木走日記

場末の時事評論

「在韓米軍、韓国が核武装すれば必要ない」~朝鮮日報社説の極論は日本にとり対岸の火事ではない

さて、在韓米軍駐留費の来年以降の負担額を巡る交渉で、米国が韓国側に今年の5倍以上となる47億ドル(約5100億円)を提示した模様です。

さらにその内訳には、米領グアムに配備されたB52戦略爆撃機の運用費など、韓国以外の地域に展開する部隊や装備の維持費用も含めているとの憶測も出ています。

(関連記事)

米が在韓米軍負担、5倍要求か
海外部隊維持費も
2019/11/7 17:38 (JST)
https://this.kiji.is/565093050898564193?c=39546741839462401

この米国の在韓米軍負担5倍要求は、韓国内で大きな波紋を呼んでいます。

左派ハンギョレ新聞の社説は、米国は「傭兵商」(軍隊で金儲けをするの意)をするつもりかと、怒りを隠しません。

[社説]在韓米軍分担金5倍要求した米国、「傭兵商」をするつもりか
http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/34887.html

米国の要求は「常識と理性に反するもの」であり「このような要求は度を越しているというよりも無礼」だと断じます。

 米国のこのようなとんでもない分担金の要求は、常識と理性に反するものだ。トランプ米政権がいくら同盟関係を事業的な取引として見ているとしても、このような要求は度を越しているというよりも無礼だ。

「米国が「傭兵商」をするというのでないならば、このような非合理な圧力は直ちに撤回すべき」と、要求の撤回を求めています。

 しかも米国は分担金の要求が受け入れられない場合は、在韓米軍を縮小する可能性までほのめかしている。このような圧迫は同盟の精神を損ねて韓米相互信頼を弱化させるほかないという点から、米国の国益にも長期的には良くない。米国が「傭兵商」をするというのでないならば、このような非合理な圧力は直ちに撤回すべきである。

右派朝鮮日報の社説は、在韓米軍など韓国が核武装すれば必要ないのだと極論を掲げます。

【社説】米統合参謀議長まで存在を疑問視する在韓米軍、韓国が核武装すれば必要ない
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/11/13/2019111380037.html

社説は「適正なレベルであれば」ともかく「5倍というとんでもない要求には応じられない」と訴えます。

 韓国は適正なレベルであれば防衛費分担金を支払う用意がある。これは当然の義務だ。しかしこれまでの5倍というとんでもない要求には応じられない。

「米軍の最高指揮官」までも「在韓米軍の必要性に疑問を投げ掛けた」のは「もはや尋常ではない」と指摘します。

 今や米軍の最高指揮官もメディアの前で在韓米軍の必要性に疑問を投げ掛けた。もし金をさらに強奪するための取引に軍人まで乗り出してくるようなら、それはもはや尋常ではない。

社説の終わりは、「国を守るため核武装を含むあらゆる決断を下す以外にない」と言い切り、「そうなれば韓国にとって在韓米軍は必要ない」と結ばれています。

 米国が在韓米軍の存在について疑いの念を持つのであれば、韓国としてもどうしようもない。その場合、韓国国民は北朝鮮や中国、ロシアから国を守るため核武装を含むあらゆる決断を下す以外にないだろう。そうなれば韓国にとって在韓米軍は必要ない。

韓国最大発行部数を誇るメディアである朝鮮日報の社説において、タイトル『【社説】米統合参謀議長まで存在を疑問視する在韓米軍、韓国が核武装すれば必要ない』と、韓国の核武装に触れている論説が掲載されるのは尋常ではありません。

本件は我々日本にとっても対岸の火事というわけにはまいりません。

トランプ大統領は来年、日本とNATOと同様の交渉をするにあたって、韓国との間で前例を作ろうとしているからです。
世界の米軍の駐留地で駐留国の分担金を5~6倍に増やすように要求するつもりなのです。

日本に対しても米政府は5倍負担をすでににおわせています。

(関連記事)

米軍駐留費「日本は5倍負担を」 ボルトン氏が来日時に
https://www.asahi.com/articles/ASM702TJQM70UHBI00H.html

日本とNATOとの交渉は来年になりますが、韓国との駐留米軍の費用負担の交渉はその試金石となると米側は捉えているようです。

いきなり5倍の費用負担はどの国もとても呑めない要求であり、トランプ政権一流のはったり交渉(ディール)術という面もあるでしょう。

しかし、トランプ氏が駐韓米軍の規模縮小あるいは完全撤退にも再三触れているのも事実であり、米韓の今後の交渉の展開いかんでは、ひょっとするとひょっとしての在韓米軍撤退との流れが生まれるかもしれません。

在韓米軍がいなくなっても核武装するから構わない、という右派朝鮮日報の極論ですが、私たち日本人にとっても他人ごとではなさそうです。

日本においても、通常兵器のみならず核兵器保有(の可能性)が認められるような、憲法改正が急がれます。



(木走まさみず)