったのです。

 現在27万トンにならんとする高濃度汚染水はこのままでは3年後には危機的な状況を迎えることでしょう。

 そして現在に至っても東電は汚染水を溜め込むほかは、海洋投棄以外の策を持っていないのです。

 この深刻な問題はもっと注目されるべきでしょう。

 このままでは放射能汚染水が溢れてしまう、これは原発推進であろうと脱原発であろうと立場に関係なく、早急に対処しなければならない厳しい現実なのであります。



(木走まさみず)